みんなの、国民の、日本の夢を一身に受けて佇むH-IIAを竹崎観望台から望む。
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H-II 008号機の悲劇から丸2年・・・・このサイトのレポートでも触れているが、1999年11月に行われたH-II 8号機は指令爆破という悲劇的な失敗に終わった。
だが!日本の宇宙開発は倦むことなく研鑚を続け、ここに H-IIA試験機1号機の打ち上げを向かえることになった!
おりしも台風一過の種子島は、曇りがちの小雨模様の天候である。だが、この島に降り立った10人の燃える男共は、打ち上げ成功を微塵も疑わなかった!
日本の、国民の、そして我々の夢をのせて、H-IIAが風を巻いて蒼穹を貫く!
(今回もデータを一時にアップできないので、不定期に内容が変わることをあらかじめお断りしておきます)
■2001/09/04 H-IIA比較表補足
■2002/05/25 打ち上げ動画・音声追加
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宇宙作家クラブ(SAC)の活動として、対外的にその存在感をアピールできるのがロケット打ち上げなどの報道取材への参加である。
松浦氏や笹本氏の強力な「煽り」もあってか、今回の取材では10名のメンバーが名乗りをあげた。すなわち、
今回の参加者。リストの順番とは一致しません。
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- あさりよしとお(SACメンバー/漫画家)
- 江藤巌(SACメンバー/宇宙開発評論家)
- 小川一水(SACメンバー/作家)
- 小林伸光(SACメンバー/イラストレーター)
- 笹本祐一(SACメンバー/作家・シナリオライター)
- 田中健一(SACメンバー/編集者)
- 田巻久雄(SACメンバー/漫画家)
- 松浦晋也(SACメンバー/記者・ノンフィクションライター)
- 相場二郎(サポート参加/羅須地人鉄道協会)
- 牧野知宏(サポート参加/角川春樹事務所)
(順不同というか五十音順的)
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という豪華な面々であったのだ!
・・・・あれ?おかしいぞ?ワシの名前がないぞ・・・・・?
そうなのである。なんと直前になって田巻氏が仕事の関係で急に参加できなくなったのだ。 そこで、再びワシが参加の名乗りを上げたのである。
とりあえず費用のことは頭の片隅にLZHで圧縮・凍結し、今はただひたすら2年前の無念を晴らすべく種子島へ進路を取ったのであった!
今回のH-IIA打ち上げの目的は、新型機であるH-IIA(H-IIの改良機種)の基本性能確認である。そのために搭載される衛星は、通常のETS(技術試験衛星)
シリーズとは異なるVEP(Vehicle Evaluation Payload)シリーズというものである。
これは、DRE(ドップラー測距装置)とLRE(レーザー測距装置)を静止パーキング軌道(静止軌道へ衛星を投入する軌道)に乗せることを確認するための
軌道上装置・・・すなわち衛星である。
このうち、DREには衛星の重量をエミュレートするためのウェートが搭載されている。LREはその外見がミラーボールのようなもので、コーナーキューブ
プリズムによりレーザーを正確に送信側に反射しその距離を測定するものである。 LREはDREに結合され、自動的にスプリングの力で分離するようになっている。
このように、ミッション自体に派手さはないのだが、今回のH-IIAのフライトでは、実に沢山の項目についての動作検証が挙げられている。言うならば、
このフライトは技術者の挑戦であり、自らの能力を証明する晴れ舞台なのだ。 技術者の
「どや」(大阪弁)
とは、パネルに現れる数字の下2桁とか、テレメトリされる動作のシーケンスやタイミングとか、計算通りにレーダーレンジに入ってくるペイロードとか、
そういった目に見えない部分にこそあるものなのだ。
しかも、H-IIAはH-IIの後継機で名前も似てるし外見もほぼ同等なので、ぱっと見にはH-II 008から進歩していないようにも見える。
ところが、プレスキットにある打ち上げ計画書を見てびっくり。ほとんど新規ロケットではないか。
その違いとは、
項目 | H-IIA F-1 | H-II 008 |
1段メインエンジン | LE-7A 液酸液水式 | LE-7 液酸液水式 |
ブースターエンジン | SRB-A 一体型固形燃料式 | SRB 分割固形燃料式 |
ブースター分離 | スラストストラット利用 | 支柱を爆破ボルト分離 |
2段タンク | セパレート式 | 隔壁一体式 |
段間構造体 | CFRP(カーボンFRP) | アルミ合金 |
姿勢制御方式 | 風力データも考慮 | 姿勢制御のみ |
テレメトリ | 画像データ取得、ビーコン搭載 | 基本データのみ |
■写真はほぼ同寸。
■写真ではフェアリングも違うが、これはH-II 008がMTSATを搭載しているため。
というところである。大きなところでは、今回のH-IIAは前回のH-IIと1段目エンジンが全て異なっているという点である。また、全てのエンジンに
飛行実績がまだないのだ。(2段目エンジンLE-5BはH-II 008にも搭載されたが飛行実績は作れなかった。)
特にLE-7Aエンジンは、燃焼室周りのインデューサーポンプ〜配管系統がLE-7エンジンより最適化されていてサイズも非常にコンパクトになっている。
「これが同じ出力のエンジン? というか改良型??」と思うほど、その設計は洗練されている。しかも今回はミニスカである。
この実物は、種子島の宇宙科学技術館だけでなく、有明・お台場にある「未来科学館」にも展示されているので、施設を訪れた際には
自らの目で確認されるのがよろしいであろう。
今回の試みで、技術的にはあまり問題ではないが、データとして興味深いのが画像テレメトリである。なにしろ、機械的稼動部をすべて
網羅しているそうで、1)SRB-A分離、2)1−2段切り離し、3)フェアリング分離、4)LRE分離、5)2段液水タンク内画像 などを撮影するのだ。
この中でも5番目の液水タンク内部画像は世界でも初めての情報である。 これは、液体水素の液面状態が無重力に近い低重力状態/加速状態で
どのような挙動をするかを目で確かめるものなのだ。 いや、まったくワクワクするロケットではないか!
今回、ワシは種子島3回目という事で特に奇異に感じるものもなく、黙々と取材準備を進めていった。まずは屋上への三脚設置。
被写体が遠方ということもあり、特に場所は選ばないのであるが、打ち上げの瞬間にはどこからともなくわらわらと人が溢れ出してくるので
(たいていは観望台で働くNASDA関係者や職員)、場所取りはしておく必要がある。特に三脚固定はしっかりしなければならない。
SACの取材卓。今回は計3卓のスペースを割り当てていただけた。
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竹崎観望台での準備のようす。久しぶりの長玉の出番。
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こうして、8/29 1:40からのプレスツアーが始まった。今回の目玉は、
VABからラウンチパッドまで移動する発射台とH-IIA
なのである。
前回までのH-II発射では、発射のかなり前にロケットはPSTと呼ばれる射点施設に格納され、ここで衛星を搭載する。
そして発射の前にPST開放といって、この施設が左右に観音開きのように展開していくのだ。→写真
H-IIAからは、ロケットは発射直前までVABの中で整備を受け、そこから「ドーリー」(H-II 008レポートではローリーと
発音していたが、正しくはドーリー)という14軸独立駆動の運搬車2台でアルファベットの「H」字型のアンビリカルタワーごと
運び出すのである。 このドーリーの駆動軸はすべて独立に制御され、カニ歩きから超信地旋廻までできる優れものなのである。
このドーリーによって運び出されるH-IIAの様といったら・・・・そう、もしこの射場が45度傾斜していたら、
まさにサンダーバード1号の発進準備そのもの
なのだ! 男のロマンだなぁ。
このシーンを見られるのが実に楽しみで勇んできた我々は、なにやら藪の奥に続くコンクリの側溝脇に案内された。
ほぼ竹崎と大崎の中間地点である特設観望ポイントは、なんか排水溝に沿って坂道を登ったところにあったのだ。
ちょうど直前の昼に大雨が降ったばかりなので、誰かが滑ると将棋倒し的に滑り落ちる可能性もある真っ暗(一部照明あり)な道を
上ったところに足場用鋼管とベニヤ板で組んだ物見台があった。
時速2kmで移動するH-IIA。意外とその移動は素早い。
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この移動の際に遠くから聞こえてくる警告のサイレン。これが、なんかどこかで聞いた覚えのある音なのだ。
実は、これと同じものが以前のPST開放の時も鳴っていた。
だが、それにしてはもっと以前に聞いたことが・・・・・そうか、この音は!
ブレードランナーの、デッカードがリオンと遭遇する直前のシーンの、ポリススピナーの警告音
にそっくりなのだ。 なるほど。あの音は結構伝統的な警告音なのか。
VAB内部から臨むH-IIA。ほぼ対角魚眼。
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射点で準備中のH-IIA。
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こうしてプレスツアーも終わり、あとは13:00の打ち上げを待つ身となった我々は、鋭気を養うために一旦旅館へ戻ることにした。
ここで3時間ほど仮眠。朝の食事も余裕を持ち、9時半ごろにプレスセンター入りした。
撮影機器のセットアップのほかに、今回の(私にとっての)取材の最大の目玉、「ロケット噴射音」を録音するためのMDレコーダーを
設置するために屋上へ向かう。 なんでMDと聞くなかれ。 そりゃDATとは比べ物にならないしmp3より圧縮アルゴリズムはタコだし、
オートレベリングだしオーディオ的にはオモチャのようなMDであるが、ワシの使えるディジタル録音機器は今のところコレしかないのじゃよ!
そしてプレスルームに戻ってくると、なにやら騒がしい。どうも配管系統のトラブルで打ち上げ時刻が延びるとの事。結局大した問題ではなく、
打ち上げ時刻は3時間ほど押して設定された。
打ち上げ準備が進行していくにつれ、竹崎観望台の身辺もしだいに活気付いてくる。
記者会見場。今回は浜松町のNASDAiと筑波をネットで結んでの会見が行われた。
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打ち上げ見学に招待された生徒たち。 これも地元サービスなのだろう。
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気流測定のためのゾンデ。朝から数回放たれる。
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海上を巡視する船。管轄は海上保安庁?
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こうして、打ち上げ30分前からスピーカーを通じてカウントダウン音声が入り始める。今回から、カウントダウンは人間の読み上げではなく
駅のアナウンスのような自動音声に変更された。さすが元鉄道マンの理事長が指揮しているだけの事はある。
・・・・と、本来ならここにその録音してきた音声のmp3リンクがあるハズなのだが、まだデジタル化できていないのである。
なんとまぁ、今回の取材から帰ってみたら、撮影したビデオ画像はトラッキングが狂っていて再生できないし、デジタル出力のあるMDデッキは
故障しているしで、なんか間抜けな状態になっていて現在リカバー中。この辺のデータが復活/入手できたら随時アップロードしますです。
では、最後にリフトオフの画像を見てみることにしよう。ビデオデータは相場氏のご提供です。
H-IIA F-1リフトオフ! クリックすると動画が見られます(相場氏ご提供:mpeg形式)
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今回のリフトオフ加速は、H-II 008に比べマイルドであった。このため、思ったよりもゆっくりと上昇していくH-IIAは美しかった。
だが、その轟音! 特に数100mの高度に上がったロケットからは腹に響く爆音が聞こえてくる! 前回は意外に小さい音だったが、
今回は正真証明の轟音を発して飛翔していく。 そして、その脇をスーっと掠めていく観測用飛行機!
というわけで、やっと音声もキャプチャできた→H-IIAの爆音(mp3形式)
今回の取材に参加して初めて打ち上げを見る人の中には、ただもう呆然とロケットを見上げる人もいた。
そうなのだ。ロケットの打ち上げは、ロケットの中に押し込められているエネルギーが秒読み進行と共に見る者に同化し、
リフトオフ瞬間にその圧倒的なバワーを開放するカタルシスに溢れているイベントなのだ! まさにロマンですなぁ!
(このほかの情報も随時拡充していきます。)
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