神風・愛の劇場スレッド 第166話『きょうだい』(その13)(9/18付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Wed, 18 Sep 2002 20:17:23 +0900
Organization: So-net
Lines: 840
Message-ID: <am9nc3$5c$1@news01di.so-net.ne.jp>
References: <akalv3$910$1@news01di.so-net.ne.jp>
<akseoa$4pe$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<aksio8$bk6$1@news01cg.so-net.ne.jp>
<algh3r$3qd$1@news01dc.so-net.ne.jp>
<am9l8p$6ss$1@news01bg.so-net.ne.jp>
In-Reply-To: <am9l8p$6ss$1@news01bg.so-net.ne.jp>
X-NewsReader: Datula version 1.51.09 for Windows


石崎です。

 少し遅れましたが、第166話の最終章をお送りします。

 勢い余って2,000行を超えてしまいましたので、(その11)〜(その14)まで
の4分割投稿でお送りします。
 この記事は、今回投稿するうちの3番目の記事です(その13)。

#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説的なものが好きな方だけに。

(その1)は、<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<afvb3c$9p6$1@news01cf.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<ageulu$6ri$1@news01dd.so-net.ne.jp>から
(その4)は、<ah3tp3$glr$1@news01db.so-net.ne.jp>から
(その5)は、<ai0rm3$8ji$1@news01cc.so-net.ne.jp>から
(その6)は、<ajo8kt$ct$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その7)は、<akalv3$910$1@news01di.so-net.ne.jp>から
(その8)は、<akseoa$4pe$1@news01cc.so-net.ne.jp>から
(その9)は、<aksio8$bk6$1@news01cg.so-net.ne.jp>から
(その10)は、<algh3r$3qd$1@news01dc.so-net.ne.jp>から
(その11)は、<am9l8p$6ss$1@news01bg.so-net.ne.jp>から
(その12)は、<am9m5o$1e$1@news01di.so-net.ne.jp>より

 それぞれお読み下さい。




★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その13)

●桃栗町・オルレアン・都の家

「あの…」
「何よ」
「僕達、おばさんを手伝わなくて良いんでしょうか」
「良いんじゃない」

 あっさりそう言うと、都はティーカップに口をつけました。
 買い物から帰って来た都と大和。
 ご馳走になる以上、当然、夕方からのパーティーに備えてお手伝いを。
 そう大和は考えていたのですが、都は大和を自分の部屋に入れた後で自ら紅茶
とお菓子まで運んで来ました。

「取りあえず今は、料理を作ってる最中だから。手伝える事無いし。遊んでて良
いってさ」
「はぁ」
「それより…」

 床に腹這いになり寝転がる形となった都は、大和を上目遣いで覗き込みました。

「な、何ですか」
「取りあえず、仕事の続きよ。資料、持って来てるんでしょ」
「あ、はい」

 そう言う大和の側には、ショルダーバッグが置かれていました。
 都に呼び出された時、てっきり捜査に関する話かと思い、持ち出して来たので
す。
 まさか、買い物を手伝わされるとは思いませんでしたが。

「凄い小さいわね」
「はい。最近買ったんです。ほら、ここにデジカメもあるんですよ」

 大和は、小さくて横に長いノートパソコンを取り出すと、都は驚嘆の声をあげ
ました。

「そこに資料が?」
「ええ。ネットで調べたり、スキャンしたのを取り込んだり。それとこれ」

 大和は鞄の中からクリアファイルと桃栗町周辺の地図、それに筆記用具を取り
出しました。

「それで、どの程度判ったの?」
「はい。昨日の今日なので、ざっとですけど」

 大和は、クリアファイルの中から折りたたんだ地図のコピーを取り出しました。
 本当は昨日、全く眠れない事情があったので、徹夜で作成した事は言いません
でした。

「掲示板にあった桃栗町の怪奇現象スレッドの投稿記事、CATVインターネッ
トのローカルニュースグループ、それに各所のホームページから桃栗町に関する
主な怪奇現象について書かれたものをデータベース化してみました。それを元に、
地図に印をしたものがこれです」
「ここの周辺も結構多いのね」
「はい。このマンション・オルレアンのある丘の周囲というのは、意外にも幽霊
か何からしい目撃情報が多いんです。昔はそんな場所では無かったんですけど、
十数年前位からですね」
「あたし達が生まれた頃からってこと?」
「そこまでは。そしてこの一年間で目撃情報が増加しました。一月に一度位の割
合ですけど、夜間に謎の光球が時々このマンションに向かって飛んで行くのが目
撃されているんです。東大寺さんは見たこと、無いんですか?」
「そうね…」

 都は腕を組み、少し考える様子を見せました。

「無いわね、多分」
「多分って何ですか?」
「訳もなく、寒気に襲われたことはあるけれど」
「きっと、それですよ」
「そうかなぁ」
「ただこれも、証拠は無いんですけど」
「写真、撮れなかったんだ」
「ええ。もの凄い早さで移動するので、デジカメではとても追い切れないとか」
「そう」
「ひょっとして、ジャンヌは…」

 この建物の中に居るのかもと言いかけ、大和は口を噤みました。
 それは禁句なのは判っていたからです。

「案外、このマンションの近くに住んでいるのかもしれないですね」
「このマンションって言いたいの?」
「いや、そうじゃなくて…」
「判ってる。みんながそう言ってる事位。疑惑は完全に消えた訳じゃ無いもの
ね」
「東大寺さん」
「あたしはまろんを全力で守る。ただ、だからといって不利な証拠を黙殺はした
くない」
「判りました。それで、このマンションの周辺の怪奇現象は他にも幾つかあるの
ですが、どれも証拠が無いのでパスします。後で整理して渡しますので」
「宜しく。他の場所は?」
「はい。西部地区ですが、こちらには少女の幽霊の目撃情報が」
「犬を連れた少女の目撃情報って奴でしょう? イカロスを探していた時にあっ
たじゃない」
「それもそうなんですが、犬を連れていないバージョンもあるんですよ。時期は
去年の春辺りですか。この辺りなんですけど」

 大和は、地図の一点をシャープペンシルの先で示しました。

「三枝先生の別荘の辺りね」
「はい。サンセットクリフから町中へと向かう県道沿いに」
「別荘、燃えちゃったのはあの頃よね」
「ええ。その頃を境に、幽霊は出なくなったんですけど」
「それで、他には?」

 別の一点を大和は示しました。

「県道で思い出しました。この西岬の近く」
「事故多発地帯なのよね、そこ。車が余り通らないから馬鹿が飛ばすのよ。それ
で、カーブを曲がりきれずに…」
「その通りです。それから…」
「何?」
「西岬は飛び込み自殺で有名なんですよ」
「あんまり続くから、今は灯台に職員が常駐している筈よ」
「そうなんですか? それでこの辺りにも幽霊らしいものを見たという情報が多
数」
「まぁ、あれだけ人が死んでいれば、幽霊位出るかもね」

 都はそう言い、ため息をつきました。

「他には?」
「1月の初め。世界中で異常気象が発生した時がありましたよね」
「ああ。あの真夏みたいに暑くなった時」
「あの時も目撃情報が多発したんです」
「何、何?」

 そう言えば、最近の一連の事件は、この頃に始まったんだよな。
 大和は急に思い出しました。
 自分がまたも何者かに取り憑かれたこと。
 まろんに何かをしようとした事。
 そして、弥白新聞事件…。

「はい。何かが唸るような音。姿は見えないのに聞こえる足音」
「匂うわね」
「でしょ? 桃栗山や柿山の森の中の木々が風も無いのに台風でも通り過ぎたよ
うに倒れていたそうです。他の地域の自然災害のお陰でベタ記事扱いでしたけ
ど」
「それで、何なのか正体は分かったの?」
「それが、姿は見えないんです。そして、1月の中旬には、何事も無かったかの
ように静けさが。それが、ここの採石場跡地周辺と、ここのトンネル工事現場近
く。それと…」

 大和は、地図上の何カ所かを指し示しました。

「結局、これも判らず仕舞いなのね」
「はい。後は、東大寺さんもご存じの桃栗町上空であった空中の爆発音であると
か、桃栗タワーの展望台の上でする謎の物音とか」
「これも無茶苦茶怪しいわね」
「はい。それから…」
「まだあるの?」
「えっと。夜中に笑いながら、空を飛ぶ少女とか」
「これも証拠は?」
「これは写真を撮ったそうですが、現像したら写っていなかったそうです」
「そうかぁ。知らなかったな。こんなに怪奇事件が多い町だったなんて」
「そうですね。ただ、この町には他にもっと目立つものがありますから、気付か
ないだけかもしれません」
「怪盗ジャンヌのことね。確かにそうだわ」
「でもそれでも、怪盗ジャンヌの出現と怪奇現象の多さの関係に着目し、怪奇現
象の特番で取り上げようとしたテレビ局があったそうです。でも、取材クルーが
一週間程張り込んでいた時には、何も出なかったそうです。これは夏頃の話でし
たか」
「それで番組は?」
「別の企画に差し替えられたそうです」
「そう。それで、他には?」
「そうそう。一つ、超有名なのを忘れていました」
「何、何?」
「桃栗町の心霊スポットで一番有名な場所です」

 大和は、山中にある地図の一点を指し示しました。

「神社?」
「元、ですけど」
「元?」
「ええ。ここは昔、久ヶ原神社って言う昔から代々続く神社があったんです。神
主さんというのは世襲じゃ無いそうなんですが、寂れた場所にある神社なので結
局世襲みたいになってて、神主さんも久ヶ原って名乗ってて。あ、これは余談で
すけど。それでその神社、周囲に人家も少ない寂しい場所にあったんですけど、
高校生で美人の巫女さんがいて地元ではちょっと有名で、昼間や祭りの時はそこ
そこ賑わっていたそうです」
「夜は?」
「そこ、幽霊が出るって噂があって、近寄る人も少なかったとか」
「それが有名なのね」
「いえ。その神社の境内には洞窟があって、そこを戦争中に軍が更に拡張しよう
としたんですけど、完成する前に戦争が終わっちゃって」
「ここら辺では良く聞く話よね」
「それで戦後は立ち入り禁止になっていたんですけど、子どもが出入りしてて」
「あ、判る判る」

 都は、うんうんと肯きました。

「ある時、落盤事故があったんです。それで亡くなった子がいて、洞窟の入り口
は封鎖されました」
「それが幽霊の正体?」
「…と言われてますね。ですが、ここが心霊スポットとして有名になったのは最
近の話で」
「最近?」
「四年前のある晩、火事が起きて社殿や社務所を始めとして建物は全焼。神社に
住んでいた巫女さんとそのお兄さん…あ、その人が神主さんだったそうなんです
が。それで二人とも行方不明になったんです」
「行方不明?」
「焼け跡から、遺体が見つからなかったんですよ。その後も消息は不明」
「火事の原因は?」
「放火だと当時の新聞には掲載されたそうです」
「犯人は誰なの?」
「判りません。事件ということで警察は捜査したそうですが、何しろ山の中で周
囲に人家も少なく、通報があり、消防車が駆けつけた頃には既に建物は焼け落ち
ていたくらいで」
「目撃者が居ないってこと」
「はい」
「事件はどうなったの?」
「迷宮入りじゃないですか。それでそれ以降、夜にこの神社の跡地に近付くと
…」
「どうなるの?」
「出るんですよ。かなりの確率で」
「出るって…幽霊?」
「ええ」
「幽霊って言うと、やっぱり?」
「東大寺さんが想像しているような幽霊が出たという話もありますし、姿が見え
ないのに足音だけがしたり、幽霊を写真に収めようとカメラを持っていったら、
使えなくなっていたり。終いには、ここを取材しようとしたテレビ局クルーを乗
せた車のタイヤがパンクしたことも。もっとも、そのテレビ局は結局何も見つけ
られずに帰ったそうですけど」
「オンパレードね」
「そんな事が続いたので、夜になると地元の人は決して近付かないそうです」
「逆にそういうのが好きな人は肝試しに行きたくなるんじゃないの?」
「はい。夏になると地元の学生とかが、肝試し大会の会場とかにするんですけ
ど」
「出たの?」
「案外そう言う時には、何も出なくてなぁんだ、というオチがつくらしいです
が」
「ふ〜ん。それでそこも、結局証拠は何も無いんでしょう?」
「はい。良く判りましたね」
「これまでのパターンがみんなそうだったからじゃ!」
「痛!」

 都に頭を叩かれた大和は、悲鳴を上げました。

「次!」
「ええと。最近の話なんですけど、桃栗駅の近くで犬を連れたおばあさんが孫の
家を探していて、そのおばあさんは良く見ると影が無くて」
「パス!」
「え〜。そのおばあさんは何故か英語を喋ってて…」
「だから関係無さそうな話は良いって。それにあたし、怪談話は嫌いなの!」
「え〜。折角集めたのに」
「それは後で読ませて貰うから、ジャンヌと関係がありそうなのだけ教えて」
「だとすると、やはりここ一年以内の出来事に絞るべきでしょうね」
「そうねぇ」
「まずは、一月の怪奇現象の現場を見に行ってみましょうか。もう何も残ってい
ないかもしれないですけど」
「そうね。それと、家のマンションに向かって飛んで行く光球って言うのも気に
なるわね。誰が言ったか判らないの?」
「ええと…。調べてみます」
「判らなかったら聞き込みね」
「え〜」
「足を使っての聞き込みは捜査の基本よ」

 再び、都は大和の頭を叩きました。

「何度も叩かないで下さい」

 頭をさすりさすり、ぼやく大和でした。


●オルレアン

 洗濯物を干し終えた後、再び眠ってしまったまろん。
 目を覚ましたのは午後四時過ぎのこととなりました。
 今度こそはとツグミの家に電話をかけたまろん。
 しかし、今度もツグミは電話口には出ませんでした。

「随分長いお買い物ね」

 ふと、この前の張り紙の一件を思い出し、嫌な予感がしたまろん。

「そうよ。こんなに雪が積もっているから、普段より時間がかかっているのよね、
うん」

 一人でそう納得した直後、もう連絡がついても、この積雪ではここまで出て来
てと言うのは迷惑かもと思い直したまろん。

「ま、次の機会もあるわよね」

 そう呟くと、リビングでぼんやりと時を過ごすのでした。

「…セルシア。そう言えば大丈夫かなぁ?」


●枇杷町・山茶花邸

 トキと一緒に、丘の上にある山茶花邸に辿り着いたセルシア。
 流石に今度は、弥白が住む建物に真っ直ぐ辿り着くことが出来ました。
 窓から、弥白が住んでいる三階の部屋を端から順番に覗き込んだセルシア。

「まだ、帰っていないみたいですです…」

 屋根に座り、辺りの様子を伺っていたトキに、そう報告しました。

「今日は人間の暦で土曜日。お休みです。学校は無いでしょうから、どこかに用
事でもあったのでしょう」
「どうするですです?」
「そうですね。当てずっぽうに探しても仕方がありません。ここで待っていれば、
いずれは帰って来るでしょう」
「でも、かなこちゃんのところかもしれないですです」
「成る程。その可能性は否定出来ませんね」
「では、かなこちゃんのところに行きましょう!」

 言うなり、飛び立とうとしたセルシアの翼を素早くトキは掴んで止めました。

「何するですです」

 頬を膨らませて、抗議するセルシア。

「行き違いになった可能性はあるとして、着替えやら何やらのために、こちらに
戻って来る可能性は大きいと考えます。ですから、セルシアはこちらにいて下さ
い。病院は私の方が見てきます」
「判りましたですです…」

 セルシアが不承不承肯くと、トキは翼を広げ空に飛び立ちました。
 そのまま飛び去りかけ、セルシアの方に向き直りました。

「セルシア。もしも向こうに弥白嬢が現れたら、連絡します」
「判りましたですです」

 セルシアが答えると今度こそ、トキは飛び立って行きました。
 その姿を自分の能力で見えなくなるまでどこまでも、セルシアは追っているの
でした。

「一緒に、お仕事したかったな…」

 完全にトキの姿が見えなくなってから、セルシアが呟いた時。
 眼下の屋敷の敷地内に、自動車の音が響きました。
 弥白が帰って来たのだと思い、音の方角を覗き込んだセルシア。

「色が違うですです」

 弥白が乗っている車は黒。
 しかし、今、屋敷の前に走り込んできた車は、赤で塗装されていました。

「弥白さんじゃないですです」

 そう気付くと、セルシアは屋根の上にごろんと横になり、何時しか意識が遠の
いて行くのでした。


●桃栗町・桃栗西岬上空

 山茶花邸を飛び立って暫くして、セルシアに屋敷に弥白が現れたら連絡するよ
うに伝えるのを忘れていたことに気付いたトキ。
 しかしそれを伝えるために戻るのも馬鹿げていましたし、直接話しかけるのも
セルシアを信じていないように思われるので躊躇われました。
 定期的に連絡を取るようにすれば良いか。
 そう思い、トキは名古屋病院へと向かってゆっくりと飛び続けていました。

 その途中、先程の灯台の上空に差し掛かると、そこでトキは静止しました。
 何を思ったのか下降し、岬の先端にある灯台の頂点へと下りそこで腰掛けます。
 灯台の周囲をぐるりと見回したトキ。
 目の前の海には大小の船が行き交っているのが見えました。
 そして手前の小島には、何やら人間が手を加えた跡が見えます。
 地図にあった、砲台の跡地というものなのでしょう。
 左手を見ると、海原の向こうに別の岬が見え、別の灯台が見えました。
 サンセットクリフと地図にある岬でしょう。
 そして最後に右手を見たトキ。
 山から海に向かって急斜面で落ち込む地形の途中に道が走っているのが判りま
した。
 その中のある一点をトキは凝視していました。

「灯台もと暗し。人間の言葉で言うならば、そう言う事ですね」

 そう呟いたトキ。

「(セルシアも気付いて? いや、セルシアならば気付けば自分から口にするで
しょうから。しかし…)」

 もしも気付いたら、自分はどうすべきなのだろう。
 それより、セルシアは自分のことをどう思うのだろう。

「(やはり、我々はここに長居すべきではありません。一刻も早く、天界へ戻ら
ないと)」

 そう決意すると、トキは再び空中へと飛び上がり、そして今度はやや急いで名
古屋病院へと向かうのでした。


●オルレアン・都の家

「こんばんわ〜」

 稚空と共に、東大寺家を訪れたまろん。
 リビングに入ると、準備に忙しく動き回る桜と都、そして何故か大和の姿があ
りました。
 ソファには、昴が座っていました。

「えっと…」

 目的の人物の姿が見当たらず、探し回るまろん。
 すると、後ろから声をかけられました。

「まろんちゃん?」
「あ、さゆり姉さん!」

 黒髪のロングヘアー。
 顔には昴と同じように眼鏡。
 前に会ったのは何年前でしょうか。
 その時から変わらぬさゆりの姿が目の前にありました。

「久しぶり〜」

 どちらからともなく、抱き合っていたまろんとさゆり。

「元気そうね」
「はい。さゆり姉さんも」
「こんにちわ」
「こんにちわ。まろんちゃん、こちらの方は」
「名古屋稚空です」
「クラスメートで、私の部屋のお隣さんなの」
「あら。あなたが名古屋君なのね。都から話は常々」

 どんな話なんだろう。まろんは思いました。

「お、来たね。これで全員揃ったな」
「おじさま」
「どーも。お邪魔します」

 氷室の後ろに、春田刑事と秋田刑事の姿がありました。

「夏田さんと冬田さんは?」
「特捜班を空には出来ないんで、居残りです」
「そうなの、残念」

 東大寺家の一家、──氷室、桜、昴、さゆり、都──五人が勢揃いした上、ま
ろん、稚空、大和の三人。そして、春田と秋田。
 ダイニングだけではもちろん入りきらず、リビングでのパーティーとなりまし
た。

「本当に久しぶりだな。こうしてみんなが集まるのは」
「夏田と冬田が参加出来なくて泣いてました」
「仕方無い。このご時世だ。おい、後でちゃんと料理持っていってやれよ。流石
に酒は駄目だが」
「はいっ」
「まさか春田さん達、この後も仕事なの?」
「そうなんです。ううう…」
「泣くな春田。僕だって彼女に振られそうなんだ」
「え!? 秋田さんに彼女なんて居たの!?」
「しまった…」

 秘蔵のワインが開けられ、桜、さゆり、昴の順に注いでいく氷室。
 春田と秋田は車で来ているため、それを目の前で指を加えて見ていることしか
出来ませんでした。

「おぃ母さん。グラス四つ持って来てくれ」
「良いんですか?」
「少し位構わないだろう」

 棚からそれぞれ形が違うグラスを四つ、桜が持って来ると、まろん達の前に置
きました。

「一応、気持ちだけだが」

 順番に、氷室がグラスの中に赤い液体を注いで行きました。

「それじゃ準備は良い?」
「はいはーい!」
「それじゃ、さゆり姉さんの帰郷を祝って、乾杯!」
「乾杯〜!」

 都の音頭により始まった、東大寺家のホームパーティー。
 暫くはたわいもない話をしていましたが、やがて酒を飲んでいた者がほろ酔い
加減になった頃、さゆりが急に立ち上がりました。

「ここで皆様に重大発表がありまーす!」
「さゆり姉さん?」
「何だ。俺は聞いてないぞ?」
「へへ…。あたしの旦那も知らない重大ニュース!」
「まさか、あなた」
「ふっふっふ。あたし今度、ママになりまーす!」
「えええええっ!?」

 さゆりの奇襲攻撃に、その場にいた全員が驚愕しました。

「おめでとうございます!」

 一番最初に立ち直ったまろんが、祝福の言葉を述べると、次々に皆が祝福の言
葉を述べました。

「これで父さんもお爺ちゃんだね」
「ううう…。孫の顔を生きているうちに見る事が出来るとは」
「だけどあなた、赤ちゃんは作らないって」
「へへ…。そのつもりだったんだけどね」

 さゆりは着席すると、頭を掻きました。
 そうしてから、まろん達の方をじっと見ていたさゆり。

「ま、いっか。話しちゃえ」
「何ですか?」
「あたしの旦那、今海外じゃない。それで、あっちの方もご無沙汰だったのね」
「さゆり!」
「良いじゃない。みんな子どもじゃ無いんだし」
「それでそれで!?」

 目を爛々と輝かせて、まろんは聞きました。

「ほらぁ。興味津々でしょ。それでね、旦那がクリスマス休暇で帰って来た時に、
久々に会ったのでお互いに燃え上がったのね。それで、つい…。出来ちゃいまし
た。三ヶ月だってさ。丁度クリスマスに出来た赤ちゃんって事になるのかしら」
「稚空、デレっとした目で見ない!」
「痛てて…まろん、止めろ」

 何か良からぬ想像をしている様に見えた稚空の頬をまろんはつねりました。

「それでどうするの?」
「どうするのって生むに決まってるでしょ。旦那が何て言うかだけど、嫌とは言
わないだろうし、言わせない」
「いや〜さゆりさんに赤ちゃん! 実に目出度い!」

 突然春田が、叫び出しました。

「おい春田、お前酒を…」
「良いじゃないですか。僕は飲んでませんから」
「そうよね。おめでたいことじゃない。おめでとう、さゆり姉さん」
「おめでとうございます」
「さゆり〜」
「ちょっと、父さん! 離して〜」



「糞〜署長の奴〜」
「全くですよ警部! 飲まなきゃやってられませんよ。ささ、ぐーっと」
「おっとっと…」

 パーティーは進み、何時しか氷室と春田は酒に飲まれた状態にありました。

「父さんがあんな酔い方するなんて」
「疲れている上に、このところ都さんもご存じの事情で色々溜まってましたか
ら」
「事情?」
「警察内部の事情よ。まろんには教えてあげない」
「ケチ…」
「怪盗ジャンヌ対策として、本庁から特殊部隊が増派されたんです。それで」
「秋田さん!」
「プレスリリースも出てます。公開情報ですよ」
「特殊部隊とは穏やかではありませんね」

 話を横から聞きつけた、稚空が口を挟みました。

「この前の体育館崩壊事件で警察の面子は丸つぶれです。あれで死者が出ていれ
ば、署長の首は飛んでいたでしょう。救出作戦の手際の良さの方にマスコミが注
目してくれたお陰で、今のところその心配はありませんが」
「みんなが無事に脱出出来たのは、怪盗ジャンヌのお陰なのにな」

 小声で、稚空は言いました。

「名古屋君、このことは?」
「もちろん、誰にも言ってない。頼まれたからな」
「それならば良いですが。この件は、公表はされていません。公表したら、それ
こそ警察の面子丸つぶれですから。それに誰も信じてはくれないでしょう。まろ
んさんもお願いします。このことは内密に」
「判りました」

 戦いは自分達とフィン達の間でだけ行われているのでは無かった。
 自分のした行動の結果が、多くの人達の運命をも変えて行く。
 人間をも巻き込むことも厭わず、段々手段を問わなくなっている魔界の者達。
 このまま愚図愚図していたら、もっと大きな惨事を招くことになるのでは。
 魔界の者達、そしてフィン。
 自分の魂を神から取り戻すことが目的だとノインは言った。
 もしもそれで済むのなら。
 でも、それで人類が滅びてしまったら、どうにもならない。
 だけど、フィンと戦わなくてはいけないの?

「な〜に暗い顔してんのよ、まろん!」

 いきなり背中を叩かれ、まろんは心臓が止まるかと思いました。

「み、都!」
「あのさ、ちょっとあたしの部屋に来ない? 話があるのよ」

 都がまろんの耳元で囁きました。
 まろんが隣をちらりとみると、稚空は今度は大和と昴の会話に口を挟んでいる
ようでした。反対側では、さゆり、氷室、桜が話しており、ついにダウンした春
田を秋田が介抱しているのが見えました。

「うん。判った」
「じゃ、待ってる」

 まろんの気持ちを察したのか、都は一人ですたすたと部屋の外に出て行きまし
た。
 少し遅れて、極々自然にまろんも部屋から出て行くのでした。



 それまでまろんの側から離れようとしなかった稚空が昴と大和の会話に割り込
んだのは、その内容に興味を持ったからでした。

「その話、僕にも聞かせてくれませんか?」
「どこから話せば良いかな?」
「出来れば最初から」
「判ったよ。僕が、地震と地殻変動の研究をしていることは知ってるよね」

 稚空は肯きました。

「それで地震の情報については何時も注意している訳だが、最近この町内が震源
の地震が何度も観測されるようになった」
「そんなのは感じないが」
「うん。身体には感じない程度の揺れだ。それで各地の観測拠点に設置されてい
る地震計がキャッチした地震波は通常コンピューターによって処理され、複数の
観測点より収集したデータより震源も求められるのだが、余計なノイズ…例えば
工事とかだな。それも拾ってしまうので、最終的には人間がチェックすることに
なってる。専門家が見れば、本物と偽物の区別がつくという訳だ」
「それで、桃栗町のは?」
「本当の地震もあるにはあったが、大部分が地震では無かった。震源も極浅い」
「年度末で、あちこちで工事しているからかな?」
「確かに、震源地と推定される地点の中に、工事現場もあるのだが、それだけで
は説明がつかない点もある」
「例えば?」
「地震波は、夜間も観測されているからさ」
「成る程」
「それで出来れば原因を細かく調査したいんだが、他にも色々仕事は山積みだし、
予算は無いしで結局放置されている。観測所では、機械が役立たずだと嘆いてい
るそうだ」
「で、その場所なんですが、面白いんですよ」

 今度は大和が口を挟みました。

「これ何ですけど」

 テーブルの上に広げられている紙を大和は指差しました。

「桃栗町の地図か」
「はい」
「この印は?」
「名古屋君は知ってますよね。この町内の心霊現象や超常現象についてマーキン
グした地図です」
「そんな物作っていたのか」
「はい。イカロスの探索の時に幽霊話があって、興味を感じたので」
「そんな事もあったな」
「それでさっきの地震…謎の振動の震源地を重ね合わせると」
「こことここ、それとここと…」
「あれ? この場所は?」
「はい。謎の陥没事故がありましたよね。その場所です」
「ちなみに捕捉すると、ここでは、陥没事故の後は地震波は観測されていない」
「それでこの場所なんですが、一月の異常気象を覚えてますよね?」
「ああ」
「その時にネット上で流れた噂、知ってますか?」
「何だったけな?」

 稚空はとぼけました。
 本当は知っていたのですが、原因が容易に推測出来たからです。

「姿が見えないのに謎の足音。風もないのに倒れた木々」
「そんなことがあったのか」
「証拠は倒れた木を除けば何も残っていないんですけどね」
「水無月君の話を聞いて僕は直感したよ! この桃栗町の地下には何かが棲んで
いる!」
「そうでしょうそうでしょう」
「僕は超常現象や怪奇現象が趣味でね。こういう話を聞くとワクワクするんだ」

 昴は立ち上がり、テーブルにどん、と両手を突きました。

「それで水無月君と話し合ったのだが、一度現場を見に行こうということになっ
てね」
「昴さんは忙しいので、昴さんのお休みに合わせて行くことになりますけど」
「最近、土日も研究所に籠もりきりでね」
「良いですよ。僕達は時間はたっぷりありますから」
「そう言っていられるのも今のうちだけだぞ。それでどうだい、名古屋君も…」
「いえ、僕は…」
「そうかい。残念だな。まぁ、気が変わったら教えてくれたまえ。我々桃栗探検
団は何時でも団員を募集しているぞ。わっはっは…」

 酒が回っているのか、昴は何時になく陽気でした。
 そんな昴を見ながら、困ったことになったと稚空は考えているのでした。



 扉は既に閉じられていましたが、ノックをせずにまろんは親友の部屋の中に入
りました。
 そして何も言わずに、床に置かれていた座布団の一つにまろんは腰を下ろしま
した。

「ふぅ。疲れた…」

 学習机の椅子の背もたれに都は身体を預けてため息をつきました。

「お疲れ様。あんなにご馳走沢山用意したんだもん。都も手伝ったんでしょ?」
「まろんが手伝いに来てくれるのを期待してたんだけどな」
「ごめん。寝てました…」
「夜更かしするからよ。部活もさぼったままだし、たるんでる」
「あ、そう言えば今日!」
「安心なさい。雪のため、今日は部活は休み。連絡があったわ」
「そんな連絡…」
「連絡網はあたしがまろんの前でしょ。電話するのも何なので伝えに行ったら、
あんな格好で出て来るから」
「だって、あんなチャイムの鳴らし方は都しかしないし」
「まぁ良いわ。明日から、ちゃんと部活にも出るのよ」
「明日もあるの?」
「そうよ。団体戦の日程も決まったし」
「何時なの?」
「来週の木曜日。場所は枇杷高校の第一体育館だってさ」
「枇杷高?」
「そ。敵地で演技することになる訳。先輩達は」
「ふ〜ん。大変だね」
「人ごとみたいに言わないでよ。あたし達も応援に行くの!」
「そうだね」
「桐嶋先輩もこれに勝てば、全国大会に行けるんだから、しっかりと応援しない
と」
「うん。そうだよね!」

 まろんは、大きく肯きました。

「ま、応援は応援として、あたし達も全国大会が控えてんだから、そろそろ練習
を再開しなくちゃね」
「うん」
「実を言うと、あたしも練習先週はさぼってたんだ」
「そうなの?」
「うん。ジャンヌの事で色々調べてたんだ。あんな大騒ぎになって、警察も色々
大変みたい」
「そうだね…」

 少し憂鬱な気分となったまろん。
 それを察したのか、都は直ぐに話題を変えて来ました。

「そう言えばさ、今日委員長と買い出しに行ったんだけど」
「委員長と?」
「うん。男手が必要だったし」

 少し前までの都なら、強引に稚空を呼び出したのに。
 やっぱりこの二人は本物なのだろうか。
 そんなことをまろんは思います。

「あ、何か勘違いしてる」
「え!?」
「委員長とあたしの関係を疑ってんでしょ。顔に書いてある」
「そんな事無いよ」
「それはそれで、あたしに失礼だわ」
「どっちにして欲しいのよ」
「委員長とは共闘することにしたの」
「きょうとう?」
「共に闘う。ジャンヌ逮捕に向けて、いっそう協力を深めることにしたの。あい
つ、良く考えてみると御曹司で物資調達に使えるし、話してみると意外に色々知
ってて、現場ではからきしだけど、裏方では結構役に立つんだ」
「ふ〜ん」
「あ、話が逸れたわね。それでスーパーで、ツグミさんを見かけたのよ」
「ツグミさんが!?」
「でも一人じゃ無かったし、遠かったんで声はかけなかったんだけどね」
「そう…」
「それで一緒に居たのがね、全君だったのよ」
「全君?」
「そ。あの足の悪い子。楽しそうに買い物してた」
「そうなんだ」
「何時の間にあの二人、あんなに仲が良くなったのかしらね」
「そう…なんだ」

 都がこちらの様子を伺っているのが判りました。
 やっぱり、気付かれてるのかな。

「そうそう、本題に入らないとね」
「本題?」
「話があるって言ったでしょ」

 そう言うと、都は床の上のデイバッグの中からごそごそと、何かを取り出しま
した。

「何、それ」
「いつかの賭け約束」
「ああ、あれ」
「ここにしましょ」

 都から何かのチケットを渡されたまろん。
 見ると「水無月ギャラクシーワールド」と印刷されていました。

「うわ、これ」
「へへーん。まろん、遊園地好きでしょ」
「うん! 開園日のチケットなんて、良く手に入ったわね。招待客だけだよね」
「偶然、手に入ったのよ」
「委員長に頼んだとか」
「ギク」
「まさか図星?」
「まあね。是非貰ってくれというから、丁度良いかなと思って」

 本当は、大和は別の意図があって都に渡したのではと感じたまろん。
 でも、鋭い都のこと、判っていて敢えて自分に差し出したのではとも思います。
 一瞬の逡巡。

「ありがとう! 一度行きたいと思ってたんだ! あ、でもこれ」
「何よ」
「ご招待日って金曜日じゃない。学校…」
「そんなもん、さぼりよ、さぼり」
「でも…」
「大会翌日だから、部活も休養日になるだろうし、一日位良いでしょ。クラスの
みんなとも会わずに済むし」
「そんな事気にする?」
「だって、まろんとデートだもん。誰にも邪魔されたくない」
「デート?」
「そう言う約束でしょ。都様に任せなさい。ちゃんと一日奢るから。夜まで、
ね」

 夜。その単語を都は強調しました。

「うん」
「じゃ、当日を楽しみに待つのだ」
「はぁい。都様」

 二人は見つめ合い、そして笑い合うのでした。

(第166話(その13)完)

 アニメしか知らない人に捕捉すると、さゆり姉さんは、原作で都の姉と設定さ
れている人です(一度も登場しておらず、顔の設定だけがある)。

 では、本当の最終章(その14)へと続きます。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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