神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その8)(08/16付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sat, 16 Aug 2003 05:16:33 +0900
Organization: Public NNTP Service, http://news.yamada.gr.jp/public.html
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<b3a25s$672$1@news01cf.so-net.ne.jp>
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<b4eoe8$rfr$1@news01cf.so-net.ne.jp>
<bci8j2$una$5@zzr.yamada.gr.jp>

佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その4)<be8nqr$tci$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その5)<berk9t$2dq$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その6)<bg0898$4ie$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その7)<bglrv9$30b$2@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。



★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その8)

●桃栗町の外れ

お昼を少しだけ回った頃。ノインの屋敷にユキが現れました。普段よりは大分遅い
時間になってからの訪問を、それこそ一日千秋の思いで待っていたアンが出迎えます。
アンの顔に何かを期待する様な表情が浮かんでいる事に気付いたものの、ユキはそれが
何なのか考える気も尋ねてみる気も起きませんでした。曖昧な微笑みを向けると真っ直
リビングの椅子に腰を下ろすユキ。そしてぺったりとテーブルに乗せた腕を伸ばし、
その間に埋める様にして顔を伏せてしまいました。そうしておいてから、近づいて
来た全に向かって気だるそうに話しかけます。

「ねぇ…」
「はぁ〜ぃ」
「お茶…もらえる?」
「すぐ持って来まぁ〜す」
「ありがと」

二人の会話を脇で聞いていたアン。話が途切れたところですかさずユキに話かけます。

「あの、ユキさん」
「………………なぁに」
「えっと、その、お散歩に出ませんか?町まで」

返事を待っているアンが、聞こえなかったのだろうかともう一度言い直そうと考えた
頃になって、やっとユキは答えました。

「ごめんなさい。そんな気分じゃ無いの」
「そうですか…」

その時のアンはとてもがっかりしていたのですが、既に自分ががっかりしている
ユキはまるでその様子に気付きませんでした。やがて全がお茶を運んできました。
全はお茶を乗せたお盆をユキの隣りの空いた椅子の前辺りに置き、そしてその向こうの
椅子に座るとユキと同じようにテーブルにぐでっと伏せました。お茶の香りに何となく
顔を横に向けたユキ。お盆に乗せてある湯呑みの隙間を通して全の顔が少し見えて
いました。何ともやる気のなさそうな顔で、同じようにこちらを見ている全。
そんな風にして見詰め合うという訳でも無く顔を向け合っていた二人。しばらくして
後、ユキは然程興味を持った訳ではありませんでしたが暇なので声をかけてみます。

「………全くん」
「………はぁ〜ぃ」
「………どうしたの」
「………がっかりしてまぁす」
「………何にがっかりしたの?」
「………判りません」
「………変なこと言うのね」
「………変でぃす」
「………自分の事なのに判らないの?」
「………なんでも無いのにがっかりな気分でぃす」
「………変なの」

横向きのまま、クスっと微笑むユキ。その微笑みのまましばらく凍った様に動きを
止め、やがてハっと表情を一変させると椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり
ました。そして全の肩を掴むと無理矢理身体を起こしてぐらぐらと揺さぶります。

「全くん、アンは何処!」
「…姉様は…何処か行っちゃったでぃす」

ユキは全を放り出すと慌てて玄関から飛び出して行きました。傷んだ檸檬の香りを
追い掛けて。林の中をぬっていく小道を行きながらユキは考えます。ノインの屋敷、
そして派遣軍の宿営を被っている結界の外へとアンが出る事は無いはずでした。
前の時の様に結界が開いたままでは無い事は、今日屋敷へ来る途中で確認しています。
ならば結界の境に沿って彷徨っている可能性が高いと考えられるのです。そして
当番兵の巡回に出くわしてしまう可能性も。ユキは祈りました。今日の当番兵が
天使では無い事を。やがて小道と脇の薮の中へと逸れる獣道の別れ目に出たユキ。
結界を知覚出来る者には別れ道に見えますが、それが判らない者には獣道へと向かう
一本道に見えるはずでした。ユキは迷わず獣道を選びます。本来ならば踏み跡から
容易に人の通った後が判るはずの薮の中は、ここ数日来の魔界軍の巡回によって
しっかりと踏み固められてしまっていて誰が通ったのか通らなかったのかは最早知る
事は出来ませんでした。しかしアンが残したのであろう匂いは空気の流れの弱い林の
中でかなりはっきりと知覚出来ました。その匂いの意味する感情に想いを馳せ、内心
に焦りを感じつつ、先へと歩を進めるユキ。やがて道の脇の、苔むした然程大きくは
無い岩の上に腰掛けている者と出くわしました。どうやら人の姿を真似て実体化した
悪魔らしく、洒落のつもりなのか大昔の人間界の軍服を着ています。その悪魔は
近づいてきた者の気配を遅ればせながら感じ、何やら哀れっぽい視線をユキに投げて
よこしました。悪魔らしからぬ行動を不審に思いつつ、ユキはその悪魔に尋ねます。

「そこの方、ちょっと話を聞きたいんですけど構いませんか?」
「あぁ〜、ユキ様〜」
「はぁ?」

どちらかと言えば派遣軍の中央に近い位置で働いているユキにとって、末端の兵士達の
大部分は見知らぬ存在。しかし逆にユキの方は間違っても地味とは評されない風貌故に
大部分の兵士に既に名が知れ渡っていました。そしてこの悪魔もユキを一方的に知って
いる者なのでした。

「ユキ様ぁ〜、どうか話を聞いてくださいましぃ〜」
「ええっと、話を聞きたいのは私の方なんですけど…」
「私、寂しいのです。この気持ちをどうしたものか…」
「はぁ…」
「誰か…今すぐ傍に居てくれる誰かを探しにいかなければ…ですが任務が」
「任務か終わったらゆっくり探してください。それで」
「それじゃ駄目なんです、寂しくて死にそうです」

悪魔はそう言うとユキにのしかかろうとしました。咄嗟に退がって避けたユキでした
が、悪魔に足首を掴まれ草むらに尻餅をついて倒れこんでしまいました。

「ち、ちょっと何を!」
「仲良くしましょうよぅ」
「嫌っ!」

ゴスッ

ユキの右足が力一杯伸びて、悪魔の顔の真ん中にパンプスを食い込ませました。

「…みず…いろ…」

悪魔の呟きを耳にして、足をぐいっとひねるユキ。その悪魔の顔が歪み、両目が
それぞれあらぬ方を向いてしまっていました。

「私の質問に答えなさい!いいわね?」
「…ふぁい」
「貴方、アンという娘を知っている?」
「…さぁ…」
「小麦色の肌で17か18歳くらいの人間の女の子に見えるの」
「あぁ…」
「見た?」
「…えぇ…先程…」
「先程ってどのくらい前なの?5分?10分?」
「15分…くらいかと…」
「何処へ行ったか判る?」
「外へ…」
「外って結界の外?」
「そうです」
「どうして?彼女には結界は開けないはずなのに」
「私が開けました」
「何でそんな事するのよ!」

ごにゅ

思わず力が入ってしまい、足首の辺りまでユキの足は悪魔の顔に食い込みました。
もう顔らしき顔も無い悪魔は、しかし何処からともなく話し声を出し続けます。

「どうしても出たいと言うものですから」
「出たい?そもそも結界の存在すら判らないはずよ?」
「はい。道に迷ったと申しますので、それは結界があるからだと教えました」
「何でそんな事教えてしまうのよ」
「それが…話しているうちに何やら悲しくなってきてしまい泣けてきました。すると
今度はとにかく優しくしてやらなければならない気がしてきまして…」

はぁっ、と溜息をつくユキ。本来は他者の意思を操るはずの者が逆に翻弄されるとは
情けないと思いつつ、同時に種族の格に歴然とした違いがある所為かと納得もします。
ユキは悪魔の顔から足を引き抜いて立ち上がり、服に着いた枯葉などを払い落とします。それから再び足首を掴んでいる悪魔の手を思いっきり踏み付けました。そして今度は
道も何も無い方へ向けて真っ直進んで行きました。背後から聞こえる「もっと踏んで
ください」という声は聞かなかった事にして。

●枇杷高校

赤や青や黄や緑と、考え付くありとあらゆる色の光が無秩序に混ざり合い広がって
いました。輪郭がぼんやりとしていて、それが何なのかは判りませんでした。ですが
何となくとても広々とした場所に立っているという強い印象があるのです。とても気分
が良く、このままずっと歩いていくともっと素晴らしい場所へ辿り着けそうな気がして
いました。ですが同時にこのまま行っては駄目だという気もしたのです。何かとても
大事なものを置き忘れてきた様に感じられます。そうして迷っている間に後ろから声が
聞こえて来ました。振り向くと誰もおらず、また後ろから声がします。再び声に導かれ
て振り返ってもやはり誰も見えません。何度振り向いてもずっと声は後ろから聞こえて
来ていました。やがてその声は段々と大きくなって…。

「…さん……稚空さん、大丈夫ですか?」

瞼を開くと目の前にトキの顔が迫っていました。思わず彼を押し退けてしまう稚空。

「よせ、俺にそっちの趣味は無い」
「私にもありません。気分は?」

稚空はじっとトキの顔を見詰めて、やや間を置いて答えました。

「よくない」
「寝覚めに男の顔を間近で見たから気分が悪いという話はどうでも良いのです」
「じゃぁ何だ」
「覚えていらっしゃらない様ですので、まずは周囲をご覧になって下さい」

稚空が自分で上半身を支えて居られる事を確かめる様に、少しづつ背中に添えた手を
離したトキ。そして立ち上がった彼から目を離し、言われた通りに周囲をぐるっと
見渡す稚空。薄い光のベールの向こう側にはデザインの異なる複数の制服姿の生徒や
教師や他の関係者が入り乱れて倒れていました。

「うっ…………」

記憶の底を掘り起こしている稚空をトキはじっと黙って見守っていました。やがて
稚空は断片的ながら、こうなる前の情況を思い出していきます。

「…そうだった、外に出ようとして確か急に頭痛が…殆ど同時に周りの連中が倒れ
始めたんだった」
「私も飛んでいて落ちそうになりました。咄嗟に障壁を展開したので眩暈だけで済み
ましたが、それでもしばらく身体が動かなくなってしまいまして」
「まろんは何処だ」
「判りません。セルシアも意識はありますが朦朧としている様です」
「あいつらは…」

稚空は周囲の人々、校舎から通用門に至る道筋のあちらこちらに倒れている者たちに
向けてちらっと視線を投げてからトキの方を見ました。

「生命活動が停止しています」

あくまでも事実を淡々と語ったトキ。稚空はその言葉の意味するところと彼の
話し方の間にある温度差にしばし戸惑います。

「なっ、何だとっ?」
「つまり平たく言うと死んでいるのです。表面的には」
「全員なのか?」
「はい。一人の例外も無く」
「おいっ、まろんを探さないと!」
「そうなのですが、大丈夫ですか?」
「俺の事はどうでもいい!行くぞ」

歩き出しかけて、トキの展開している障壁に阻まれる稚空。

「これは…まだ解けないのか?」
「難しいです。単に正面から攻撃が来るとかその様な情況ならば盾として展開しつつ
移動出来ますが、現在は我々は障壁の中に閉じ篭もっている情況ですので」
「何が起こっているんだ」
「実は敵の攻撃の正体が良く判りません。今は無条件に凡ゆる事象を遮断しています」
「出たら…死ぬかも知れないって事か…」
「先程の様にね」

一瞬、意味が掴めずにトキの顔をじっと見詰めて立ち尽くす稚空。

「先程?」
「はい。稚空さんも死んでいましたので」
「俺も死んでた?」
「ええ。表面的には、ですが」
「その表面的ってのは何なんだよ」
「皆さん、魂は抜け落ちてはいません。鼓動も呼吸も停まっていますが、個々の細胞
レベルでは生きています。脳もある程度は活動している様ですが外界に対する認識は
無いと思われます」
「そうか、それで夢を見たんだな」
「夢?」
「ああ。何処か…そうだな、何処かの草原に立ってる夢だ。花が沢山咲いていた」
「興味深い話ですが、詳しくうかがうのは後にしましょう」
「このままの状態だと、皆はどうなる?」
「生命体としての人間に関しては私には具体的な事は言えませんが、恐らくこの状態
が長引くと一時が永遠になってしまうのではと思われます」

稚空は呼吸が停まった状態で脳細胞が壊れない限界の時間を思い出そうとしました。
医学の本の、確か救急治療に関する本で読んだ事があったはずなのです。

「…あまり余裕が無い、まろんを探さないと。それに弥白だって何処かにいるんだ。
何とか移動出来ないのか?」
「少しずつでしたら。私に着かず離れずついて来て下さい」
「判った」
「手をつないだりしてもらえると確実なのですが」
「断わる」

長い紐で足を繋ぎ合っているかの様に、互いに数歩ずつ進んでは止まるという妙な
歩き方で二人は校舎の中へと入って行くのでした。

(第171話・つづく)

# その9もすぐに流します。
## 夏だから。(笑)
### 夏“休み”では無いってのがミソ。^^;

では、また。

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