神風・愛の劇場スレッド 第65話『明かせない真実』(後編)(7/31付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 31 Jul 2000 00:27:08 +0900
Organization: So-net
Lines: 424
Message-ID: <8m1hgh$p9c$1@news01bf.so-net.ne.jp>
References: <8kas3s$bki$1@news01cd.so-net.ne.jp>
<8kemrl$7pn@infonex.infonex.co.jp>
<8ksgpb$l2f$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<8kujuu$hlj@infonex.infonex.co.jp>
<8m1ers$i96$1@news01bj.so-net.ne.jp>

石崎です。

神風・愛の劇場スレッド。こちらは後編です。
前編記事Message-ID: <8m1ers$i96$1@news01bj.so-net.ne.jp>よりお読み下さい。



★神風・愛の劇場 第65話『明かせない真実』(後編)

■名古屋稚空編(続き)

●稚空の家 リビングルーム

 場所をリビングのソファに移して二人は飲み続けました。
 稚空もアルコールが回り、あの出来事が起きる以前の調子で、たわいも無いバ
カ話をして、都と楽しい一時を過ごしました。
 話しながらも、都が飲み過ぎないか心配して見ていましたが、自分の限界を心
得ているのか、最早がぶ飲みする事は無く、今度は日本酒を舐める程度でした。

「おっと。もうこんな時間か……。そろそろお開きにしようぜ」

 日付が変わろうとしていることに気付き、立ち上がろうとした稚空の手を都が
掴みました。

「どうした?」
「あたし、今夜は家に帰りたくない」
「帰りたくないって、家は目の前だろう。都の両親だって心配するだろうし」
「良いのよ。二人とも留守。父さんは仕事で、母さんは昴兄さんの所に泊まってる。
 だから、今晩は家に帰ってもあたし一人」
「しかしだな…。それにまた俺が狼になるかもしれないぞ」
「良いよ」
「え?」
「稚空となら、良いよ」

 都は稚空の手を両手で握りました。
 そして。

「おい、都…」

 稚空の掌に、都の感触が伝わりました。
 服越しとは言え、それはとても柔らかでした。

「一度したんだから、二度でも同じでしょ」
「酔ってるな都。冗談は止せよ」
「あたしは本気よ」

 都は稚空の手を離すとブラウスのボタンを外していきました。
 その上に着ていたセーターは、先程暑いと言って脱いでいます。
 ブラウスの間から、都の白い下着が見え、
 男の性で一瞬注視してしまった稚空ですが。

「止せよ都! まろんをまた裏切る事になるぞ」

 稚空は都の手を掴んで止めました。

「良いの。あの子の事は」
「良いって…?」
「今のまろんは、あたしの事はどうでも良いのよ。稚空のこともね」
「そんな筈はないだろう」
「まろんが今夜、誰の家に行ってるか判る?」
「さぁ…?」
「多分瀬川ツグミの家よ。最近良く行っているらしいわ」
「その様だな。でも女同士だろう」
「あの二人、デキてるわよ」
「な…!?」
「お笑いよね。あたしが稚空との事で悩んでいる時に、
 まろんはあたしでも稚空でも無い、他の子とデキていたなんて」
「証拠でもあるのかよ」
「現場を押さえた訳じゃないけど…。
 ツグミとまろんは同じ日に、ちょっとした『刻印』を身体につけていたの」
「だからって……」
「そう。ツグミは誰かと付き合っているのかも知れないし、まろんだってそう。
 あの『刻印』、稚空がつけたんじゃないんだ」
「残念ながら」
「本当に残念。稚空ならまだ許せたのに。じゃあ、誰がつけた訳?」

 稚空は他に心当たりがありました。
 稚空が心を惑わしたのも、それが原因でした。
 しかし、その心当たりは人間では無かったので都には言えません。

「その顔だと、稚空も心当たりがあるようね」
「それは……」
「あたしね、まろんと約束していたの。お互い隠し事は無しにしようって。
 でも、最近まろんはあたしに色々隠し事をしているようなの」

(そりゃしてるだろうな、隠し事は色々と……)

「あたしは小さい頃からまろんの事が好き。
 だから、まろんが本当に愛する人がいるのなら、応援して上げる積もりだった。
 あたしが稚空の事を好きになった時、
 稚空とまろんがお互いに好きだと気付いたから、あたしは身を引いた。
 でも、まろんが他の子の事を好きになったのなら、
 遠慮する意味なんて無いじゃない」

 都は稚空の掴んだ手から抜け出して、稚空に抱きつきました。

「本当の事を話すわ」
「本当の事?」
「さっき、良い思い出にしようって言ったでしょ」
「ああ」
「本当の事言うとね、あたし、あの時の事を殆ど覚えてないの。
 そんな事があったって知ったのも、後で弥白に写真を見せられたからで…。
 だから本当は、思い出にしたくても、その思い出がないのよ」
「それは俺も…」
「ね、あたしとして、良かった?」

 稚空はどう答えて良いか判りませんでした。
 どう答えれば、都は傷つかないのだろうかと。
 しかし、すぐに結論を出します。

「ああ。良かったよ」
「そう、良かった。だったら……」

 稚空の頬に、そっと柔らかい物が触れました。
 それは、都の唇。
 そして耳元で、都が囁きました。

「あたしにも、ちゃんとした『思い出』が欲しいの」

 都は一旦稚空から離れると、ブラウスをソファに落としました。
 照明に都の上半身の白い素肌が照らされて、まぶしく光っていました。

「女の子に恥かかせないでよね」

 都はすっと立ち上がると、スカートのベルトに手をかけました。
 その時、稚空は気付きました。
 都の手が震えている事に。

「都、もう良い!」

 稚空は、今度は自分から都を抱きしめました。

「稚空…」
「俺も都の事は好きだ。でも、今の都の気持ちに応えることは出来ない。
 俺は決めたんだ。もうまろんには嘘はつかないと。
 一度、まろんの為についた嘘で、まろんを深く傷つけてしまった事があったから。
 だから、俺は都にも嘘はつかない。
 俺は今でもまろんの事を信じている。
 信じているから、これ以上まろんの事を裏切ることはしない。
 まろんはひょっとしたら都の言うように俺の事を裏切っているのかもしれない。
 でも、それは俺がまろんの事を裏切ったからで、
 これからの行動で、まろんに俺を信じて貰うしか無いと思ってる。
 だから……すまない」

 稚空は都から離れて、その肩に手を置いて頭を下げました。

「ククク…ハハハ…」

 泣かれるかと覚悟していたのですが、聞こえてきたのは都の笑い声。
 稚空が顔を上げると、都は笑っていました。
 しかし、その目には涙も浮かんでいます。

「稚空って本当に馬鹿正直ね。そこが良い所なんだけど。
 判った。あたしもまろんの事を信じて待ってる。
 まろんが好きな人の事をあたしに話さないのは、
 あたしに隠し事をしているからじゃなくて、
 本当に好きなのが誰なのか判っていないから。そう思う事にするわ」

 そう言うと、都は指で涙を拭きました。

「ねぇ稚空」
「なんだ?」
「キスして。それ位なら良いでしょ。それで『思い出』にするから」
「えっと…」
「まさか、まろんともした事無いの?」
「馬鹿言うな…」
「なら、お願い」
「判った」

 稚空は都の目を見つめます。
 都も稚空の目を見つめ返し、やがて目を閉じました。
 そして都を引き寄せると、最初は軽く、やがて強く口づけします。

「ん…」

 何度か口づけしては離れを繰り返した後、最後に深く口づけして、二人は離れ
ます。
 口と口の間に透明な糸が光り、やがて切れました。

「はー。苦しかったー」
「俺もだ」
「あんた達、いつもこんなな訳?」
「いや、それは……」

 口ごもる稚空に都は意地悪な目ですり寄ります。

「大体あんたとまろんは、どこまで進んでるのよ」
「どこまでって…」
「全て教えてくれるまで、帰らないから」
「それはともかく、都」
「何よぉ」
「服を着てくれ。さっきから目のやり場に困る」
「あ……」

 都の頬が、お酒だけでは無く赤く染まりました。



 それから暫く、都と飲み続けました。
 都の意地悪な突っ込みに、曖昧に返事をして誤魔化していると、
 急に静かになった事に気付きました。

「おい、都…。参ったなこりゃ」

 都は、稚空に寄りかかったまま眠っていたのでした。



「クスクスクス…」

 リビングに笑い声が響いたのは、都をソファに横たえて毛布をかけた直後でし
た。

「誰だ!?」
「こんばんわ」

 誰何する稚空に応え、壁から何かが姿を現します。
 壁から上半身を現した少女の事を稚空は良く知っています。

「ミストか!」

 咄嗟に稚空は身構えますが、武器のブーメランは寝室に置いたままなのに気付
き舌打ちします。

「やーね、怖い顔しちゃって」
「何しに来た」
「あんたを嗤いに来たのよ」
「嗤いにだと?」

 ミストは壁から完全に全身を現すと、ダイニングテーブルの上に腰を下ろしま
した。

「そうよ。せっかく女がその気になっているのに、意気地の無い男。
 あーあ、残念。せっかく良い絵が撮れると思ったのにな」

 ミストは右手にデジタルビデオカメラを持っていました。

「まさか……」
「まぁ、良いわ。それなりに面白い絵も撮れたから。
 これを見たあの子の反応が楽しみね」
「寄越せ!」

 稚空が駆け寄りますが、ミストはふわり、と空中に浮かんでかわします。

「覗き見なんて趣味が悪いぞ、ミスト」
「クスクス…。ごめんなさい。
 だって、あんた達の様子が余りにも見てておかしかったんだもの」
「何だと!」
「たかが一度交わった位で、どうしてあそこまでウジウジ悩めるのかしら。
 その娘など、命まで絶とうとしていたわ。
 それを見ていると可笑しくて可笑しくて…ああ可笑しい」

 キャハハ、とミストは笑いました。

「黙れ! 元はと言えばお前のせいだろう」
「あ〜ら人のせい? 馬鹿言ってんじゃないわよ。
 じゃあ最初にジャンヌとフィンが宜しくやっているのを見て、
 ジャンヌの事を愛していながらも、
 当てつけるようにあたしの誘いに乗ったのは誰?
 その時霊体だったあたしの為の「器」として、
 東大寺都を無理やり引っ張ってきたのは誰なの?」
「それは……」
「そう、あんたよね」
「それは、お前が俺に悪魔を憑けたからで……」
「でも、それはあんたの望みでもあった」
「俺の望み…」
「別に恥じる事は無いわ。あんたの年頃の人間の男は、
 誰もが持っている望みだもの。
 相手があの娘だったのは、身近にいて、
 自分に好意を寄せてくれていた女だったから。
 だから、あの状況であの子をあんたが選ぶのは、むしろ当然だわ」
「だが、それで都は傷ついた」
「その娘だってそう。あたしが身体を操る事が出来たのだから、
 あの子にもあんたと結ばれたいと言う願いがあったのよ」
「そんな筈は無い!」
「あんた達人間は良く勘違いしているようだけど、
 あたし達悪魔は、人が望まない願いなど叶えることは出来ない。
 出来るのは、人が望むことだけ。
 ただ、人間には『理性』や『力』が原因で出来ない『望み』があるから、
 その足りない部分を補ってあげているだけよ。
 ちょっとした『代償』と引き替えにね」
「言いたいことはそれだけか!」

 稚空はそう言うなりテーブルの上にあったワインボトルをミストに向かって投
げつけました。
 それはミストに見事命中…する直前、ミストは別の空間に姿を現しました。

「まだ言うべき事はあるわ」
「何?」
「その娘の事を気にしているようだけど、その娘はお前に汚されてなどいない」
「どういう事だ」
「言った通りの意味よ。まぁ、解釈によっては汚されたとも言うかもね」
「良く判らんぞ」
「要するに、あんたは男として未熟だったって事よ。後はあんたが考えなさい。
 ま、あたしはあんたの精気を糧に実体を再構成出来たから、
 『やり方』には拘らないけどね。キャハハハ……」

 稚空は顔を赤くして、そして、

「どうしてその事を早く言わない!」
「あたしはあんたと事実を話す『契約』など結んではいないわ」
「なら、今頃どうして話す」
「決まってんじゃない。
 悩んだ挙げ句お互いに漸く吹っ切れた後で真相を知らされた時、
 あんたがどんな顔をするか見てみたかったからよ」
「貴様…」
「それだけじゃない。これは、あんた達の言葉で言う所の『冥土の土産』なの」
「何だと」
「あんたは今日ここで死ぬのよ。
 あんたが死ねば、ジャンヌの力は半減するから。
 せめて死ぬ前に、真実を知らせてあんたが心おきなく、
 『成仏』…だっけ? 死なせて上げるのがせめてもの情けだと思ってね」
「俺をそう簡単に倒せると思うなよ」

 しかし、すぐに自分の置かれている状況に気付きました。

「知ってるわよ。あんたに力を貸す黒天使は今はいない。
 そして、あんたが愛するジャンヌも近くにはいない。
 そうだ、今ジャンヌが何をしているか、見せてあげるわ」
「止めろ!」
「そう遠慮する事無いじゃない。ほら」

 ミストが指を鳴らすと、テレビに映像が映し出されました。
 そこに映し出されていたものは、まさかとは思いつつも信じまいとしていた光
景でした。

「キャハハハハッ。あんたがどんなにジャンヌに尽くそうとも、
 ジャンヌはあんたを裏切っているんだわ」
「俺は…俺はまろんの事を信じる」
「あらそう。なら、信じたまま死になさい」

 そう言うなり、ミストは稚空に向かって指先から光線を放ちました。

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」

 直撃を受けた稚空は苦痛の叫び声を上げると、ばったりと倒れました。

「あーら。もうお終い? 駄目よ、もっと楽しませてくれなくちゃ。
 生身の人間だと思って手加減したのに。
 ま、天使の加護の無い人間なんて、こんなものかしら」

 倒れた稚空を見下ろしながら、ミストは言いました。
 やがて、ソファで寝ている都に気付きます。

「そう言えばこの娘はどうしようかな……。
 そうだ! 名古屋稚空の止めはこの娘にやらせよう。
 好きなオトコが自分の親友に殺されれば、
 傷ついたジャンヌの『神のバリヤー』も消滅するかも。
 この娘は名古屋稚空を愛すると同時に、
 愛するジャンヌを自分から奪うと思って憎んでもいたから、
 悪魔を憑けるのも簡単よね」

 ミストは、都の側に降下します。
 暫く、何事かを考えていたようですが、やがて何事か閃いたように言います。

「そうだ! 単に殺すんじゃ面白くないから、
 ベットの上で殺すなんて良いわね。そうだ、そうしようっと!」

 ミストは左手に持っていたキャンディーボックスから、悪魔キャンディーを取
り出します。そして、放とうとしたその時。

ヒュン!

「何!?」

 気が付くと、ミストの首に何か細い物が巻き付いているのでした。

「形勢逆転だな、ミスト」

 ミストの首に巻き付いていたもの。
 それはシンドバットが時々使用するワイヤーでした。
 偶然ポケットの中に持っていたのです。

「馬鹿な。直撃の筈!」
「こいつが俺を護ってくれたのさ」

 稚空は胸ポケットから何かを取り出します。
 それは、黒い鳥の羽根のようでした。

「そのおぞましい気配……。まさか『天使の羽根』か?」
「ご名答。アクセスと俺が別行動を取っている時に襲われても良いように、
 アクセスが以前、俺にくれたんだ。これが俺を護ってくれるって…。
 まさか、本当に役立つ時が来るとはな」
「ち…」
「今日が命日なのはお前の方だったようだな、ミスト!
 チェックメイト!」

 しかし、反応はありませんでした。

「残念、逃がしたか…」

 床に、切れたワイヤーがバラバラと落ちているのでした。

「ん…何よ、騒がしいわね…。誰かいるの? 稚空」

 今の騒ぎで、都は目を覚ましたようでした。

「あ、ああ…。何でもない。それより都、大丈夫か?」
「んー、まだ残ってるかも…。こんなに飲んだのは久しぶり…」
「たく、刑事の娘が聞いて呆れるぜ」
「それは言わないで」
「今夜はもう帰るか? 辛かったらここで寝ていても良いが」
「んー、ここで寝てる…」
「判った。じゃあ、俺ももう寝るから」
「お休みなさい…」

 そう言うと、都は再び眠りに落ちました。

(本当の事は話せないな…。話しても言い訳だと思われるだろうし、
 第一、こんな恥ずかしいこと話せないぜ。男として…)

 都の幸せそうな寝顔を見ながら、そんな事を稚空は考えていました。

(第65話 後編:完)

 今回ほど書くのに時間がかかり、投稿するのに悩んだ話はありません(汗)。
 漸く序盤から引きずっていた都ちゃん問題に一定の結末がつきました(そうなのか?)。
 オチが某作品の某キャラを思い出させるのは、わざとです(ぉぃ)。
 にしても…「低い」オチだ(滝汗)。かなり当初構想とずれている…。

 では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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