年間ベストブック 1993年
1993年は、結構本を読んでいた年のようです。私のペースはだいたい月10〜12冊です。
面白かったという印のついている本が18冊もあったということは、読書の当たり年だったのかも。
泡坂妻夫、菊地秀行を「発見」した年です。
- ベスト10
- ・ 式場隆三郎・式場隆成/藤森照信他 『定本 二笑亭綺譚』→コメント
- ・妹尾ゆふ子 『仮面祭 夢語りの詩 番外編』 →コメント
- ・アーシュラ・K.ル・グィン 『帰還 ゲド戦記4』 →コメント
- ・橋本治 『雨の温州蜜柑姫』 →コメント
- ・柳瀬尚紀 『フィネガン辛航記』 →コメント
- ・泡坂妻夫 『11枚のとらんぷ』 →コメント
- ・菊地秀行 『魔界都市ブルース4』 →コメント
- ・筒井康隆 『パプリカ』 →コメント
- ・三島由紀夫 『禁色』 →コメント
- ・麻城ゆう 『反風水師誕生』 →コメント
- ・妹尾ゆふ子 『仮面祭 夢語りの詩 番外編』 →コメント
- 次点
- ・筒井康隆『本の森の狩人』 →コメント
- ・北村薫 『夜の蝉』 →コメント
- ・黒崎政男 『哲学者クロサキのMS−DOSは思考の道具だ』→コメント
- ・菅浩江 『雨の檻』 →コメント
- ・筒井康隆+柳瀬尚紀 『突然変異幻語対談』 →コメント
- ・大原まり子 『ハイブリッド・チャイルド』 →コメント
- ・鶴岡真弓 『ケルト/装飾的思考』 →コメント
- ・橋本治 『源氏供養』 →コメント
- ・北村薫 『夜の蝉』 →コメント
コメント
式場隆三郎・式場隆成/藤森照信他 『定本 二笑亭綺譚』(ちくま文庫)
かつて朝日新聞に連載された『遊びの博物誌』で知って以来、
ずーっと私の心に引っかかっていた奇っ怪建築「二笑亭」についての本。
式場隆三郎の「二笑亭綺譚」と式場隆成/藤森照信/岸武臣/赤瀬川原平の「二笑亭綺譚 五十年目の再訪記」の
二構成。後半部分には、二笑亭再現模型のカラー写真も載っていて、この摩訶不思議建築の内部に入ったような気分にさせてくれる。
なぜこの建築が気になるのか、自分でもよく分からないけど、単にカラクリが好きだからなのかもしれない。
赤瀬川原平の小説「毛の生えた星」は、ラストの人名に思わずニンマリ。
妹尾ゆふ子 『仮面祭 夢語りの詩 番外編』 (白泉社 花丸ノベルズ)
白泉社のノベルズは、いまや美少年モノばかりですが、こんなのも出していたんですね。
ダンセイニ風というか、タニス・リー風というか、非常に凝った構成の幻想譚。
作者は、井辻朱美の『エルガーノの歌』などの挿絵を描いた三月ゆふこさん。
この人は今はなき大陸書房のノベルスでもシリーズ物を書いていて、
古本屋を探し回ってようやく一冊めの『風人の歌』を見つけましたが、これ以降がどうなっているのかさっぱり分からない。
こけちゃったんでしょうかね。
(99.06.26追記 大陸書房のシリーズは1冊目のみ。1999年にプランニングハウスより改訂版が刊行された。)
アーシュラ・K.ル・グィン 『帰還 ゲド戦記4』(岩波書店)
待ちに待ったという感じの翻訳でした。実はこの本は、原書で読んじゃったのよね〜。
ヒロインが中年で、そのロマンスの相手が壮年ときたもんだ。もはや児童文学の域は超えていて、ちょっと頭くらくら。
ル・グィンも丸くなったもんだとか、何十年もかけてやっと恋の物語になったのか〜とか、
ゲドですら女性問題に関してはそういう認識なのか〜とか、いろいろ考えさせられました。
橋本治 『雨の温州蜜柑姫』 (講談社文庫)
『桃尻娘』に始まった青春大河小説の最終巻。この巻の主人公は、温州蜜柑姫こと醒ヶ井凉子。
ピンクの外車をぶっとばし、ゴルフクラブでガラスを叩き割り、誘拐犯をぶん殴る醒ヶ井さんは、
とんでもなくカッコ良かった。
女の子は醒井さんであって構わない。だって、醒井さんは自由なんだから。というお話。
真の女の子解放の書だと思います。
柳瀬尚紀 『フィネガン辛航記』(河出書房新社)
翻訳不可能といわれていたジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』の個人訳を成し遂げた柳瀬尚紀氏の、
その翻訳過程の解説を集めた本。『フィネガンズ・ウェイク』の訳書そのものにはちょっと手が出ませんが、
柳瀬氏の随筆&評論は好きでいろいろ読んでます。
柳瀬氏の翻訳方法はちょっと癖があるのでけれど、エドワード・リアの『ナンセンスの絵本』や、『不思議の国のアリス』は、
ちくま文庫から出ている柳瀬訳が一番読んで面白いと思います。
泡坂妻夫 『11枚のとらんぷ』 (創元推理文庫)
チェスタトンや都筑道夫のようなトリッキーな作品が好きなくせに、泡坂妻夫のことを知らず、この本を読んで大急ぎで泡坂作品を買い集めた私。
アマチュア奇術愛好団体の中で起こる殺人事件の話だが、作中に連作短編小説が仕組んであったりする実にトリッキーな作品。
でも、私が一番好きなのは、作者が嬉しそうに描いている国際奇術大会の様子です。
コミケとかSF大会とかああいうお祭りの熱気が伝わってきて、すごく楽しい。
菊地秀行 『魔界都市ブルース4』 (祥伝社 ノン・ノベル)
最近は書き飛ばし過ぎて、マンネリ気味の菊地秀行ですが、『魔界都市ブルース』を読みはじめた頃は、
美形山盛りでほんとハマりました。新宿行くと感動してましたもんねぇ。「ああ、これが、区役所! ああ、ここが西新宿!」
作者も希望しているという、あしべゆうほさんによる漫画化、実現するといいですねぇ。
筒井康隆 『パプリカ』(中央公論社)
やっぱり、この年はこれを忘れてはいけない。夢SFの傑作。
『朝のガスパール』で一瞬世界がリンクして以来、ずーっとこの本が出るのを待っていた。
お人形の夢、怖いですね。キリストの腰布の下、笑えますね。(笑ったらダメ?)
最近は漫画化もされているようですが、やっぱり小説にはかないませんね。
三島由紀夫 『禁色』 (新潮文庫)
なんでこんなのがいきなり出てくるかとお思いでしょうが、『源氏供養』に『禁色』のことが出ていて、
読みたくなったのでした。源氏物語の影響を受けている作品らしいです。
女に持てない初老の男が、男色家の美青年を使って、女性に復讐しようとするが...、というような話。
昔っから、ゲイピープルっていうのはいたのねぇ、と思いました。
麻城ゆう 『反風水師誕生』 (中央公論社 C★NOVELS)
漫画家の朱雀きららさんが、マンションのお隣に住むオタクの超美少年風水師と知り合って、
いろいろトラブルに巻き込まれていく物語。戦隊物のパロディやら怪獣大戦争のパロディやらも混じって、
大騒ぎ。
一応、社会批判なんてのも含んでいます。(あくまでも一応だけど。)
続編として、『反風水師その愛』なんていうのもありました。
面白かったのですが、シリーズがこけちゃったみたいで、もう出ないのか?と思ったらなんと、
角川スニーカ文庫の《時代の巫子》シリーズというのが、さらにその続編でした。
筒井康隆『本の森の狩人』 (岩波新書)
筒井康隆は小説よりも評論が好きだ。 「人がみな狼だったとき」などを読むと、筒井康隆がアゴタ・クリストフの『悪童日記』をどう評価しているか 無性に知りたくなる。どこかに書いているような気がするんですが。
北村薫 『夜の蝉』 (東京創元社)
『空飛ぶ馬』もそうなのだけれど、北村薫の話はかなり怖い。
白昼堂々と本屋の中にのっぺらぼうの「邪悪」が立っていたり、銀座歌舞伎座に「お化け」が出たりするんだから。
「赤頭巾」のほくろさんも「夜の蝉」の"彼女"も、「ああ、いるよね、いるよね、こういう人」という感じがする。
ただ、こういう風に人間の邪悪さを描く一方で、主人公の"私"が無垢を気取っているのが、なんとなく鼻持ちならないのは私だけだろうか。
黒崎政男『哲学者クロサキのMS−DOSは思考の道具だ』(アスキー出版局)
哲学者である黒崎政男がMS−DOSと奮闘しつつ、デジタル・テキストや電子会議の意義を考察する。
『ASCII』連載中から好きだったので、単行本も買ってしまいました。
この後1996年に『ASCII』で連載されたカオス論の連載は、難しくてちーっともわかんなかったですけど。
菅浩江 『雨の檻』(ハヤカワ文庫)
母親と癒着してスポイルされていく娘の話ばかりが並んでいるような気がする。
男の子にとって「父殺し」「母殺し」は自立のためには不可欠なんだろうけど、女の子にとってはどうなんだろう?
いままでは、「女の子」はなしくずし的に「母」になっちゃったけど、これからの時代はそういうわけにはいかない...。
筒井康隆+柳瀬尚紀 『突然変異幻語対談』(河出文庫)
あの筒井康隆に言葉使い師としての自信を喪失させたらしい柳瀬尚紀の異才ぶりを見よ!
大原まり子 『ハイブリッド・チャイルド』 (ハヤカワ文庫)
大原まり子さん、デビューからのファンです。これ、ハードカバーでも持っていたんですけど、 文庫も買っちゃいました。 この人の「食べる」描写はほんと鬼気迫るものがありますね。そして、身体的生理的感覚の描写といったら...。私は視覚的描写は意識しないと頭の中に再現できないので、どんなスプラッタな描写でも平気なんですが、内側から攻めてくる感覚の描写というのは、効きます。時々食欲なくなっちゃうんですよね〜、大原作品読むと。
鶴岡真弓 『ケルト/装飾的思考』(ちくま文庫)
ケルトはブームになる前から好きだったんだけど、こういうのが文庫で出るんですよね。よい時代です。
橋本治 『源氏供養』上下 (中央公論社)
『源氏物語』の翻案『窯変源氏物語』を書いた橋本治の平成から見た源氏物語論。
この本があんまり面白いので、その後、以前に挫折した『窯変源氏物語』を再読することになった。