神風・愛の劇場スレッド 第169話『青い蜜柑の香り』(その5)(02/07付) 書いた人:佐々木英朗さん
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ
From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Message-ID: <20030207193955.4f870217.hidero@po.iijnet.or.jp>
References: <20021021173850.1b607df3.hidero@po.iijnet.or.jp>
<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>
<aq50pd$hvf$1@news01bb.so-net.ne.jp>
<ar7uvj$nlu$1@news01bh.so-net.ne.jp>
<arq9rp$mt9$1@news01bh.so-net.ne.jp>
<ase0mr$o1m$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<20021227170142.1db6a13e.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20030103161643.0b809aca.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20030110171137.5a399b4b.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20030117173829.3a42d41b.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20030126172602.7c30eea6.hidero@po.iijnet.or.jp>
Lines: 352
Date: Fri, 7 Feb 2003 19:39:55 +0900

佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

個人的な用でドタバタしている隙に間が開いてしまいました。申し訳ありません。
例のやつ、第169話(その5)をお送りします。
#(その1)は<20030103161643.0b809aca.hidero@po.iijnet.or.jp>、
#(その2)は<20030110171137.5a399b4b.hidero@po.iijnet.or.jp>、
#(その3)は<20030117173829.3a42d41b.hidero@po.iijnet.or.jp>、
#(その4)は<20030126172602.7c30eea6.hidero@po.iijnet.or.jp>です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第169話 『青い蜜柑の香り』(その5)

●オルレアン

まろんの部屋のベランダにふわりと降り立ったセルシア。窓は閉まっていますが、
最近は鍵は開けておいてくれているはず。

『一休みして何か温かい物をご馳走になっていらっしゃい』

夕暮れ間近の山茶花邸に現れたトキのそんな台詞に甘えて山茶花家から戻って
きたのです。勝手知ったる何とやら。窓を開けて何時もの様にただいまの挨拶を、
と思った所で見知らぬ客が居る事に気付きます。慌てて口をつぐみ石の様に動きを
止めるセルシア。ところが何故かまろんならばいざ知らず、見知らぬ客二人を含めて
テーブルを囲んでいる四人全員が自分の方を向いていたのです。慌ててじたばたと
顔の前で両手を振り回すセルシア。

「(はわわっ、こっち見ちゃ駄目ですですっ)」
「(うわっ、セルシア駄目っ引っ込んで〜)」
「(うわっ、女天使っ)」

はたはたと不自然に揺れるカーテンを見詰めながら呟く都。

「あれ、窓開いてたっけ?」
「What?」

無言で頭を振るまろんを見て何か言いたいのに言えないらしいとセルシアは遅ればせ
ながら気付きます。よくよく見れば見知らぬ客の内の一人は既に前を向いて一心不乱に
食事を口に運んでおり、もう一人の客も背を反らしてこちらに覗かせていた顔を
引っ込めています。慌てて自分の身体を見回すセルシア。どうやら姿を消す術は
そのまま掛かっている様で一安心。安堵の溜息をそっと洩らしつつ、これ以上の
ヘマをする前に退散しようと窓の方へ巡らせた目の前で窓がすすっと閉じていきます。

「寒いじゃない」

何時の間にかすぐ脇に来ていた都は何事も無かった様に窓を閉めてテーブルに
戻って行ってしまいました。ご丁寧に窓には鍵を掛けた上で。
出そびれてしまったセルシアはすがるような目でまろんの方を見ています。

「どうしたのよ?」

テーブルに戻ってきた都が腰を浮かせて中途半端に立っているまろんに声を掛けます。

「な、何でも無いよ。あ、カーテン閉めようっと」
「なら私が」
「いいって!都は御飯食べてて」

まろんはそう言いながら都の肩をぐいっと押し下げて半ば無理矢理座らせ、
入れ代わる様にテーブルから離れました。都は暫く不審そうな目でまろんの
背中を追っていましたが、すぐにテーブルの上に視線を戻すともはや窓辺に注意を
向ける事はありませんでした。そんな都の、そしてとっくに食事を再開している
ユキとアンの様子を横目で見ながら窓辺に向かいカーテンを引くまろん。
なるべく不自然な方を見ない様にしながらセルシアに囁きます。

「ごめん。なるべく早く何とかするから、部屋の隅でじっとしてて」

セルシアはこくこくと頷くと、見えていないはずではありましたが背を丸めコソコソ
忍び足で部屋の隅へと移って行きました。そして壁を背にして床に座ると膝を抱えて
食卓の方をじぃ〜っと見詰めます。物欲しそうな目で。そんなセルシアの気配を
背中いっぱい感じつつ平静を装っている者が一人。

「(姿だけじゃなく気配も少しは消しなさいよもう…)」

気にしない様にすればする程気になってしまうのは道理というもの。ユキは普通に
食事を摂っている風に振る舞うのが精一杯で、既に食べている物の味も良く判らなく
なっていました。当然ながら表情も心ここにあらずといった感じで、もくもくと
食事を続けながら宙に目を据えた様は何やら危ない人物に見えなくもありません。
最初にユキのそんな様子に気付いたのは都。見据えた視線の正面に座っているのです
から一端気付くとこちらも食事どころではありません。続いて、窓際から戻って椅子に
座り直したまろんが固まっている二人に気付き声を掛けました。

「どうしたの?」
「さぁ?」
「ユキさん?」
「……………」
「あの…シチューに何か変な物でも入ってました?」
「……………」
「お〜い」
「……………」

ここへきて一心不乱に食べていたアンが前の二人の声に顔を上げ、その視線を
辿ってユキの方を仰ぎ見ました。そしてそぉ〜っと肩に手を乗せます。

『…あの…』
『へっ?』
『皆さんが何か言ってますけど…』
「ええっ?」

居眠りから覚めた様に目をしばたたかせて都とまろんの顔を交互に見るユキ。

「な、何か?」
「別にそういう訳じゃ無いんだけどね」
「ユキさん、何処か具合が悪いとか?」
「そんな事無いですよ、全然普通」
「普通には見えなかったんだけど」
「ごめんなさい。ちょっと考え事を…」
「それならいいんですけど」

食事を再開する二人を見ながら自分も改めて“普通”に食を進めるユキ。

「(何を動転してるのよ。あんなの気にしなくていいのに。そうよ、そうそう、
ペット、愛玩動物よ。この部屋には犬とか猫が居て、それが後ろに座ってこっち見てる
だけ。買い主の食べているものが気になっているのよ。それだけ)」

何とか気の迷いの落としどころを見付けて安堵するユキ。他の二人に対してやや
遅れてしまった分を取り戻す為に急いで御飯の残りを口に入れます。ちなみに
アンはその隣りで3杯目の御代わりを貰って満面の笑顔を浮かべていました。
その二人は傍目には“とてつもなく旨い物をガツガツ食っている客”にしか見えず、
当然ながらセルシアにもそう見えました。

きゅぅ〜

「!」「!」「?」「誰よ?」

まろんとユキはじっと動かずまるで息をひそめているかの様。都は三人を見回し、
アンは一度後ろを振り返ってそれからユキの横顔を見ていました。まろんが
少ししてから答えました。

「あ、私かな…はは」
「まったく…お上品ぶって食べてないで早くお腹の虫を黙らせな」
「は〜い」

そんなやり取りを横目にアンがユキに話しかけます。

『何か後ろの方から聞こえませんでした?』
『えっ?そんな事無いでしょう。今のはまろんさんよ?』
『そうだったんですか』
『そうそう。気にしなくていいから』
『はい』

元々それほど気にしていなかったので素直に従うアン。まろんとユキは同時に
ほっと胸をなで下ろすのでした。



手伝うと言うユキの申し出をやんわり断わって、まろんと都が後片付けの為に
キッチンへ行っている間の事。ユキは席を立つと窓辺へと向かいました。
そうして窓を大きく開けベランダへと出てみます。そして夜空を見上げて室内に
聞こえる様に大きめの声で言うのです。

「わぁ、綺麗な星が見えますね」

何をするつもりなのかじっと見ていたアンがとことこ部屋を横切ってユキの隣りに
立ちました。

『何ですか?』
『え?あ、あのね、星が…ほら、あっち…オーストラリアと星座が違うでしょ?』

ユキが指差す空を見上げるアン。暫く見回してから瞳を輝かせてユキの方を向きます。

『本当ですね、気が付きませんでした』
『面白いでしょう』

同じことをもう一度言ってみます。

「面白いわねぇ…」

そしてそぉっと肩越しに室内を覗き見てみます。

「(わざわざ貴女の為に窓を開けているのよ。さっさと出て行きなさいよ、
そこの女天使…)」

さり気なく見回したユキの視線が部屋の隅のセルシアを捉えました。

「(…って…寝てるし…)」

部屋の隅で座っていた姿勢のまま、こてんと横倒しになってセルシアは眠って
いました。窓が開いた所為で冷たい空気が届いたらしく、ユキの見ている前で
もぞもぞと身を縮めていきます。

「(そうそう、寒いでしょ目覚めなさい、そして何処かへ行ってしまいなさい)」

しかしユキの心の叫びも虚しくセルシアは小さく丸まるとそれっきり身動き一つ
する事は無くなってしまいました。最早肩越しでは無く真っ直に室内の方を向いて
いるユキ。ぎゅっと握った拳が小刻みに揺れていました。

「(この…女…くっ)」

その様子を見てアンは恐る恐る声を掛けました。

『ユキさん、どうかしました?』

我に返ったユキが振り向くと少し怯えた色の見える瞳が見詰めていました。

『だ、大丈夫よ、別に何も』
『そうですか。なら良いんですけど、ユキさん恐い顔してるから…』
『ごめんごめん、また考え事しちゃっただけだから。怒ってなんかいないわよ』
『わかりました』

アンの緊張が弛んだ事を確認してユキは安堵しました。

「(駄目駄目、アンを萎縮させてはここまでの努力が全て無駄になってしまうじゃない。
女天使はあくまで無視よ無視)」

部屋の隅に行って天使を蹴っ飛ばしてやりたい衝動をユキは必死に押さえていました。
そこへ片付けを終えたまろんと都が戻って来ます。まろんは手にかごを、都はお盆を
それぞれ持ってきていました。

「食後のデザートですよ〜、あれ、ユキさんどうしたの?」

窓を閉めてユキとアンが戻って来ます。

「ちょっと空を見ていました。星座とか」
「星なんて何処も同じ…」
「こっちと南半球とは違うでしょうが」
「そうなの?」
「小学校の理科レベルの話じゃ」
「…」
「学校の勉強なんて普段の生活で関係ない事はどんどん忘れますから」
「そうそう」

ユキの助け船にまろんは飛び乗り力強く頷きました。そんな会話には加わらず(勿論、
意味が判らない所為もありますが)、アンはまろんが持ってきたかごをじっと
見詰めていました。色が少し薄くてひしゃげて潰れたオレンジの山がかごの中には
ありました。訪問先で出された物に不平を述べる事になる様に感じて、アンは暫く
何も言いませんでした。それでもあまりに妙なソレの事が気になって仕方ありません。

『ユキさん…』
『なぁに?』
『この国では潰れたオレンジが穫れるのですか?』

ユキはアンの視線を追ってその先にある物を目にとめました。

「…ぷっ…くすくす…あははは」

突然笑い出したユキを他の三人がぽかんと眺めていました。やがてひとしきり笑った
後、まだ少し震えた声でユキは言います。

『これはオレンジでは無いの。別の果物よ、ミカンって言うの』
『ミカン、出来の悪いオレンジじゃ無いんですね…』
『ええ』
『でも…そんなに笑わなくても…』
『ごめん』

赤い顔をして抗議するアンを見てユキは可愛いなぁと心底思っていました。
そんな二人を見ていると言葉は判らなくても何か可笑しくなる出来事があったの
だろうと何となく感じるまろんと都です。我慢できなくなってまろんは尋ねます。

「ねぇねぇ、何なに?」
「あのですね」
『あ、言っちゃ駄目です』
「アンが、ミカンを潰れたオレンジだなんて言うから」
「お、成程」
「まぁ確かに」

まろんと都、そしてユキは顔を見合わせてクスっと控えめに笑いました。
それでもアンはむっとしてユキをじっと睨んでいます。そんな様子がそこはかと無く
可笑しく余計に笑いを誘ってしまうのですが、それに気付いて更に顔を赤くするアン
なのでした。

「ま、いじめるのはそのくらいにして座りましょ」
「うん」
「そうですね」

椅子に座ると都はミカンを1個手にとり、ゆっくりと剥いていきました。
普段の彼女を知っているまろんは都がわざとミカンの食べ方を教える為に丁寧に
剥いているのだと判ります。ユキもミカンを一つ手にし、そしてアンに言いました。

『ひとつ頂いてみたら?』
『…ええ』

アンもおずおずと手を伸ばしてミカンを取り、今目の前で都がやっていた通りに
剥いていきます。少し指を深く入れ過ぎて破けた果実から汁が流れたりしましたが、
オレンジに比べてずっと柔らかいのだと理解してからはもう中身を傷付ける事は
ありません。そうして最後に中の実を一つずつ小分けにするところまで上手く
出来ました。

「白い筋のところはね、気にならないなら取らなくていいわよ」

思わず普通に話しかけてしまった都が“しまった”という顔をするのとほぼ同時に
ユキが同じことをアンに言い直していました。

『中から出てきた実はそのまま食べていいのよ。白い筋は気にしないで』
『中の実の皮は剥かないんですか?』
『食べちゃって平気よ、柔らかいから』

恐る恐るミカンの一切れを口に入れるアン。間もなくアンの顔に笑顔が浮かんだ様を
見て、どうやら気に入ってくれた様だとまろんと都は嬉しくなるのでした。
そして同じようにユキもまたアンが和んでいる事を喜びます。少しだけ違った意味で。
安心した所為でしょうか、ユキもミカンを食べてみようという気になりました。
それが何なのか、ユキも実のところ知識としてのみ知っているだけで食べたことが
ある訳では無かったのです。実物に対する好奇心も湧いて来ていました。
手にしていたミカンを剥こうとして、しかしうっかり取り落としてしまいました。
テーブルを転がっていくミカン。落ちる前に止めようと伸ばした手の先には…

「(ひゃっ!)」

テーブルの端に指先が四本掛かっていてその向こうには顔が半分覗いています。
物欲しそうな瞳が二個見上げていてその視線が転がるミカンを追っていました。

ぺとん

床に落ちたミカンの前にちょこんと座り込んでいるセルシア。指でちょんちょんと
突いているのでミカンは何時までも揺れ動いていました。拾おうとしないユキを
不審に思ったのか、都がひょいとテーブルの下を覗きました。

「ん?」
「(マズいわ!)」

慌てて椅子に座ったままで腰を曲げて手を伸ばすユキ。動いているミカンを
はっしと掴むと自分の方へと引き上げます。相変わらずミカンを目で追うセルシア。
ユキはその視線を必死に無視して何とかミカンを取り戻しました。

「いやにバランスの悪いミカンね」
「え?」
「ぐらぐら動いていたし」
「そ、そうですか?活きが良いのかも」

あっけに取られた顔の都。

「…意外」
「な、何がですか?」
「そういうギャグを言う人には見えなかったんだけど」
「あ、あは、外しましたね、ははは…」

ユキはいそいそとミカンの皮を剥く事で強引にその話を打ち切りました。
手元に集中しようとしますが、またしてもテーブルの端から覗いている顔半分が
気になって上手く剥けませんでした。

「(しっしっ!あっち行ってなさいよ、犬じゃあるまいし物欲しそうに見上げるなっ、
この馬鹿っ…そうよ、こいつ馬鹿だわ、大馬鹿天使よ、何でこんなのが前線に
来てるのよ、調子狂うじゃないの、もうっ!)」

じっと見られている上に見られている事に気付かないふりまでしなければならない為、
最早ユキにはミカンの味は全く判りませんでした。何とか味わおうとしてゆっくりと
咀嚼している様が、それはそれは何とも美味しく味わっている様に傍目には見え、
余計にセルシアの視線を釘付けにしてしまっているのでしたが。

(第169話・つづく)

# ますますユキが変な人化してしまいました。^^;

では、また。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ

 記事に対するご意見・ ご感想などがありましたら書いてやって下さい

 件名:
 名前: (ハンドル可)
 E-Mail: (書かなくても良いです)

 ご意見・ご感想記入欄