神風・愛の劇場スレッド 第171話『眠った翼』(その6)(07/27付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 27 Jul 2003 19:07:28 +0900
Organization: Public NNTP Service, http://news.yamada.gr.jp/public.html
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NNTP-Posting-Date: Sun, 27 Jul 2003 10:07:44 +0000 (UTC)

佐々木@横浜市在住です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# そういう2次創作物が嫌いじゃ無い方のみ、以下をどうぞ。

# 第171話(その1)<bci90c$una$6@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その2)<bd4i2h$nqo$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その3)<bdngph$252$1@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その4)<be8nqr$tci$2@zzr.yamada.gr.jp>、
# 第171話(その5)<berk9t$2dq$2@zzr.yamada.gr.jp>の続きです。



★神風・愛の劇場 第171話『眠った翼』(その6)

●枇杷高校

その日。新体操地区大会団体戦が行われる事になっている枇杷高校は、普段より
少しだけ落ち着かない空気に包まれていました。これから何かが始まる前の昂揚感
にも似た何か。もっとも、それが学校全体を包んでいるという訳でもありません。
何故なら。

「なんだか、あんまり“大会”っぽく無いね」
「そりゃそうでしょ。臨時なんだし」

新体操部員だけのこじんまりした応援団の一員としてやってきたまろんの感想、
それは同時に殆どの参加者の感想と同じであった事でしょう。本来の会場であった
桃栗体育館倒壊という事件の所為で行われなかった団体戦。その為に急遽組まれた
スケジュールは参加校のひとつでもある枇杷高校の体育館を使用するというもの。
会場となる第一体育館は一般的な高校の体育館に比べれば規模も設備も抜きんでて
いますが、それでも公共の体育館程の収容能力は無く、開催日が平日であるという
事とも合わせて各参加校の申し合わせにより選手とその家族以外には部員のみが
来ているだけ。新体操部に直接関係の無い一般の生徒は普段通りに授業を受けて
いるのでした。もっとも、会場設営他のボランティアとして多くの生徒が動員
されている為、会場の枇杷高校自体は1年生は全クラス一斉に自習扱いでしたが。

「綺麗な学校よね、ちょっと嫌味っぽいけどさ」
「え?何が?」
「高そうな花ばっか飾ってあるし」
「やっぱり高いのかな」
「香りからして高そうよ」
「そうかな…」

その後もしばらくは都の言い掛かりが続いていましたが、まろんは他の事に注意を
払っていた為に上の空で返事をしていました。その内には都も諦めて二人は事前に
受け取っている案内の紙と、校内に貼られた道案内に従って自分達の学園とは違う
意味での豪華さを感じさせる建物の中を歩いて行きます。控室代わりに他校の参加者
向けに割り当てられた、体育館に近い一般教室のひとつに入り腰を落ち着けたまろん
と都。参加選手である団体チームの面々の更衣室も兼ねていて、二人の周りでも既に
着替えを始めている者もおりました。まろんはそんな様子を見るともなく眺めながら、
今朝の話を思い出していました。

●オルレアン

まろんが珍しく早目に起きた事をまるで見ていた様に、今朝も起きた直後から隣人達が
顔を見せていました。もっとも普通の人間には見えない“隣人”なのですが。

「そういう訳ですので」

もっさりもっさりと口からはみ出したレタスを噛みながら、それだけは何時もの朝と
変わらない眠そうな顔を巡らせるまろん。

「…へ?はんはっへ…」

トキがじっと見ていないと気付かないくらい微かに眉をひくつかせつつ応えます。

「何の話だったかと、そう仰有っているのですね?」

まろんがこくこく頷くと、トキは今度ははっきりと判る様に肩をすくめて見せます。

「一言で言い直しますと、気をつけて下さいという事です」

カップに入ったスープを一口飲んでから、まろんはやっと噛み合った答を返しました。

「平気平気。気にしたって仕方無いじゃん、何処から襲ってくるか判らないのって
のは毎度の事なんだし」
「とはいえ、全く何も無い普段の日よりは何か起こる確率が高いと思われます」
「だよなぁ、奴等って意外とイベント好きだから」

四枚目の厚切りトーストを飲み下して満足した顔のアクセスが呟く様に付け足し
ました。そこへ遠くから小声で叫ぶ者があります。

「何で俺は独りなんだ」

寒い事を我慢して少しだけ開けてある窓へ向けて答えるまろん。

「朝から女の子の部屋に押しかけようなんて良くない考え」
「アクセス達はどうなんだ」
「来ちゃったものは仕方なし」
「そうか判った」
「稚空、ベランダ跨いだら殺す」
「…………くそ」

気配が遠ざかる訳でもありませんでしたが、それでも稚空が押しかけてくる事は
ありませんでした。

「図らずも今日の行事は弥白嬢の学び舎との事ですので、セルシアも傍に居る事に
なりますから危険は少ないと思います。ですが念には念を入れてとも言いますし」
「うん」
「では。我々は先に出ます。アクセス」
「おう」

五枚目のトーストを掴んで、アクセスはトキと共にベランダへと出ていきました。
トキの手には四角い包みがぶら下げられています。中身はセルシアの為のサンドイッチ
で、昼食用の自分の分と合わせてまろんが作り彼に預けた物でした。そんな二人を
見送る為に窓辺までついて行ったまろん。それを察したのか稚空が声をかけます。

「俺も行くからな」
「授業、サボる気?」
「まろんの方が大事だ」
「サンキュ」

まろんはそれから窓を閉め、念のためカーテンをきっちり引いてから出かける
仕度に取りかかるのでした。

●桃栗町の外れ

コトコトコト。静かな朝の気配の奥から暮らしの音が響き、眠りの底からアンを呼び
起こしています。何時に無くベッドから離れがたい思いにとらわれ、それでも何とか
起き出すと後は気持ち良く洗顔と着替えを済ませる事が出来ました。
階下に降りリビングを抜けてキッチンへと向かいます。

「おはよう」
「姉様おはようございまぁす」
「手伝うわ。今朝はなぁに?」
「煮魚でぃす」

全はそう言って鍋の蓋を取って中を見せます。

「あら、でも二匹しか無いわよ」
「僕と姉様の分でぃす」
「え?でもそれじゃ」
「ノイン様とコワ姉様はもう出かけましたぁ」
「そうなの…」

アンは少し迷って、それからなるべくさり気ない感じに聞こえる様にと注意しつつ
全に尋ねます。

「あのね、帰ってくるのよね?」
「わからないでぃす」
「だって…ずっと居るって…………」

それきり黙ってしまうアン。

「姉様?」

全が心配そうな顔で見上げた先には、アンのやや蒼い顔があるのでした。

●枇杷高校

ちょっと洗面所へ、と都に言い残して会場の外へと出たまろん。わざわざ人気の
無い体育館脇の植え込みの影へと入ります。植え込みと言っても背の低いつつじ
などの花木だけで無く、もっと大きな落葉樹も沢山植わっていてさながら雑木林の
様相です。敷地内に多めに植えられたこれらの木々が外界の騒音と人目を遮り、
静かな学生生活を演出してもいるのでしょう。そんな中にあって一際大きな木の影に
入った途端のこと、小さな光の固まりがすっと樹上から降って来ました。

「あれ、セルシアは?」
「念の為、弥白嬢の傍に残しました。アクセスは施設の構造を頭に入れる目的も
兼ねて校内を巡っています」
「そう。でも今日は何にも無さそうだね」
「それがそうでもありません」
「何で?」
「やはり気付きませんか」
「何か、あったの?」

まろんはうんざりといった表情を浮かべてトキを見詰めます。

「私にそんな顔を向けられても困るのですが」
「ごめん。でも」
「でも?」
「面倒くさい」
「…判りますが」
「それで何があったの?」
「いや、それが」

言い淀むトキに、まろんは不安を覚えます。

「物凄くマズい事?」
「…そうでも無いと思うのですが」
「?」

彼らしからぬ歯切れの悪さにまろんは余計不安をつのらせました。

「はっきり言っていいよ?」
「はっきり申し上げたいのですが、はっきりしないもので」
「はぁ…」

それからトキははっきりしない事を何とか明確に述べようと苦心しながら話します。
しばらく聞いてから、まろんは納得した様におもむろに言いました。

「確かに何となくだよねぇ、それは」
「はぁ。何とも頼りない情報で申し訳ありません」
「ううん、そんな事はいいんだけど」
「とにかく何かあるのは確かです。境界が不明瞭ですが、この学校は間違いなく現在は
結界の内側となっています。ただ魔界の者達の気配は特に濃いという事は無く、人間達
の何かを期待するような昂揚感が満ちているだけですが」
「それはスポーツの大会だから当然って感じだよねぇ」
「恐らく。ですから大変薄い結界があるという事以外は何もありません。しかし何も
無いなら結界は不要な訳ですので」
「わかった。とにかく注意しとく。それでいいよね」
「結構です。私達も常に周囲に居ますので」
「うん。じゃ戻るね」

まろんは手を振って早足で会場へと戻って行きました。そして体育館へ入ろうとした
まさにその時、トキと密談を交わした場所とは反対側の体育館の陰を見通す辺りに
人影がある事に気付きます。まろん達とは違って特に隠れている訳でも無い二人。
校舎と体育館を結ぶ渡り廊下やグランド側に開放された大会入り口からも丸見えの
位置で何か語り合っている様子の紫界堂と桐嶋まなみの姿。距離があって何を話して
いるのかは判りません。そして人目を避けていないが故に、逆にこっそり近寄る余地も
ありませんでした。仕方なくそのまま体育館の入り口に半分身を隠して様子を見るしか
無かったまろん。そして確信します。トキの言っていた何かには間違い無くノインが
関わっているのだという事を。まろんの疑念をよそに、時折まなみが見せる笑顔と、
やや子供っぽいとさえ見える仕草には暗い影はまるで見えなかったのですが。

●桃栗町内

まだ昼時には早い時間帯。平日の街にはまばらに買物客が散見されるだけ。
そんな中、一件のお菓子屋の前の歩道でくつろぐ若い二人の女性が居ました。
一人はタートルネックのセーターにチェックのミニスカート姿で上からダッフル
コートを着ており、もう一人は黒いシャツに白くて細いネクタイを締めグレーの
デニムスーツで上下を固めています。一見すれば女子高生か女子大生といった雰囲気。
歩道の所どころにある磨かれたステンレス製の円柱は腰を下ろすのに丁度良い造りで、
午後ともなれば学校帰りの少女達がワッフル片手に埋め尽くす場所。ですが、今は
二人の貸切りの様な状態です。店員はその日最初の客だからと言って、二人の買った
ワッフルに大盛の生クリームを載せてくれました。さて何処から食べたものかとレイは
悩みます。客を悩ませる事がサービスなのか?という疑問が頭をよぎりますが、ミナが
嬉しそうに溶けたチョコレートと格闘している様を横目で見て自分も素直に好意を
受け止める事にするのでした。ワッフルからはみ出た生クリームを舐め取ってから、
それでも心の中にわだかまる疑問を口にします。

「私達、こんな事してて良いんだろうか」

口をもごもごさせながら、ミナが頷いてみせました。心の声での返事は無く、純粋に
仕草だけで応えています。その仕草だけで無く表情も晴れやかで、この情況を心から
楽しんでいる事がうかがわれました。

「まぁ、いいか。こういう指示なのだし」

結局、一人で納得した様な形になりながら再びワッフルを見詰めるレイ。
何処から噛ったらクリームをこぼさずに済むだろうかと考えながら。

●枇杷高校

じっと周囲に気を配り、張り詰めた意識を維持していたまろん。そんな彼女の脇腹を
小突く者がありました。隣りの椅子に座って一緒に目の前で繰り広げられた競技を
見詰め続けていた都です。

「まろん、まろんってば」

まるで夢から醒めた様に、突然都の声に気付いたまろん。

「へ?」
「へじゃ無いの。帰るわよ」
「えっ?」
「もうっ、しょうがないわね。居眠りでもしてたの?」
「ま、まさか、ちゃんと見てたよ」
「だったら大会の結果を言ってみな」
「結果って…リボン?」
「やっぱり寝ぼけておるな。まぁいいわ、とにかくおしまい」
「ええっ?」
「いい加減目を醒ましなさいよ。先輩達が勝って枇杷校が準優勝、はい終り。撤収」
「ええっ〜???」
「やかましい!」

折り畳み椅子を倒しつつ立ち上がったまろん。見回すと周囲では枇杷高校の生徒が
既に仮設の会場の片付けを始めています。あっけにとられて立ちすくむまろんに、
少し離れた場所にこっそり陣取っていた稚空が訳が判らないとでも言いたげに
肩をすくめて見せていました。

(第171話・つづく)

# 1週開けてしまいまして申し訳ない事です。
## 最近、平日に妄想する余裕が。^^;

では、また。

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