2章 翼の王国 
   8 経済速度

 最後にどんな速度で飛ぶのがいいのかを考えてみたいと思います。

 飛翔というのは、地上を走るのと違い、常に揚力を生み出さなければならないので、静止状態(速度=0すなわちホバリング)でもエネルギーを消費します。というより、揚力はある程度速度を出しているときの方が大きいので、速度=0というのはかえって大きなエネルギーを必要とします。一方全力で飛んでしまうと、エネルギー消費も最大になりますから、天敵から逃れるとき以外はこれもないでしょう。飛翔はエネルギー消費が激しい運動です。できるだけ効率よく無駄のない飛び方をしているはずです。

 飛翔に必要なパワーを縦軸に飛翔速度を横軸にグラフを書くと、コウモリごとにある速度で最低値をとります(下の図*がグラフのつもりですが、ほんとはもっと滑らかです)。この速度を最小パワー速度といいます。この速度で飛ぶと単位時間あたりの消費エネルギーが最小ですみます。一方これよりもう少し速いところに最大距離速度といって単位エネルギーあたりでもっとも遠くまで飛べるという速度があります。

                    *
    必              *
    要             *
    な   *        *
    パ    *      *
    ワ     *    *     
     I       ** ↑最大距離速度 
             ↑
           最小パワー速度 

 コウモリが途中で採餌せずに長距離を飛ぶのなら、少ないエネルギーでなるべく遠くまで飛ばなければなりません。すなわち最大距離速度で飛ぶはずです。コウモリが餌がたくさんあるところを急がずに長時間飛んでいるのなら、最小パワー速度で飛ぶでしょう。しかし実際の採餌ではエネルギー消費は低くしたいけれど、ある程度の面積を飛びまわって採餌しなければならないのではないでしょうか。従って最小パワー速度と最大距離速度の間の速度で飛んでいることが多いでしょう。餌の虫が夕暮れのわりと早い時期にピークを迎えるのなら、餌場までは最大距離速度よりも更に速い速度で飛ぶことになるでしょう。

 ということで、それぞれの状況にあった経済速度を使い分ける必要があります。

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