3章 沈黙の世界 
   3 耳をすませば

 コウモリの咽頭や耳のつくりは基本的にはわれわれと同じです。

 まず声は空気を咽頭が通る時に出ます。声帯を調整して周波数を変えます。エコーロケーションの音波を、口から発声するコウモリと鼻から発声するコウモリがいますが、(これはまた後ほど)鼻から超音波を出す種では、鼻の周りに皮膚と軟骨からできた鼻葉が発達しており、音を細いビーム状にして指向性を高めます。声のスポットライトですね。

 耳介の大きなコウモリが多いのは、微弱なエコーを聞き取るためです。(だからエコーロケーションしないオオコウモリは耳介が小さい)特に大きな耳介をもつウサギコウモリなんてのもいます。

 ここで高校の生物の復習です。耳介で集めた音波は外耳道を通り鼓膜を振動させます。鼓膜の内側には3つの小さな骨(耳小骨)があり、ここで振動が拡大されます。さらにその奥の蝸牛(うずまき管)に振動は伝わります。蝸牛の中の基底膜は周波数によってうずまきのどこが振動するか違いが生じますが、一番下の大きなうずまきは、高い周波数の音に対応しています。小コウモリは特にこの部分が発達しています。また蝸牛の渦の数もオオコウモリや霊長類が1.75なのに比べて小コウモリは2.5-3.5と多くなっています。洞窟に落ちている小コウモリの蝸牛を見て新種のかたつむりと思った学者もいるという逸話を、どこかで読んだことがあります(どこで読んだんだっけな?
 基底膜の上には繊毛の生えた聴細胞と蓋膜(おおい膜)からなるコルティ器があります。基底膜の振動により蓋膜と繊毛が接して聴細胞が刺激され、この興奮が聴覚神経を伝って中脳に達し、最終的には大脳皮質の聴覚野に伝わって、音の感覚を生じます。
 一番身近にいるアブラコウモリは、120dB以上の大きな声を出すこともあるようです。新幹線が近くを通ったくらいの騒音になりますから、もしこれが聞こえたらものすごいうるさいでしょうね。一方超音波は空気中での減衰が大きいですから、聴覚は微弱なエコーが捉えられるよう鋭敏である必要があります。そうすると声を出したときに、自分の声で耳がおかしくなることはないのでしょうか。
 コウモリは声を数msから数十ms(msは一秒の千分の一)くらいの短いパルスとして出しています。パルスを発しているときには一番奥の耳小骨(あぶみ骨)が筋肉でひっぱられて蝸牛へ振動を伝えないようにしているコウモリが何種か知られています。つまり自分が声を出しているとき一時的に耳が聞こえなくなるわけです。パルスを出したらすぐこの骨をもどしてエコーは聞こえるようにします。コウモリは一秒間に200回くらいパルスを出すときもありますから、この筋肉も一秒間に200回働くことになります。すごいですね。

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