3章 沈黙の世界 
   1 音の物理学

 エコーロケーション(反響定位)というのは、動物が自分の発した音のエコー(反響)を解析して周囲のようすを認識することをいいます。コウモリはもちろん、クジラやイルカ、トガリネズミやテンレックも行います。齧歯類や有袋類にも超音波をだすものがいるようですが、エコーロケーションに使っているかどうかは不明です。そういえばドブネズミにバットディテクターが反応しました。 

 さて音の物理学をちょっと。
 音というのは空気中を伝わる空気の粒子の振動です。たとえば太鼓をたたくと膜の面が垂直に振動して、それに触れる空気が押されたり引かれたりして空気中に空気の密度の大きいところと小さいところが交互にできます。これが一秒間に何回送られるかを周波数と言います。単位はHzです。

 ところで大きな太鼓の膜はゆっくりと振動していますが、低い音になります。つまり周波数が低い音は低く聞こえます。小太鼓の膜は速く振動し高い音を出します。すなわち周波数が高い音は高く聞こえます。人間はだいたい20Hzから20000Hz(普通20kHzという)の音が聞こえますがこれを可聴音と勝手に名づけています。ちなみにピアノの一番右端のドの音は4186Hzですが、20kHzというのはこれより2オクターブちょっと高い音ということになります。これより高くなると耳のいい人でももはや聞き取れないので、超音波といっています。しかしこの分け方はコウモリにとっては何の意味ももちませんから、可聴音を出すかどうかなんて、コウモリからすれば「けっ、テメエらの耳が悪くて聞こえないだけだろう。」ということですね。

 一つの波と次の波の距離は波長と言います。これは1/周波数 になります。つまり周波数が高い音は波長が短いということになります。波長というのは音波の身長のようなものですが、身長が小さければまわりのものは大きく見えます。あとでエコーロケーションではどの程度の大きさのものが認識できるかという話になりますが、波長が小さい=高い周波数の音波ほど小さな虫でも認識できるということになります。

 大きな音、小さな音というのは音のエネルギーの差です。つまり大きな音は空気が大きく振動しているのです。音の大きさの単位はデシベル(dB)です。二十歳の成人が聞き分けられる最小可聴値を0dBとし、ジェット機のエンジンを近くで聞いた時の(聞きたくないが)音が人間が聞き取れる最大値でこれを140dBとしています。10dB高まるとだいたい2倍の大きさとして認識します。
 
 ところで一人一人の声が違ったり、バイオリンとピアノの音色が違うのはどうしてでしょう。音楽や物理の実験で使う音叉は一つの周波数の音だけを出します。しかし自然界のほとんどの音は、基本周波数の音の他にその2倍3倍のの周波数の音が同時に出ています。それぞれの周波数の音の強さもさまざまです。実際はこれらの音の合成音をわれわれは聞いていますので、さまざまな音色となるのです。

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