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あいつと私

f6d974bf.jpgあいつと私 1961年 カラー 105分 日活

■監督:中平康
■原作:石坂洋二郎
■脚本:池田一朗/ 中平康
■撮影:山崎善弘
■出演:石原裕次郎/芦川いづみ/小沢昭一/吉永小百合
/酒井和歌子/吉行和子/宮口精二/轟夕起子

石坂洋次郎原作の青春映画。大学生を主人公に描かれるセックスコメディ。といってもその内容は昨今なら中学生を主人公にしてでも成立する程度のもの。それが大学生でってところが時代を現していて微笑ましく楽しい。当時は性に対する興味をあっけらかんと描くこと自体が新しかったのだろう。時代と言えばこの映画、60年の安保騒動も登場する。「アンポ、ハンタイ!!」ってな合唱がスクリーンの中で幾度となく繰り返される。主人公たちも実際にデモの現場に足を運び殴られ怪我をしたりもするのだが、映画に政治的なメッセージなどはない。当時のごく普通の大学生は最低限この映画の主人公と同じ程度には政治に関心を持ち、かつ性にはおおいなる好奇心を持って生活していたのだろう。その様子がとてもよく描かれている。さて、この映画、一般的には石原裕次郎と吉永小百合が共演した数少ない映画として有名だが、吉永小百合はこの時点ではまだチョイ役。裕次郎の恋人芦川いづみの高校生の妹役だ。さらにその下の小学生の妹はなんと酒井和歌子さん。豪華女優陣総出演??なのだ。・・・とはいえ残念ながら皆さんまだまだ子供。美しいのはやはり芦川いづみさん。この映画での彼女は美しく明るく可愛い。美の絶頂期かも。映画興行的にはおそらく嵐の中での〇〇シーンが見せ場なんだろう。雨に濡れたいづみさんは美しい。が、私のお気に入りは別のシーン、裕次郎の大きな手で口封じされた時の彼女のコミカルな表情だ。そこには流行の先端を走ったモダニスト中平康監督が捉えた自由で可愛い女性の表情が映し込まれている。中平康監督は既に前年(1960年)公開の「あした晴れるか」で芦川いづみコメディスト?としての才能を開花させている。オトナの女性が幼児的な表情を露にする演出なんてのは61年当時まだあまり無かったのではないか。中平康監督はこの4年後の64年に加賀まりこの小悪魔的な可愛らしさを全開させた映画「月曜日のユカ」を撮っているが、セルジュ・ゲンズブールがフランス・ギャルに「夢みるシャンソン人形」を歌わせたのが翌65年だってことを考えると、驚くべき先端流行感覚の持ち主だってことがわかる。56年に撮った「狂った果実」が、フランスのヌーヴェルバーグに影響を与えたことも映画マニアにはよく知られているが、こんなお洒落な監督が当時の日本にいたとは誇らしい。60年代後半以降日本では暗くドロドロした映画ばかりが価値があるかのように語られ、中平康監督は不遇の生涯を閉じることになってしまうが、私はもっと再評価されるべき人だと思う。蛇足だが小沢昭一(学生服姿)や吉行和子が学生役で登場するところも隠れた見所かも。

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