神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その11)(08/31付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 31 Aug 2003 18:58:04 +0900
Organization: Public NNTP Service, http://news.yamada.gr.jp/public.html
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<b3a25s$672$1@news01cf.so-net.ne.jp>
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<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<bci8j2$una$5@zzr.yamada.gr.jp>

佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その4)<be8nqr$tci$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その5)<berk9t$2dq$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その6)<bg0898$4ie$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その7)<bglrv9$30b$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その8)<bhjf32$c19$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その9)<bhjfe7$c19$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その10)<bi9v1o$ks5$3@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。



★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その11)

●枇杷高校

トキに探すように言われた花。普通なら真っ先に思い出しそうなのは花壇や植え込みと
いった屋外なのでしょう。しかし、まろんにとって学校の花と言われて真っ先に思い
浮かべたのは桃栗学園の本校舎正面に時折飾られる立派な生け花でした。故にここが
他校であるにもかかわらず、最初に探したのは屋内に生けられた花でした。実際、普段
通りなのか今日の為なのかは判断つきかねるものの比較的頻繁に花が飾られている場所
に出くわしました。そしてそれらはことごとく目的の物では無い様に思えます。既に
校内にはまったく人の気配が無くなっていました。先ほどの様に“死体”に出くわす
事も無く、ただただ本当の無人の空間が次々と現れるのみ。そんな風に歩き回るうち、
ふっと生け花からひとつのイメージに辿り着きました。年に数回、偉い人の長い話を
聞かされる場所。そう言えば今日は沢山花があった様な気がした場所、体育館。
まろんは階段を駆け降り廊下を走り抜け途中でちょっと道に迷ってから、本日の大役を
果たして今は雑然とした風情を見せるだけの第一体育館に辿り着きました。
関係者が何もせぬまま放り出して帰ってしまったらしく、片付けを始めたばかりの
もっとも散らかった様子のまま時が止まっている第一体育館。確かにまろんの記憶の
通り、さっと見回しただけでも数個の花瓶やずらっと並べられたプランターなどを
見出す事が出来ました。しかしどれもが比較的良く見かける花であり、そんなに詳しい
方ではないまろんの目から見ても特に怪しい花が混ざっている様子はありません。
どうやら見当違いらしいと判断し別な場所を探そうと出口へと振り向いたまろん。
その視線の先に、どう見てもその場にはそぐわない服装の女性がふらっと入ってくる
様子が見えました。色合いはどちらかと言うと地味ながら、ひらひらとした飾りの多い
服装。一言で言うならばそれは。

「メイドさんだ…」

その“メイドさん”は真っ直にまろんの方へと近づいて来ました。間違いなくそれは
警戒すべき情況だったにもかかわらず、まろんは彼女の観察の方を優先させていました。
服装はやはり最初に受けた印象の通りの、世にメイド服と言われる物に相違ありません。
まろん自身は現実世界でそんな服装が見られる場所は山茶花邸くらいしか知りませんが、
少なくとも目の前のメイドさんは山茶花邸のメイドさんでは無い様でした。芯でも
入っているのかと思わせる程ふわっと身体の線よりも拡がっているスカート。その裾
からは幾重かのレース編みのひだが見えていて、どうやらパニエを下に重ねていると
判ります。それもわざわざ数枚重ねている様に見えました。実際の所はどうなのか
物凄く気になる点ですが、いきなりその下はどうなっているのかと聞く程には
まろんは非常識ではありませんでした。何か違う聞き方は無いかと考えはしましたが。
下からじぃ〜っと観察して行ったまろんの目を次に留めたのは紺のドレスの上に重ねた
エプロン風の物の途切れる胸元でした。下の紺のドレスは胸元が左右から生地を寄せて
紐で締めた編み上げになっていて、その大らかな隙間から健康的な褐色の肌とぎゅっと
閉じた谷間が見えています。それは服の見た目の通りに寄せて上げた結果なのか、
それとも本当のボリュームなのかというのが最大の関心事となったまろん。ですが
構わず近づいてくる相手の胸元だけをじっと見ている訳にもいかず、まろんは少しづつ
視線を上げました。そしてまことに遅ればせながら注目した顔にちょっとだけ驚かされ
ます。紅玉を思わせる澄んだ赤い瞳がじっとまろんを注視していました。もっとも
浮かんでいるのは悪戯っぽい笑み。それが何となく胸元を見詰めていたまろんを
馬鹿にしている様な印象を受け、少し気まずい思いをします。視線を合わせていると
居心地が悪かったので再び目を動かすと、最後にその額に纔かにかかる髪が目に入り
ました。そこで再び、今度は小さく“あっ”と声を洩らしてしまうほど驚いたまろん。
白い帽子をすっぽりかぶっているとばかり思っていたのは実は短く切られた真っ白な
髪だったのです。その白い髪がさっとまろんの視界を上下し、それが単なる白では無く
髪の毛一本一本の動きに呼応して薄い七色を散らす真珠色の髪だと判ると今度は溜息が
出てきました。そうしてぼんやり見詰めていた為に気付きませんでしたが、髪が目の前
を上下したのは相手がぺこりと頭を下げた為だったのです。その点に関して無反応な
相手を不審に思ったのか、見知らぬメイドさんは小首を傾げて見せました。まろんは
そこでやっと我に返ります。

「あ、ごめんなさい。じろじろ見ちゃって…その、綺麗な髪だなって」
「ありがとうございます。それで、失礼ですが」
「はい?」
「日下部まろん様、神の御子でいらっしゃいますか?」

思わず半歩退がるまろん。本当に遅ればせながら、こんな情況で出会う白髪のメイド
さんがマトモな人間のはずは無いのだとやっと気付いたのでした。

「中々お見えにならないので、こちらから探しに行くところでした」
「だ、誰なの?」
「そんなに逃げ腰にならなくてもいいじゃないですか」
「あなた、悪魔なんでしょ」
「違います」
「なんだ」

途端に気が弛むまろん。

「でも魔界から来たことには違いはありませんが」
「やっぱり」

再び身構えるまろん。メイドさん、すなわちエリスはその間ずっと穏やかな笑みを
絶やさずにいました。まろんにはそれが何かとんでもない悪巧みの所為に思えて
仕方がありませんでしたが、当のエリスの方は気付いているのか居ないのかまるで
気にせずに同じ表情のままでいました。時折、値踏みする様にまろんの姿を眺める
以外は。

「それで何の用?」

聞くまでも無いとは思いつつ、まろんはやはり一応は確かめてみるのでした。
エリスはその問いに対して淀みなく即答します。

「神の御子をやっつけにきました」

はぁ。半分本気半分演技で深い溜息をついてから、まろんはやはり無駄だろうとは
思いつつも聞いてみます。

「ねぇ、何にもしないで黙って帰ってくれる気はない?」
「ありません」
「あっそ。それであなたは私と戦うって言うのね」
「そうですね。あ、でも神の御子は私を倒さなくてもいいです」

それはまた随分と都合の良い話ね、と言いかけたまろんにエリスは妙な事を言います。

「勝負の条件は別に対等で無くても構わないという意味です」
「は?」
「例えばですね、この」

エリスはエプロンをちょんと両手でつまんでパサパサと上下に振って見せながら。

「これを神の御子が奪う事が出来ましたら、私は大人しく退散します」

まろんはエリスの言ったことの意味を理解するのに少々時間を必要としました。

「ご不満ですか?何でしたらもっと簡単な条件にしますか?」
「いやその…そうじゃなくて」
「ではこの条件で構いませんね?」
「本当にそんな事でいいの?エプロン脱がせたら帰ってくれる?」
「はい。脱がされましたら帰りますよ」
「何だか鬼ごっこみたい」
「それは人間界の子供の遊びですね。確かに似たようなルールです」
「……やっぱり信じられない」

エリスの表情が、この時初めて変化しました。まろんの目にも、それが落胆の表情と
はっきり判る程に。

「何故信じていただけないんでしょう」
「だって悪魔ってそういう連中なんだもん」
「ですから悪魔では無いんです」
「じゃぁ人間?」
「違います。そんな事はどうでも良くって、私は神の御子と勝負する為にわざわざ
邪魔な人間を全員追い払ったんですよ?巻き添えにしないように」
「それって、皆を操ってるのがあなたって事?!」
「ええ、そうですよ」
「花は?」
「花ですか?」
「そう、花」

エリスはちょっと考えてから答えます。

「確かに魔界には人を惑わす花がありますが、私はそんなものは使いません」
「じゃぁどうやったの?」
「秘密です」
「知りたい」
「じゃぁ特別にそれもオマケに付けます。神の御子が勝ちましたら、私の能力をお教え
した上で大人しく撤退させていただきましょう」
「本当に約束だよ?」
「はい」
「あ、そうだ。あなたはどうやって勝つの?これにする?」

まろんは制服のリボンを指でつまんで示して見せました。エリスは首を横に振ります。

「私は普通に戦って勝ちますから、お気遣い無く」
「ああそう…」
「ところで“変身”はなさらないのですか?済むまで待ちますよ?」
「あなたのその格好は変身なの?」
「いいえ。普段の姿でおります」
「じゃ、私もこのまんまでいい」
「そうですか。では」

エリスはそのまま数歩後ろに退がり、改めてドレスの裾を手で広げて見せる様な仕草と
ともに腰を少し落として頭を下げました。

「神の御子、お相手させて頂きます」
「待った!」
「何でしょう?」
「あのね、私、本当は神の御子って言われるの苦手。何だか変な人っぽいんだもん」
「はぁ。では、まろん様」
「様は止めようぅよぅ」
「ご友人にでもならさせていただける様な日がきましたら、その時には様を止めます」
「仕方ないか…敵なんだもんね…」
「そうですよ」

言っている事とまるでそぐわない明るい声と笑顔で答えるエリス。

「今度こそ、いきますよ」
「うん」

まろんが答えた瞬間、エリスの姿はまろんの視界から忽然と消えていました。察した
気配に身体が反応し、まろんが身を反らして床に倒れ込んだ上を白紺白白白と色が
流れて通り過ぎていきました。のけ反った勢いをそのまま使って転がる様に離れ
距離を取るまろん。つい今までまろんが立っていた場所にはバレエのポーズのごとく、
片足を高々と上げたまま止まっているエリスの姿がありました。やはり数枚重ねて
いた下履きが微妙な位置に引っかかって止まっています。

「まろん様、もうちょっと本気を出してくださいませんと」
「ち、ちょっと油断しただけ!」
「そうですか。では、これはまろん様の余裕という事ですね」

エリスはそう言うと、足をゆっくり下ろしつつ爪先に引っかかっていた細長い紐を
手に取りました。何処かで見たような…まろんは慌てて胸元を見詰めました。
制服のリボンが奇麗に無くなっています。

「条件を同じにしなくて良かったですね、まろん様」

楽しそうなエリスの声は本心とも馬鹿にしているとも受け取れましたが、今のまろんに
腹を立てている余裕はありませんでした。むしろぎゅっと気を引き締めます。
エリスは手にしたリボンを二度三度と折り畳んで最後に軽く結んでから、ゆっくりと
エプロンのポケットに入れました。エプロンと一緒にリボンも取り戻せ、まろんには
そう言っている様に思えたのです。そう思った直後にはエリスの姿は再び掻き消え、
先ほどと同じくまろんのすぐ近くに迫っていました。まろんは目に見える世界を早々と
諦め、気配にだけ意識を集中します。左右右左回って左から右左左左右左斜めに右。
目まぐるしく繰り出される蹴りを紙一重でかわしていきます。その間に少しづつでした
が後ろに退がっていくまろんの後を、エリスが少しづつ追います。エリスは両手を腰の
辺りで後ろ手に組んでいて、その姿勢のままでぽんぽんと足を蹴り上げている為に
横から見れば向かい合わせになってステップを踏んでいる様に見えなくもありません。
もっともその二人の素早い動きを目で追う事が出来る者にとっては、という条件付き
ですが。まろんは一方的に受ける攻撃をかわしつつも敵の動きの中に隙が無いかを探り
ますが、残念ながら付け入る隙は無く避けるだけで手一杯。一方でエリスは全く当たら
ない単調な攻撃を、何故か相変わらずの楽しそうな顔で続けていました。そうして
ゆるゆると体育館の中をしばらく移動した頃、姿勢を低くした頭上を掠め髪を揺らす
空気の流れが極くわずかだけ弱くなった印象をまろんは受けました。そこに妙な既視感
を覚え、理由を考えるよりも先に身体が動いていました。咄嗟に爪先で床を突く様に
して距離を可能な限り広げます。直後、その爪先のすぐ前の床に今まろんの頭上を
越えたばかりのエリスの右足のかかとがミシリと音を立ててめり込みました。
エリスはそこで動きを止め、そしてまろんの顔を見詰めてニヤリと笑います。

「あらあら、今のがよけられてしまいますか」
「…まぁ…ね」

まろんは涼しい顔で答えたかったのですが、少し荒くなった息遣いの所為で上手く声が
出ませんでした。そんなまろんの様子に気付いているのかいないのか、エリスの表情
からそれを読み取る事は出来そうにありません。まろんの見ている前でゆっくりと
足を引き抜き、くの字になっている身体を伸ばすエリス。バンドの様な物で足首を
巻いて留めているサンダルの様な履物が、よくも床をぶち抜く衝撃で壊れないものだと
感心しているまろん。そんな事を考える余裕がある事に、或いはこの情況でそんな事を
考えている自分に気付いてちょっと可笑しくなります。やがてスロー再生のビデオの
様にゆったりと姿勢を正した後、エリスは再び目にも留まらぬ速さで距離を詰めて
来ます。まろんも負けずにその速度に対応し、上下左右から迫る足技をかわし続けます。
時折混ざる、振り抜いた足が戻ってくるという隠し玉も二度目以後は床に突き刺さる
程の勢いは無く余裕とまではいかないものの充分に対処し続ける事が出来ています。
そんな攻防が数分続き、まろんは自分でも随分とスタミナがついているのだなと思い
ます。そして幾度と無く、反撃の緒をつかむ為の布石として同じ様に蹴りの真似事を
してみたりもしますがこれは相手の姿勢を変えるくらいが精々。しかもその直後には
余計に自分の姿勢が崩れてしまいきわどい反撃が入って来ます。結局、まろんは相手と
同じ事をしても無駄だと覚り自分本来の戦い方を相手に見舞う隙を探す事に専念する
のでした。ですがやはり敵が簡単に隙を見せるはずも無く、まろんは疲労の蓄積を自覚
し始めました。攻撃そのものは一発も食ってはいないとはいえ、小さく大きくと幅や
深さを変えて入ってくるエリスの蹴りは単調に見えてひとつとして同じでは無いのです。
そしてまろんはついに決定的なミスを犯します。背後にも気を付けていたつもりが、
つい鈍くなっていた感覚から片付け途中で残された細長い卓を背にしてしまったのです。
咄嗟に卓の縁に手を着き、両手で支えて身体を跳ね上げる様にして背中から飛び越え
ました。ですがその無理な姿勢は着地の為に身体を回転させる必要を生じ、それ故に
まろんは完全に背中をエリスに向けてしまっていたのです。しまったと思ったまろんの
背中に何かが勢い良くぶつかる感触が伝わりました。完全に一撃を食らったと覚悟した
まろん。それでも二発目は防ごうと着地と同時に敵の動きに意識を集中しました。
そしてまろんは意外な物を目にします。予想以上に距離を置いて立っていたエリスの
姿と砕けた卓。足下に落ちている卓の破片。まろんの背中を打っていたのはその破片
でした。そして破片を踏み締めて近づいてくるエリスがにっこり笑って言います。

「どうしました?」

まろんは心底マズいと感じました。この相手、何か企んでいるに違いないと勘が鋭く
告げています。そしてそれはすぐに現実となって表れました。またしても姿を消したが
ごとく一瞬で距離を詰めたエリス。視線を定めず、広く全体に気を配って襲い来る蹴り
に対処していたまろんはエリスが初めて放った真正面からの拳の突きに全く対処する
事が出来ませんでした。十数メートルの距離を吹っ飛ばされ、途中にあった椅子やら卓
やらを全て巻き込んで壁に叩き付けられたまろん。彼女の身体よりも一回り大きな
円い凹みが木目の美しい板を貼り付けた壁をぽっかりえぐっていました。その前に
やや茫然と立つまろん。完全にかわし損ねた攻撃を、辛うじて展開した障壁が防いで
いた為に多少の衝撃を受けただけで済んでいました。そしてエリスもまた、ちょっと
驚いた顔でまろんを見詰めています。やがてぽつりと呟くエリス。

「成程、そういう風になるのですね」

一方、まろんの方も。

「いきなりパンチなんて、インチキ」

などと呟いていましたが、心の中で実際には自分に向かって馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿と
言っていたのです。もっともそんな事を悠長に考えていられる訳も無く、エリスは
既に次の行動に移っています。今度は正面も含めて攻撃の気配を探るまろんを再度
襲うエリスの蹴りの連発。ただしそれは今までとは比べ物にならない程素早いもので、
まろんはよける事を止めとにかく障壁で受け止め続けるだけでした。エリスの蹴りは
速度をそのまま力として叩き付けていて、反面蹴りの方向はまろんから見て左から右
へと一定していました。その為まろんは障壁毎、何度も何度も右の方へと飛ばされて
しまいます。そしてその都度、エリスは一瞬で追い付いて次の蹴りを繰り出します。

「何度やっても」

まろんは吹っ飛ばされながらも声を上げました。

「同じだよ!」
「さぁ、どうでしょうか」

エリスは即答し、直後に再び蹴りを入れました。そうして吹っ飛んだまろんとの距離を
詰めると同時に着地した足を舳として身体を回転させます。体重に移動速度が掛け
合わさった重さに遠心力を加えた今までで一番勢いのついた右足を真っ直にまろんの
身体の側面に入れました。当然、障壁がそれを防ぎますが加わった勢いはまったく
殺されてはいません。再び数十メートル先の壁に別の凹みを穿った時、まろんの身体は
急激に半身に集まった血液をすぐには元に戻す事が出来ずにいました。視界が一瞬で
暗転し、まろんはそうと気付く間も無く失心していました。そして倒れ込んだまろんの
頭が堅い床に打ち付けられる寸前、その身体をさっと抱き留めたエリス。

「いくら殻が丈夫でも、中身の貴方はただの人間なんです」

まろんの顔を覗き込みながら、聞こえるはずは無い相手にそう囁くのでした。

(第171話・つづく)

# やっと頭の中でこの先の展開が整理できました。(ぉぃ)
## 次回はもしかしたら1週お休みさせて頂くかも。

では、また。

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