神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その14)(09/23付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Tue, 23 Sep 2003 16:42:32 +0900
Organization: Public NNTP Service, http://news.yamada.gr.jp/public.html
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<b3a25s$672$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<zm16a.4114$WC3.360177@news7.dion.ne.jp>
<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<bci8j2$una$5@zzr.yamada.gr.jp>

佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その4)<be8nqr$tci$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その5)<berk9t$2dq$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その6)<bg0898$4ie$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その7)<bglrv9$30b$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その8)<bhjf32$c19$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その9)<bhjfe7$c19$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その10)<bi9v1o$ks5$3@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その11)<bisgrl$1sv$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その12)<bjfl04$ls8$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その13)<bk3sdk$doh$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。



★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その14)

●枇杷町某所

その時のセルシアはまさに矢の様に飛んでいたと言って良いでしょう。これ以上は
出ないという位の速度で町を突っ切って行く所でした。山茶花邸から枇杷高校へ
向けて。

「急がないとトキに怒られちゃうですです!」

と、仮定の様な事を叫びつつ実際の所はお説教確定だと心の何処かでは確信して
いました。なにしろ単なる居眠り以上の大失態。知らぬ間に弥白と一緒に学校を
後にし、弥白の家に帰りそのままいい気持ちでしばらく居てから空にふらふらと
飛び上がってずっと空の彼方へと飛んでいこうとして…そこではたと気付いて急降下。
弥白が自宅で特に何の問題も無い様子である事を確認してから仲間の許へと急ぎ戻ろう
としている所なのでした。そして先ほどから何度呼びかけてもトキは黙ったまま返事
が無く、アクセスはそもそも心が繋がりませんでした。そしてトキとは繋がっている
感触がありながら、返事が無い事がセルシアを余計不安にさせるのでした。

「トキ、物凄く怒ってる…」

半分泣きべそをかいている様な顔をしてそのまま何の考えも無しにトキの気配のある
所へ飛び込んで…は行かなかったのはその場所が異様な状態であったからに他なり
ませんでした。

●枇杷高校

間違い無くトキの気配がするのは、その日まろん達が参加していた何とか大会の
会場となっていた建物です。しかしセルシアの記憶にある最後の姿とは違って、
まるで戦争の後の様に見えました。その建物、すなわち体育館はあちこちに穴が
開いていて骨組みが外向きにひしゃげ飛び出していました。天井にも数ヶ所の穴が
あり、やはり何か良く判らないモノが空に向かって突き出ています。よくよく見れば、
それらの穴は縁が焦げている穴と焦げていない穴があったのですが、セルシアは
そこまで細かく見てはいませんでした。もっとも、その穴だらけの様子はセルシアに
慎重な行動を促すだけの充分な効果があったのです。何しろ見ているそばから穴は
増えていたのですから。遠くからある程度観察した後、セルシアは屋根に開いた穴の
中でも隅に近い、周囲に他の穴が比較的少ない穴へとそっと近づき中を窺います。
そしてある程度予想した通りの光景が拡がっている体育館の中を見回しました。
体育館の中で縦横無尽に動き回っているトキと見知らぬ女の子、丁度セルシアの覗き
込んだ穴の真下に寝ているまろん。まろんの周囲は雑然としてはいるものの、何故か
穴は殆ど開いていません。そしてそんな比較的壊れていない部分からほんの少し離れた
辺りには何故か棒立ちになっている稚空。稚空の周囲、特にまろんとの間の床には何か
小さな木片の様な物が沢山刺さっていてまるでハリネズミの背中の様になっています。
トキが何者かと戦っているという点を除くと一見しただけではそれまでの経緯がまるで
判らない光景ではありました。もっともセルシアにとってはトキが誰かと戦っている
というだけで充分でしたが。そして仲間が戦っているのにすぐに飛び込まなかった
最大の理由は…。

「(格好良く援護して失敗を帳消しですです…)」

などといった具合の色気を出していたからなのでした。そうして方針を決めた
セルシアは注意を敵と思われる女の子の挙動へと集中するのでした。



充分な破壊力を秘めた光球は連打に向かない為に容易にかわされてしまい、かわす
余裕を与えない高速連打は破壊力に劣っていて、しかもそれすら数発が相手をかすめる
程度でしかありません。傍目には互角な勝負を続けている様に見える二人。しかし
トキは相手が攻撃らしい攻撃を放っていない、そんな印象を持っていました。或いは
この相手は体術、すなわち格闘技しか用いないのかと思わないでもありません。
しかしながら未知の敵に何らかの仮定をする危険は犯せませんでした。そして
そうした腹の探り合いの情況下であるが故に、トキは先ほどから聞こえるセルシアの
呼びかけに応えていません。集中力を途切れさせない為に。またセルシアの方でも
自分のすべき事を見付けた後は敢えてトキへの呼びかけは行っていませんでした。
ですからトキはセルシアが近くに来た事は判っていても、彼女がどうするつもりかは
判ってはいません。もしトキがセルシアの考えを知っていれば、敵を積極的にセルシア
の正面へと誘き出す様に仕向けたかもしれません。しかし結果としてトキはそうは
せず、その為セルシアにとってのチャンスは中々訪れませんでした。そうやって時間が
じりじりと流れた後、トキの何十発目かの光球をかわしてした着地したエリス。
そこは紛れもなくセルシアがこっそりと舞い降りて機会をうかがっていた地上間際の
壁の穴の真正面でした。その機を逃さずしかし慎重に半身だけを現して、セルシアは
すっと前にかざした手に意識を集中します。手の前に気が一息で収束し、間髪を入れず
にそれは放たれます。トキはその様子をエリスの肩越しにそれと気付かせない様に
見詰めていました。本来ならば殆ど同じ軸線上に居るトキもまたセルシアの攻撃に
よって危険な状態に曝されていると言って良いでしょう。ですが今トキがそれを避ける
行動を見せればそれは即、敵に危険を知らせてしまう事にもなるのです。故にトキは
セルシアの攻撃が命中する事を信じて、敢えて回避行動は取りませんでした。
セルシアもまたトキの信頼に応えるかの様に、彼に注意を逸らす事無く貴重な
チャンスに躊躇しませんでした。そしてまさに光球が放たれた瞬間、トキとセルシアの
眼前でエリスが素早く腕を上げたのです。肩を軽く後ろへ開き、そのまま背後へと
伸ばす様に持ち上げられた腕。その様子はまるでセルシアが手のひらから放った光球を
逆に受け止めようとする仕草に見えました。しかし実際に光球を受け止めたのはエリス
の手のひらよりもやや離れた宙の一点だったのです。見えない壁に遮られたかの
ごとく、突如止まった光球はそのままエリスの手のひらを中心とした垂直の水面に
吸い込まれる様に消えて行き最後には風景を歪ませて見せる波紋を広げていました。
そしてその波紋が逆回しのフィルムの様に中心へと戻り、やがてねじれた流れと
なってエリスの手のひらの中へと消えていきました。その間、エリスはトキから目を
離してはいません。全てはエリスの背後で始まり背後で終わったのです。一部始終を
見詰めていたトキは驚きを表情に表さない事で精一杯、思った事がそのまま呟きと
して漏れてしまいます。

「魔術が使えるとは…」

その呟きを聞き付けてエリスは答えます。にまっと笑顔を見せながら。

「魔界の者のたしなみです。この程度は」
「私との戦いで使わなかったのは本命の技として隠していたからですか」
「必要があれば前に使っていたでしょうね」

それは自分の攻撃が大した事は無かったという意味だろうかと一瞬思うトキ。しかし
すぐにそうでは無いだろうと考え直します。自惚れでは無く確かに自分の攻撃もまた
完全に無防備な背後を捉えた一瞬があったはず。自分の攻撃とセルシアの攻撃、その
違いは何なのか。何がこの敵に魔術を使わせる要因になったのか…。トキの考えを
よそに、必殺のはずの一撃を軽くあしらわれたセルシアがふてくされた顔をして壁の
穴から中へと入ってきました。

「いきなり魔術なんてズルいですです!」

エリスはここで初めて背後を振り返りました。

「背中を撃つのはズルくはないんですか?」
「えっと…ズルですです…ごめんなさい」
「まぁ、可愛らしい方ですね」

セルシアはその言葉を聞いて少し頬を染めてもじもじしていましたが、すぐにそんな
情況では無い事を思い出しました。

「しょ、勝負ですですっ!」
「はい。勝負ですね」
「いきまぁっす!」

ていやっ。といった擬音がふさわしい、程々の勢いでいきなり突進したセルシア。
真っ直前に突き出された拳をするりと避け、勢い余って通り抜けてしまいそうになる
セルシアの腕を取るエリス。そのまま下に流す様に腕を引っ張りつつ、足を軽く払う
とセルシアの身体はぐるんと前転して床に背中から落ちて行きました。それを実際に
床に着く前に残った片手で背中を支えて受け止め、そのまま一緒にしゃがみ込んで
勢いを完全に殺します。そうしてからエリスは相手の顔をじっと覗き込みました。
もっともそれは顔を見ていた訳では無く、セルシアの気配を読んでいたのですが。

「(こいつ、さっき他の人間達と一緒に追っ払った天使か。打ち込みが醒めて戻って
来たって事は、そろそろ潮時かな)」
「…」

目の前にある真っ赤な宝石の様な瞳。セルシアは思わず見詰め返していました。

「…」
「…」
「セルシア!」

二人の間にある妙な空気、と傍目には見える情況を破ったのはトキの声。その声に
弾かれる様にセルシアを天井近くまで放り上げるエリス。目の前に迫っていたトキを
横目で見つつ片足を前にずらして足場を確保するエリス。その視界の端でトキが翼を
広げる様が見えました。エリスは咄嗟に足を捻り、膝を落として相手の飛翔に合わせて
跳び上がる準備をします。そしてトキの身体の動きを目で追い…その動きを極く極く
わずかな間でしたが見失ったエリス。トキの身体は予想とは逆にエリスの足下に滑り
込んできていました。跳び上がろうとして途中で止めた中途半端な姿勢で足下を
すくわれ、エリスは前につんのめる様に倒れます。しかし黙って倒されるエリスでは
無く、身体よりも先に両手を突き片手だけを勢い良く突き出す様に伸ばして身体を
反転させます。そして足下に居るはずの敵に向けて足を蹴り下ろそうとして違和感に
気付きました。もっとずっと足下の方に居るはずの敵の顔が腹の前辺りにありました。
体勢を崩して至近距離からの一撃という読みはその通りだったものの、相手が身体を
密着させて来ていたとは予想外だったエリス。初めてその顔に困惑の表情が浮かびます。
その間にもトキは既に充分に力を集中させた左手をエリスの腹部に押し当てようとして
いました。エリスはそこへ膝を突き上げますが、軽い手応えとともにトキの身体が
ふわりとエリスの上に直立しただけでした。トキはその勢いを借りたままでエリスの
頭上方向へと離れて行き、エリスの腹の上には光球がそっと置かれたままになって
いました。無論、それは間髪を入れずにエネルギーを放出。爆発と呼んでも構わない
閃光がエリスを完全に飲み込んでいました。

「よし」

トキが珍しく満足げな声を発した直後にはもう光は退いていて、その後には一際
大きな床の窪みの真ん中に仰向けで横たわっているエリスの姿がありました。
そしてトキが相手の様子をうかがっている目の前でエリスはゆっくりと身を起こして
いったのです。その緩慢が動きから、トキは相当なダメージを与えたと考えました。
ですがそれが間違いらしいと一瞬で彼の観察力が教えています。エリスが身に付けて
いた服は確かにあちらこちらが裂けたり焼け焦げたりして穴が開いていました。
しかしその穴から覗く褐色の素肌に傷らしいものは何ひとつ無かったのです。
ただ一点、先ほどまでと決定的に違っていたのはエリスの表情。戦っている最中も、
ずっと不敵とさえ言える表情を崩さなかったその顔には今は射る様な鋭い眼光が宿って
いました。そしてエリスの身体がびくんと大きく一度だけ震えます。ただならぬ気配に
トキは身構えつつじっとその動きを注視していました。それからしばらくエリスの身に
は何も起こらず、ただじっと自分の肩を自分で抱いているだけなのです。やがてトキは
エリスの目が自分を見ていない事に気付きました。その燃える瞳はトキを突き抜けて
何処か遠くを見ているのです。そしてトキは彼女のかすかな呟きを耳にしました。
“使わない…絶対に”と、呟きはそう聞こえました。トキがその呟きの意味を推し
量ろうとしたまさにその時、エリスの真上にセルシアが落ちてきたのです。再び
べちゃっと床に倒れたエリスの上にセルシアがちょんと座っている様な状態になり、
唖然としているトキの目の前でエリスが猛然とセルシアを跳ね退けて立ち上がり
ました。そうして押し退けられたセルシアは今度こそ床に尻餅を突いてしまいます。

「痛たたっ…」

その声に弾かれた様にエリスがセルシアに向かって叫びます。

「何するんです!」
「ごめんなさい、手が痺れてもう天井につかまっていられなくて…」
「だから何で落ちて来るんですか!」
「だって放り投げられちゃったら何時かは落ちるですです!」
「貴女、天使でしょう?飛べ無いの?」
「もちろん飛べるですです!」
「じゃぁ何で落ちてくるのよ!わざわざ飛び退ける様に高く放り上げたのに!」
「だって!それは…」

そんな事を言い合っている二人。やがてエリスがくるりと振り返ると今度はトキに
向かって叫びます。そこでトキはエリスの瞳から先ほどの様な禍々しい光がすっかり
消えている事に気付きます。

「そこの貴方、この天使の仲間でしょ?!」
「ええ、まぁ」
「何とか言ってやって下さい!」
「後で良く言っておきます」
「いいえ、今すぐ…」

そこまで言ったところで奇妙な光景に目を奪われ言葉を失うエリス。セルシアの翼の
下から細い手がにゅっと伸びてエリスを後ろから抱きしめていました。それから
おもむろにその手がエリスの胸をまさぐったかと思うといきなりむにゅっと掴み、
そのまま後ろへと引っ張りました。

「エプロン獲得!これで私の勝ちだよね…………………………あれ?」

セルシアの背後から出てきたまろんは今掴み取った布切れを高々と掲げ歓声を上げ、
そして直後には期待と全然違って紺色をした戦利品に目を留めて不思議そうにそれを
見詰めました。まろんの手にあるのはトキの攻撃に辛うじて耐え、ボロボロになり
ながらも何とかエリスの肌に張り付いていたドレスのなれの果て。肝心のエプロンの
方はすっかり燃え尽きて最早そこには跡形も無かったのです。突然の出来事から
最初に現実に立ち返ったのはトキ。しかしながら「あぁ…」などと少々間の抜けた
呟きを洩らします。その声に反応して次にエリスが正気に戻り、片手で胸を抱く様に
して前を隠しながらもう片方の手でトキを指差します。

「そこっ!、紳士ならこっち見ない!」
「失礼…」

トキは言われた通り背中を向けました。そうしながら、何故自分は敵の指示に素直に
従っているのかと疑問に思いながら。そしてかなり遅れて情況を理解したまろんは
咄嗟に周囲を見回し、少し離れた壁際に居た稚空を見付けました。稚空は何故か既に
背中を向けていて、まろんを大いに不思議がらせます。更に気が付くとセルシアも背を
向けていて、今ではエリスを見ているのはまろんだけ。そんなまろんに向けてくるり
と振り向いたエリスが告げました。

「今日はここまでです、まろん様」
「えっ?あ、うん…ねぇ、やっぱりコレじゃ駄目?」

まろんはドレスの残骸をおずおずと差し出して見せます。

「駄目です」

そしてエリスはそのままふっと姿を消し、直後に大きな音と共に体育館の壁に大穴を
開けて帰っていったのでした。その音に驚いてビクッと背筋を伸ばすセルシア。
突然居なくなった褐色の肌の女の子についてまろんに聞いてみます。

「あの、敵さん?は何処へ」
「………寄せて上げてた訳じゃ無かったんだ」

セルシアの問いかけをよそに、まろんは再び現実から離れて行っていました。

(第171話・つづく)

# 次で終わるはずです。(本当に ^^;)

では、また。

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