メクネス 1994.10.24
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次の日、別の少々格の高いホテルに宿を取った。エレベーターを使い、部屋まで係りの人が案内してくれて、下見をしてからそこに泊まることに決める。メクネスの気候は乾燥している。バックパック他の荷物を部屋に残して、軽いリュックサックを背負っていざ、街に繰り出そう!とホテルのフロアを出て、歩き始めると、後ろから声が聞こえる。誰か話しているや、と思って先へ進もうとすると、「アーニサ!」つい反射的に「はい!」と答えて振り向く。授業の時の習慣が、そのまま出ているらしい。呼ばれているのは私だったのか。「いいから、旧市街の方に行ってはいけないよ。新市街の中だけを歩きなさいね。」先ほどのホテルの人だった。「わかりました」と答えて引き取ってもらったのであるが、結局、私は旧市街の方にも行ってしまった。
新市街から町外れまで大通りで出て、そこから斜めに下っていく坂を進み、崩れかけた石壁のそばで一休みして、もっていたチョコレートを食べた。坂を下りきって少し登ったところに旧市街の入り口がある。そこに店を開いていた雑貨屋でヨーグルトを買って食べる。メディナ(旧市街)にはそれほど立ち入らなかった。門をくぐって振り返ると、急な坂の手前、門の裏側に歩行者用の三角の標識が立ててある。日本でも見かけるもの。共通なのだろうか。車両がこのみちを通ることはあるのだろうか、などと考えてしまった。
旧市街のほうに少し歩いていくと、門があった。そこを通り過ぎて、広場に入る。道はさらに広場の端に沿ってカーブを描き、門をくぐって伸びていく。そちらの方から、学校帰りの年長の子供たちが鞄を肩にかけて群れをなして歩いてくる。道の先まで行ってみることにした。さらに大きな門がある。車が行き来するので、道端を気を付けて歩く。門の中は薄暗く、トンネルのようになっている。反対側から出てみて、さらに遠くまで延々と道が続き、高い外壁が両側にそびえているのを見て、いいかげん歩きとおすことは諦めて戻ることにした。途中、土産物屋があった。外国人旅行者のグループが連れ立って入っていく後からついていき、中に入ってガイドらしきひとが話をするのを耳にしながら、さぁっと見てみる。銅を打ち出して模様を彫り込んだ皿や、革細工が多い。土産物屋から出てもと来た方角に歩いていくと、そこら辺にたむろしていた人達が声をかけてくる。とりあえず無視。行く手の石に座っていた少年が、「ラムール!」と私に叫んですり寄ってくる。あなたね、まだ、子供でしょ?... 急いで通り過ぎる。
広場に戻ってきて、長い石台を見つけて座ると、話し掛けてくる女の人がいた。少々会話をしてみたが、特にこれといって覚えていない。確かピンク色のジュラバを着ていたように思う。私が歩き疲れて会話にならなかった、のだろう。早々に広場を立ち去った。
12:00〜15:00までは、お昼休みである。一斉に店じまいしてしまう。その時間帯に昼食を摂りにでかけたりすると、どこも開いていなくて、食べはぐれてしまうことになる。もちろん、電話局も郵便局も銀行も、休みである。その代わり、夜は8時、9時頃まで開いていることが多い。朝も7時からのところが多く、非常に早い。
また日本人の二人連れの女の人達に行き会った。お互い学生だということも手伝って、打ち解けて話をする。
昼休みの後、またしても街を歩き回る。旧市街のダール・ジャマーア博物館に行った。入り口の広場では、薄い四角い太鼓のようなものとか、腕くらいの弦楽器が売っている。叩くと、低く伸びるいい音を出す。ダール・ジャマーア博物館の入場料は10DH。ガラス張りのウインドウの内部に装飾品などが飾られている。逆三角形の銀細工の飾りものに目をひかれる。三角形の角にそれぞれ飾りがつき、上部にはCの形の掛け金が取り付けられている。木彫りの装飾扉の実物も展示されていた。
ジャンパー購入顛末記。新市街の服飾店に寄って、中の上着を見てまわる。良さそうなものがあって、後でまた来てみようかと思ったので、何時頃まで開いているか訊くと、夜8時まで開いている、という。かなり遅くまで営業しているわけである。旧市街の服飾店で、とりあえずなくしたジャンパーの代わりを探す。羽織れる薄めの手頃なものを見つけて、それを、と思っていたのであるが、店のおじさんが、どこへ行くのかね、と聞くので、「南の方へ回る」と言ったら、血相を変えて、濃い緑色の丈の長いものを引き出してくる。裏地はキルトが入っている。野暮ったいなぁ、と思いつつも、夜は冷えるし、と思ったので、迷った末に、やはり緑の方に決める。301DH。日本円で4000円くらいしたろうか。おじさんは満足そうに、黒いビニール袋に丁寧に包んで渡してくれる。帰りに新市街の洋品店で、同じく革みたいなジャケットを見つけたので、ふらっと立ち寄り、値段を聞くと、今買ったものの半額くらいだった。「え。この値段で買っちゃったの」と紙切れに書いてみせると、そこの店員も残念でしたねという顔をした。そのときはもっと値切ればよかったかも、と思った。
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