神風・愛の劇場スレッド 第166話『きょうだい』(その14)(9/18付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Wed, 18 Sep 2002 20:50:48 +0900
Organization: So-net
Lines: 421
Message-ID: <am9pan$rbq$1@news01dd.so-net.ne.jp>
References: <akseoa$4pe$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<aksio8$bk6$1@news01cg.so-net.ne.jp>
<algh3r$3qd$1@news01dc.so-net.ne.jp>
<am9l8p$6ss$1@news01bg.so-net.ne.jp>
<am9nc3$5c$1@news01di.so-net.ne.jp>
In-Reply-To: <am9nc3$5c$1@news01di.so-net.ne.jp>
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石崎です。

 少し遅れましたが、第166話の最終章をお送りします。

 勢い余って2,000行を超えてしまいましたので、(その11)〜(その14)まで
の4分割投稿でお送りします。
 この記事は、今回投稿するうちの最後の記事です(その14)。

#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説的なものが好きな方だけに。

(その1)は、<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<afvb3c$9p6$1@news01cf.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<ageulu$6ri$1@news01dd.so-net.ne.jp>から
(その4)は、<ah3tp3$glr$1@news01db.so-net.ne.jp>から
(その5)は、<ai0rm3$8ji$1@news01cc.so-net.ne.jp>から
(その6)は、<ajo8kt$ct$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その7)は、<akalv3$910$1@news01di.so-net.ne.jp>から
(その8)は、<akseoa$4pe$1@news01cc.so-net.ne.jp>から
(その9)は、<aksio8$bk6$1@news01cg.so-net.ne.jp>から
(その10)は、<algh3r$3qd$1@news01dc.so-net.ne.jp>から
(その11)は、<am9l8p$6ss$1@news01bg.so-net.ne.jp>から
(その12)は、<am9m5o$1e$1@news01di.so-net.ne.jp>より
(その13)は、<am9nc3$5c$1@news01di.so-net.ne.jp>より

 それぞれお読み下さい。




★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その14)

●桃栗町・桃栗山山麓

 桃栗町の市街地を見下ろす桃栗山。
 桃栗町で一番高い山として知られるこの山の麓には、鎌倉時代から続くと言わ
れる神社、久ヶ原神社があります。
 いえ、あったと過去形で言うべきでしょう。
 神社は四年前に主な建物が火事で焼け、行方不明となった神主の後を継ぐ者も
無いままに、そのまま放置されていたのですから。
 元々人気が無かった神社周辺。
 幽霊が出ると噂が立ち、夜になるとますます近寄る者も居なくなった神社跡。
 そこに、翼を持つ人外の者が、一人、また一人と降り立って行きました。
 続いて、翼を持たない者が忽然と空中に現れると、ほぼ垂直に地面へと降下し
て行きました。

「以前閲兵した時より、数が多いな」
「クイーンが編成を命じられた頃に比べ、数が倍増しているとの報告が入ってお
ります」
「人間で数を増したか」
「天使族もほぼ同じ割合で増えております。クイーンのご威光かと」
「おだてには乗らんぞ」

 二の鳥居の上に立ち、普段の服装にマントをつけた姿のフィンは続々とアウス
トラリス──オーストラリア──より、僅か三刻程で移動して来た、自分の親衛
隊の到着を見守っていました。

 やがて境内は、人外の者と元は人間であった者で溢れかえりました。
 境内だけでは手狭で、余った者は空中に隊列を組んで居ました。

 元は社殿のあった場所の上空にノインと立ち、彼らを見下ろしていたフィン。
 やがて、隊列の先頭に居た人間の男が一人、フィンの前に進み出て、叫びまし
た。

「申告します! 第二親衛旅団「フィン・フィッシュ」第一飛行猟兵大隊、大隊
長ミカサ・サイゴウ以下定数一千名、現有員八百九十名。並びに義勇竜族飛行中
隊百七名。アウストラリス在留竜族三十名。魔王様の命により、クイーンへの援
軍として着任しました!」
「長旅ご苦労であった。また、アウストラリスの我が同胞の救出作戦、大儀」
「勿体ないお言葉」

 跪くミカサ。
 フィンは、予め用意してあった巻物を広げ、大隊員に告げました。

「今回の作戦の功により、本大隊及びその他の竜族の部隊を統合、大隊長の名を
冠し、『ミカサ戦闘団』を名乗ることを許し、クイーンより軍旗を授ける。なお
も一層の忠勤に励むように。また、今回の作戦に参加した全ての兵士諸君には、
追って魔王様直々に、恩賞を下されるようにこのクイーン自ら願い出よう」
「勿体ないお言葉」
「近う寄れ」
「はっ」
「ノイン、軍旗を」
「は」

 ノインの手の中に、どこからともなく旗が現れました。

「クイーンより戦闘団の軍旗を授ける」
「有り難き幸せ」

 ノインから軍旗を受け取ったミカサに、フィンは更に近付くように命じました。
 戸惑いながらも、ミカサはフィンに近付きます。

「お前自身への褒美だ」

 そう言うと、フィンは空中に跪いていたミカサの額に接吻しました。

「あっ!」

 隊列の中から、女性の声がしました。
 見ると、女性型の天使が口を押さえているようでした。

「ユキ」

 クイーンの視線に気付き、ミカサが呟きました。

「お前の恋人か?」
「いえ。その様な者では。これはとんだご無礼を」
「気にするな。人間界では挨拶代わりだ。他意は無い。その様にあの娘に伝えて
くれ」
「承知しました」

 ミカサが隊列の先頭に戻ると、フィンは上空へと再び浮上し、堕天使と元人間、
そして竜達の混成からなる兵士を見回しました。

「総員傾注! クイーンよりお話がある」

 ノインがそう叫ぶと、フィンは居並ぶ兵士達に話し始めました。

「ミカサ戦闘団の兵士諸君! 本日は魔界よりアウストラリス、そしてヤマトと
長旅ご苦労であった。途中、一名も欠けることなく、作戦目的を完遂出来たこと
は、大いなる喜びである。これも諸君ら一人一人が、全く何も無いに等しい状態
から厳しい訓練に耐えて来た、その努力の成果である。しかし! 諸君ら一人一
人が自覚している様に、これは戦いの第一歩に過ぎないのだ。魔界でも聞かされ
ているであろうが、ここで改めてこの戦いの意義について確認しておきたい。人
間界を巡り魔界と天界は、果てしない戦いを繰り広げてきた。しかし今目の前に
居る兵士諸君の多くは、片や魔界を敵と教えられた天界に生を受け、その天界か
ら捨てられ、又は自ら捨てた者達、片や魔界と天界の争いの場である人間界に生
を受け、その争いに巻き込まれ人の世を捨てた者達である。本来、魔界の側に立
ち闘う義務の無い我々が魔王様の為に剣を取る。それは何故か!」

 フィンはそこで言葉を区切り、周囲を見回しました。
 もちろん、答えがあろう筈はありません。

「天界と魔界の長きに渡る争いを終結させ、魔界、人間界、天界に平和をもたら
す為である! その為にすべきことは何か! 天使諸君! 私も含め、天界では
魔界は倒すべき絶対悪であると教えられてきた。我々の魂の源であり、また、
我々が蘇る先である人間界を思うがままに汚し、やがては滅亡させる存在である
と! その為に、厳しい修行も戒律も、我々は耐えてきた。しかし諸君は同時に
知っている。神の名の下に、魔界との戦いという大儀の下に、我らを正しく導い
てくれる筈の天界上層部は、我々に贅沢を禁じながら自分達は酒色に耽り、その
一方で掟を破った者は厳しく罰する! このような不条理が許されて良いの
か!」

「そうよ!」
「幹部会を倒せ!」

 天使達の間で、声が上がりました。

「この場にいるヒト族と竜族の諸君に理解して頂きたいことがある! 我々天使
族は、天界の大いなる支配者たる神に対する敬意は失っていない! 例えこの身
体に堕天の印を刻み込み、魔王様への忠誠を誓ったからとて、神と、我らを生み
育んだ天界の地を捨てた訳では無いのだ! 我らが捨てたのは、我らの天界への
忠誠を裏切り、我らの純真さを踏みにじり、都合が悪くなると我々を捨てた天界
を支配する一部の上級天使達である! ヒト族の者に聞いて欲しい! 諸君らが
どの様な思いを抱き、我が参謀たるノイン殿の呼びかけに応じ、我が親衛隊に馳
せ参じたのか、私には判らない。しかしこれだけは約束しよう! 諸君らはそこ
に居るノイン殿の様に、人間界で生を受けながら、天界と魔界の争いに巻き込ま
れ、人としての道を踏み外した者であると聞いている。もしもこの世界に平和が
訪れることがあれば、諸君らの様な思いをする者が減るであろう。もちろん、諸
君自身が身を以て知るように、魔界がある限り、人の道を外れる者は絶えないで
あろう。しかし、この戦いに勝利すれば、魔界の平和に貢献した者として、ヒト
族の地位は大いに向上するであろう。魔界は最早、ヒト族に取って異郷では無く、
諸君らの第二の故郷となるであろう。そうする為に、私もそこに居るノイン殿も
尽力するであろう! 竜族の方々に申し上げる! 先の戦いでは我らが同胞との
間で多くの命が失われたことを遺憾に思う。にも関わらず、我々と共に闘うこと
を承諾してくれたことを感謝する! 約束しよう! 次なる戦いで必ずや勝利し、
アウストラリスの同胞に再び故郷の地を踏ませることを! 天使族もヒト族も、
魔界の最古参である竜族から受けた恩義は忘れない! 必ずや、竜族の地位を高
め、戦いに出ずとも済む世界を築くことを!」

「クイーン万歳!」
「ノイン様万歳!」
「魔王様万歳!」

 そこかしこから、声が上がりました。
 普通はこの様な場合、「天使共を殺せ」「天界を倒せ」などのかけ声が出るの
だがな。
 きっと、人間達も天使である私に遠慮しているのだろう。
 そう、フィンは思います。

「我々が目的とするのは、天界軍に勝利し、天界の現体制を揺さぶり、最終的に
はこれを打倒することである。その為にすべき事は何か。この地に集結した我ら
の動きを知り、天界はそう遠くない将来、一軍を編成し、この地に降臨するであ
ろう。それと戦い勝利するのか。否! 断じて否である。我らが戦うべき相手は、
天界では神の御子と呼ばれる、神が愛する人間の魂を持つ者ただ一人である。こ
の魂を持つ者の強さは、歴史書にも記される通りである。そして今に蘇った魂の
その強さは、私が間近で目撃した。正統悪魔族にも匹敵する強力さである! こ
れが、諸君らと戦う敵なのだ。しかし! 戦いは必ず武力でのみ決するとは限ら
ない! 魔王様は賢明にも、この魂と戦わず、自分の側に引き寄せてしまおうと
お考えになられ、私にそれを命じられた。そしてそれは半分成功した! 諸君ら
が訓練に明けくれている間、私は神の御子と直接交渉を重ね、又時には刃を交え、
そうしながらその信を徐々に得つつある!」

 嘘八百も良い所だな。
 兵士達を扇動しつつ、フィンはそう自嘲します。
 直接交渉だと?
 単にまろんに抗いつつも甘えていただけじゃない。
 きっと、後ろに控えるノインも私を内心笑っているに違いない。
 刃を交えてだと?
 まろん本人を直接狙わず、周りの人間を追いつめ、その命を散らそうとした事
すら一度ではなかった。
 卑劣、あまりにも卑劣。
 そうだな。物は言い様だ。
 結局、最終的には誰も死ななかったし、現に今、まろんと心が通じ合おうとし
ていることだけは確かなのだ。

「神の御子は天界から与えられた情報しか知らぬ。この戦いの真相を知らないの
だ! だから私はそれを神の御子に伝えようと思う。直接交渉して、我らの味方
と出来ればそれで良し。あくまでも天界の側に立つというのであれば、戦いとな
る。その時は、このクイーン自ら先陣を切って諸君らと共に戦うであろう! 諸
君! 私は戦いを好まぬ。それは諸君らの多くも同様だと思う。だから私は最後
の最後まで、交渉努力を諦めない! 魔王様も考えは同じだ。しかし残された時
間は余りにも少ない! その残された時間を私は外交努力に、諸君らは訓練と休
息…そして、もし相手が居るのなら、愛情を交わしても構わぬ! とにかく、悔
いの無き様、戦いの時を待て!」

「クイーン万歳!」
「ノイン様万歳!」
「魔王様万歳!」
「魔界万歳!」

 兵士達の叫び声が境内に轟きました。
 その声が、街の中の人間達に聞こえる気遣いはありませんでした。
 この神社周辺には巨大な結界が張られていたからです。

「喜べノイン」
「は?」

 フィンは、後ろに控えていたノインに顔を向け、話しかけました。

「これで、もう引き返すことは出来ない。これで止めたら魔界にも私の居場所は
無い」
「本当に、宜しいのですか?」
「人間界では、一人で役目を果たしていたから。忘れていたの」

 目覚めてから、クイーンとしてノインに接していたフィンは、その日初めて元
の口調に戻って言いました。

「は?」
「私は、私だけの幸せを追い求めることは許されない」
「そんなことは無いと思いますが。魔王様も…」
「私だけの幸せを追い求める選択が出来るのであれば、最初からクイーンの座を
受けたりはしなかった。性格なのね。私は天界の真実を知り、魔界の現状を見た。
そして人間界で神の御子の真の姿と強さ、そして脆さを知った。これだけ知って、
自分一人の幸せに浸ることは、私には出来ない。そしてこの前の戦いで悟ったの。
決着は、自分自身の手でつけなければならないと」
「…」
「だけどノインの想いも判るから。ミストにまろんをどうこうさせるのは我慢出
来なかったけど、ノインなら我慢する。だから私が魔界に行っている間に決着を
つけられるのなら、つけてしまっても良い。許す。数日は向こうにいる筈だか
ら」
「判りました」
「けれど、それまでに片をつけられなければ、私の命令に絶対服従。良いわ
ね?」
「承知」
「これで私は屋敷に戻るわ。後はお願い。まだ本調子じゃないの。それに、ク
イーンの演技は疲れる」
「判りました」

 フィンは、再び歓声の方向に顔を向けました。
 ノインが前に進み出て、兵士達に叫びます。

「クイーンは先の神の御子との戦いでお疲れであるので、これで退出する! 諸
君らの拍手を以てクイーンを送り出そう!」

 兵士達は歓声とともに拍手を送りました。
 フィンは手を上げ、歓声に答えます。
 やがてその声は、クイーン万歳の声へと変化し、フィンの姿が完全に見えなく
なるまで続くのでした。



 セレモニーの終了後、ヒト族はその姿を普通の人間に変え人間の街の中へ、天
使族と竜族は、予め用意されていた神社跡地近くの地下壕を利用した隠れ家へと
消えて行きました。
 その場に残ったのは、ノイン。
 そしてミカサとユキも、その場に残っていました。

「ミカサ」
「はっ」
「クイーンは数日中に魔界に赴き、魔王様と作戦について協議を行う予定である。
その間の指揮は、私がクイーンに一任されている故、そのように承知願いたい」
「承知。天界軍がその間に動く懸念は無いのでしょうか」
「案ずるな。天界は皆兵制度を敷いている。逆に言うと、常備軍は少ない。仮に
クイーンの言われるように一軍を編成するとして、これから動員を行い、人間界
に降下するには一週間はかかろう。それに仮に動き出したとして、天界軍の動き
は我々も常に観測している。動きがあれば、クイーンは直ちに人間界へと戻られ
るであろう。急を要する場合であれば、一人であれば魔王様の術で直ぐにでも」
「そのお言葉を聞き、安心致しました」
「取りあえず、数日は部隊の休息に当てるが良かろう」
「はっ」
「それから、クイーンが戻られる前に、奇襲を試みる。部隊の中から、精鋭を選
べ。少数で神の御子を討ち取る。もちろん、このことはクイーンの許可を得てあ
る」
「承知」

 ノインの話を聞き、ミカサの顔に笑みが浮かびました。

「私からの話は以上だ。お前も休め」
「その前に、お願いがあります」
「聞こう」
「アウストラリスで救出した竜族の中に、戦いには使えぬ者がおります。その、
少女なのですが、戦いの中で記憶を失い、自分が何者であったのかも忘れている
のです」
「不憫な」
「願わくば、戦いが終わるまで安全な場所で休ませてやりたいのですが」
「少女? 名を何と申す」
「確か、アンとか」
「まさか…」
「どうしたノイン」
「いえ。その娘、我が屋敷で預かろう。後ほど連れて来るが良い」
「有り難き幸せ。それからもう一つ。この者ですが」
「ミカサの従兵が、何か」
「はい。人間界で尋ね人がいるそうで。ユキ」

 ミカサは、ユキに向かって言うように促しました。

「姉さんに会いたいんです」
「魔界側の天使族の者は、これまでは人間界にはクイーンただ一人しかおりませ
んよ。娘」
「ユキです。半年前に姉さんは人間界に行くって」
「それはますますあり得ない事です。この半年間、私が地上界に居ましたが、魔
界の天使族の者は一人も…」
「そんな筈はありません。私、姉さんに会うために、この隊に入隊したんで
す!」
「他の種族の者と義兄弟の契りをかわしているのか?」
「そんな事が?」
「天使には血縁の概念が無い故、真の兄弟などおらぬ。名を聞こう。我が部隊に
居る兵士であれば、探しだそう」
「はい。ミストって言うんですけど」
「何? 良く聞こえなかったが」
「ミ・ス・ト。正統悪魔族のミストって言うんですけど」
「何!? それでは娘、お前は」
「ミスト姉様は、私の同胞です。ノイン様」
「何!?」

 絶句するノインとミカサ。
 ノインは、正統悪魔族の起源に関する言い伝えの正しさを改めてその目で確か
めることとなるのでした。

「ユキが、悪魔族…」
「これが本来の姿らしいのです。普通は別の姿でいることが多いのですが」
「それで姉様は?」
「ミストは確かに最近までここに居ましたが、旅立ってしまいここには居ません
よ」
「どこに?」
「魔界でも人間界でも天界でも無いどこか。私には判りません」
「そんなぁ…」

 がっくりと気落ちした様子のユキ。

「先に行っておりますと、魔王様へ言い残したのが唯一の手がかりですが」
「そうですか。判りました」
「追いかけますか? ミカサ」
「うん。大切な人なのだろう? 直ぐに後を追いかけると良い」
「それは出来ません!」
「あなたの上官が許可すると言っているのですよ?」
「私達悪魔族にとって、契約は絶対です」
「ならば契約は…」
「いいえ。せめてこの戦いの間は、大隊長殿のお側に居させて下さい! 姉様を
追いかけるのはその後でも」
「本当に宜しいのですか」
「はいっ。ノイン様」

 きっぱりと、ユキは言い切りました。

「そうですか。仕方ありませんね…」
「ユキがそう願うのなら」
「宜しくお願いします!」

 ニコニコと、ミカサに頭を下げるユキ。
 どこから見ても天使にしか見えぬその姿を見ながらノインは、また厄介なこと
にならなければ良いがと思うのでした。

「そうか。ならば好きにするが良いだろう。ミカサ殿」
「は」
「私はこれで屋敷へと戻る」
「そこまでお送りしましょう。ユキ、君は宿舎に戻っていてくれないか」
「しかし」
「ノイン様と二人で話がしたいのだ」
「判りました」

 不承不承、隠れ家へと向けて歩いて行くユキ。
 その姿が見えなくなったところで、ノインはそれまでとは異なり、親しげな様
子でミカサに話しかけました。

「久しぶりの故郷はどうだ、ミカサ」
「あまり変わっていませんね。山も、海も、そして街も」
「四年しか経って居ないのだ。当然だろう。私の故郷はもうかつての面影は殆ど
残ってはいない」
「いずれ私もそうなります。生き続けていれば、の話ですが」
「クイーンに名乗り出ないのか?」
「ご冗談を。名乗ることが出来ぬのは、ノイン様が一番ご存じの筈」
「そうであったな」
「クイーンが存命の限り、このミカサ、命を賭けてお守り申し上げます」
「死んだらどうする?」
「正直、決めかねております」
「そうか。まだ時間はある。その時までに、考えておくことだ。相模」

 そう言い残し、ノインは姿を消しました。
 一人境内に残されたミカサは呟きます。

「相模…か。その名で呼ばれるのも四年ぶりだな」

 雪が残る境内の中を歩き回るミカサは、ある一点で立ち止まりました。

「たった四年。だがここは変わってしまった。でもお前への想いだけは生涯変わ
らない。魚月。…我が愛しき妹よ」

(第166話 完)

 ここまで話が大きくなるとは自分でも意外(笑)。
 実は、まだ1章分ほど書いていない話があるのですが、きりが良いので
 第166話はこれで終わりです。
 次回より、佐々木さんパートです。

#新キャラは必要に応じてご自由に動かして下さい。

 では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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