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青春の光と影

2fa76ddd.jpg沢田聖子と書いても、きっと知ってる人は40歳以上だろう。かくいう私も「シオン」しか知らなかった。深いエコーのかかった「♪シオ~ン」ってフレーズはとても印象的だ。曲が発売された頃、クラウンレコードによるコマーシャルが深夜放送でかなり頻繁に流れていて、それが記憶に残っている。沢田さんには申し訳ないが、ファンだったワケではない。それどころか、アンダーグラウンドなロックに傾倒し、我が人生の中で、もっとも過激な音を好んで聴いていた時期だったので、「♪シオ~ン」の3連発が、私の耳には臭く恥ずかしく聴こえてしまっていたような気もしないではない。実際、80年代はフォークソングを歌っていた人々にとっては冬の時代で、白いギターを持って登場するペンションのオーナーを面白可笑しく笑う筋の映画もあったほどにフォークはダサイの象徴だった。ウケていたはピコピコサウンドのイエロー・マジック・オーケストラ。やがてそこにエスニックでパワフルなビートが加わった音がもてはやされていく。ただし、沢田聖子がデビューした1979年の時点では、世の中は70年代をまだまだたくさん引きずっていた。10代のシンガーソングライターを売り出す状況はまだ十分にあったのかも知れない。とはいえ五輪真弓、荒井由実、中島みゆきから渡辺真知子。女性シンガーソングライターは、錚々たる実力派が既に出揃っており、八神純子のようにヴィジュアル面が向上したシンガーソングライターも活躍し始めていた。沢田さんには再度申し訳ないが、比較するのもどうかとは思うほど凄い面々ではないか。おろらく売り出す側も、全盛時代を迎えていた歌謡アイドルとシンガーソングライターの中間をいく存在を想定して沢田聖子をデビューさせたのではないか。デビューアルバムはジャケット写真からしてアイドルであり、シンガーソングライターのそれではない。テレビで見かけることはあまり無かったが、当時はまだ残っていたフォークソング系の音楽雑誌の表紙で頻繁に名前を見かけた記憶は微かにある。で、デビュー後の80年代は一体何をしてたのだろうと気になってCDを聴いてみたり、ネットで情報を探っているうちに、すっかり彼女のファンになってしまった。(笑) これはというヒットがなかなか出ない中、流行の音を取り入れては何とか売ろうとする制作者サイドの意図が見え見えで、実に面白い。初期はアイドル歌手的な楽曲も唄うもスカートが穿けないというヴィジュアル的な弱点が露呈。早々とニューウェイブサウンドにも挑むも、中村あゆみや渡辺美里にはやっぱりなり切れない。同じような路線で飯島真理が登場し、アニメに人気も手伝ってヲタク族の人気をさらっていく。それでも健気に頑張る姿はとても可愛い。終いには弾き語りをせず、白いシャツにサスペンダー姿でスタンドマイクの前で唄ってみたり、メロウなオトナのオンナの歌まで自分で作っているではないか。迷走もいいところだ。彼女自身もさすがに考え込んでしまったようで事務所を辞めてしまう。そして90年代、徹底したアコースティックなサウンドで活動を再開する。その後、今に至るまで大きなヒット曲はない。しかし、そんな沢田聖子に惹かれてしまうのは一体何故なのだろう。とりあえず可愛いが、実態はよく喋る40代の人妻だ。しかし、案外そこがポイントかもよ? 前出の錚々たる女性シンガーソングライターの面々のいずれも私は嫌いではないが、強いてその中で関心があるのは荒井由実と竹内まりやあたり。要するに人妻が好きなのだ。(爆) いやあながち冗談ではない。10代で唄う歌、20代で唄う歌、結婚、30代で唄う歌、40代、50代・・・。長く活躍する海外の女性シンガーには、時代や流行や自分のプライヴェートに起こるいろんな出来事に翻弄されながらもずっと歌い続けている人が少なくない。そこには自ら新しい流行を切り開いてしまうような大物アーチストとは異なる魅力と感動がある。B級ではあるが、沢田聖子にはその要素が備わっているのだ。「シオン」には70年代ニューフォークの残照が、「キャンパススケッチ」には70年代アイドルの香りが、「Natural」や「LIFE」には80年代ニューウェイブサウンドが、「あなたからF.O.」はソフト&メロウが、「愛を下さい」には復活アコースティックサウンドが、「乗り越えて行けるね」は大事MANやらKANやらZARDと同じ90年代型人生応援ソングだ。以降は時代の音そのものが多様化していくので判りにくくはなるが、「ニューフォーク」のイメージを残す明るく骨太な歌をインディースに落ちることもなくじっくりと唄い続けている。蛇足だが、パンシロンの古いCFで渥美清に肩車され「パンシロンでパンパン・・・この歌いつまで続くのぉ?」と云ってたあの子役も実は沢田聖子。60年代にも足跡を残していたのだ。時代と共に生きている感が満載、面白い存在だと思う。

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