rev.991202A, rev.991117A
1999/12/02
海洋科学技術センターが宇宙開発事業団の委託をうけて捜索していたH-II 008のロケット部品が、深海調査研究船「かいれい」により
発見されました。
VAB(整備組立棟)の屋上から望むH-II 008 朝焼けにPST(射座点検塔)が映える
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前回のH-IIロケット取材から2ヶ月経ち、その間に色々と人生のかじ取りを変更していたワシじゃったが、晴れて(あるいは雷雨の日蝕)
フリーとなったワシの所へ、再び笹本先生からの一通のメールが。
「NASDAのH-II 8号機打上げの日程が11/15に確定したので、どう?」
とはははは、収入のあてもないワシではあるが、やはり前回の唯一の心残り、打上げの轟音をぜひ聞いてみたいという
聞き分けのなさを最大限発揮して、再び種子島の砂を踏みしめたのであった。
だが、今回の取材では、最後にだれも予想し得なかった大ドンデン返しのハプニングが!
この事件は、日本の宇宙開発の分水嶺となるのか?
幸運(あるいは大不運)にも、たまたま現場に居合せたDr.キッチュが送るH-II 008 MTSATミッションの雪辱戦の顛末がここに!
(今回は速報的に公開するため、不定期に内容が変わることをあらかじめ宣言しておきます)
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フリーになったとはいえ、いろいろやることをやらねばならない今回のワシは、前回ほど余裕のある
スケジュールを組めるはずもなく、1999/11/14に東京は羽田空港から鹿児島空港、ここで出雲の雲コンにゲストとして
まねかれていた笹本先生と合流、そこからJACで種子島へと単刀直入にコマを進めた。
種子島では、笹本先生がレンタカーを借り(なんとワシは免許もってません!)、そこから竹崎のプレスセンターへ。
3時30頃にプレスへの事前説明を行ない、そのあと鉄砲伝来の門倉岬に立寄っておみくじを引いたり、夜食の買い出し
をして茎永の民宿へ。ここは前回の西之表に比べて宇宙センターまでの距離が非常に近い。
宿で夕食を食べたら速攻で仮眠。今回のプレスツアーは、前回のように3時ではなく5時集合だったので、4:15まで仮眠できた。
で、さっそくプレスツアー。ワシは前回の取材のあと、種子島をヒントにした変なマンガを描いたのだが、
そのときにもっと知りたかった場所を重点的に撮影した。したがって、大量に取った写真はあまり一般的な興味対象物では
ないのだが(たとえばドアとか階段とか)、そのなかで比較的面白そうなものを紹介しておく。
第3移動発射台を運搬するローリー
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ローリーの車輪。4組×14列のタイヤは硬質ゴムコーティングの車輪。早い話が戦車の車輪である。
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GTV(地上試験機)のフェアリング部分
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GTVの本体部分。無雑作なガムテープがテンプな雰囲気を醸し出している。
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H-II 008の特徴ある衛星フェアリング部分。作業員がアリさんのようだ
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H-II 008のロケットノズル部分。前回は暗くて撮影できなかった
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前回のような度重なるトラブルによる中断はなく、打ち上げ前のプレスツアーと燃料注入は極めて順調に
推移し、結局我々は再び宿に戻り朝食と仮眠を行ない、15:00にプレスセンターに戻ってきた。
今回の打上げで懸念されたのは、接近する低気圧とそれに伴う前線による撮影障害となりうる雨、もしくは雷に
よる打上げ延期という事態であった。 しかし、低く垂れ込めていた雲はかなり早く流れていき、天候は打上げ30分前には明るい
陽射しが射場に射し込んでくるまでに回復した。
ここで、打上げの期待感にわくわくしながらカメラなどの取材機器を設置している竹崎観望台屋上の様子を
見てみよう。
完全にセットアップされたH-II 008
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1年半ぶりにカメラの砲列がならぶ竹崎観望台屋上
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VIP、政府関係者も多数みえられていた。
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双眼鏡とデジカムで取材する笹本先生。赤いシャツに注意。
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ついに、待ちに待ったその瞬間がやってきた。リフトオフ(打上げ)時刻は 1999/11/15 16:29:00(JST)
観望台のラウドスピーカーが管制室からのカウントダウンを伝える。
Xマイナス3、2、1、リフトオフ!
その瞬間、ブースターロケットのオレンジ色の炎が輝いて、H-II 008は「無音」のまま静かに上昇した。
勿論、ものすごい音が8〜10秒後にはやってくるのだ。その音は、
パリパリバリバリガリガリゴリゴリゴリゴロゴロゴロドロドロドロドロドドドドド
てな感じである。だが、ここで意外に「音が小さい」印象を持つ。笹本先生も、なにやら音が小さいという感想だった。
風むきから考えても、もう少し大きな音のはず。この時点で、なにかエンジンに不調があったのであろうか?
それはともかく、おまちかねの打上げ映像をざっと紹介してみよう!
リフトオフ瞬間のH-II 008 ちょっとピンボケなのは、双眼鏡にデジカメを押付けて撮影するコリメート方式のため、興奮する腕の震えが出てしまった。
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噴煙を上げて順調に上昇するH-II 008 ここまでは完璧な打上げであった。
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H-IIロケット飛行の様子(78秒後) IPIX使用
西側の赤シャツが笹本先生
IPIXプラグインのインストールはここから
魚眼レンズで撮ったH-II 008飛行の様子。中央が天頂。
ほぼ実際の10倍の早送り。
主をうしなったPSTのめずらしい写真
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固体ブースターの排気煙。インク消しのニオイがした。
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こうして無事に打上げられたのを確認して、器材をまとめプレスルームに戻ると、いきなり管制室から
ロケットはミッション達成の見込みがないため、自壊させました。
(この通りの文章ではない)
とのアナウンス。
なにィ!?
一瞬わが耳を疑ったが、次の瞬間にはNASDA広報に群がるプレスたち。おりしも夕方のトップニュースへ
さし込む記事を配信するタイミングなので、本社に「記事はストップ!打上げ失敗、ロケットは破壊」という連絡をかろうじて
いれるのが精一杯な状態になった。
その後の記者会見では、
- 1段エンジンの燃焼時間が5分46秒に対してわずか3分59秒となり、そこからのシーケンスが狂ってしまった
- 速度が不足して軌道投入が不可能になり、電波リンクもできなくなった
- 航海安全のため、ロスト直前に小笠原から指令破壊コマンドを送信した
ということが説明された。原因はその場で判るはずもない。これだけ再々チェックをかけた機体だったのだが、
一体何が起ったのか、未だ臆測の域を越えることはできない。
NASDA提供資料によるリフトオフ後のイベント推移
計画# | イベント | JST | 実測値 | 計画値 |
01 | リフトオフ | 1999/11/15 16:29:00 | 00:00 | 00:00 |
02 | 固体ロケットブースター燃焼終了 | | 01:31 | 01:34 |
03 | 固体ロケットブースター分離 | | 01:37 | 01:37 |
04 | 衛星フェアリング分離 | | 04:50 | 04:15 |
05 | 第1段主エンジン燃焼停止(MECO) | | 03:59 | 05:46 |
06 | 第1段・第2段分離 | | 05:22 | 05:54 |
07 | 第2段エンジン第1回燃焼開始(SEIG1) | | 05:30 | 06:00 |
★ | 全系オフ(全ての射場局の受信が不可) | | 07:35 | |
★ | 指令破壊コマンド送信 | | 07:41 | |
08 | 第2段エンジン第1回燃焼停止(SECO1) | | | 11:28 |
09 | 第2段エンジン第2回燃焼開始(SEIG2) | | | 24:10 |
10 | 第2段エンジン第2回燃焼停止(SECO2) | | | 27:14 |
11 | MTSAT分離 | | | 28:49 |
マスコミ論調では、「LE-7エンジンの方式による欠陥」という雰囲気があるが、本当の所はまだ判らない。
工学技術的に考えれば常識なのだが、あれだけ複雑なシステムにおいては、原因となりうる個所は山のようにある。
単純に区分けしても、
- エンジンパイプ破断等によるスト−ル
- 燃料ポンプ系統の異常、破裂など
- 燃料センサの故障による誤判断
- 制御プログラムのバグ
など考えられる・・・と思っていたら、11/16の宇宙開発事業団の報告では、燃料輸送系高圧配管の破損という
故障モードではないかという見解が。
上の故障リストの2番目の問題という事になる。高圧系なので、設計開発面では部品強度の再確認作業、品質管理
の面からは組付けトルク管理、組立後のキズ検査などが上げられるだろう。
この辺は車のエンジンをバラして組立てた人や、真空装置をバラして組立た事がある人はすぐに判ると思うが、
圧力関係のケーシング等では組付けトルクや締付け順序が非常に意味を持っていることが理解できるであろう。
いや、本当に文字通り「ネジの締め方」が、最終的な耐圧値や到達真空度を左右するのだ。
NASDAの発表文と関連リンク
指令破壊アナウンス直後の騒然としたプレスルーム。NASDA広報に詰寄っている。
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2回目の説明会見のあと、記者団に囲まれたNASDA関係者
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ニュースで配信された大臣を交えての会見。左より、NASDA十亀(とがめ)理事、NASDA内田理事長、
国務/科学技術庁中曽根大臣、運輸省二階大臣、運輸省岩村航空局長、気象庁滝川長官。
手前の赤シャツは笹本先生。N○Kで全国区に登場だ。あと、引いた画面では、右下で不穏な手の
動きをしているのがワシである。(このときデジカメで撮影していた。)
では、とりあえずこんな所で。
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