記事一覧

スペシャルドラマ「弟」

d84122bd.jpgスペシャルドラマ「弟」

■原作:石原慎太郎
■脚本:ジェームス三木
■監督:若松節朗(共同テレビ)
■出演:渡哲也、三浦友和、徳重聡、長瀬智也、高島礼子、池内淳子、松坂慶子、仲間由紀恵、他

テレビ朝日が社運を掛けたドラマは、共同テレビの制作、照明もFLT。これで視聴率を稼げばフジテレビが祝儀を贈ったようなもの? もっと重々しいドキュメンタリーを想像していたのだが、実際は豪華俳優陣を並べた現代風ドラマだった。この安直さがテレビのウリというか身軽さではある。芸術祭に参加するようでそれはどうかと思うが、視聴率的というか興行的にはこの作り方は成功ではないか。映画なら子役はともかく青年期以降は一人の役者が特殊メイクで化けてとことん演じるだろうし、セットや背景ももっと正確に時代考証して作るだろう。そういうドラマを期待している分にはややスカを食らう作りではある。実際、60年代以前には無かったようなモノや背景が画面にたくさん出てくるのには驚いたし、それでかなり気が散った。そんな中、湘南高校でのサッカーシーンは良いロケ地を選んだと思う。あれは松本市のあがたの森だ。旧制松高の校舎の南側のグランドで趣のある古い校舎を背景に走るシーンをバリバリの順光で撮っている。闘病中の石原裕次郎が姿を現した慶応大学病院の屋上シーンは実際の慶応大学病院だ。すぐ近くに絵画館も見える。病院内部の撮影は松本市の信大付属病院の旧館で行われたらしい。剥き出しの配管が昭和の病院らしく雰囲気抜群。桜が綺麗な調布日活撮影所部分のロケ地は何処なのだろう? 本物の日活撮影所ではないようだ。石原裕次郎がデビューした頃の日活撮影所ってのはアジア一の規模を誇るピカピカの新築。壁は眩しいくらい白かったはずだが、撮影所の建物の外観はやや年季が入っていた。4夜5夜と晩年の闘病生活が話の中心になっていき、渡哲也や三浦友和などオトナの役者が渋い演技をしてドラマに風格を与えているし、原作の中から巧みにエピソードを抽出しているジェームス三木の脚本は見事だ。しかし、個人的には晩年の闘病生活の部分はあまり興味が沸かない。当時もワイドショーで散々見せられたし、その後もいろんな関係者の書物で読んだが、流動食だカルテだみたいな映像は正直見たくもない。実際、闘病生活の顛末より、「黒部の太陽」成功への一部始終の方がプロジェクトXぽくてずっと感動的だと思う。願わくばもっとドキュメンタリータッチで5~60年代を丁寧に描いたドラマが観たかった。

コメント一覧