神風・愛の劇場スレッド 第169話『青い蜜柑の香り』(その3)(01/17付) 書いた人:佐々木英朗さん
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ
From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Message-ID: <20030117173829.3a42d41b.hidero@po.iijnet.or.jp>
References: <20021021173850.1b607df3.hidero@po.iijnet.or.jp>
<aq4tca$hju$1@news01bb.so-net.ne.jp>
<aq50pd$hvf$1@news01bb.so-net.ne.jp>
<ar7uvj$nlu$1@news01bh.so-net.ne.jp>
<arq9rp$mt9$1@news01bh.so-net.ne.jp>
<ase0mr$o1m$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<20021227170142.1db6a13e.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20030103161643.0b809aca.hidero@po.iijnet.or.jp>
<20030110171137.5a399b4b.hidero@po.iijnet.or.jp>
Lines: 197
Date: Fri, 17 Jan 2003 17:38:29 +0900

佐々木@横浜市在住です。こんにちわ。

例のやつ、第169話(その3)をお送りします。
#(その1)は<20030103161643.0b809aca.hidero@po.iijnet.or.jp>、
#(その2)は<20030110171137.5a399b4b.hidero@po.iijnet.or.jp>です。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第169話 『青い蜜柑の香り』(その3)

●桃栗町の外れ

カップに注がれた紅茶を少し飲んだ辺りで手を止めたミカサ。子供の姿の全が居る
場ではやや込み入った話は切り出しにくいものがありましたが、彼は別に人間でも
何でもないのだとも判っています。

「ノイン様、お伺いしたい事があるのですが」
「何でしょう?」
「今朝、ユキがアンに関して言っていた事について」

ミカサはさり気なく全に視線を向け、それからノインの方を見詰めました。
彼の言わんとするところを察したノインは応えます。

「彼はアンとは付き合いが長いので構わないかとも思いますが」
「僕の事でぃすか?」
「そうですが、そうではありません」
「えっと…」
「…やはり止めておきますか。シルク、夕食の仕度はまだですか?」
「ノイン様、もう晩御飯でぃすか?」
「今夜は牛タンのシチューが食べたいですね、じっくり煮込んだ奴を」
「はぁい」

全は立ち上がると自分のカップだけを持ってキッチンへ姿を消しました。

「これで良いでしょう。アンの事でしたね」
「ええ。ユキの言っていた能力というのは何です?竜族の力を借りるなら他の者でも」
「知らないのも無理はありません。竜族の女性のごく一部だけの能力ですし、竜族は
その事を話したがりませんから」
「何故?」

ノインは紅茶で口を湿らせ、やや長くなりそうな話に備える事にしました。
ですが彼の口から発せられた言葉にミカサは少なからず困惑します。

「アンの事をどう思いますか?」
「どうと言われましても…」
「聞き方が悪かったですね。どんな印象を受けますか、という事なのですが」

質問の答を探そうとしてアンの事を考えてみるミカサ。ですが彼にとって何かの
印象を残す様な女性は一人しかおらず、そしてそれはアンでは無かったのです。

「強いて印象を上げるなら何時も怯えている様だという事くらいしか」
「今日、アンを見かけましたか?」
「ええ。今朝ちらりと後ろ姿を」
「様子は?」
「多少はここに慣れたのでしょうか。そう言えば怯えているという事は無くなった様
でしたが」
「後ろ姿でそこまで判りますか?表情を見たのでも無いのに?」
「それは…あくまで印象ですから」
「つまりそういう事です」

ミカサは何と言ったものか、という顔で更なる説明をノインに求めます。

「…意味が掴めないのですが」

それもそうだろう、とでも言う様に頷くノイン。

「ミカサは彼女から受けた印象を語ったと言いましたが、それは彼女が君に伝えた
事実であって“印象”といった言葉で表される抽象的な事柄ではありません」

ノインの説明を咀嚼しながら段々と困惑と不審の混ざった表情を見せるミカサ。

「それは精神感応ですか?しかしそんな事があれば私が気付かないはずは」
「普通の精神感応ならば気付くでしょう。それがそうと気付かせずに伝えられる事が
彼女の能力なのです」
「気付かせずに…」
「そうです。しかも効果の多少はありますが相手の種族は問いません。例外は同じ
竜族だけ」
「そんな能力が竜族の女性のみに現れると?」
「ごく一部の女性のみに、です。私が知る限り今も生きている者の中ではアン一人…
いや、もう一人居ますね。二人きりだと思います」

椅子の背もたれに身体を預ける様に姿勢を正し、天井を見上げて唸るミカサ。
そうして考えをまとめると、やや間を置いてから再び問います。

「彼女の能力は判りました。ですがそれが神の御子の攻略に役に立つものですか?」
「それはユキに聞いてみないと何とも。ただし彼女の能力を単に感情を伝えるだけの
物と思ってしまうのは早計ですよ」
「それはどういう?」
「感情が伝わるとはどういう事だと思いますか?」
「ん?」
「何故相手の感情が判るという事が起こるのでしょう」
「はて。それは相手の感じ方を理解するという事を仰有っていますか?」
「そうです」
「つまり自身の感情への理解を求めているという事なのですよね」
「もっと踏み込んだ能力なのです。感情の同期の強制です」
「感情の強制?」
「そう。今のアンにはそれを自在に操る事は出来ませんが、それでも無意識で発する
信号は彼女の周囲の者に彼女の想いをこれ以上無いくらい正確に伝えます。
拒否は出来ません。必ず彼女と同じ気分を味わわせてしまう」
「それは確かに凄い事だとは思いますが…」

それは要するに喜怒哀楽がはっきりしているだけなのでは、とミカサは一瞬だけ
考えましたが口にはしません。

「やはりそれが攻略とは結び付かないのですが」
「これは想像ですが、ユキはアンの力で神の御子の障壁を破れると思っているのでは」
「あの絶対の壁をですか?」
「ええ」
「それは如何にして」
「それは…」

ノインは笑みを浮かべると言いました。どうやら可能性の一端をノイン自身も
気付いた様子でした。

「やはり答は後でユキに聞いてみましょう。事の成否も含めて。それよりも私としては、
ユキが竜族の最大級の秘密に属するあの能力を知っていた事の方が気になりますが」
「それは…」

ミカサは肝心な事をはぐらかされてしまったなと思いながら、ノインの問いかけへの
答えを考えてみました。

「ユキが押し付けられた感情に気付いたという事では」
「どうでしょうか。彼女を過小評価するつもりはありませんが、知らずに気付く
という様な事は無いと思いますよ」
「では…ユキは私の許に付く前には随分と放浪していたとか言っていましたので」
「ほう?」
「まぁ放浪と言っても魔界の中でのみらしいですが、その際に何処かで耳にした
のでしょう。恐らく竜族の者に聞いたとか」
「旅先で偶然知ったというのは真実かも知れませんが、それを彼女に話したのは
竜族の者では無いでしょうね」
「先程、彼等は話したがらないと仰有っていましたね」
「実際まず絶対に話さないといっても良いくらい言いませんね」
「何故それ程嫌がるのです?」
「考えてみてください。何かの感情を強制されるという事を」
「…」
「誰にとっても、愉快な事では無いはずです」
「確かに」
「しかも受け止めた側はそれを知る事は出来ません。この能力を持つ者の前では
何者も自分の感情を信じられなくなります。果たしてこれは誰の想いなのかと」
「何だか気分が悪くなって来ました」
「明かに避けられてしまうであろう能力、そんな力を持つ者が同胞に居ると他人に
教えるでしょうか?」
「…それは、無いでしょう」

ノインはその反応に満足したかの様に、また深く頷きそして厳粛な面持ちで告げます。

「ですがその所為でアンを避ける様な事はしないで欲しいのです。繰り返しますが、
今の彼女は能力を自分では制御していません。ただ感情が漏れているだけなのです。
仮に彼女が自分を取り戻しても、力を使う事は無いでしょう。これは私からの
お願いですが、どうか奇異の目で見ないでやってください」
「判っています。それに」

ミカサは多少大袈裟に肩をすくめて見せます。

「魔界の者の多様性にはいい加減慣れました。驚きはしても怖れはしませんよ」
「安心しました。正直、ユキがこの話を言いだした時はどう誤魔化したものかと」
「申し訳ありません」
「良いのです」

アンの事を特別な目では見ないと宣言したミカサ。その点に関して彼の言葉に嘘は
ありません。一人の少女の感情に気付いた、否、気付かされたところでどうという
事も無いだろうと彼は判断しました。ですがミカサには何か引っかかるものが
あったのです。アンに関する情報が彼の頭の中で一つに結び付き、そこから何か
別な疑問への答が導かれようとしていました。

「…もしや」
「何ですか?」
「彼女は先の人間界侵攻際に最前線で生き残ったと聞きました。それも間一髪で
あったと」
「私もその話を聞いたときに思いました。残忍な感情に支配されていた天使達、
それでも最後の一線を踏み越える事を纔かながら遅らせたのは彼女の絶対的な絶望」
「それが天使達に彼女を絶望の中で既に息絶えた者として認識させた…」
「或いは既にその時、アンの中で心が壊れてしまっていたのかも」
「それは死者の感情という事ですか」
「想像の域は出ませんけれどね」

確かに想像するだけの過去の出来事。ですが同時に二人はきっと間違ってはいないで
あろうとも思っていました。そして同じく二人の脳裏を一瞬よぎった考え、アンの
恐怖が天使達を必要以上に興奮させ残虐行為に走らせたた可能性については互いに
口にする事は無く、それ以後もその考えが二人の間で話し合われる事は永遠に
ありませんでした。

(第169話・つづく)

# アンの生還に関する私的見解とでもいう様なものなどを少々。
## 何度も書き直していたら短めになってしまいました。^^;

では、また。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
■■■■ hidero@po.iijnet.or.jp ■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ

 記事に対するご意見・ ご感想などがありましたら書いてやって下さい

 件名:
 名前: (ハンドル可)
 E-Mail: (書かなくても良いです)

 ご意見・ご感想記入欄