食う側はいかにして捕食能力を高めるか、食われる側はどうやって逃れるかと、互いにさまざまな能力を獲得していくことをArms
raceといいます。この単語は辞書を引けば軍備拡大競争とありますし(研究社リーダーズ)、動物学の本などにも軍拡競争などと言う言葉をあててあります。しかし食われる側から見ると防衛のためなのだし(もっとも人間の世界でも軍備はたいてい防衛という名目になっているが)どうもこの言葉が好きになれないので、松村澄子「コウモリの生活戦略序論」東海大学出版で使われている「戦略戦」という言葉のほうが私は好きです。
なんといっても種数も個体数も圧倒的多数の食虫性コウモリと昆虫との戦略戦は、なかなか熾烈なものがあります。
甲虫、カマキリやゴキブリの仲間、カ、ハエ、アブの仲間、チョウ、ガの仲間、ヘビトンボ、ウスバカゲロウの仲間、コオロギ、バッタの仲間などにそれぞれ超音波が聞こえるものが知られています。鼓膜はいろいろな器官に由来するようで、「耳」の場所も頭・胸・腹・脚・翼などさまざまです。こういった昆虫はコウモリの超音波を聞いて、遠ざかったり螺旋降下したり急降下したりと退避行動をとります。
また、ヒトリガの仲間は前胸部から不快臭のある液体を分泌しますが、コウモリに自分は不味いということをアピールするために自らもクリック音の超音波を出します。
コウモリの方も負けずに対抗策を発達させています。ガに聞こえるのは20−50kHzですが、たくさんガを食べるコウモリはもっと高周波数のエコーロケーションコールを出して、聞こえないようにしています。コミミカグラコウモリはなんと212kHzという記録もあります。また、逆にガに聞こえなくらい低周波数を使うコウモリもいます。ヨーロッパオヒキコウモリは11-12kHzもの低音を出します。低音の魅力ですね。もっとも人が聞くと高音ですが。
その他にもパルスを弱く短くしてガに聞き取りにくくするとか、明るいときには視覚で採餌するという手もあります。