モスクワ経由 1994.11.16

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モスクワのシェレメチェウ空港に到着。同行していたモロッコ出発の人達は、ストックホルム行きが2人、フィンランド行きが4人。やはり日本人の帰国者を見つける。「あなた、日本の人がここで見付かると思ってました?」と聞かれて、「うん、もちろん」全然疑問をもたずに答える。朝食、昼食は空港のトランジットで出してくれるというので、上の食堂に登って行く人達についていって、席に着いてからはたと気が付く。さっきのフィンランド人も含めて、女の人はこっちに来ていないじゃないか!仕方がないので会話に加わる。黒パンを食べながら。「家電製品はどこのものがお勧め?」「ハラームミートって日本ではどこに売ってるの?」一緒にいたモロッコのもう一人が、「この人は独学で英語を学んだんですよ」と言う。同行の日本人が話そうとして言葉に詰まっている。そういうのはすぱっと答えなきゃ。関係節なんて使っていたらまだるっこしい。見ていてはらはらする。後で聞くと、イスラムの教えを説かれて断ったら少しぎくしゃくしていたらしい。宗教の話は微妙なので、できるだけ避けた方がいいのかとも思ったのだが、実はできる限り率直に説明した方がいいらしい。食事も済んで、空港のロビーに戻り、長椅子を占めて、乗り換えの便を待つ。新婚組は手持ちの油を入れた容器が壊れたそうで、カッターナイフを借りに来たり、他へ出かけたりして右往左往していた。13:30発の便で先行の人達が抜けていく。私達後発組に挨拶をしていく。連れの日本人には握手をしていたが、私には、右手を胸に当ててお辞儀をしていった。後でトイレに向かう途中、別の場所の長椅子に座っているフィンランド人の彼女と新婚さんのモロッコ人の女性が私を認めて、手を振ってくれる。遠い。たぶんそっちに行くことはできないのだろうな、とふと思う。

空港の係官がきびきびとやってきて、行き先は?と私に聞く。「東京です」乗り遅れではないかと思ったらしい。成田行きの便を待つ間、同行の日本人と話をする。「旅行中に起こったことなどを話して通じる人がいるというのはいいものですよ」モロッコの人がいれば話せない話題になる。「今、多少人間不信になりましてね」「そうですか、私は逆に就職活動中に人間不信に陥り酷かったから、却って逆にそうでもなくなったところが多いですよ」身の上話になる。「お母さん、心配しているでしょう」「そうですかねぇ」友人が後から合流するらしい。もっていたジュースのパックをあげると、「どうせただではないのでしょう?」荷物番をしてもらってしまった。どちらも東京行きで乗り換える便は他にないのだから、それまで見てもらっていても安全だろう。モスクワの空港は冷えて寒く、もっていた衣服をかき集めて着込んでもまだ底冷えがする。自宅に電話をかけるが、留守番電話になっていてつながらない。

モスクワ発、成田行きの飛行機の中は日本人だらけで、皆着ている服がしわもしみも埃も全然ついていなくて、まるで別世界にいるような印象を受ける。フライトアテンダントの人も愛想がいい。なんとなく、一つ一つ給仕される食事やお茶に、丁寧にお礼をしなくてはならない気になってしまう。成田に到着して、同行の日本人が荷物を引き取るのにつきあう。私は全部抱え込んでもってきていたので受け取りの手続きはいらない。「荷物見ていますよ」と言われはしたものの、母が丁度やってきていたので、そこで別れた。空港内のレストランに入って蕎麦を食べる。おしぼりがまず最初に出てくることに安堵する。帰りの電車の中でも、人々の表情がとくに張り詰めていず空ろなのを見て、異世界に来たような感じを受けた。



終わりに



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