神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その7)(08/04付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 4 Aug 2003 23:52:27 +0900
Organization: Public NNTP Service, http://news.yamada.gr.jp/public.html
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NNTP-Posting-Date: Mon, 4 Aug 2003 14:52:35 +0000 (UTC)

佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その4)<be8nqr$tci$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その5)<berk9t$2dq$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その6)<bg0898$4ie$1@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。



★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その7)

●枇杷高校

第一体育館で熱戦が繰り広げられている間、もうひとつの体育館はしんと静まり
かえっていました。通称“小体育館”と呼ばれているそこは実際には正式な規格の
バスケットボールコート四面分の広さがありましたが、それでも枇杷高校ではやはり
小さい方である事に変わりはないのです。静まりかえっているとは言っても、朝から
誰も来なかった訳ではありません。第一体育館で使う為に運ばれた折り畳み椅子は
小体育館を通って出入りする倉庫から運び出された物でしたし、逆に不要な体育用具
等が第一体育館からこちらへと押し退けられていました。それらの出し入れの為に、
前日の午後と今朝には多くの生徒が出入りしていました。今朝早くから、そんな
生徒や教師の様子をずっと眺めていた者がおりました。体育館の奥に位置し人の背丈の
半分程高くなった舞台の脇、緞帳が畳み込まれている辺りに座っていたのはエリス。
時々飽きてそのままコロンと横になってみたりしつつ、それでもその場を離れる事は
無かった彼女の前を幾人もの生徒が通り過ぎていきました。そして誰もが彼女を気に
する事はありません。何故なら誰も“そこにそんな服装の者が座っているはずが無い”
と強く信じていたから。あるはずが無いと信じて疑わないモノは、たとえ視野に入って
も認識される事はありませんでした。それが人間という生き物の性質なのですから。
故にエリスは誰にも見咎められる事も無くそこに居続けられたのです。

「ふぁ〜」

もう何度目なのか判らなくなった欠伸の後で、エプロンのポケットに入っている
携帯電話がブルブルと震える様子が太股の辺りに感じられました。今朝の出発時に
連絡用としてノインが作戦参加者全員に渡した携帯電話。それは相互の連絡を敵、
すなわち天界の者達に気付かれずに済む簡便で確実な手段として選択された物です。
いそいそと震えるそれを手に取るエリス。震えたら押すようにとノインに指示されて
いた青いボタンを押してから耳元へとあてがいます。

「え〜と…誰?」
「エリスですね」
「あ、はい。ノイン様?」
「そうです。様子はどうですか」
「特に何も…あ、ちょっとだけ。私の存在に気付きかけた者が居ましたが」
「ふむ。一応話を聞きましょう」

エリスは朝から今までの間に彼女の前で予想外の反応を見せた二人の生徒について、
ノインに話す為に今一度その時の事を思い出してみるのでした。



エリスの興味を引いた一人目がやって来たのは、まだ人の出入りが多く騒々しかった
朝の事。エリスには何に使うのか良く判らない道具が詰まった大きなカゴを抱えた生徒
が入り口の所に現れました。その事自体は既に何人もの生徒が同じように現れては荷物
を置いたり持ち出したりしていましたから特に気にも留めなかったエリス。しかしその
生徒は荷物を置いた後、立ち去りかけていた歩を止めて出口で振り向いたのでした。
その生徒の視線が自分の方を見ていると気付いたエリスも同じように見詰め返し、
しばらくの間二人は見詰め合っている様な状態になりました。エリスは組んだ手の上に
あごを乗せる様にして背中を丸め、ぐっと身を乗り出して相手を眺めました。長く
伸ばした黒髪を無雑作に束ねているのは動きまわり易い様にと考えての事なのだろうと
思えます。それは魔界でも働く女性は良くやっている事でしたから。もっともエリス
自身は髪を伸ばした事が無い為、束ねないと具体的にどう邪魔なのかは良く判っては
いませんでしたが。やがてその生徒は不思議そうに首を傾げてから再び体育館の外へと
出て行ったのでした。もう少し見詰め続けて来る様だったら行動を起こすつもりだった
エリスは安堵とともに少し残念な気分も味わっていました。その後はずっと何事も無く
、次の変化があったのは昼休みと言うらしい昼食の時間の間際になってからでした。
数枚の紙切れを厚紙の上に重ねて手に持ち、それをじっと覗き込む様に一心不乱に
見ている生徒が物音ひとつしない小体育館に姿を見せました。
時折顔を上げて近くの箱を開いて箱の中と紙の上を見比べている様子から、紙に書き
付けた何らかの記録と箱の中身を照らし合わせているのだろうとエリスは推測しました。
小柄な身体をくるくると歩き回らせるその姿からは、真面目で働き者らしい人柄が
伝わって来ました。侍女という役目柄、他者を“見る”という事が多いエリスにとって
それは好感を持つに値する人物のひとつの典型でした。それ故、他の者達とは違って
その生徒に対して少なからぬ興味を抱いたエリス。その生徒が立ち止まって考え込んで
いるところに近寄り、そっと手元を覗いて見ようとしました。すると、丁度その時の
事でした。その生徒が突然歩き出し、逆にエリスの方へと近づいて来たのです。
相変わらず手元だけを見て歩いている為、正面に位置するエリスに気付く様子は
ありません。もっともそもそも気付くはずは無いと思っていたエリスでしたから、
その生徒が何も無いはずの場所で何かにぶつかったときの反応が楽しみで、わざわざ
避けずに待ってみたりしたのです。やがてもう少しでぶつかるという所で、意外な
事に生徒はピクっと反応して半歩退がるとぺこりと頭を下げました。

「ごめんなさいっ、考え事してて…」

眼鏡の上の透き間から見上げる様な視線がふいに細められた後に訝しげなものに変わり
ます。生徒は顔を真っ直に上げると共に指で眼鏡を押し上げてズレを直し、改めて正面
を見据えました。そして慌てて周囲を見回すと一瞬にして顔を真っ赤に染めつつ、
ぼそぼそと言い訳の様な事を呟きました。

「誰も居ないのに、何言ってるの私…」

そして生徒は紙の束を胸に抱きかかえると逃げる様に出ていってしまったのでした。



一連の出来事を思いだしつつ、ノインには要点だけをかい摘んで話したエリス。
時折「ふむ」「ほう」といった相槌を打ちつつも、ほぼ黙って聞いていたノインが
最後に尋ねます。

「で、結局のところ気付かれたという印象は?」
「ありません。ある訳がありませんよ、人間相手に私がしくじるとでも?」
「人間もそう見くびったものではありません。油断は禁物です」
「大丈夫ですってば。気付いていたら相手が惚けていても判りますから」
「ならば結構。ではそろそろ次の段階を始めてください」
「ノイン様、最後にもう一度だけ確認しますけど本当にノイン様も一緒で
 よろしいんですか?ノイン様はもはや普通の人間とは違う身、何か副作用があるかも
 しれません。こればかりは試した事が無いから責任持てませんよ?」
「構いません。私の事は気にしないでやりなさい」
「わかりました。では後ほど」
「お互い生きていたら、ね」
「キャハハハハハっ」

電話が切れても、しばらく気付かずに笑い続けていたエリスでした。やがて笑いを
おさめると携帯電話をポケットに仕舞い込み、表情を引締めます。

「さぁ、行きますよ皆さん。一生に一度の経験をお楽しみくださいませ」

同時にエリスの周囲に漂う雰囲気が反転、それが徐々に小体育館から伝染して
行ったのです。それは一言で表現するならば“死”の気配でした。



桃栗学園選手団の控室ではまだ興奮覚め遣らぬ様子の選手達の姿もありましたが、
正式な祝いは学園に戻ってからとの話もあり着替えや片付けは既にほぼ終わって
いました。都に急かされて何とか帰り仕度を整えたまろん。廊下に出ると控室から
少し離れた窓辺に紫界堂が携帯電話を耳に当てている姿が見えました。どうやら丁度
何処かとの連絡を終えた所らしく、それをジャケットの内側へと仕舞っていきました。
そして隣りに立っていた桐嶋まなみが問い詰める声が断片的に聞こえます。もっとも、
その声に怒気は含まれてはおらず冗談めかしての事なのだとも感じられました。

「まさか女の子に電話してたんじゃ無いですよね?だったら*****」
「それは弱りましたね」
「***!」

都に肩を叩かれ、はっとして歩き出すまろんの耳に紫界堂のはぐらかす様な笑い声が
届いて来ました。そんな風にして背後に思わず意識を集中してしまうまろん。紫界堂、
すなわちノインが何の行動も起こしていない様に感じられる事が逆に疑わしくて仕方が
ありません。それでも何もしていない相手、しかも他の生徒の目の前で問い詰める事も
出来るはずは無く、まろんは都と共に大人しくその場を離れるしかありませんでした。
そうして廊下を歩いていくまろん。しかし、ふと耳の奥に微かに響く声を感じた気が
しました。それをノインが心に向けて語っている声と感じたまろん。ですが何を
言っているのかは判りません。聴き取ろうとしても意味をなす言葉にならないのです。
結局まろんは一旦枇杷高校の外へと出たところで、忘れ物をしたから先に帰って欲しい
と都に告げました。都の“ドジ”の一言を背中に受けつつ、校舎に駆け込み廊下へ踏み
込んだ辺りで奇妙な事に気付きました。まるで耳に綿を詰めた様に周囲の音が聞こえ
なくなっています。先程の囁きも聞こえません。立ち止まり辺りを見回し、そして用心
しながら再び歩き出すまろん。唯一といっていい物音は自分の足音だけ。途中で通り
過ぎかけた教室のひとつを何気なく覗くと、がらんとした教室の中の数個の机に
だけ何故か同じようにつっ伏して居眠りしている生徒の姿がありました。不審には
思いましたが、それ以上近づく事はせずに通り過ぎます。やがて教室が一旦途切れ、
階段と別な廊下へと行く先が分かれている場所に出ました。真っ直廊下を進んでいった
まろんでしたが、視界の端に見えた階段の辺りの違和感に数歩後戻りしてそちらに
視線を向けます。そしてそれが何かを確認すると同時に飛び付く様に駆け寄りました。
階段の途中、二階へ向けて数段上がった所に枇杷校の制服を着た見知らぬ生徒が倒れて
いたのです。倒れたまま階段をずり落ちたらしく、スカートの裾が乱れて太股が大胆に
見えていましたが、流石に見とれている場合ではありません。首の後ろに手を回し、
もう片方の手で遠い側の腕を取る様にして上半身を起こします。一瞬何と呼びかけよう
かと迷い、結局は他に言い様の無い言葉を掛けます。

「もしもし、大丈夫?」

声を掛けつつ、そっと揺り動かしてみますが全く反応がありません。それでも何度か
呼びかけ続けるうちに、ある事に気付いて思わず息を飲みます。その生徒は息をして
いませんでした。慌てて確かめた手首も首筋にも脈は無かったのです。まろんは頭の
中が真っ白になるという感覚を味わいます。まるで全ての感覚が切れてしまう様な
それは決して気分の良い物では無く、それ故にまろんは速やかに現実へと立ち返り
ました。物言わぬ者に少なからず気味の悪さを感じつつ、それでも放り出す事も出来ず
そっと元の様に横たえるまろん。そして急ぎ先程通り過ぎた教室へととって返し、
改めて教室に踏み込むと恐る恐る手近な生徒の肩に手をかけて揺さぶってみました。
揺らした拍子に腕がだらりと机から落ちます。その手首に触れてみる勇気は湧きません
でした。逃げる様にして廊下へと出たまろん。出口か奥かと判断に迷ってぐずぐず
していると、出口に近い方に人影がふらりと立った事に気付きました。それが都だと
判った途端にまろんは駆け寄ります。その眼前で都は何事かを話そうとする様に口を
開き、開きかけた口をそのままにして真っ直後ろへと倒れ始めたのです。間一髪で
まろんは都を支える事に成功しました。

「都っ!しっかりしてよ、都ってば」

ですが何度呼んでも返事は無く、握った手を都の手が握り返して来る事もありません。
都を抱きしめてその場にうずくまるまろん。きつくきつく抱いても、都の身体からは
何の反応も返っては来ません。まるで考えがまとまらず、まろんは宙に視線を彷徨わ
せていました。どのくらいそうしていたのか、再び囁き声が耳に届いている事に気付き
ます。都をそっと廊下の壁にもたれさせ、立ち上がってみて初めて滴っていた涙に
気付くとそれを拭いました。

「誰なの!何でこんな事するの?!」

声は今度ははっきりと意味をなす言葉となってまろんに答えました。

「私が誰であるかは問題では無い。そしてこれは貴女が戦い続けた場合にやって来る
 結果としての世界」

若々しく、それでいて落ち着いた声が一言一言をまろんの耳の奥に際立たせます。
それは全く聞き覚えの無い声でした。

「どうして…」

言葉にならない疑問に、声は見透かした様に答えます。

「貴女が戦い続ける限り我々は退かない。故に貴女がどんなに強くても、いずれは
 こうなるのだ。この世界には貴女しか残らない。それを望むのか」
「うるさいっ!」

まろんは叫んで走り出しました。廊下を進んで校舎の奥へ奥へと。

「何処っ?出てこいノインっ!」

そして飛び込んだ先は桃栗学園の控室だった教室。そしてまろんは声を失って
立ち尽くしました。教壇脇に折り重なる様に倒れている紫界堂とまなみの二人。
触れてみるまでも無く、何時まで見ていても二人が身動きする事はありませんでした。

●桃栗町内

何事も無く済んでしまった大会会場を後にしていたアクセス。競技の最中ずっと
聞こえていた微かな声。その事をトキに話したところ、彼もそしてセルシアも同じく
声を聞いたと証言し一足先にアクセスが戻って街の様子を見てまわる事にしたのです。
しかしながら見てまわると言っても広い町内をくまなく回る必要は感じてはいません
でした。誰ともつかぬ声は多少の揺らぎはあったものの、極く狭い範囲から届いている
という確信があったからなのです。はたしてそこにはアクセスの注意を惹く人影が
確かにありました。真っ直にその二人に向けて降下するアクセス。やはり間違いは
無かったのだと彼は思います。その二人をもはやレイとミナ以外の誰かと疑う理由は
無いのだと。

「お〜い、俺だよ。もう惚けなくていいんだ」

聞こえているはずだと思うものの先日と変わらぬ二人の態度、全く彼を意に介さない
様子に少し不安になりながらもアクセスは熱心に語りかけ続けます。

「ちゃんと聞こえたんだ。二人の声が救けを呼んでた。なぁ呼んだだろ?困ってるん
だろ?奴等に弱みでも握られてるのか?なぁ、俺達を信用しろよ。絶対力になれる
からさ」

正直なところ、レイとミナはかなり苦労してアクセスを無視し続けていました。
彼の熱意が上辺だけの物では無いと判るだけに、たとえそれが親愛とは正反対の言葉
であっても何か言ってやりたい。そんな気持ちを押し殺し、二人だけの世界に浸って
いる風を装いながら町を歩き回るのです。初めのうちは本当に二人だけの世界に居た
時間の余韻を引きずっていましたから難しい事では無かった演技。しかしアクセスが
目の前に居るという情況が長引いてくるに従い、段々とそれが苦痛となっていました。
時に二人は演技の枠を越えて同時に顔を見合わせ、そして服のポケットに入っている
携帯電話を握りしめてみたりします。向こうでの作戦が済んだという連絡が、その
小さな人間界由来の機械を通して告げられる時を待ちながら。

(第171話・つづく)

# そして誰も居なくなった…

## その8は、また1週開いてしまうかもしれません。
## とある事象に向けての原稿の〆切りが迫っていて。^^;;;;

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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