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千の風のソレアード

d8a988d2.jpg紅白歌合戦に知らないテノール歌手が出てきて、いきなり「♪私のお墓の前で泣かないで下さい」と歌われた時には酒を噴出しそうになった。だが、そのインパクトは相当なものだったようで、年が明けた1月22日にはクラッシック系歌手としては初めてオリコンシングルチャート1位を獲得してしまった。これはエロエロあった昨年の紅白の中で唯一の良い成果だ。NHKも嬉しいに違いない。しかし、有名になるとリスクも伴う。ある年齢以上の人は、この曲を聴くと「悲しみのソレアード」を想い出してしまうらしい。曲名を知らない人も、どこかで聴いた懐かしい曲と感じるようだ。そう思うのも無理は無い。このブログでも以前紹介しているが、「悲しみのソレアード」は70年代に世界的に大ヒットした曲。原曲は1972年にイタリアのカンタウトーレ、チロ・ダミッコが歌った「Le Rose Blu」。それを彼自身が、ダニエル・サンタクルズ・アンサンブルというバンドでインストルメンタル曲として発表したものが1974年に大ヒット。ポール・モールアやフランク・プウルセルなど当時の有名楽団も演奏し、イージーリスニングの定番曲にもなった。日本では西条慶子が唄ったヴァージョンがフジテレビの連続ドラマ「春ひらく」の主題歌に使われ、これもヒット。訳詞した布施明自身も歌っている。そのさらに数年後には日本テレビのバラエティ番組「カックラキン大放送」のエンディングテーマにまでなぜか採用され、「♪楽しかったひと時が今はもう過ぎてゆく~」などと別の歌詞でも唄われた。つい最近もNTTドコモのCMのBGMとして使われている。いつの間にか多くの人々の心の中にインプットされていたのはそのためだ。「千の風になって」と「悲しみのソレアード」をあらためて聴き比べてみると、やはり似てはいる。唄い始めのコード進行がそっくりなのがかなりマズかった。しかし、曲全体の印象としては「ソレアード」のような爽快感は「千の風」にはない。「墓の前で泣くな」って唄だものな。世界中で何千何万という曲が毎日作られている。それを調性音楽の範疇で作曲するとなると、個人的にはこの程度の類似は止むを得ないようにも思う。小林亜星と服部克久で争った「どこまでもゆこう」裁判なども、自然にそうなってしまったのなら仕方がないのかなという気がする。しかし、原作者への敬意やオマージュもなく、意図的にパクッたことが証明されるとそれはやはり非難されるべきだろう。今回がどうであるかは、「千の風になって」の作者の心の中を覗いてみないとわからない。

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