神風・愛の劇場スレッド 第169話『青い蜜柑の香り』(その4)(01/26付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Message-ID: <20030126172602.7c30eea6.hidero@po.iijnet.or.jp>
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<20030110171137.5a399b4b.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20030117173829.3a42d41b.hidero@po.iijnet.or.jp>
Lines: 281
Date: Sun, 26 Jan 2003 17:26:02 +0900

佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

例のやつ、第169話(その3)をお送りします。
#(その1)は<20030103161643.0b809aca.hidero@po.iijnet.or.jp>、
#(その2)は<20030110171137.5a399b4b.hidero@po.iijnet.or.jp>、
#(その3)は<20030117173829.3a42d41b.hidero@po.iijnet.or.jp>です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第169話 『青い蜜柑の香り』(その4)

●オルレアン

カフェでしばらく雑談した後、まろんはそろそろ帰るというユキとアンを自宅へ
招きました。まろんはその際、都が否定的な意見を絶対に口にすると確信して
いました。その内容自体も薄々想像しつつ横目で都の様子を伺っていたまろん。
ですが、結局都は何も言わず一緒にオルレアンへと帰って来たのでした。
エレベーターを降りた所で三人と別れた都でしたが、数歩進んでから立ち止まると
くるりと踵を返し、既に自宅の扉を開けていたまろんに尋ねます。

「ねぇ」
「あれ?何?」
「お客さんに夕食出す気?」
「うん…だってもうすぐ夜だし…」

やっぱり初対面と出合って二日目で自宅招待は早すぎよ少しは警戒しなさいよ…
というのがまろんの予想した都の次の言葉。

「それで、何にするの?」
「へっ?」
「献立よ献立」
「あぁ、えっと、何にしようかな」
「決めて無いなら、御飯だけ炊いて待ってなさい」
「え?」
「何か作って持っていってあげるって言ってんのよ」
「あ、ありがと…」
「何よ不満なの?要らないんなら別にいいわよ」
「違う違う違う、嬉しいです、お願いします都さま」
「判った。じゃ、後で」

それだけ言うと背中を向けてまっすぐ自分の家へと戻っていき、もう途中では
振り向かなかった都。玄関の中へ入った時に聞こえたまろんの部屋の扉が閉まる音に
ふと疑問を感じて誰も居ない廊下を振り返りました。

「私、何でこんなに親切してんだろ…」

その疑問は溶ける事はなく、さりとてはっきりとした形になるでも無く都の
心の中に漂い続けました。



「さ、どうぞ上がって」
「失礼します」

まろんに招き入れられたユキとアン。昨日ツグミに聞いた話に由ればアンは
オーストラリアから来たという事でした。ですからまろんは玄関先で土足のまま
上がろうとするお約束を期待して二人の様子をじっと見詰めていました。
特にアンの方は自分が日本に来ている事をころっと忘れる程の大ボケさん…。
ですがそんな期待を知るはずも無いまま、二人とも躊躇無く靴を脱いで向きを行儀良く
揃えています。そしてその行為は別の意味でまろんにある種の印象を残しました。

「おぉ…」
「は?」「?」

ユキとユキの肩越しに見えるアンと二人の視線がまろんに集まります。
そしてユキがおずおずと尋ねます。

「あの、何か」
「ううん。何でもないよ、お行儀いいなって感激してたの」
「そうなんですか?」

ユキは一瞬人間界のこの地域での作法を間違えたかと思いましたが、その疑念が
彼女の顔に出る前にまろんが説明を続けました。

「私のうちに来る友達って、そういう事気にしない人がほとんどだから」
「まぁ」
「あと、窓から入って来たり」
「窓ですか?」
「うん。あ、隣りの知り合いがねベランダ越しにって事だけど」
「ああ(いきなり天使の話かと思って吃驚するじゃない神の御子)」

上着を脱ぎながらまろんの後に続く二人。実のところ二人の格好は真冬の外出着に
しては防寒対策が一枚足りないのですが、平然としている為に周りにあまり違和感を
与えません。リビングに入って二人の方を振り向いたときにも、生地の薄そうなユキの
ブラウスやハイネックとは言ってもただのTシャツ姿のアンにまろんは驚きはしません
でした。それ以上にもっと別な事が気になったからという理由もありますが。

「どうかしました?」

じっと動かなくなってしまったまろんに暫くしてからユキが声をかけました。

「え?あ、何でもないの。座ってまってて」

あたふたと二人を残してキッチンへと姿を消すまろん。ユキはにんまりしながら
まろんが見詰めていたアンの胸元を眺めます。その視線に気付いてアンが尋ねます。

『やっぱり変だったんじゃ…』
『何が?』
『その…ブラが…』
『Tシャツだとラインが見えて格好悪いでしょ?着けない方が良いのよ』

別のものが見えてしまう気が…とは思ったものの、ユキが良いというのならと
アンは気にしない事にしました。そういうユキの方は水色のブラが透けて見えて
いるのですが、それは何故格好悪くないのか後で聞いてみようと考えながら。



まろんが戻ってくるまでの纔かな間。アンは単なる好奇心から部屋を見回し、
ユキは目的をもって注意深く部屋を観察していました。

「(天使達の気配でいっぱい…普段は入り浸りなのね)」

そして今は姿の見えない天界の住人の気配を読み取ります。

「(ひとり…ふたり…さんにん…それにフィン様か。ノイン様から得た情報から後、
人員に増減は無いみたい)」

考えに耽るユキをまろんの声が現実へと引き戻しました。

「お茶をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ドウモ」
「今何か食べちゃうと御飯が入らなくなっちゃうでしょ?だからお茶菓子は
無しという事で」
「気にしないでください…えっと、お構い無くって言うんですよね」
「他人行儀は止そうよぅ、せっかく知り合えたんだし」
「それじゃ遠慮なく」

ユキがお茶に口を付けると、横で見ていたアンも同様にしました。違うのはユキが
一口だけ飲み、アンは湯呑み半分くらい一息に飲んでしまった事くらいです。
そんな様子から、アンに言葉を含めてこちらの事を教えたのはユキなのだろうと
まろんは想像します。

「ユキさんもアンと一緒に来たって言ってたよね」
「ええ」
「どっちの人なの?」
「どっちって何でしょう?(まさか私が天使に見えるとでもっ?!)」
「いや、日本人に見えるけど実はオーストラリアの人かなぁって」
「アンと同じ生まれですよ(ふぅ…)」
「そうなんだ。でも日本語がとっても上手」
「向こうとこっちを行き来してますので。仕事の関係で」
「えっ?仕事?」
「はい。貿易関係で色々と」
「もしかしてユキさんって大人?」
「まぁ、一応成人してますけど」
「ごめんなさい。てっきり私と同じくらいの歳かと」
「良く子供っぽいって言われます。でも歳は内証ですよ」
「うん。聞かない」

アンがユキの腕をつんつんと突いて何やら耳打ちしています。簡単な挨拶は即席で
教えていますが、会話となるとアンにはついていけないものがありました。
そこで時々、ユキが会話の流れを要約して教えてやらねばならなかったのです。
そんな時ユキは注意深く英語を使って話します。アンは英語と故郷の言葉の両方を
耳から入ってきた時点で聞き分けて同じ言語で返事をします。それは各々の世界で
暮らした時間の中で染み付いたものでアン自身が深く意識する事はありません。
それ故に教え込んで直るものでも無く、ユキが全の同行を許さなかった理由でも
ありました。全は懐かしさからどうしても故郷の言葉で話しかけてしまうからです。

『という訳だからアンも歳の事を聞かれたら笑って誤魔化すのよ』
『歳の話はしちゃ駄目なんですね』
『それがこちらのマナーなの』
『はい』

勿論、ユキの要約にはアンが人間界でその姿とは不釣り合いな程に長く暮らしている
という事に関して彼女が馬脚を現さない様にする為の情報操作が加わっていたりも
します。そして必ずユキというフィルターを通して会話する限りにおいて、アンは
あくまでも知り合いを頼って日本に旅行に来たオーストラリアの学生であり、ユキは
日本でアンを迎えた家の知り合いという“設定”が成立するのです。

「ねぇ。もしかしてアンもお姉さんなの?」
「トシハナイショデス」

まろんの言葉の調子から何か質問されたと感じたアンはニコニコ笑って答えました。

「え〜、そうなの?じゃぁアンさんって呼ばなきゃ」
「ジョークですよ。彼女は16歳です(見かけだけだけど)」
「なんだ。それなら良かった」
「あら?どうしてです?」
「だってほら、アンさんって言いづらいし」
「私の事もユキでいいんですよ」
「それはそれで別問題。ユキさんはユキさん」
「なんでです?」
「語感」
「…そうですか(わけわかんないわ)」

結局のところは何となく呼びはじめた通りに落ち着いただけなのですが、妙に
納得顔のまろんにユキはそれ以上は突っ込みませんでした。



暫くして玄関の呼び鈴が連打され、夕食の時間の到来が告げられました。
扉を開くと都が両手鍋を捧げ持って立っています。そして鍋の上に蓋代わりに
大きめの皿が乗っていて、その皿には刻んだレタスと縦に割ったトマトの山。
ラップが掛かっていなければ崩れそうなくらいの山盛りです。

「お待たせ」
「豪快な積み上げ方だね…」
「鍋蓋のつまみが邪魔で重ならなかったから」
「言ってくれれば取りに行ったのに」
「廊下の途中でそう気付いたわ」

そんな話をしながらまろんが扉を手で支えている間に部屋に上がってくる都。
つっかけて来たサンダルは脱いだ拍子に片方が裏返ってしまいましたが、そのまま
脱ぎ捨てられています。それを見てまろんは苦笑しますが、都は既にリビングへ
足を踏み入れていました。都の後をついていくとバターの匂いが漂っています。
食卓にどっかりと乗せられた鍋。皿をどけるとまろんだけでなくユキとアンも
中を覗き込みます。

「シチューだ」
「カレーにしようと思ったんだけどね、カレー粉無かったのよ」
「うわ、安直」
「手っ取り早く4人分作るって言ったらカレーでしょうが」
「でもシチューなのね」
「そこまで言うからには、アンタの分は無しと知っておろうな?」
「シチュー大好き」

程なくして食卓を囲んだ四人。シチュー自体は初めてでは無かったアンと
初めてでも顔には出さなかったユキ。ですがそんな二人でも御飯との組合せには
少々の戸惑いを見せます。当然、疑問を口に出すのはユキの方になりました。

「これ、一緒にいただくものなのですか?」
「そうよ、日本ではね」
「ちょっと都」
「何さ」
「変な事吹き込まないでよ」
「全然、変じゃないでしょうに」
「美味しいのは認めるけど…」

御飯が見えなくなる程、シチューをたっぷりとかけた都の茶碗をじっと見るまろん。
都が不本意そうな視線を返します。

「文句あるわけ?」
「何となくお行儀が悪い気が…」
「お茶碗に盛り付けたリゾットだと思えばいいのよ」
「リゾット?」
「お米とそれ以外の具を別々に調理したリゾット。シチューだと思うから変に
見えるの」

二人の話を聞きながら取りあえず自信がありそうに食べている都の真似をしてみる
ユキ。当然の様にユキと同じ事をするアン。こうして、別々に口に運んでいる
まろんはこの食卓では少数派のシチューの食べ方になるのでした。

「どうかな?」

都の発言の後に間が開いた事で、その言葉が自分に向けられた事に遅ればせながら
気付くユキ。ですがすぐに言葉を反芻して意味を理解します。

「美味しいです。こういう食べ方は知りませんでしたけれど」
「そっちのコは?えっと、こういう場合何て言うんだっけ…どぅゆーらいく…
食べ始めてから聞くんだから言い方違うわよね」

英語らしき言い回しにぴくりと反応して顔を上げるアン。茶碗の中身はもう既に
あと一口程しか残っていませんでした。目ざとく空になりかけの茶碗を見る都。

「うわっ、速っ」
「ほんとだ。熱くないのかな」

二人の視線を集めてしまってユキに戸惑いの目を向けるアン。

『私、何かまずい事でも?』
『いいえ。それより美味しい?』
『はいっ』

アンが満面の笑顔で頷くのを見て、まろんと都は質問の答を得るとともに余計に
シチューが美味しくなった気がしていました。

(第169話・つづく)

# ここまで書いても先(尺)が見えないってのは書き手として如何なものかと。^^;
## (その7)くらいで終わると思います…多分。

では、また。

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