神風・愛の劇場スレッド 第50話 『夢魔』後編(5/23付) 書いた人:佐々木英朗さん
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: 23 May 2000 12:06:33 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

ジャンヌ妄想、第50話の後編です。
前編 <8gcse3$q6e@infonex.infonex.co.jp>を先にご覧ください。
ただし嫌いじゃない方オンリー。



★神風・愛の劇場 第50話 『夢魔』後編


●日下部家

結局、まろんは変な時間に目覚めたまま朝を迎えました。
まだ辺りは真っ暗でしたが、時計の針が6時を回った時点で
それ以上ベッドで悶々と過ごすのを止めて起きることにしました。
気分は最悪。当然食欲も無いので紅茶だけを入れました。

「何で、かな」

もう何十回も呟いた台詞。あんな夢を見た訳を自分に問いかけます。
願望?あれの一体どこが私の願望だと言うの?
やがて窓の外が明るくなって来たのを機にカーテンを開けました。

「止め止め。どうせミストの仕業よ。意味なんて無いわ」

今日は約束があるのです。午前中の間に家の仕事を済ませてしまわないと。
まずはベッドを直して、それから掃除。そこまではパジャマ姿のままでした。
それから着ている物を全部洗濯機に放り込んでスイッチを入れました。
自分はそのまま浴室へ行ってシャワーを浴びます。
軽く身体を拭いてからバスタオルを巻き付けて台所へ。
冷蔵庫から牛乳の紙パックを取り出して一口飲みましたが、
それ以上飲む気になれず、また冷蔵庫に戻します。
リビングに行ってソファーに座って暫くほてった身体を冷ましました。

「昨夜は戻ってないのね」

向かいのソファーに乗せた毛布はきちんと畳まれたままでした。
フィンさえ居れば、あんな夢を見ないで済んだはずなのに。
そんな事を考えて、フィンに向けた理不尽な怒りを感じた自分を反省します。
汗が引いた所で室内着に着替えると留守中のフィンの為の御飯を
考えることにします。自分の食欲が無い時は、献立を考えるのは
結構苦痛なのですが、一晩留守にするので少なくとも2食、余裕を見て
3食は用意して置きたいところでした。それも温め直しが簡単な物を。

「やっぱり、グラタン…」

そう考えてから別な人物の顔が浮かんで苦笑するのでした。

●桃栗町の外れ

まろんがツグミの家を訪れたのは昼過ぎの事でした。
途中で買物をして来たのですが、相変わらず気分が冴えず
コレと言った美味しそうな物を買って来れたとは思えないのですが。
何度来てもちょっと遠い気がするツグミの家。
荷物があると余計にそう感じます。
舗装された道から林に入っていくと間もなく正面のポーチが見えました。
そこまで来て、まろんは妙な感じを受けました。いつもなら…。

「留守なの?」

普段のツグミなら、こちらから訪問を告げるより早く気付いて
出てくるのですが。今日はそんな気配はまったくありません。
呼び鈴を押してみます。家の中から微かに呼び鈴の音がしますが
人の動く気配は無いようでした。荷物を玄関脇に下ろして
窓から覗いてみました。やはり誰も居ません。
ですがある一つの物が、まろんにとても嫌な感覚を呼び起こします。
扉の脇の小窓から見えるそれは白い杖。置いて出かけはしないはずの物。
家の周りをぐるっと回ってみますが、建物自体の床が高い為に
正面以外の窓から覗くことは出来ませんでした。
また、テラスは崖の側に突き出ていて、家の中を通らずには出られません。
ある方法を除いては。

「えいっ!緊急事態よ」

まろんは手頃な木によじ登り、そこから屋根に飛び移りました。
そして屋根伝いに海側へ出ます。見下ろした先には。

「ツグミさん!」

まろんはテラスに飛び下りると、テーブルに伏しているツグミを
揺すりました。手に触れる身体がひんやりしている気がしました。
ややあって。

「…あら…」
「良かった。起きたぁ」

むっくりと起き上がったツグミは一度だけ両手で顔をぎゅっと押さえると
居住まいを正してから言いました。

「御免なさい。何時いらしたの?」
「びっくりしちゃったよ。普段みたいに出てきてくれないし」
「本当に御免なさいね。玄関開いてた?」
「いや、それがその〜」
「得意技を使ったのね」

ツグミの悪戯っぽい笑みが、まろんが何処から来たか
判ったという事を示していました。

「でも、珍しいね。ツグミさんが居眠りなんて」
「そうでもないのよ。今日は特別だけど」
「どうしたの?」
「それがね…」

話しづらそうなツグミの態度に不安を感じるまろん。

「約束したものね。何でも話そうって」
「うん」
「昨日、イカロスのお見舞いに行ったの」

事の顛末を語るツグミ。勿論、イカロスの入院が長引いているのが
怪我の所為では無い事をきちんと念を押して説明しましたが。

「ごめん…ては言わない約束だったね」
「気にしないで。馴れない病院だからだと思うの」
「それで眠れなかったのね」
「ええ」

ツグミはまろんに心配を掛けない様に、
昨日事故に遭いかけた事は言いませんでした。

「私も今日はちょっと寝不足」
「夢見が悪かったの?」
「え゛っ?」
「あら、当り?」
「そうなんだ。変な時間に目覚めちゃってさぁ」

そして、まろんもまた早朝のささやかな戦いについては話しません。

「取りあえず、お茶でも如何?」
「頂きまぁす」

ツグミがお茶を運んでくるまでの間、まろんは遠くの海を眺めていました。
海からの風が耳元で唸っています。総ての音を掻き消す唸り。ざわめき。
もしかしたら、ここがツグミにとっては一番静かな場所なのでは。
そんな事が突然に理解出来たような気がするのでした。



お茶を飲んでいる手を止めて、ツグミが尋ねました。

「ねぇ、昨夜の夢ってどんな夢?」
「う〜ん」

まろんは困ってしまいました。極端に鮮明に思い出せる為に
余計に話しづらいのです。あの内容では。

「話してもいいんだけど。変だよ?」
「夢ですもの。変は承知」
「じゃぁ…」

事細かな部分は多少は端折りましたが、概ね正確に教えました。
ツグミはまろんの夜の事情も承知していますから、
夢の中の集団の意味する物も大体理解しています。

「前にもそういう事あったの?」
「どの部分の事?」
「学校の皆に追い掛けられるっていう所」
「うん。まぁ」
「夢って実際の経験の後追いらしいから」
「そうなんだ」

まろんは初めてミストが言ったことの一部を信じる気になりました。

「でね、夢の中でどうしても覚えの無い部分ってのが」
「願望とか?」
「それと潜在的な知覚」
「何それ?」
「つまり、気付いているのに意識されていない周りの事とか」

それって。改めてミストの言っていた事と夢の内容を突き合わせてみます。
確かにあの時、ミストは見せようとした夢とは違うと言い張っていた…。
それじゃ、あの夢は何かを私自身に教えようとしているの?
学校で何か起こっている?間違いない。でも、気付いていながら
どうして見過ごしてしまったの?都が追い詰められている?
やっぱり、あれはそういう事なんだ。手を打たなきゃマズいのよね。
考え込んでいるまろんにツグミが心配そうに声を掛けました。

「私、変なこと言っちゃったかしら」
「ううん。そんな事ないよ。何か判った気がする」

少なくとも、学校がお休みのこの週末は、何事も起こらないわよね。
明日の夜にでも、稚空に相談してみようか。そんな事を考えました。

「私も夢のことを良く考えるわ」
「はぁ〜、あの女の子の事ね」
「まぁ、ね」

もっと別な事、夢の中で妙にはっきりした手応えがある事が
気になっているのですが、上手く説明できそうにないので
誤魔化してしまいました。そして。

「ね、お腹空かない?」
「実は朝から食べてないの」
「私もよ。ちょっと早いけど御夕飯の仕度にかかりましょうか」
「うん。そうしよう」
「今夜はヤケ食いよ」
「嫌〜、肥りそう」
「大丈夫、汗をかけば」
「どうやって?」

ツグミは笑っただけで、それに答えました。
そうして二人はテラスを引き揚げて家の中へ入っていきました。

(第50話・完)


# もう独りの怪獣の方はお任せという事で。(笑)


では、また。

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