年間ベストブック 1997年
1997年は、インターネットを始めたせいか、新しい発見の多い年でした。
高野史緒、浅田次郎、久世光彦、カード、篠田真由美、ナンシー・A.コリンズ等、
インターネットをやっていなければ読まなかったかもしれない作家たちです。
その中でも極めつけは、森博嗣でしょう。
結局既刊は全部読んでしまいましたが、
インターネットで森博嗣=森むくという情報を拾わなければ、
絶対に手を出したりしなかったと思います。
- ベスト10
- ・荷宮和子『アダルト・チルドレンと少女漫画』 →コメント
- ・高野史緒『カント・アンジェリコ』 →コメント
- ・浅田次郎『蒼穹の昴』 →コメント
- ・久世光彦『一九三四年冬−乱歩』 →コメント
- ・ジョン・クロウリー『リトル、ビッグ』 →コメント
- ・イアン・マクドナルド『火星夜想曲』 →コメント
- ・内田春菊『悪女な奥さん』 →コメント
- ・京極夏彦『嗤う伊右衛門』 →コメント
- ・浅田次郎『プリズンホテル秋』 →コメント
- ・森博嗣『すべてがFになる』 →コメント
- ・高野史緒『カント・アンジェリコ』 →コメント
- 次点
- ・荒俣宏『稀書自慢 紙の極楽』 →コメント
- ・井辻朱美『遥かよりくる飛行船』 →コメント
- ・小野不由美『風の万里 黎明の空』 →コメント
- ・オースン・スコット・カード『ソングマスター』 →コメント
- ・金蓮花『竜の眠る海』 →コメント
- ・ジョーン・ロビンソン『思い出のマーニー』 →コメント
- ・ナンシー・A.コリンズ『ミッドナイト・ブルー』 →コメント
- ・篠田真由美『玄い女神』 →コメント
- ・ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』 →コメント
- ・宮部みゆき『今夜は眠れない』 →コメント
- ・井辻朱美『遥かよりくる飛行船』 →コメント
コメント
荷宮和子『アダルト・チルドレンと少女漫画』(廣済堂出版)
この本の「女の子はおたくになることで親密性競争によるプレッシャーから解放される」という 指摘で、なるほど、私が中学時代にやっていたのはそういうことだったのか〜、と納得。
私の中学3年のときのクラスでは、私ともう一人を除いた女子全員が一緒にお昼を食べるという、 笑顔の恐怖政治に支配されているような気持ち悪い状況になっておりました。 私はそれに反発して、クラスでは浮きまくっておりました。 成績が良かったし、隣のクラスに友達がいましたから、イジメにあっているというような自覚はなかったですが、 しんどくって本の世界に逃避してました。 決して私が特別だったわけでもないことが判って、良かったです。
高野史緒『カント・アンジェリコ』(講談社)
この人を発見できたのも97年の大きな収穫です。
前々から気になっていた本ではあるのですが、この本に手を伸ばすきっかけになったのは、
インターネットでの書評でした。
高野史緒さんの本の読み方や感じ方には、私と重なるものがあるようで、
この人の書いたものは、どれもストンと理解できるのです。
浅田次郎『蒼穹の昴』上下(講談社)
冒頭を読んで、先を読むのがもったいないと感じたほど、すばらしい本でした。
特に上巻は凄かった。
この人の描く女丈夫と男の子が好きです。
女丈夫じゃない女は、なにかわざとらしくて白けてしまいますが。
西太后には、97年度助演女優賞をあげたいと思います。
久世光彦『一九三四年冬−乱歩』(新潮文庫)
これを読んだときには、絶対これが97年のベスト1だと思ったのですが、
その後読んだ強力なライバルたちによって、ずるずると4位にまで下がってしまいました。
乱歩を読んでから再読するとさぞ楽しいだろうと思うのですが、
未読の本が多くて、なかなかそこまで行き着きません。
ジョン・クロウリー『リトル、ビッグ』I・II(国書刊行会)
これも、インターネットをやっていなければ、手を出さなかったかもしれない作品。 インターネットの書評ページでみんなが誉めているんだもの。 なぜか読む前は、巨人の話だと思ってました。何、考えてたんでしょう、私は。(笑)
この本自体が人生の比喩であるというような書評もあるようですが、
私はもぱらルイス・キャロルなどなどのイメージの断片がかすめていくのを楽しみました。
高野史緒さんが、『SFマガジン』98年3月号で、シルヴィーの本名に言及しているのを読み、
私と同じような読み方をしているのだと思って嬉しくなりました。
イアン・マクドナルド『火星夜想曲』(ハヤカワ文庫SF)
訳者はこの本の翻訳に1年半もかけたために、貯金を食いつぶしたそうだ。
苦労しただけのことはある名訳だと思う。
題名だけは異論が多そうだが、私は悪くないと思う。
ともかく『荒涼街道』じゃ、絶対売れなかっただろう。(笑)
内田春菊『悪女な奥さん』(メディア・ファクトリー)
内田春菊という人は凄い人だとは思っていましたが、
これほどマットウな人だとは思いませんでした。
「野放し主婦」って形容は、あんまりなんじゃありません?(本人がいっているのかなぁ)
風貴ちゃんとその旦那さんの生活のマンガを読んでいると元気がでます。
というわけで、97年の一番元気が出る本は、これに決まり。
(追記:2001/04/07 しかしまあこの後ああいう展開になるとは思ってもみませんでした。残念というかなんというか)
京極夏彦『嗤う伊右衛門』(中央公論社)
四谷怪談を題材にしながら、実はとっても現代的な問題を扱っていたのではないかと思います。 伊右衛門も岩も、もうひとりの女(すみません名前忘れました)も、現代にはいくらでもいるんですよね。 でも闇のない現代では、その話は怪談にならずに、ありふれた話として消えていくのですが。 97年の主演男優賞は伊右衛門さんにあげたいと思います。
浅田次郎『プリズンホテル秋』(徳間書店)
極道ファンタジーの傑作。シリーズ4作の中では、最初に読んだこれが一番。
私の大好きな支配人さんが大活躍する作品です。
図書館の順番待ちの都合で、第一作の『プリズンホテル』を最後に読むことになってしまったのは、
悔やまれることです。
かつて『指輪物語』で読む順序を間違えてものすごく悔やんだことがあるというのに、またやってしまいました。
やっぱりシリーズ物というのは、順番に読まないといけません。
97年の助演男優賞は、支配人さんです。
森博嗣『すべてがFになる』(講談社ノベルズ)
森博嗣=森むくということを知り、「じゃあ、あの絵柄で読めばいいのね」と思って読んだので、 世間の人々のように「キャラクターのリアリティのなさ」というのも気にならず、犀川と萌絵の会話を楽しみました。 その上で、あの究極のトリックなんだから、やっぱりこれはベストに挙げなきゃね。
執筆順序と発表順序の違いが、「キャラクターの成長」にどう関わったかを知りたいところです。 萌絵のエピソードは、執筆順に読んだ方が納得がいくみたいですが、犀川の方はどうなんでしょう。 この作品では、まるで人間ぎらいみたいな存在に描かれてますが、2作目では印象が違いますよね。 これは執筆順のままなのか、発表順に合わせて性格を書き換えたのか?
荒俣宏『稀書自慢 紙の極楽』(中公文庫)
荒俣氏の場合、本の内容よりその好奇心と「本に対する愛情」に圧倒されますよね。 そのコレクター魂に敬意を表して。
井辻朱美『遥かよりくる飛行船』(理論社)
究極のハッピーエンディングラブストーリーで、都会の出てくるファンタジィには違いないけど、 ほんっと変な話だと思う。映像化は絶対不可能な言葉によるイメージの魔術を感じさせてくれる作品です。 テーマパーク建設地に「海からやってきた古いものたち」がやってくる凄いシーンだけで私は満足。
小野不由美『風の万里 黎明の空』上下(講談社X文庫ホワイトハート)
書店で平積みになって表紙がおいでおいでしているのを横目で眺めながら、
なかなか手を出せなかったこのシリーズですが、読んで良かった。
1作目はひたすらしんどかったですけど(だから、まとめ読みで正解だったといえる)、
2作目ラストの3人娘揃い踏みのところは、痛快でしたわ。
キャラクターとしては、やっぱり珠晶と黒麒麟が好き。尚隆と六太も捨て難いけど。あれ、なんか大事な人(半人?)を忘れているような...。
オースン・スコット・カード『ソングマスター』(ハヤカワ文庫SF)
『エンダーのゲーム』も良かったですが、ラストの性急さがいまひとつ納得がいかなくて。 それよりも心優しき独裁者という矛盾した存在のミカルやその他のキャラクターのひかる、こちらの作品の方が好きです。 どうもSFファンより他のジャンルの人(ファンタジー好きやミステリ好き)の方が、 カードを面白がるんじゃないかという気もします。人間は描けてるし、生活の描写もあるし。
金蓮花『竜の眠る海』(集英社コバルト文庫)
細部のイメージが実に美しいファンタジー。 傭兵のジェイファン・スーンを削って、子供向けに仕立てた方が、イメージは生きるんじゃないかと思う。 5分くらいのイメージムービーでいいから、CGアニメにして欲しいなぁ。 スクウェアあたりでやってくれないだろうか。
ジョーン・ロビンソン『思い出のマーニー』上下(岩波少年文庫)
中学高校時代に読んでいたら、生涯忘れられない本になったはずです。 今は開き直ってしまったから、こういう本は、あんまり必要ないんです。 自分と他人との間にガラスの壁を感じる人は、お読みください。勇気と元気が出るはずです。
ナンシー・A.コリンズ『ミッドナイト・ブルー』(ハヤカワ文庫FT)
ハヤカワ文庫FTで出版されながら、SFやホラーの分野でも絶賛され、 なぜかミステリ雑誌でも評価されてしまったというジャンルミックスな小説。 狂暴な女っていう「彼女」の設定が、痛快でしたね。97年の主演女優賞は、ソーニャ・ブルーで決まり。
篠田真由美『玄い女神』(講談社ノベルス)
インターネットで、評判を聞きつけて手を伸ばしてみた、建築探偵桜井京介物の2作目。
とある書評ページでも、このシリーズは少女マンガ的と書かれていましたから、
誰が読んでも、少女マンガ的なんでしょう。
この作品は、少女マンガの主人公の名前を作中人物に使用することで、
その少女マンガ的特性を上手く生かしたといえます。
やっぱり吉野朔実にマンガ化してもらうのが一番いいんじゃないでしょうか。でも、版元が講談社だからなぁ...。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』(創元推理文庫)
読後コメントでは触れるのを忘れましたが、この本の主人公ポリーの両親ってのが、 どちらもとんでもなくひどいなんですわ。 母親は自己中心的な「幸せ乞食」で自分が幸せになれないのは全部娘のせいだと思い込むような奴だし、 再婚してしまった父親は再婚相手にぶら下がったきりで、娘の面倒を見る責任を回避しつつづける。
それにしても、この著者の作品にでてくる女性キャラクターは、どうして誰もかれもブチ切れたとんでもない個性の持ち主なんでしょう。
宮部みゆき『今夜は眠れない』(中央公論社)
宮部作品の中では、比較的「痛くない」作品。男の子が主人公だし、一応ハッピーエンドだし。 ”マダム・アクアリウム”と呼ばれる女性がステキでした。 中学生が銃のことを良く知っているというあたりにちょっと無理がある気もするけれど、ま、いいか。
続編の『夢にも思わない』の方が、ずっと宮部みゆきらしい作品だったと思います。 彼らが「彼女」を許せないのは分かる。でも、私にも「彼女」と同じような狡さが潜んでいるから、ちょっと辛いですね。