アガディール 1994.11.10

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朝は、昨日タルダントへ向かったバス亭のほうへ歩いて行くと、小さなカフェがあったのでそこに入って朝食を摂った。アボカドのジュースがあるという。珍しそうなので惹かれて頼む。ジャムとバターを塗った細長いパンを食べる。外向けの席に座って、明るい陽射しの移ろいを眺めながらカフェオレの香ばしさを楽しむ。 さて、他にすることもないので、海浜へ下りてみる。石段の降り口で新聞を買って、下へ降り、海浜へと続く林の中を歩いていく。ちょっとした屋台車なども店を開いているけれども近づかないことにする。林の中のベンチに腰掛けて読んでいると、自転車ですすすーっと近づいて来て、いきなり隣に座り、「君、日本人だね。日本人はとても好きだよ」と話し掛けてくるお兄さんがいた。アラビア語で話しかけられているのだが、立て板に水で続けるので、7割方は聞き取れない。えーっと、えーっと、と必死に聞き取ろうとしていると、「日本に帰ったら、ここの住所に手紙を書いてきなよ」とアドレスを渡される。郵便局の人、らしい。急いでいるのか、そのまま自転車に乗って去って行ってしまう。

お昼はホテルの隣のレストランに入って、久々にまともにコース料理を注文した。入ったときはほかに人がいなかったのであるが、隣の席に家族連れが入ってきて、食事をしながら話をしている。聞いていると非常に落着かない。

アガディールの海浜は普通の砂浜で、但しその砂が非常にきめが細かく均一にならされている。不純物もほとんどなく、水は済んでいる。弧を描いてはるか左手の方まで続いており、高層ビルが浜に沿って続く通りに連なっている。スニーカーを履いていたので、ぎゅっぎゅっと足元で水分を含んだ砂がきしむ。波がゆるやかに押し寄せては返す。貝が砂浜のあちこちに埋め込まれているので気を付けて探してみると、桜貝が多い。シーズンを外しているためか、それほど人はいない。右手のほうへ進んで行くと、そのうち浜の境界の突堤にさしかかった。よじ登ってその先まで歩いていくと、テトラポットが積み重なっており、その間で釣りをしている人が見えた。左手のほうへ戻る。夕方になってきた。太陽が水平線上に赤く浮かんでいる。上空は水色からオレンジ、赤へと見渡す限りの広がりをみせる。なんとなく感傷的な気分になって、日が暮れるまで見つめていよう、と思う。次第に太陽の下端が波間に落ちていき、見る間に水平線に隠れてしまった。空の虹のような夕焼けはまだかすかに残っていて、薄暗いなかを照らし出されている。満足して帰る。なんといっても、大西洋の日没をこの目で見たのだもの!

その晩、ホテルに戻ってフロントから鍵を預かって部屋に入る。フロントとのやり取りはいつも気構えを要するものだが、ここのビジネスホテルのフロントの人は「半分」学生もやっていると言っていた。兼業しているわけであるが、客を見定めて扱う態度はあなどれないものがある。部屋から出て降りてくると、フロントのところに別の人がいて、話をしていた。私をみて、その友人らしき人が「ねぇ、ディスコ行かない?ディスコ!」と話し掛けてくる。フロントの人は押し留めて、"She is too young."と言う。なんとなく気に触ったのだけれど、行く気もしなかったので聞き流して出てきた。



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