神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その9)(08/16付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sat, 16 Aug 2003 05:22:30 +0900
Organization: Public NNTP Service, http://news.yamada.gr.jp/public.html
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<b3a25s$672$1@news01cf.so-net.ne.jp>
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<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<bci8j2$una$5@zzr.yamada.gr.jp>

佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その4)<be8nqr$tci$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その5)<berk9t$2dq$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その6)<bg0898$4ie$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その7)<bglrv9$30b$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その8)<bhjf32$c19$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。



★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その9)

●桃栗町内

アクセスはレイとミナに違い無いと確信した二人の女性の傍にずっとついていました。
しかし二人は相変わらずアクセスを目に留める事は無く、少なくとも見た目には楽しげ
に町を歩き回っていました。時折、二人の顔の正面で声を掛けるアクセス。ですが
二人の表情に変化が現れる事はありません。そして二人は極く普通の他愛無い会話を
続けながら、ゆっくりと歩き続けています。その前を距離を保って浮かびながら移動
するアクセス。奇妙な三人組の歩みがしばらく続いた後、レイとミナの表情にはっきり
した困惑が浮かびました。そしてふい討ちの様に二人の集中力が途切れて心の声が
アクセスの耳を打ったのです。

「マズイって何だよ!やっぱり聞こえてるんだろ?なぁ、おい」

それでも変わらず二人の視線はアクセスを見てはいませんでした。ですが互いを見て
いるわけでも無く、自分の背後の少し先を見ているらしい事がアクセスにも判ります。
ゆっくりと振り向いた先、脇の路地の前に立って三人が近づきつつある方とは逆の
方を見ている人影がありました。淡いブルーのロングコートをしっかり着込んだ姿は
何処と無く子供っぽく見えました。短めの髪は少年の様でもありますが、その細い
身体の線からは少女らしさが見え隠れしています。誰かを探しているらしく、彼女は
遠くを見る様に何度か背伸びをしながら辺りを見回しています。レイが手探りでミナの
手を掴みました。そしてレイの言わんとする事を察したミナ。二人が踵を返して逆方向
へ向かおうとした時、わずかに早く彼女の方がこちらに顔を向けていました。二人の
姿を目に留め、やや緊張気味だった表情が和らぎかけます。手を胸元まで上げて二人に
向けて振ろうとしていると見えた刹那。その目が驚愕に見開かれ、視線が二人とは別の
何者かの姿をはっきりと捉えました。

「何だ?」

相手が自分を見ているらしいと気付いたアクセスが不審そうな声を上げます。
そして本当に見えているのかを確かめる様に、すぅ〜っとアクセスは相手に近づいて
行きました。レイはミナの手を強く握り、そして互いに顔を見合わせます。二人の
表情は何とかしなければ、という考えで一致していましたが具体的な行動に出る事は
ためらわれました。それはアクセスが見えている事をはっきりと示してしまう事でも
あったからです。



途中まではそれなりに順調だったユキの追跡行。しかしながらそれは町に出るまでの
事でした。多くの人間の意思と何より各種の匂いが渦巻く町中では、たとえ何らかの
意図を折り込んだ匂いであったとしても識別するのは困難でした。ましてユキにとって
その匂いはほぼ影響力が無いのです。自らに影響を与えないモノを探すとは、見えない
何かを探すに等しい事。そして独りでの外出に踏み出して以後のアンは少しずつでは
ありましたが自分の行動に自信を持ち、それと入れ替わる様に無意識の意思の放出が
弱まっていました。ますますユキにとっては探すのが困難な情況になっていたのです。
闇雲に歩き回り、そして町を見渡せる小高い場所へと辿り着いたユキ。そこから
見渡せばアンが見つかる、などと甘い事を考えていた訳ではありませんでした。
ただふと彼女自身もまた独り歩きを楽しむ気になりつつあったのです。道端のベンチ
に腰を下ろし、しばしぼんやりと風景を眺めました。やがて気分を切り換えたユキ。
再び町中に戻るとアンなら何処を歩いていくだろうかと考えながら探す事にします。
そんな時にふと目に止まったのは青果店の店先。既に旬は過ぎた為に割高になり、
そして同時に店の正面から端へと追いやられつつあった蜜柑がそこにはありました。
店を離れる時には紙袋いっぱいの蜜柑がユキの腕の中に抱えられています。これを
見たアンがどんな顔をするか、そう想像するとユキは何となく幸せな気分に包まれ
ていったのです。自分でも気付かぬ間に微笑みながら歩いていたユキ。何気なく
曲がった道の先に思いがけない姿を目に留めました。

「(アン?)」

そこでユキの目に飛び込んできたのは、尻餅を突いた様にぺったりと地面に座り込んで
いる若い女性の姿。たとえ顔が見えなくても、肌と髪の色で間違いようがありません。

「アン?」

声を出して呼びかけて見ますが全く反応がありませんでした。その様子を訝しみつつ、
ユキはアンに向かって歩いて行きます。そして近づくにつれて彼女の身に起こって
いる異変に気付きます。じっと動かない身体、何処かを仰視しているのか同じく
じっと動かない頭、そして頭痛がしてきそうな強い苦い匂い…

「(いけない、警戒臭だわ)」

慌てて周囲を見回すユキ。そこで初めてアンの頭越しに見える先に二人とひとつの
影を見出しました。その二人が誰なのかを確認すると、鋭く呼びかけます。

「そいつを何処かへやって!早く!」

その声が誰のものなのか、はっとこちらを見て理解したレイとミナ。現時点では
ずっと階級が下のはずの者に命令されたという事実は多少なりとも二人に不快感を
与えていました。しかし言っている事は正論です。レイは目線で合図を送り、
タイミングを合わせます。背中を向けているアクセスの両側に回り込む二人。
わざと大きな動作で少し前へと出たレイの方へ、アクセスがびっくりした様に
素早い動きで身体を向けました。その隙を突いてミナがそっとアクセスの背中に指を
延ばし、注意深く力を絞った上で雷撃を放ちます。発した閃光の中で苦しげな顔を
見せたアクセス。そのまま彼の全身から力が抜けてぐったりとなってしまいます。

「そりゃねぇょ…………」

そんな呟きと共にふらふらと落ちていくアクセスをレイがすかさず両手で受け止め
ました。

「悪く思うな」

レイは言いながらも恨んでくれた方が良いのかもしれないと考えていました。
そんな事が行われている一方で、ユキはアンに近づきながらどうするべきかと
考えを巡らせていました。

「(これだけ強く発しているって事は正気を失いかけている可能性が高いわ。言葉の
説得ではきっと届かない。可哀想だけれど、軽く衝撃を与えて眠らせてしまわないと)」

アンの背後に立ったユキは彼女の肩にそっと手を差し伸べました。そこへ今度は
向こう側から鋭く声が飛びます。アンを挾んで数メートル先、今視線を上げたばかり
のレイの声。彼女の目はただならぬ様子を捉えていました。ゆらゆらと周囲の空気まで
揺らす猛烈な何かがアンの身体を包んでいる事を。もっとも、それは既にユキも良く
承知していた事ではあるのですが。そして同時にユキは肝心な事を忘れていました。
今の自分がただの人間の娘とそれほど変わらない状態である事を。

「よせっ!ユキ!」

声のした方に顔を向けるユキ。しかしその手は最初の動きのままに、止まる事無く
アンの肩に触れています。その手にビクんっとアンの身体が弾ける感触が伝わります。
ユキは一旦レイに向かって見上げた視線を落とします。そこには恐怖に目を見開いた
アンの横顔、そして振り向きざまに一閃された彼女の左手がつくる疾風のごとき
流れがありました。咄嗟に退がってかわす事が出来たのは人間にはとうてい不可能な
反射神経の賜物と言って良いのでしょう。それでも今のユキには不完全な回避しか
出来なかったのです。ユキの動きに遅れて、抱えていた紙袋が地面に落ち中身の
蜜柑がばらばらと石畳の上を転がって行きます。そして後を追う様に青白い手、肘の
少し先から切断されたユキの左腕がぽ〜んと投げ出され、最後に蜜柑と左腕の
上に鮮血が降り注ぎました。その朱いしぶきはアンの茫然とした顔を濡らし、そして
レイとミナの顔にも飛び散りました。生温い滴の感触にレイは自分の手で顔を拭い、
その手のひらを見詰めました。途端に鉄錆の臭いが彼女の鼻を刺激し、その顔を
しかめさせます。一方、視界をふらふらと横切る黒い物に気付いてそれをじっと目で
追うアン。やがて“それ”が自分の左手、人指し指と中指の間からぬうっと伸びて
いる様を凝視し、そして狂った様に腕を振り回し始めたのです。まるで“それ”が
そうすれば振り落とせる物であるかの様に。

「嫌………嫌……嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だいやだ、いや、いや、イヤッ!」

右手で左腕をぐっと掴んだままうずくまっていたユキが、顔を上げ切れ切れの声で
語りかけます。

「よしなさい…そんな事をしては…だめよ」
「!」

可聴域のはるか上の高音で短く叫ぶアン。直後驚くべき跳躍を見せ、一気に道路を
挾んで反対側にあった七階建ての建物の屋上へ、途中に足場を得る事なく跳び上がり
ます。その後をさっと目で追うレイとミナ。その素早い動きを捉える事が出来るのは
二人が人間では無いから故の事。そして次々と建物の屋上を跳び渡るうちに、
そのシルエットがどんどん人と違うものへと変化していきます。やがて最後の
跳躍の後、アンは再び地に降りる事無く空の彼方へと吸い込まれてしまったのです。



事の一部始終を目の当たりにしたレイ、そしてミナ。茫然と見詰めてしまった不覚を
恥じつつ、我に返った二人は血溜りを回り込む様にユキの傍に駆け寄りました。
ですが救け起こそうと伸ばしかけた手を二人は途中で止める事になります。つむじ風の
様な気の揺らぎがユキの身体から発し、傍に立った二人の周囲を回ってすっと抜けて
行きました。そこに宿る力の気配が、見えない圧力となって二人を押し返そうとする
様に感じられたのです。二人の見ている前でユキはゆっくりと、しかししっかりした
様子で立ち上がりました。そして数歩歩いて血溜りの中から自分の左腕を拾い上げると
無雑作にそれを切断面に近付けます。切り口が合わさる一瞬前、双方の切り口から赤い
繊維状の物が延びて絡み合い互いを引き寄せた様にレイには見えました。それから
切り口、今は一筋の傷となった部分からくちゅくちゅと粘っこい液体を掻き混ぜる様な
音が続き、やがて静かになると同時にユキが振り向きました。金色の瞳が妖しく輝き、
二人は思わずじっと魅入ってしまうのです。

「…例外条項によって閉塞状態強制解除」

抑揚の無いユキの呟きを耳にしたレイとミナ。二人は思わず聞き返していました。

「え?何?」

直後に返ったユキの返事は、しかし既に普段と同じ人なつっこい響きに戻っています。

「どうしました?」
「…あ、ああ。ユキ、大丈夫なのか?」
「はい。ご心配をお掛けして申し訳ありません」
「そんな事はいい。それより怪我は」
「大丈夫です。合着しました」

ユキはそう言ってレイと、その背中に半ば隠れる様にこちらを窺っているミナに
向けて左手を向け、手のひらを何度か開いたり閉じたりして見せました。
それはまるで、自分自身でもその感触を確かめるかの様な動きでありました。

「ただ…」
「ん?何か問題があるのか?」
「いえ。急激に状態が変化しましたので、変身が一部解けてしまいました」

最初、それは瞳の事を言っているのだと思った二人。ですがすぐにそれだけでは
無いと気付きます。見る間に髪の色が失せ、透明な光沢を放つ本来の色を見せます。

「ユキ、貴女…」
「何でしょう?」

ユキはそこまで言ってから、二人が自分の正体をまだ理解していないのだったと
気付きます。実際はその時のレイとミナは、そこまで考えを及ばしていた訳では
無く単に彼女の身体の変化をどう受け止めるべきなのか戸惑っていただけなのですが。

「…身体の回復には時間が必要だろう。一旦ノイン様の館へ」
「いえ。その前にお願いが」
「何だ?」
「お二方、私の目をご覧頂けますか?」
「ん?」

何の事か判らず、それ故に無防備にユキの目を真っ直見詰めたレイとミナ。
その瞳の奥に微かに、ぽっと光が点った様に見えました。レイが思わず声を上げます。

「え?」

ミナがレイの顔を覗き見ながら不思議そうに言いました。逆に少し驚いた顔をして
レイが見詰め返します。

「何?」
「…あれ、何だっけ」
「レイ様、ミナ様」

見詰め合う二人にユキが呼びかけました。

「ユキ、どうした」
「これを」

そう言ってユキが差し出した両手の上にはアクセスがだらしなくのびていました。

「あ…」
「少し前までの記憶を吹き飛ばしておきました」
「あなたがやったの?」
「はい。後はお願いします。私、急ぎますので」
「急ぐって?作戦に呼ばれたの?」
「いいえ。アンを追わないと、迷子になる前に」
「ああそう…」

ユキは二人にぺこりと頭を下げると小走りになって路地に駆け込んで行きました。
狐につままれた様な気分で互いを見詰め合うレイとミナ。レイの手にはアクセスが、
そしてミナの手の中には何故か蜜柑が溢れる程に入った紙袋がありました。
足下の血溜り、そして自分達の顔も含めて辺りに飛び散った鮮血が今は跡形も無い事に
二人が気付く事も疑問に思う事もありません。直後、ミナはユキの後を追って路地への
入り口まで駆け寄ります。すぐ後に続いたレイとともに路地の先の先まで見渡します
が、既にそこには誰の姿もありませんでした。再び二人は茫然と見詰め合い、しかし
今度はすぐにレイが口を開きます。

「とにかくアクセスをどうにかしないと」
「どうにかって?」
「そうね…」

結局、連れて帰る訳にもいかない為に道端の植え込みに置き去りにする事に決めた
二人。それでも良心が咎めたのか、どちらから言うとも無く先程の店でワッフルを
ひとつ買いました。店員は今日最初の客だからと言って生クリームを大盛にして
くれ、二人はそれを不思議な気分で見詰めてから、そっとアクセスの傍に置いて
立ち去ったのでした。

(第171話・つづく)

# やっとここまで来ました。^^;;;;

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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