不思議の国のコウモリ

　このWebを読んでくださったあなた、コウモリを好きになっていただけたでしょうか。
　今までコウモリなんて興味を持ったことなかった方でも、たぶんここへ来るからには動物ファンだと思うので、それぞれ特に好きな動物というのがあるのではないでしょうか。
　私は、まずバードウォッチャーとして生き物の世界に惹かれたので、鳥が好きです。あちこち旅行してまわるうちにオオコウモリと出会い、その魅力にもとりつかれました。特定の生物を好きになって、その生物のさまざまな面を調べていくと、必然的に生き物どうしの関わり合いとか、自然界のしくみとかいったことも考えるようになります。コウモリの本を翻訳する機会があったおかげで、オオコウモリだけでなくコウモリ全般について今まで以上に深く広く知ることができました。そこでコウモリからみた生物界をここでは語ってみたいと思います。

小コウモリの多様な世界

　まず生物には次のような分類段階があります。
界（動物界、植物界、菌界、原生生物界、モネラ界、８つに分けることもある）
門（脊椎動物門、軟体動物門・・）
綱（哺乳綱、鳥綱・・）
目（食肉目、げっ歯目、霊長目・・）
科（イヌ科、ネコ科・・）属（イヌ属、キツネ属・・）
種（イヌ）　

　いわゆるコウモリというのは、この分類で言うと翼手目を指します。これを更に、大翼手亜目（いわゆるオオコウモリ）、小翼手亜目（いわゆる小コウモリ）に分けます。このコウモリ目は、我々が苦手とする夜に（私は夜型なので苦手ではないが）活動するためにあまり知られていないですが、全世界のほ乳類約４０００種のうちのほぼ４分の１を占めています。ほ乳類で翼手目より種数が多いのは、齧歯目（ネズミの仲間）だけです。オオコウモリが旧世界の熱帯・亜熱帯だけに生息するのに対して小コウモリは世界のほとんどの地域にいます。かなり乾燥した地域にも生息していますし、北極圏で夏をすごす種もいます。翼があるので離島にも生息しています。だからニュージーランドでは在来のほ乳類はコウモリ２種だけです。地球上で一番広く分布しているのはヒトですが、その次に広く分布しているといっていいでしょう。姿・形から、食性・行動・ねぐら・繁殖の仕方までさまざまです。調べていくと収斂進化、共進化、適応放散、最適採餌、相互利他主義、冬眠と異温性、動物の飛翔のしくみ、エコーロケーション、捕食者と被食者の戦略戦などなど生物学の勉強にもなります。
　日本の哺乳類の中では実は小コウモリは齧歯類よりも多く、30種ほどになります。アブラコウモリなどは、都会にも生息していますから、実は一番身近な哺乳類なのではないでしょうか。そんなわけで、小コウモリについても触れてみたいと思います。　