ラバト 1994.10.22

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朝、8時半にホテルをチェックアウトして、Sさんが迎えに来てくれた乗用車に乗り込む。Sさんはサングラスをかけている。そのままSさんのお宅まで直行する。郊外の白壁造りの、数階建てのマンションである。着くと、知り合いの、日本語教師をしている人と、Sさんの家政婦をしている人に紹介される。近所でやっている朝市に、これから買い出しに行くというので、三人ともども、私も連れていって頂いてしまう。露天の屋台に新鮮な野菜が山積みになっており、1kg、500g幾らで取り決めをして、買っていくのである。秤がそこらじゅうに置いてある。Sさんがサングラスをかけているのは、目の表情を読み取らせないためなのではないかしらん。家政婦さんが子供たちを呼び寄せて、買い込んだ野菜を持たせている。「よく働くから、お気に入りの子供たちなの」と言う。私にも、「マダム、買ってかない?おいしいよ」と声がかけられる。狭い通路を行ったり来たりしながら、迷子にならないように気を付ける。蝿がぶんぶん飛び交っている。帰りに肉屋に寄って、ぶつ切りの鶏肉を買っていく。肉の固まりが外に吊るしてあったりする。大丈夫なのだろうか。しかし清潔そうに見える。

お昼は、家政婦さんの手作りのタジンとハリーラだった。ざくろを食べながら、作っている様子も台所で見学する。家政婦の人がなにごとかをSさんに言う。「あなたはまだ若いから、この料理の味も出せないだろう、ですって」そういうものかなぁ、と思いながら、出して頂いた椅子に座り込んで、鮮やかな手つきを見守る。とんとんと鶏肉を切り分けて、鍋に湯を沸かして、豆やパスタを放り込んで、ことことと茹でる。とても美味しかった。その後、居間に三方に敷き詰められた角状の長椅子に座りながら、Sさんと家政婦の人とでお茶にした。光沢のある金属のやかんのような大きな急須を家政婦さんが持ってきて、細い管の先から離してガラスのコップに注いでいく。砂糖はやはりたっぷりと入れる。「他の形にしたらと言うんだけれども、どうしてもこれでなくては、というのよね」とSさんが笑いながらおっしゃる。ミントの香りがきつい。

3時頃、日本語教師の人とSさんと三人で、ラバトの旧市街に買物に行った。小間物屋で、編み籠を指しながら、Sさんが店員の人に値段を尋ねている。言葉をそれほど朗々と駆使しなくても、身振りと指差しで通じるもんだなぁ。「いや、私達のはシリアの方言も混じっているから、通じることは通じるんだけどね」と二人が言う。混み合った通りを歩いていって、金物屋に入る。日本でもよく見かけるスーパーのような店が旧市街の中にあるので驚いてしまう。ラバトは比較的日用品が旧市街で手に入りやすいそうである。「南の方に行ったら、野菜を市場で買って、自分で皮をむいて食べなさいね」と言われていたので、果物ナイフを二本買い、新聞紙でくるんでもらう。合わせて5.4DH。外に出て、また通りを歩いていく。飾り紐を売っている店で、「これなんかお土産にいいわよ」と言う。ナツメヤシの実を盛り上げて売っている店も通り過ぎる。ちょっとまだ買う気にはなれない。「呪術用品の店もあるの」え。うそでしょう。連れて行かれたところは、薄暗く、幅もかなり短いが奥行きのかなりありそうな店で、何の毛だか粉だか分からないようなものが小瓶に入ってところ狭しと並べられている。

夕ご飯は何にしましょうと聞かれて、ちょうどそうめんがあるから、とそうめんを頂いた。四方山話をして夜は更ける。お借りした部屋に引き取って、眠りにつく。



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