マラケシュ−カサブランカ 1994.11.6
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前日にチェックアウトを済ませておいたので、朝早く出発する。カサブランカ行きの列車に乗り込む。2等車では大体コンパートメント(個室)がうまっている。スイス人の女の人と、一緒のコンパートメントに座る。向かいの席には、モロッコの女性が子供と一緒に座っている。例によって旅行者同士、話を始める。最初はフランス語で試みたのだが、受け答えがまずかったらしく、向かいの席のお母さんに誤解されかけ険しい目つきでにらまれてしまったので、慌てて英語に切り替える。スイス人の彼女は、公務員で、ここには、アトラス山脈へ仲間達と登山にやってきたそうである。キャンプをしている写真も見せてくれる。どこの山?と聞いて、地図を見せあいながら、訪れた場所を言い合う。「海浜もとても奇麗」、"trais jolie"と何度も言う。私が学生だと言うと、卒業したらどうするの?と聞かれて、なぜか二人で声を合わせて、「仕事!」 やがて、お母さんの方が子供を連れて、コンパートメントを出て行く。しばらくして戻ってくると、荷物がなくなっていないのを確認して、私達に飴をくれる。
11時半頃、列車が動かなくなってしまった。故障したらしい。そのまましばらく待つ。一時は代行輸送のバスに乗り換えて、というのもあったそうだが、結局復旧したらしく、12時半頃には動きはじめた。
午後2時半頃、カサブランカのCasa Voyageurs駅に到着した。Casa Port駅と違って、たいそう小奇麗で清潔である。地図を見ると駅前の大通りが真っ直ぐにカサブランカ中心部まで伸びていて、ハイアットホテルの前の広場まで続いている。よし。この道を行こう。バックパックを背負って歩き出す。駅前の青い服を着た巡査の人に方角をたずねて、通りの名前を書いた看板も確かめて、さ、行くぜ!中央分離帯があり、地下駐車場があるのか、坂になっている車線もある、かなり広い通りである。そびえている高層ビルはそれぞれ趣向を凝らしていて、通りすがりに眺めるだけでも楽しい。山を越えてきた目には大都会に映る。ところが、予定ではそんなにかからないはず、と思っていたものが、歩けども歩けども、見覚えのある街並みが現れない。さらにえんえんと歩き続けて、いいかげん足も痛くなって来るのではあるが、この通りで間違いはなかったはずだし、と思いながら歩いていくと、車の通りが少なくなって、前方が開けてきた。もしかして海!?どうやら、ぐるっと遠回りをして街を一周してしまったらしい。沿道の白壁に寄りかかっている人がハングルであいさつをしてくる。もっと先へ歩くと、ファーストフードショップを見つけたので、転がり込んで注文する。顔色を見たのか、フライドポテトを山盛りにしてくれた。カウンターに座り込んで、紙一杯のじゃがいもを食べて、やっと落ち着いて元気が戻ってきた。さらにその先は本当に砂浜へと続いている。海岸沿いにはしる道路に出て右折して、車の通り過ぎるのを見ながら歩いて行くと、目の前にいきなり白い巨大なモスクが開けた。道路はジャンクションになって地下に吸い込まれていく。歩行者用通路を歩いてモスクに近づいて行ってみると、偶然、この日は祝祭日で、晴れの衣装をまとった人々が参詣に来ている。遠くに小さく無数に見えるジュラバの原色とモスクの白地にタイル貼りの彩りが、華やかな宝石をちりばめたようである。秋の雲を空に浮かべてモスクの建物がそびえている。背後には海の波が押し寄せてしぶきをあげ、遠近感が狂うほど壮大な風景である。本堂の前の人々が佇んでいる石畳の中庭では機械で水を撒いて清掃をしている。バックパックを背負ったまま中庭に入り込んでテトラポットに打ち寄せる豪快な波を堤防の先まで見に行く。自分の格好をみまわしてみて、まぁ、色としては緑と黄色と黒のあわせだからいいや、と独りで納得してしまう。結局12kmも遠回りをしてしまったことになるけれども、それだけいいものにぶつかってしまったような気がするので爽快な気分になる。
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