カサブランカ−アガディール 1994.11.8

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アガディール行きの電車は、マラケシュで高速バスに乗り換えである。列車内でラルースの辞書を片手にマグレブ方言の入門書を読んでいると、同じコンパートメントに乗り合わせたビジネスマンの人が話し掛けてきて、これはこういう風に発音する、などと音韻表記を書いてくれた。

長距離バスは、整備された道を、びゅんびゅんとまるで特急列車のように快適に飛ばしていく。窓から赤茶けた山肌が、くすんだ緑のねじくれた木々が、跳ねるように後ろへと飛び去っていく。しかしバスはほとんど揺れもしない。一番後ろの席だったので、後ろの窓に乗り出して、過ぎ去っていく景色を見ていたら気分が悪くなった。運転席の横にはテレビが備え付けてあり、アラビア語の番組を流し続ける。とにかく早口で聞き取りにくい。

バス亭を降りたところは、街の辻、といった片隅で、乗客はそれぞれてんでに散ってしまい、殺風景に取り残される。はて。ここは町のどの辺にあたるのだろう。地図を出してみるが、見当がつかないので、とりあえず右手!と決めた方角への通りを歩いていく。華やかなブティックやレストランが並び、その先の十字路を左手に曲がると、下り坂の大通りで、遠くには海が見える。地図を見ると、海沿いに道が走っており、それに添って街の区画もされている。まずホテルを探さないと。通り過ぎる二人組の人が、「他の町のようにいちいち要求したりしないよ、道案内しても」と笑いながら現在地を教えてくれる。確かにその通りだったのであるが。結局、ここでは質素なほうのビジネスホテルに決めた。

ホテルの近くの路上に座り込んでいるおばさんがいて、「何か頂戴よぉ」と手を差し出してくる。落ち着き先もまだ見つからない矢先だったので、「ごめん、急いでいるから」と言って足早に通り過ぎる。チェックインしてからまた通りかかって、今度はなにか、と思って立ち止まると、「いいよぉ、べっつにぃ」という身振りと言葉でそっけなくあしらわれてしまった。

泊まったホテルから少し歩いた先にレストランがあったので、わざわざクスクスを食べる。店先にお菓子を載せた皿が置いてあったので、それを食べたいと言うと、もってきてくれて、持ち帰りにもしてくれたのだけれど、部屋に戻ってよくよく見るとクモの糸のなごりがあった。それでも食べてしまう。



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