記事一覧

Sarah Brightman's Starship Trooper

cc9d294a.jpg輝けるディーヴァ。クラシカルクロスオーバー、サラ・ブライトマンのCDが日本を含む全世界で毎度バカ売れらしい。かなり昔に紅白歌合戦に出演した時の印象では、自分には無縁なジャンルかな、と関心すら持たなかったのだが、ニュース番組のテーマソングになったり、電気製品のCMに使われたり、各種運動会の公式ソングを唄ったりで、いつの間にか否が応にも耳にその歌声が入ってくる存在になってしまった。後で知ったことだが、私がサラ・ブライトマンの歌声を初めて聴いたのは、その辺の俄かファンなんぞよりも実はずっと古かったりもする。サラがアンドリュー・ロイド・ウェッバーと仕事をする「さら」に前、今から30年前の1978年に唄ったサラ・ブライトマン&ホットゴシップの「Lost My Heart to a Starship Trooper」ってのがそれ。イエスのファンだった私は音楽雑誌の全英チャート欄に載ったスターシップトルーパーという英単語に反応し、僅かな期待をしてラジオでその曲を聴いたものの、案の定イエスとは似ても似つかない音楽に当然の如く落胆し、「何でこんなオカマ踊りみたいな曲ばかり流行するようになってしまったのだろう。」と、いつものように当時のポピュラー音楽の変貌を嘆いた記憶がある。もちろん、サラのことなどまったく意識しておらず、あったのはスターシップトルーパーという言葉への関心だけ。ところが現在、そのサラが、30年前の私の勝手な期待に応えてくれているのだから実に面白い。サラ・ブライトマンのCDを購入する人の層はきっと幅広い。アンドリュー・ロイド・ウェッバーのミュージカルのファン。ポップス的な歌唱を許容できる寛容なクラッシックファン。美しい女性の声に癒されたいヒーリング音楽のファン。そして最後にくるがきっと私のような、6~70年代英米ポップのファンってことになるのではないか。私の場合、サラ・ブライトマンをテレビで耳にするだけ音楽から、CDで聴く音楽に切り替えさせた曲は、「すべては風の中に」だった。「Dust In The Wind」ってカンサスだろ。何でそんな歌を唄ってねん。と、CDショップの試聴機で聴いてみたら、あまりに美しく、そのまま即ご購入と相成った。プロコルハルムの「青い影」はさすがにあざとい選曲かなとも思ったが、イントロの迫力に悶絶。ビージーズの「若葉の頃」には若き日の想い出が甦りホロッときてしまった。ノスタルジーといえばそれまでだが、それを美しく演出してくれるのがサラの歌声だ。いいぞもっと英国ポップを唄ってくれ~!と期待し始めた矢先、今年実に5年振りの新録「神々のシンフォニー」が発売された。そのボーナストラックは何と「禁じられた色彩」。坂本龍一とデヴィット・シルヴィアンの曲だ。耽美調? いやこのアルバムの中の「嘆きの天使」はゴリゴリのゴシックメタルではないか。ヒーリングファンがショック死しそうな曲。微妙な路線だが、私は好きだねこういうの。で、それからたった数ヶ月で「冬のシンフォニー」なるクリスマスアルバムが届けられた。早い。そしてその内容こそ、まさにポップファンへのクリスマスプレゼントだった。まずはアバの「アライヴァル」 プログレファンにとってはマイク・オールドフィールド版の秀逸なトラディショナルフォーク風アレンジが忘れられなかったりする。ボーナストラックには定番、ジョン・レノンの「ハッピークリスマス(戦争は終わった)」 続いてジョニー・マティスの「When A Child Is Born」この曲、最近はクリスマスソングになっているらしいのだが、元曲はダニエル・サンタクルズ・アンサンブルの「哀しみのソレアード」だ。ルネサンス期作曲家が作曲した曲を基にしたイタリアンロック。この曲でのサラの歌唱はとても感動的。いずれも超有名曲だが、一連の選曲に潜むテーマはやはり6~70年代ロックといっていいだろう。その極めつけは正規トラックの最後を飾るエマーソン・レイク&パーマー。「夢みるクリスマス」これがディーヴァの選曲かと思うと自然に笑みがこぼれる。グレック・レイクの曲だが、キース・エマーソンが挿入したであろうプロコフィエフの「キージェ中尉」のフレーズが印象深い。このアルバムの中でサラ・ブライマトン自身が最も唄いたかった曲だというのだから実に実に結構なことではないか。サラはELPの熱心なファンだったらしい。1960年生まれの48歳、確かにドンピシャ世代だな。デヴィット・ボウイやピンク・フロイドも好きだったようだ。こうなったら、その手に選曲だけで1枚CDを作るしかないだろう。ベタな希望で恐縮だが、ケイト・ブッシュの「嵐が丘」とか、クリムゾンの「ルーパート王子のめざめ」とか、イエスの「スーン」あたりが聴いてみたい。ELPの「トリロジー」なんかもいいだろう。クラシカルクロスオーバーなんぞと云われるが、要は攻撃性の抜けたプログレみたいなものだ。「サラ・ブライマトン、プログレをうたう」「サラ・ブライトマン、ハードロックをうたう」なんて昭和な帯タイトルでもいいぞ。聴いてみたい。まあ、サラが私の期待に応えれば応えるほど、かのアンドレア・ボチェッリとのデュエットしたディーヴァとしての格が落ちてしまうような気がしないでもないが、とりあえず折に触れてロックの名曲を小出しに歌ってくれるだけでもとても嬉しい。

トラックバック一覧

コメント一覧