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欲しがりません勝つまでは

NHKスペシャル「人事も経理も中国へ」を視聴した。絶句。NHKスペシャル「ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない」以来の衝撃的なドキュメンタリーだった。総務部のリストラ。かつての日本の会社の常識では考えられないことが現実に行われている。内容については、とりあえず、NHKによる番組紹介記事を引用する。

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NHKスペシャル
人事も経理も中国へ
(NHK総合9月3日放送)

製造業の分野では続々と生産拠点を中国へ移し、コストダウンを図ってきた日本企業。そして今、人事や経理などホワイトカラーの仕事までもが次々に中国へ移っている。大連や上海などの都市では、日本語を話せる人材の育成を強化し、日本のサラリーマンの5分の1以下という人件費を武器に、日本企業の仕事を大量に請け負っているのだ。中国にホワイトカラー業務を移した日本企業は2500社に上る。血のにじむような効率化を重ねてきた製造現場に比べ、日本のホワイトカラー一人当たりの生産性は先進国で最低と言われている。言葉の壁に守られてきた日本のホワイトカラーが中国との厳しい競争にさらされている。 番組では、ある大手通信販売会社が踏み切ったホワイトカラー部門の中国への業務移管に密着、グローバル化の荒波に突然飲み込まれた、サラリーマンたちの苦悩と再起への決意を描く。
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もっと詳しく内容を知りたい方は、BS2での再放送(9月8日13:30~14:30)を見るか、「人事も経理も中国へ」をキーワードにWeb検索すれば、多くの人々が丁寧に番組の流れを解説してくれているのを読むことができるだろう。

私はこの番組に政治の不毛を見た。経済の原則から言えば、この通販会社のやってることはきっと正しい。生き残るためには必要な対応なのだとは思う。断っておくが、ここでいう経済というのは日本経済のことではない。企業を成長させ、利潤を追求し、株主への還元をもたらすために、経営者は現状で必要なことしているのだろう。(通販業界ではもっと海外へのアウトソーシング化が進んでいる会社もあると聞く。) 配置転換を余儀なくされた総務一筋21年58歳のベテラン社員の苦悩や、自分のしてきた仕事が奪われたことでモチベーションが下がり、退職の道を選らんだ女性事務員の姿を見ていると、職場改革の指揮をとってる上級社員や、番組の中で紹介程度に登場する社長が、極悪人のようにも見えてくるが、そのようにしなければ会社自体が生き残れないのも現実なのだ。社長を責めても始まらない。これは国レベルの問題だ。

経済の世界的規模でのグローバル化は、国家間競争の枠を超え始めている・・・かのように見える。日本国のため、だとか日本国民のため、なんてことを考えて企業経営を考えていたら、グローバル化した経済の中では、たぶん生き残れないのだ。労働単価の安い国を利用して価格競争力を保つという手法は、技術職の世界では既に20年程前から行われてきたことで、それがホワイトカラーにも及んできたという意味では、一連の流れの中の出来事だと言える。賤民資本主義ここに極まれり・・・だ。

要は「単純労働はもちろん3K労働も製造現場も人事も経理も中国へ」で、われわれ日本人が幸せになれるのだろうかということ。企業活動は成立しても、国民に必要な労働が残らないのでは、国家と国民が疲弊する。安易なアウトソーシングは、ノウハウの流出を招き、やがてグローバル化で生き残ったはずの日本国籍の企業も滅んでいくのではないか。さらに有史以来保ってきた日本人特有の知的財産が失われたら、日本も終了。自由競争に賛成する諸氏はまさか「人類皆兄弟、世界に国境はない」なんてユートピア幻想を信じて推進しているわけではあるまい。むしろ、経済は食うか食われるか「競争原理のないところに成長はない・・・」というような危機感の中でそう考えているのだと思う。だったらもっとズル賢く考えるべき。オモテ向きは自由競争を推進したフリをして、如何に自分や自分の家族、友人、故郷、民族に富をもたらすことが出来るか。そこを考えよ。欧米や中国はもっと強(したた)かだ。自由競争は慈善事業ではない。もちろん、それらは政治の役割。日本は、マトモに戦ったたら勝てる国家ではないことを第二次世界大戦で学び、その反省を基に、冷戦状況下で経済的に上手く立ち廻り今日の繁栄を手にしてきたはずなのに、昨今、グローバル化という世界経済大戦の中で市井の日本人がやってることは、資格をとれば生き残れるだの努力すれば報われるだの・・・、その心意気たるや立派だが、それではB29に竹槍で抵抗していたかつての姿と同じではないか。むろん、私も竹槍訓練程度は付き合うが、特攻だの玉砕だのは御免だ。幸い、現代の日本は指導者を選べる。もっと政治家を育てないといけない。

番組は、配置転換を余儀なくされた総務一筋21年58歳のベテラン社員が、個人情報保護士認定試験に合格し、社内に別の仕事を見つけて生き生きと働く姿を最後に見せて終わっていくが、これは欺瞞だ。今後も総務畑で働くために有利だと考え、競争率2倍程度の認定試験に合格して、人事異動先が「営業」ではお粗末だ。番組の趣旨からするとペテンに近い結末。取材先の企業にでも配慮したのだろうか。これは視聴者をかなり馬鹿にした構成だといえる。深く考えずに、にこやかな表情で張り切る総務一筋21年58歳のベテラン社員氏が最後に画面に映るのを見てると、ついつい努力すれば生き残れる良かったよかったと勘違いしてしまう。そんな程度で生き残れるのなら苦労はない。そういやNHKスペシャル近年の名作「ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない」の続編は「ワーキングプアII 努力すれば抜け出せますか」だった。この番組、サブタイトルを付けてNHKスペシャル「人事も経理も中国へ 努力すれば抜け出せます」に変えてみたらどうだろう。