3章 沈黙の世界 
   2 内緒の話

 山に向かって「やっほー」と叫べばエコーが返ってきます。エコーを利用するには超音波でなくてもいいわけで、現に南米のアブラヨタカや東南アジア・インド・オーストラリアの洞窟に住むアナツバメは可聴音でエコーロケーションしています。しかし大部分のエコーロケーションは20-120kHzの、人に聞こえない高い周波数の音を使って行われています。なぜでしょう。それは人間に聞かれたくない内緒の話をしているからです・・・というのは冗談ですが自然界にはこのくらい周波数の高い音は少ないですから、他の音に惑わされなくてすむということも多少はあるでしょう。われわれの知らないところで超音波を使う生物というのはもっといるのかもしれませんね。何しろ聞こえませんから。
 アブラコウモリはよく水路などに何十頭何百頭が乱舞していることがあります。お互いが出す声で混乱しないのでしょうか。混乱を避けるメカニズムはいろいろあるのですが、超音波は遠くまで届かないというのもその一つです。周波数の高い音は空気中でのエネルギー吸収率が大きいので、一般的には30kHzでエコーロケーションしているコウモリは30m以上探索できないし、100kHzでは10mほどのようです。

 しかし一番重要なのは高い周波数の音は、小さな虫まで探知できるということでしょう。一般的に標的を探知しやすいのは、その大きさに近い長さの波長ですが、100kHzなら波長は3.4mm、50kHzなら6.8mm、10kHzなら34mmということで、超音波なら1cm以下の小さな虫でも探知することができるわけです。
 また高い周波数の音は直進性がよく、対象物の位置を正確に捉えることができます。海中の地形を測定したりするのに超音波が使われるのはそのためです。

 ということで周波数が高いほど餌の位置が正確にわかるけれど、空気中で減衰して遠くまで調べられられないので、折衷案が20-120kHzということです。 

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