神風・愛の劇場スレッド 第55話 『魔王の涙』(後編)(6/11付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 11 Jun 2000 23:47:54 +0900
Organization: So-net
Lines: 406
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石崎です。

神風・愛の劇場スレッド第55話 こちらが後編です。
前編部分は
Message-ID: <8i07b1$phn$1@news01dh.so-net.ne.jp>からお読み下さい。

では、ゲームスタート!



★神風・愛の劇場 第55話『魔王の涙』 後編

■東大寺都編(2)

●都の家 日曜日の朝

 目を覚ますと、もうフィンの姿はありませんでした。
 それでも一応家のどこかにいたらと思い、服を着てからリビングに出てみると、
ダイニングテーブルに、メモが残されていました。

「ありがとう」

 メモには、それだけ書かれているのでした。

「また…会えるよね」

 メモを手に、都は呟きます。

プルルルル

 その時、リビングの電話が鳴りました。

「はい、東大寺…お母さん? うん、うん、判ったわ」

 電話を終えた都の表情は、一気に明るくなっていました。

「さてと、今日は忙しくなりそうね」


●桃栗町 噴水広場

「何かやな天気になって来たわね…」

 午前中を家の掃除に費やした都は、午後から買い物に出かけていました。
 買い物を大体終え、今は帰り道です。
 夕方から雨が降るとの予報で、まだ晴れてはいるものの、少し怪しい雲行きで
す。

「あら? 電話? また事件かしら…」

 都のPHSが鳴ったのは、丁度噴水広場に出た時でした。

「もしもし? あ、父さん? え!? 本当なの。実は母さんも…」

 電話を切った都の表情は更に嬉しそうでした。

(今日はパーティーにしよう。そうだ、まろんと稚空も呼ぼうかな…)

 当初予定のメニューが、都の頭の中で更にボリュームアップされていきます。

「うわ!」

 考え事をしていたせいでしょうか。
 都は角を曲がってきた人とぶつかってしまいました。

「ご、ごめんなさい。大丈夫?」
「へ、平気ですぅ」

 ぶつかった相手は、帽子を被った少年のようでした。
 見ると、少年は杖を持っています。

(怪我でもしてるのかしら…)

「立てる?」
「は、はい。有り難うございますぅ」

 都は少年に手を貸します。
 その時、初めて少年は都の方に顔を向けました。

「あ…」

 少年の顔を見て、少し都は驚きました。
 一月ほど前に名古屋病院にまろん達と行った時、聖先生にマリーゴールドの花
束を渡すように頼まれた相手、高土屋全にそっくりなのでした。
 会ったのはその時だけで、その後まろんはその少年を見舞ったらしいのですが、
それきり何もその少年について話題にする事は無かったので都も忘れていました。

(退院…したのかな。5年も入院してるんだよね。それとも良く似た他人? 何
か、雰囲気が違うし…)

 そう一瞬考えます。
 しかし、1ヶ月でこれだけ回復する事は無いだろうと、他人の空似と結論付け
ます。

「あ、あの!」

 それじゃあ、と都が立ち去ろうとした時、少年に声をかけられます。

「何?」
「海へ…海へ行くのはどう行けば良いんですか?」
「海? それなら、そこの道を行けば行けるわよ」
「それが…他の人にも言われたんですけど、同じ所をグルグル回っているみたい
で…」

 都は、ため息をついてから、言います。

「もう、仕方が無いわね。連れてってあげるわ」
「え!? 本当でぃすか?」
「もう用事は済んだから、後は帰るだけだし、付き合うわ」

 都と少年は、連れだって歩き出します。
 そしてすぐに、少年がまともに歩けない事に都は気付きます。
 杖を頼りに歩くその少年は、怪我をして歩けないというより、まるで歩き方を
知らないようにすら見えます。

「わぁ!」

 少年が石畳に躓いて転びます。

「大丈夫?」
「は、はい」

 都は少年を立ち上がらせます。
 良く見ると、少年の手や顔には、転んだ時についたと思われる傷があり、ズボ
ンも何だか汚れています。

「ねぇ…ひょっとして、足が悪いの?」
「え、えと…今、歩く練習をしてるんですぅ」
「練習? あ、そうか。リハビリ中か何かなのね」
「りはびり? あ…はい、そうです」
「ねぇ、どうして海に行きたいの? 用事があるなら、タクシーでもバスでも使
えば良いじゃない」
「自分の足で歩いて行くのが約束なんですぅ」
「海に行ってどうするの?」
「海に沈む夕陽を見たいんですぅ」
「はぁ…」

 変わった事を言う子だと都は思いましたが、何か特別な訳でもあるのだろうと
思い、もちろん口には出しません。

「その歩き方じゃ、海につく頃は日が暮れてるわよ」
「す、すいません…」
「あんたが謝る事は無いわよ。ほら」

 そう言うと、都はしゃがみます。

「あの…」
「背負って上げるから、乗りなよ」
「でも…」
「いいから」

 少年を背負って都は歩き始め、そしてすぐに後悔します。
 少年の身体は都よりも軽かったのですが、買い物帰りで荷物を下げ、杖まで持
っていたので、かなりの重労働でした。

「あれ? 東大寺さん?」
「委員長」

 大通りで、都は委員長に声をかけられました。

「どうしたんですか? その子は誰ですか?」
「丁度良いところで会ったわ。時間あったら、ちょっと手伝ってくれない?」


●桃栗港

 結局、委員長が少年を背負い、委員長の荷物と杖は都が持って行く形になりま
した。
 委員長は、少年の顔を見ても何も感じなかったようでした。単に全の事を忘れ
ているだけなのかも知れませんが…。
 夕陽を見たいとの話なので、港の中でも夕陽が見える西側の埠頭に都は向かい
ます。
 雲行きはますます怪しくなり、港につく頃には、空は雲で完全に覆い尽くされ
てしまいました。

「ついたけど…これじゃあ…」
「夕陽は見えないですぅ」

 少年は、残念そうな顔をしましたが、すぐに明るい表情に戻って、

「太陽が消えて無くなった訳じゃ無いですから、又見に来まぁす」
「ごめんなさいね…」
「お姉さんが謝る事じゃ無いですぅ。仕方が無いので家に帰ります」

 少年はよろよろと歩き出します。

「ちょっと、待ちなさいよ。歩いて帰る気?」
「でも…これ以上お世話になる訳には行かないですぅ」
「駄目よ。どこに住んでるの? 送ってくわ」
「でも…ちょっと遠いですぅ」

 少年の話した場所は桃栗町の郊外で、確かに遠い場所でした。
 とは言え、一時間位あれば歩いていける場所でした。

「あなた、そんな遠いところから歩いて来たの? その足で? 一体いつ家を出
たの?」
「はい。お昼前に家を出たんでぃすけど…」
「呆れた。大した根性だわ…」
「すいません…」
「褒めてんのよ。謝らなくて良いわ。でも、その足で歩いて帰ったら、日が変わ
っちゃうわよ。ちょっと待ってて」

 都はPHSを取り出して、電話をかけました。


●桃栗町郊外

 都は今日帰宅する予定の父に電話をかけて、本当はいけない事なのですが、警
察の車でその少年の自宅まで送り届ける事にしたのでした。
 少年は、県道から林の中へと続いて行く道の曲がり角で車を停めて貰います。

「ここで本当に良いの?」
「はい。もうすぐそこですから…」
「もう、ちゃんと歩けるようになるまでは、遠出しちゃ駄目よ。どうしても出か
けたければ、バスか何かで行きなさい」
「はぁい…」
「それからもう一つ良いですか?」

 委員長が口を挟みます。

「何よ」
「桃栗町で夕焼けを見るのなら、港よりももっと良い場所があるでしょう? 東
大寺さん」
「あ、そうか…」
「桃栗町の西の外れにある、海に突き出した断崖絶壁、サンセットクリフ。あそ
ここそ、我が桃栗町で最も美しい夕陽を見られる場所です。今度夕陽を見に行く
のなら、そこに行くと良いですよ。ええと…」
「そう言えば君、名前をまだ聞いていなかったわね」
「えと…シ…じゃなくてゼンって言います」
「全君!? まさか、名古屋病院に入院してた?」
「え…と…僕は入院なんかして無いでぃす」
「あ…ごめん。知っている人に似ていたものだから、つい…」
「?」

 委員長は都の発言にキョトンとしていた所を見ると、どうやら本当に全の事を
忘れているようなのでした。

「あの、それでお姉さん達の名前は何て言うんでぃすか?」
「東大寺都よ。こっちは委員長」
「酷いですよ東大寺さん。僕には水無月大和って立派な名前があるんですから」
「そうとも言うわね」
「あの…今日はどうも有り難うございました。都お姉さん、大和お兄さん」
「それじゃあね」

 杖をつきながら、危なっかしく歩いていく全の姿を見えなくなるまで都と委員
長は見守っていました。

***

「今日は付き合わせちゃってゴメンね」

 帰りの車の中で、都は委員長に話しかけます。

「良いんですよ。どうせ暇でしたし」
「あのさ委員長。暇だったら、今晩家に来ない?」
「え?」
「今日は東大寺一家が久しぶりに集合するの。だからパーティーなんだ」
「でも…良いんですか?」
「良いのよ。稚空とまろんも誘う積もりだから。あんたはついでよ」
「はぁ…ついでですか…」
「何か言った?」
「あ、いえ、何でもありません! 喜んで行きます!」
「宜しい」
「あ…雨ですね…」
「本当だ…」

 車窓を雨粒が流れているのでした。


■山茶花弥白編

●サンセットクリフ 三枝の別荘

「あら…雨ですわね…」

 窓の外を見て弥白は呟きました。
 この別荘にある暖炉のある広い部屋。
 その部屋の真ん中のソファに弥白は座っているのでした。

 既に日が沈む頃で、外は雨のせいもあり暗くなってきています。
 しかしまだ灯りはつけられておらず、火が入っただけの暖炉だけが、部屋の灯
りなのでした。

「山茶花さん、そろそろ始めようか」

 部屋の隅で機材の準備をしていた三枝が声をかけます。
 今日より弥白のプライベート写真集の撮影が開始され、三枝の別荘で撮影を行
っているのでした。

「はい、先生」

 弥白は持っていたティーカップをテーブルに置いて立ち上がります。

「本当に…良いんだね?」
「はい。先生になら、撮られても構いませんわ」
「判った。じゃあ撮らせて貰うよ」
「はい。綺麗に…撮って下さいね」

 そう言うと、弥白は身にまとっていたシーツを床に落とします。
 弥白は、何も身につけてはいませんでした。

「美しい…」

 暖炉の炎に照らされた弥白の純白の裸体を見て、暫く三枝は息を飲んで見守っ
ています。

「嫌ですわ先生。あんまりじろじろ見ないで…」

 弥白の頬がほんのりと赤く染まります。
 暫く弥白に見取れていた三枝は、やがて仕事を始めます。


■東大寺都編(3)

●都の家 ダイニング

「乾杯〜!」

 東大寺家のダイニングで、東大寺家の一同と委員長が祝杯を上げていました。
 パーティーの名目は、昴の快気祝いと氷室の仕事が一山超えたお祝いです。
 料理は全て都が作る予定でしたが、結局桜がかなり手を出してしまいました。
 寄り道をしていた関係で、調理を始める時間が遅くなってしまったからです。

「すいません、せっかくのお祝いに僕まで混ぜて頂いて」
「何気にしてんだ水無月君。都の友達なら家族も同然。何も気にすることは無い
さ」
「そうよ委員長。それに委員長には今日は色々助けて貰ったしね」
「それにしても…名古屋君と日下部さんはどこに行ったんでしょうね?」
「さぁ…案外、二人でデートかもよ」
「で、でぇと〜!?」
「何よ、大声出す事無いじゃない」

 その時です、ベランダで何かが動いた気配を都は感じました。

「フィン!?」
「どうしたの都!?」

 慌てて都は窓に駆け寄ってベランダに出ました。
 しかし、もうそこには誰もいませんでした。
 残されたのは、白い羽根が一枚。

「フィン…来てたんだ…」

 都は羽根を拾いましたが、その羽根はすぐに消えてしまうのでした。
 先ほど降り始めた雨は、ますます激しくなって来ます。
 都にはそれが、まるでフィンの涙であるかのように感じられて仕方がありませ
んでした。


■紫界堂聖編

●聖の屋敷

「ただいま〜」
「お帰りなさい、シルク。今日は残念でしたね」
「え? 知ってたんでぃすか?」
「ええ」

 シルクが都達から別れた場所から聖の家までは更に1キロ程離れており、家に
辿り着いた頃にはシルクはずぶ濡れになっていました。

「しかし見直しましたよ、シルク」
「え?」
「まさか自分の足であそこまで歩いていくとは…」
「でもそれはノイン様が…」
「実のところ、途中で諦めて飛んでしまうのではと思い、どんなお仕置きをしよ
うか、楽しみにしていたのですが…」
「そ、そうなんでぃすか?」
「まぁ、結局人間の力を借りましたが、これはこれで、人間の世界に溶け込む練
習になりましたから、良しとしましょう」
「はぁい」
「それじゃあ、お風呂を沸かしてありますから、入って今日は早くお休みなさ
い」
「はい、ノイン様」

***

 降り始めた雨はますますその勢いを増しています。

「魔王が嘆いておられる…」

 窓から外を見ながら、聖は呟きます。
 更には風も吹き始め、嵐となりそうでした。

「風か…魔王に反応しているのか?」

 ふと聖は、魔界のある言い伝えを思い出して口にします。

「地上で魔王が出来る事は三つのみ…
 一つは魂を糧に生命を生み出すこと
 一つはその生命を見守ること
 そして最後の一つは、雲を動かし雨を降らすこと…」

 この言い伝えから、魔界では雨の事を次のように言い表す事があります。

 「魔王の涙」と…。

(第55話 後編 完)

 さて、明日からまた学校ですね。
 例の件はどうなっているのでしょうか(笑)。
 では次回も、あなたの心にチェックメイト! …だと良いですね。


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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp

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