神風・愛の劇場スレッド 第167話『異郷にて』(中編)(10/11付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗 <hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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Lines: 186
Date: Fri, 11 Oct 2002 17:40:31 +0900
NNTP-Posting-Date: Fri, 11 Oct 2002 17:41:35 JST
Organization: DION Network

佐々木@横浜市在住です。

# 集中する時間がどうもとれず、短めです。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。




★神風・愛の劇場 第167話 『異郷にて』(中編)

●桃栗町の外れ

何も言わずにいる二人の顔を交互に見やりながら、どうしたら良いのか
判断のつかなかったユキ。そのユキの前で先に行動したのはノインの方でした。
ノインはミカサにちらりと顔を向けると黙って席を立ち、そのままリビングを
出ていってしまいます。その際にミカサが微かに頷いた事をユキは見逃さず、
どうやらミカサにはノインの考えが判っているのだろうとは推測出来ました。
しかし相変わらず自分が何をすべきなのか何を期待されているのかが判りません。
ユキが途方に暮れて自分から指示を仰ごうと決意した時になって、やっとミカサが
声を掛けてきます。ごく普通に何時もの調子で。

「立っていないで、そこに座るといい」

ミカサは彼の左隣りの椅子を指差しています。期待とは違った内容の言葉に
やや戸惑いながらもユキは言われた通りにしました。

「あの…」
「ん?」
「やはり私も捜しに出たほうがよろしいのでは?」
「誰を捜すんだい?」
「先ほど飛び出していった女の子です。竜族の」
「ノイン様に任せておけばいい」
「ですが、昨日天使を見ると怯えるという話を聞いていましたのに私ったら」
「いや、彼女をこの家に預かってもらったのは私だし私が注意すべきだった」
「そんな事はありません。私が」
「ミカサの言う通り。気にする必要はありません」

何時の間にか戻っていたノインにユキは驚いた顔を見せますが、当のノインは
その顔には興味を示さずに自分の椅子に座ってしまいます。ユキは再びミカサの
反応からノインが戻った事に気付かなかったのは自分だけだと理解しました。

「間に合いましたか?」
「何とか」
「彼ではマズいにしても、アンを放っておくのは…」
「シルクを行かせました。彼の方がこの町の地理にも明るいですしね」

話について行けず、目線を泳がせていたユキの為にミカサが補足してくれました。

「ユキ、トールン殿を見てどう思うね?」
「どうと言われましても…普通の竜族の方で…」
「今の姿は?」
「人間形態の事ですか?特におかしな点は気付きませんでしたが」
「確かに竜族としては普通の体格だが、人間としては大きい」
「そうですね」
「アウストラリスではさして目立たないだろうが、この国では目立つんだよ。
平均的な体格の違いがあってね」
「はぁ…」
「それでトールン殿にはアンの後を追うのは遠慮してもらった訳だ」
「え?」

ノインがその後を引継ぎます。

「この館や貴女達の陣の周囲を結界が覆っていますね」
「はい」
「先程まで、貴女達を迎える為に結界を開いたままにしていました。
通れる程度に弱めて。それを元の強さに戻しました」
「それが間に合ったと」
「そうです」
「それではトールン氏は今は」
「今すぐ止めても耳に入らないでしょうから、すこし歩き回ってもらっています」
「それは…後で逆にお怒りになるのでは?」
「ですから、この話は内証です。もし聞かれても結界は最初から塞いであり、
アンは纔かな綻びから偶然外へ出てしまったという事にしておいて下さい」

ユキはミカサの顔を見、ミカサが頷いた事を確認してからノインに向けて
頷いて見せました。それからユキは改めてノインに申し出ます。

「私も捜しに行かせてください」
「駄目です」
「何故ですか?」
「目立つ事では貴女もあまり変わりが無い」
「翼ですか?それなら引っ込められます、その程度の変身ぐらい造作な…」
「ユキ」

今度はミカサが引き継ぎます。

「それだけでは無い。ユキは美しすぎて目立つんだ、人間界ではね」

ユキは顔を真っ赤にして俯き、それ以上は何も反論しませんでした。



トールンが欠けた為、結局この朝の集いは単なる朝食のひとときとなって
しまいました。時々は指示を仰ぎつつ、何とか人間界での初の家事をこなして
多少は満足したユキ。昨夜の事もあり、この時は先に帰って良いというミカサの
言葉に素直に従ってノインの家を辞して行きました。もっとも…

「ノイン様、何か?」

額に軽く握った拳をあてがい、何か考え込む様な仕草を見せるノインに
ミカサが尋ねました。やや間が開いてからのノインの返事。

「ユキが外に出た様だ」
「結界の?」
「ああ」
「先程塞いだのでは無かったのですか?」
「忘れたのか?ユキは悪魔族なのだろう?」
「あぁ…」
「悪魔族相手では私の結界など紙切れ同然。もっとも、ユキは上品に抜けて
行ってくれたが」
「まったく…」
「責任を感じたのだろう。ミカサ、良い娘を拾ったな」
「拾ったとはひどい言い草ですね」
「では釣ったと言い直そう」
「…それは」
「冗談だ」

ミカサは眉を寄せて小さく咳払いをします。

「それはそれとして、やはりユキは連れ戻さねば」
「心配性だな、お前のユキは優秀なのだろう?」
「信頼はしています。ですが地理に不案内なのはどうにも」
「敵地を知っておくのは良い事だ。ま、勉強だな」

何やら騒動を楽しんでいる様にも見えるノインの涼しい顔に疑問を持つミカサ。
ミカサはノインの顔をじろりと見詰めてから言います。

「ノイン様」
「何か?」
「あなたがミスト殿と色々あったらしい事は聞き及んでいます」
「どうした。急にそんな事を言いだして」
「居なくなったミスト殿に代わり、妹のユキをからかって溜飲を下げようとか
そんな事を思っているのでは無いでしょうね?」
「心外だな。私をそんな男だと思っていたのか?」
「…」
「…」
「…」

ノインは眉をひくつかせて呟きます。

「…何故そこで否定しない」
「…いえ、つい何となく」

本当にユキを苛めてやろうかと、そう思わなくもなくなってきたノインが居ました。



道が付いているのだから、町までは迷う事は無いだろうと思っていた事を
ユキは歩き出して小一時間で後悔し始めていました。上空から眺めた景色と
地上から見たそれは全く違っていましたから、別れ道で適当にあたりをつけて
進む道を選んでは上り坂に出くわしたり行き止まりだったりといった事を何度も
繰り返してしまいます。ノインの結界を抜けた事自体が思い違いで、これこそが
彼の言っていたトールンを捜し回ったつもりにさせる迷路なのではと疑い出した
頃になって、漸く町の外縁の民家が疎らな地域へと辿り着きました。敵地に腰を
落ち着けた途端の失態…ミカサやノインが何と言おうとも、今朝の出来事は
ユキにとっては恥ずかしい汚点以外の何物でも無く、そしてそれを甘受する様な
真似は流れる血の中にある先祖伝来の誇りとでも言うべき部分が許しません。
もっとも、それがミカサの目の前での失態で無かったならどうしただろうか?
と自省する余裕は失ってはいませんでした。ですから目立たない事を最優先とし
空を飛ぶ事も控えましたし、そもそも町に辿り着く前にすでにユキは本来の姿を
隠しています。服装は知識が乏しいので地元の人間の様子を見て適当に調整する事
とし、取りあえず昨日合流した竜族の人間界生き残り組の格好を参考にしていました。
しばらく行くと、一件の家の前で老人が一人、何か音楽を鳴らしながら
身体を動かしています。それが彼にとっての朝の習慣なのか、たまたまなのかは
ユキには判りません。それでも人間の習俗の参考にはなるだろうと、傍を通り過ぎる
際にそれとなく様子をうかがいました。早朝あまり人気の無い所での事ゆえ、相手も
誰だろうかとユキをじっと見詰めます。そしてユキが通り過ぎた後も老人はずっと
その姿が見えなくなるまで見詰め続けていました。背中にそんな老人の視線を感じ
ながら、ユキは戸惑っていました。何か自分は妙な格好をしているのだろうかと。
目立たない様に竜族の者の中でも彼等が地味だと言っていた者の服装を真似て
いましたし、当然翼は隠しているのに何故あの老人は何時までも自分を見ているのか。
しかし一番肝心な事、銀の髪に金の瞳というおよそ人間離れした素顔、ユキは
それをそのまま晒している事にまだ気付いていないのでした。

(第167話・つづく)

# 予定通り次回で終わる…と思いますが。^^;

では、また。

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