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TRANSATLANTIC - The Whirlwind (2009)

transプログレッシブロックのCDを購入するのは何年ぶりだろう。「現代のプログレを代表するスーパーグループ、トランスアトランティック!」キャッチプレーズも70年代的で実に結構だ。プログレも40年の時を経てすっかり様式と化してしまった。それを肯定して聴けば確かにトランスアトランティックはスーパーグループ。マニアがシンフォニックロックと呼ぶ70年代前半に盛んに生産されたプログレッシブロックのスタイルを見事に現代に再現させてくれている。ELP、イエス、キングクリムゾン、ジェネシス、ピンクフロイド、業界で5大バンドなどと呼ばれる英国のプログレッシブロックグループは、70年代当時の聴衆が驚くような音楽を演奏していたこともさることながら、優秀なポップバンドでもあった。それが全英はもちろん全米のアルバムチャートを賑わした要因でもあるし、彼らが産業ロックの元祖との学説?もある。ELPにはグレッグレイク、イエスにはジョンアンダーソン、ジェネシスにはピーターガブリエルやフィルコリンズ、ピンクフロイドにはロジャーウォータースなどいった優れたポップシンガーがいる。それが売れるプログレッシブロックバンドには絶対必須な条件だった云ってしまっても問題はない。トランスアトランティックにおいてそこを担っているのはニールモーズ。ルックスは普通のアメリカ親父であり、少女マンガの主人公のような美青年ではないが、彼の創る歌は70年代的なポップセンスに溢れている。そこに各国のプログレを代表するプレーヤーが集まれば、現代でもこうしたシンフォニックロック作品を創ることができるのだということを知れるだけでも嬉しい。このプロジェクトのもう一人のキーマンはマイクポートノイ。このドラマー、ホントにプログレが好きだね。ドリシアのファンを連れてきてくれればトランスアトランティックの経営も安定するので実に有難いが、だったらプログレに専念すれば?と云いたくもなる。意外に健闘しているのがマリリオンのピートトレワヴァス。こんなにリズミックにベースを弾く人だったのかと驚いた。マリリオンではスティーブロザリーのギターやイアンモズレーのドラムに注目することはあっても、ピートトレワヴァスに関心をもつことはほとんどなかった。プロジェクトに最も嬉々として加わっているように見えるのもピートトレワヴァスだ。一方、醒めて見えるのがフラワーキングスのロイネストルト。元々グイグイとソロを弾きまくるようなタイプのギタリストではないので、やる気があるのか?と心配になってしまうが、ファーストアルバムのロイネストルトミックスのクオリティはオリジナル以上だったし、トランスアトランティックでの方法論を自分のバンドであるフラワーキングスに持ち込んで創ったであろうアルバム、スペースリボルバーの出来の良いこと良いこと。醒めて見えるのはきっと彼にパーソナリティに因るものなのだろうな。ところで、このトランスアトランティックのサードアルバムにはデラックスエディションってのがある。実はそこに付属するDVDを見るとこのプロジェクトの本質を表す一端が垣間見える。50分もあるビデオが佳境に入った頃、彼ら4人はレコーディングに使われた家の狭いベランダに集まり、アコースティックギターを持ち、全員で本当に楽しそうにビートルズのマザーネイチャーズサンを唄う。彼らがトランスアトランティックでやりたい音楽は表面的にはシンフォニックロックの再現なのだろうが、根底には後期ビートルズのようなものをやりたいという気持ちがあるように思う。ビートルズがジョージマーチンと作り上げた音楽はシンフォニックロックの元祖のようなものでもあるし、プログレ自体が60年代のサイケデリックムーブメントの成れの果てでもあるが、そういうこととは別に、彼らなりのやり方でビートルズをやろうとするとトランスアトランティックのようなものになる、というとなのだ。そのあたりに好感が持てる人ははトランスアトランティックを良いと思うだろうし、そこの価値を感じない人はたとえプログレファンを自称する人でもトランスアトランティックを良いと思わないだろう。メタルやプログレメタル筋からトランスアトランティックに流れてきた人の場合も同じ。メタルやハードロックの世界にも似たような価値観の違いが存在する。この時代の音楽を聴く時、ビートルズを通過するかしないかは大きな違いになって現れる。そんな音楽を2009年に新譜で疑似体験できるのがトランスアトランティックの良さかも知れない。冒頭に書いたように私自身は昨今プログレを聴くことはほとんどないのだが、聴いている音楽は常にプログレと同じ時代、同じ価値観で形成されてきた音楽だ。

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