3章 沈黙の世界 
   4 FM音

  コウモリはエコーロケーションの時に数msから数十msの短いパルスをだしますが、この一回のパルスの間に周波数が変調するFM型(frequency modulated)と周波数が一定のCF型(constant frequency)があります。

 まず一般的なFMパルスの性質を見ていきましょう。 ヒナコウモリ類の多くは、ほんの5msほどの一回のパルスの間に周波数が60kHzから30kHzまで急激に変調します。一般的にFMパルスは短いものが多く2−5ms、中には0.2ms以下というのもあります。これはFMパルスを使うコウモリはパルスとエコーが重なると解読できないという神経の機構を持っているためです。音波は15℃で1秒間に340m進むので、1m先に虫がいるとパルスを発して5.9ms後にエコーが返ってくることになります。ということは一回のパルスは5.9msより短い必要があります。
 漫然と虫を探しているときは一秒間に10回くらいパルスを発しています。虫が見つかって接近するとパルスを出したらすぐエコーが返ってくるわけで、重ならないようにパルスはさらに短くなっていきます。さらに虫を捕まえる直前にはその位置を正確に把握する必要があるので、頻繁にパルスを発するようになって一秒あたり200回以上になることもあります。このときのパルス一つ一つはわずか1ms(千分の一秒)の短いものになっています。

 FMパルスを使うコウモリは、たとえば基本周波数が60kHzから30kHzまで変調するときに120kHzから60kHzに変調する2倍音や、さらに3倍音も同時に出すことが多く、周波数帯域がさらに広くなっています。周波数が広いということはどんな意味があるのでしょうか。

 音波が物体にぶつかったとき、どの程度反射してエコーになるか、あるいは物体を回り込んで通過してしまうか、物体に吸収されてしまうかは周波数によって異なります。山に向かって叫んだとき、こだまが本来の声とちょっと違って聞こえることはありませんか?多くの周波数を含むパルスは、虫までの距離や虫の細かい形状についてより詳しい情報をエコーで調べることができることになります。従って虫に近づくほどFMコウモリは周波数変調を大きくしたり倍音を使ったりしてよりFM型を高める傾向にあります。
  

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