アガディール−タルダント 1994.11.9

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朝、通りを歩いていると、前方からやってきた靴磨きの人が私の足元を指差して、何やら怒っている。どうやら、靴が泥だらけなのが気に入らないらしい。仕方ないので磨いてもらう。その人は道具箱を取り出すと、慣れた手つきでブラシ、布などを用いて見る間にぴかぴかに仕上げてしまった。私のほうは財布をがさごそと探し出して、ちょうど手持ちが5DHの硬貨しかなかったし、確か相場は3から5くらいと聞いていたのでその硬貨を差し出すと、「メルシ、マダム!」と言ってそのおじさんは機嫌良さそうに去っていった。

高速バスとは別のバスの停留所に行って、タルダント行きの発車時刻を確認する。10:00発の便がある。公営のCTMバス。2時間で着いた。降りると、またいつものようにガイドをする、と言ってくる人がいる。とりあえずトイレの場所を教えてもらって、外に出ているカフェに席を取り、クスクスを食べる。ガイドの人がコーランの開端の章を紙に書き出してくれたので、続きを完成させるとそう、そうと言って喜んでいた。けれども勧めに乗って市街に繰り出す気にはならない。今まで毎日歩き回ってきたし、たまには一日ゆっくりと一つ処で地面に投影される日陰の幅が移り変わるのを眺めているのもわるくない。ガイドの人はそのうちいなくなってしまった。隣のテーブルの人が話し掛けてくる。二言目には「モロッコへようこそ!」と言うのが、いかにもモロッコ、である。つくろった印象を受けるけれども愛想がいいなぁ。先日買ってきたマグレブ方言の入門書を取り出して読みふける。反対側には欧米の人が同じくバカンスでのんびりと座っている。陽射しはさんさんと降り注ぎ、屋根のあるカフェで穏やかにくつろいでいるのは実に気持ちがいい。靴磨きの道具を一揃い抱えた人がやってきて、何か身振りをする。先ほどの愛想のいい人が、口頭で説明をしてくれる。「磨かせてほしいんだって」「あ、つい昨日磨いてもらったばかりだからいいです」「この人はね、耳が聞こえないから、僕らとは手で会話する。あなたとはこの言葉で話すのと同じね」ふぅん。私が言った言葉を伝えてもらうと、靴磨きの人は特に気をわるくした様子もなくにこにこと他の人をあたっていた。時間が経ち、そろそろ帰りのバスが発車する時刻になる。ガイドの人は、そういえばどうしたのか聞いてみると、もう家に帰ってしまったらしい。帰りは民営のバスにした。CTMの便のほうがいいな、と言いつつ、窓口でこのバスは何と言うのか問い合わせたら、AIT−MZALと紙に書き出してくれた。

アガディールに夕方戻って、特急バスのオフィスで席の予約をする。普通のもう会社といった雰囲気のモノトーンの殺風景なオフィスで、流麗なデザインのデスクと壁にはりつけられた紙などが忙しそうだった。係りの人も、事務的に、明日のバスはもう満席だが、明後日のバスなら、空席があるという。しばらく考えて、明後日に予約してもらう。



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