メクネス 1994.11.27
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ホテルをチェックアウトする。次の街、エルラシディアに行くには、フェズよりもメクネスから夜行バスが出ているので、いったんメクネスに戻ることにする。電車をつかまえそこね、10:30発のCTM(国営)バスでメクネスに向かう。パンフレットを見ながら見つけた近くの喫茶店に入る。誰もいない。窓際の席をとり、全荷物を詰め込んだリュックサックを傍らの椅子の上に置く。給仕の人が、オーダーを取りに来る。カフェオレを注文してから、今までに集まった絵葉書を取り出して、宛て名と文章を書き始める。友人や、知り合いに送ろう。昔は筆不精だったのに、旅行先で日本語を使わない環境に放りこまれると、急に懐かしくなって筆が進むものだろうか。そういえば、エジプトに行った友人から来た葉書にも、ことこまかに近況が記されてあったのを思い出す。二杯目のカフェオレを頼んで、ふと、隣に女の人が座っているのに気が付く。向こうから話し掛けてきて、おしゃべりになる。アラビア語が通じるので、必死に相手の思考回路に合わせて言葉を絞り出してつなげる。「私は、ベルベルなのよ」と彼女は言う。高校生で、この近くの寄宿舎にいるという。大学で会計を学ぶつもりだそうである。大学の学費の話になる。日本ではどのくらいかかるの?と聞かれる。モロッコでは、医学部がある大学が国内5ヶ所(要確認!)であり、日本円に換算して、一年間で66万円ほどかかるそうである。とても出せない、という。日本では国立文系の大学が年間35万だから、一瞬、うらやましく思ってしまう。バスの切符を見せると、その中の数字と0が並んだところを指し示して、株式会社でこの数字が出資した金額だと教えてくれるので、それは「しほんきん」というの、と言ってみると、口に出して発音を繰り返していた。葉書に貼る、切手を買うところを教えてくれる、というので、ついていく。町角の売店のようなところで、交渉して、数枚買ってくれる。郵便局に行って、投函の手続きをする。それから、もとの喫茶店に戻って、また話の続き。私が、夜10時発のバスで、エルラシディアに行く、というと、それまで一緒に付き合ってくれた。感謝!いきなり見ず知らずの人間にそこまでしてくれるなんてことは、普通、ない。両替をしなければならないので、銀行を地図で見つけると、そこは知っているというので、一緒に歩いていく。道行く何人かとすれ違うと、挨拶をかわして、「友達なの」と言って紹介してくれる。夕方、食事をしに行こう、ということになる。通りを歩いている間に、地元の言葉をその人が訳してくれて、「あなた、かわいいと言われている」と言っては喜んでいる。薄暗くなってきた頃で、そんなものは全然聞き取れないから、よく判らないままに「あなたも」などと言ってみる。実際、彼女はよく雑誌に出てくるモデルのようなはっとする彫りの深い顔立ちの美形で、ただ気になるのが、少し丈の長めな革のジャケットを、寸胴に前を合わせて着ていて、その下から細い脚は惜しげもなくさらしている。それでいいのかしらん?少し歩いた先のモロッコ風ファーストフードに行ってみる。店先のガラスケースに並んでいる生肉の中から、適当に選んで、それを焼いてもらうのだそうである。注文を頼み、運ばれてきた焼き肉を勧めると、恥ずかしそうに遠慮している。納得がいかない。いいから食べなよ、と言うと、ようやく半分くらいを食べてくれた。よく判らない。又、元の喫茶店に戻り、建物の外の壁際に並んだテーブルに座って話を続ける。なぜか、周囲に人が集まってきて、輪になって盛り上がる。オランダから帰って来ているというモロッコの人が、一杯おごってくれる。近くで駐車の見張りをしているお兄さんも、話に加わる。その日一日でカフェを5〜6杯は飲んだような気はする。もっていた新聞を広げて、ちょうど日本の記事が載っていたところを示して、今、景気がよくない、と言ってみると、その記事を見ていた。夜も更けてきて、他に行くところもなくなったので、場所をかえて、知り合いの人がやっているという店に、ジュースを飲みに行く。そこでも地元の言葉で話し掛けてくる人達もいて、彼女が訳してくれるのだが、時には嫌そうな身振りをして追い払おうとする。さきほど行き会った人達にはわざわざ紹介していたのが、なぜ態度を変えるのだろう。訊いてみると、知らない人だからという。私にはその区別がつかなかった。
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