ザゴラ 1994.11.1
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ザゴラには本屋が二つ、ある。子供向けの教科書を売っている、卸売りのようなところにまず行ってみた。教科書...それは、国外では滅多に入手できないもの...リストをじーっと見ていて、ふぅん、9年生まであるのね、と思う。とりあえず、換算を知りたかったのと、初歩的な学習にちょうどいいと思ったので、初等科6年生用の教科書を買ってみる。そこのお兄さんは、いいお土産になる、とうけおってくれた。(この本を後で解いてみたんですが、割り算の仕方が実にユニークです。)背中のリュックに本を入れて、暗い通りをさらに歩いていく。
町の入り口近辺にあるもう一つの本屋は、古めかしさと格調の高さが少し感じられるところで、カウンターも深みのある木目調のものだった。まず、今日の新聞を買う。カサブランカで会議があったので、その概況を知りたかったから。それと、アラビア語−英語辞典を買う。辞書がないと、込み入った話について行けない。くすん。40DH。約500円である。安い。うれしい。大学生はal-Munjidという百科事典をよく使っているそうである。取り出してきて、ページを開いて、「ヒロヒト」などと言う。見ると、天皇陛下の写真が紹介されている。なるほど。詩にも興味がある、と言うと、詩の本はいらない?とか聞かれて、詩集を出してくる。それが、恋愛もの...とてもついていけん。さらに、ある詩を書き出してくれた。「読みを振れ」と言われるが、さすがに詩の音韻はまだ苦手である。まごついていると、自分で母音符号をつけてくれた。英語の訳も。「意味、わかる?」と聞かれて、咄嗟に答えられないので、「わからない」と言う。皆、声をそろえてその詩を復唱して、笑っている。このやろう!と思いつつも、聞き流す。
アラビア語を知っている人は、読んで楽しんでみましょう。文法その他は、このまま載せます。私は帰国してからその意味を悟って愕然としました。
ara:-ka `Asya al-Dam`a Shi:matu-ka al-Sablu
a-ma: li-al-Hawa: Nahyun `alay-ka wa la: al-'Amru
I find you keeping tears,
Does love has no forbeds or orders on you?
日本にも和歌があるんよ、と言ってみる。ところが、すっかり日本語文化圏から離れてしまったせいか、全然暗誦できない。あぁ。百人一首の暗記はもうちっとやっとくべきだった。仕方ないから無難そうなのを思い付いて書き出してみる。
「ひかりのどけきはるのひにしずこころなくはなのちるらむ」
私はけっこう好きなのだけれど、「アラビア語か英語で説明しろ」と来た。ちょっと待て。そりゃ無理だわ。説明しかけるが、桜だの何だの言っていても、全然話が通じない。どうしよう...結局、そのままで煮詰まって終わると、「やーい、勉強不足!」...うっく。そのまま店を出たけれども、なんか、このままで終わらせるのがもったいない気がして、くるりときびすを返して先の本屋に戻る。「さっきの話だけど、それじゃ、アルフィーヤはある?」「え?アルフィーヤ?あるけど、なんで?」「イブン・マーリクが書いたやつ。売ってる?」「売ってるけど...」すると、「いくら出す?」という言葉が返ってきた。え?書籍は定価販売じゃなかったの?...ちょいまち。交渉になるほど、今すぐ必要なわけじゃないし...なんか、とても大切なもので、簡単には手放せないようなそぶりに聞こえたので、そこで打ち切った。
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