神風・愛の劇場スレッド 第166話『きょうだい』(その12)(9/18付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Wed, 18 Sep 2002 19:56:56 +0900
Organization: So-net
Lines: 401
Message-ID: <am9m5o$1e$1@news01di.so-net.ne.jp>
References: <akalv3$910$1@news01di.so-net.ne.jp>
<akseoa$4pe$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<aksio8$bk6$1@news01cg.so-net.ne.jp>
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In-Reply-To: <am9l8p$6ss$1@news01bg.so-net.ne.jp>
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石崎です。

 少し遅れましたが、第166話の最終章をお送りします。

 勢い余って2,000行を超えてしまいましたので、(その11)〜(その14)まで
の4分割投稿でお送りします。
 この記事は、今回投稿するうちの2番目の記事です(その12)。

#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説的なものが好きな方だけに。

(その1)は、<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<afvb3c$9p6$1@news01cf.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<ageulu$6ri$1@news01dd.so-net.ne.jp>から
(その4)は、<ah3tp3$glr$1@news01db.so-net.ne.jp>から
(その5)は、<ai0rm3$8ji$1@news01cc.so-net.ne.jp>から
(その6)は、<ajo8kt$ct$1@news01cb.so-net.ne.jp>から
(その7)は、<akalv3$910$1@news01di.so-net.ne.jp>から
(その8)は、<akseoa$4pe$1@news01cc.so-net.ne.jp>から
(その9)は、<aksio8$bk6$1@news01cg.so-net.ne.jp>から
(その10)は、<algh3r$3qd$1@news01dc.so-net.ne.jp>から
(その11)は、<am9l8p$6ss$1@news01bg.so-net.ne.jp>から

 それぞれお読み下さい。




★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その12)

●天界・幹部会

「第5管区警戒中隊より報告! 敵尖兵は竜族の模様!」

 会議室に準天使が駆け込み、そう報告すると、その場に居たものはざわめきま
した。

「竜族だと!」
「するとあの集団は全て竜族だと言うのか」
「一個大隊の竜族。先のアウストラリス会戦以来の動員規模だな」
「竜族にまだあれだけの動員能力があったとは」
「これは現地部隊ではとても対処しきれまい。一個師団を動員して…」
「いや、あれが全て竜族と決まった訳では」

 円卓に着席した正天使達は勝手に思うところを話し合い、会議が収拾がつかな
くなる直前、議長が騒ぎを静めました。

「リルの意見を聞きましょう。あれは全て竜族なのでしょうか?」
「はい。たった今入手した情報によれば、敵は電波を発信している様子です。通
信内容までは確認出来ませんでしたが」
「電波だと? 魔界の元人間が関わっていると言うのか?」
「人間の機械は使い方さえ覚えれば誰でも使えます。ただ、全てが竜族であれば、
わざわざ電波など用いるでしょうか」
「成る程。しかし竜族が他の種族と共同戦線を張ることなどあるのでしょうか」
「私も聞いたことはありません」
「我々を油断させるための策略だ!」
「しかし過去に例が無いからと言って、これからも例が無いとは限りません」
「それならば何とでも言える」
「彼らの予想降下点にその謎の解があると考えます。こちらをご覧下さい」

 会議室の傍らに置かれた巨大な水鏡。
 リルが念を込めると、人間界の地図が表示され、そこには確認された敵の位置
と予想降下地点。そして神の御子と敵が対峙している地点がそれぞれ違った色と
形で示されていました。

「アウストラリスか! しかし今頃何故」
「戦いの記憶が薄れ始めた。我々の注意が神の御子に向いている。今だからこそ
と考えます」
「警戒体制も今ではすっかり以前と同じとなっているからな」
「まだ、生き残りが居るとの話だが」
「既に脅威にはなるまいと何もしない限り放置していたのだが」
「そうか。そうなのだな。確かに、彼ららしい」
「それで、他の種族と敢えて手を組んだのか」
「それならば、対処も楽だ。帰路を待ち伏せれば良いのだ」
「しかしあのまま居座ればどうする」
「その時は先の戦いの再現となるだけよ」
「よし。まずは天界に動員令を…」
「どの程度の規模の動員をかけるかだが…」

 竜族の出現に一端は動揺しかけたものの、その目的を理解したことで、急速に
幹部会の面々の表情は明るいものへと変化しつつありました。
 彼らの頭の中は、敵の目的を探ることから来るべき戦いにどう勝利する事へと
変化しつつありました。
 しかしリルは知っていたのです。
 今の説明は事実の一端しか指し示していないであろうことに。
 それ故に、彼はある願いを幹部会に諮り、そしてそれは他の諸々の案件と一緒
に直ちに了承されるのでした。

●人間界・成層圏

「尖兵小隊より、降下地点に敵影無し」
「飛行猟兵各中隊より、周辺に敵影無し」
「人間の飛行物体に注意! 絶対に気付かれるなよ」
「大隊本部より各隊。人間の飛行物体に注意! 偽装術を最大にせよ」
「尖兵小隊より。地上より友軍の合図を確認」
「よし。尖兵小隊に降下地点の確保を命令」
「大隊本部より尖兵小隊へ。降下地点を確保。友軍と合流せよ。送レ」
「ここが、人間界…」
「よし、我々も行くぞ。ミナ」
「ああ」

 空中で待機していた大隊本部の百数十名は、ミカサを先頭に次々と目標地点へ
と向かって降下して行きました。
 その先に見えるのは──オーストラリア。

●人間界・豪州 西部台地

 眼下には、見渡す限りの砂漠地帯が広がっていました。
 この大陸はその広さの割に人口密度は希薄。
 その理由も、この光景を見れば天界の住人にも納得が行きました。
 幾ら人には見えぬ術を施しているとは言え、白昼堂々、大隊規模の降下作戦を
行うことが出来たのもそのためです。
 事前に得た情報では、この大陸にも若干の天使が配備されている筈でしたが、
常に兵力の不足に悩む天界軍のこと、その配備先は人口密集地域に限られていて、
無人地帯に等しい砂漠の真ん中にまでは天使は居ませんでした。
 薄々感づいてはいましたが、現在の天界の人間界における勢力では、魔界軍が
本気で押し寄せれば、とても対処仕切れない。
 その様に上空の警戒にあたるレイは感じていました。
 そんなレイに、聞き慣れた声が届きました。

「レイ」
「ミナ。こんな所に居て良いのか?」
「伝令だよ。第一飛行猟兵中隊は第二中隊に制空任務を任せミナの先導に従い降
下。次の移動に備え休息を取れ」
「了解した。第一中隊はこれよりミナの案内で地上に降下する」
「それじゃあ地上まで案内するね」
「ああ、頼む」

 レイは、指揮下の天使達を引き連れ、地上へと降り立ちました。
 既に周囲には制空隊として上空の警戒に当たっている天使と竜族の一部を除き、
全部隊の降下が終了していました。
 地上に降り立つと同時に周囲を見回すレイ。
 すると視界の隅に人間の機械──確か、自動車と言った──が停まっていてぎ
くりとします。
 しかし、それから降り立った人に見えるものを見て、納得が行きました。
 燃えるような赤い髪。
 竜族の人型の形態か。
 竜が人の形を取ることは、知識として有してはいても、実際に見たのは魔界に
来てからでした。

「レイ?」
「いや、人間の機械が珍しくてな」
「地上に居た竜族の生き残りの持ち物だって。髪の色を変えて、人間に紛れて生
き残ったらしいわ」
「そうか」
「休息命令が出ているし、近寄って見てみようか」
「そうだな」

 レイは中隊副官に命じて大休止の命令を出すと、ミナと共に自動車に近付きま
した。
 自動車は大小様々の形のものが並んで停まっており、その間を物珍しそうにレ
イとミナは歩いて行きました。
 その近くには大隊本部があり、竜族とヒト族が何事か話し合っている様子でし
た。

「誰もいないようね」
「あ…誰か居るよ」

 レイとミナの姿を一人の少女が自動車の陰から見ていました。
 年の頃は、レイ達と同じか少し上位。
 もっとも、人間を基準とした外見年齢の話ですが。
 短く切りそろえられたやや赤茶色の髪。
 そして茶色の瞳。
 人間だと言えばそれで通ってしまいそうでしたが、今回の降下作戦でヒト族の
女性は居なかった筈なので、彼女も竜族の一員なのでしょう。

「そこの貴方。人間界に残された竜族の者か?」

 レイはそう言い、少女のところに歩いて行こうとしました。

「嫌…」
「大丈夫だ。我々は味方だ。この紋章が見えるだろう?」

 竜族から見れば天使は敵。
 少女の態度からそれを理解したレイは、太股を前に出し、スカートを少し捲っ
て見せました。

「さぁ。これで判っただろう?」
「来ないで!」

 少女の方に向けて歩き出そうとしたレイが一歩踏み出した瞬間、少女は叫びま
した。

「嫌…酷いこと、しないで…」
「おいおい。酷い言い様だな。天使の名にかけて、そんな事はしない」
「嫌…」

 少女は逃げ出そうとして、尻餅をつきも怯えた表情でレイを見ていました。

「ねぇ、レイ。この子変だよ。止めようよ」
「ああ。…怖がらせて済まなかったな」

 そう、少女に謝るとレイとミナは踵を返すのでした。



「第一飛行猟兵中隊中隊長のレイです。宜しく」
「地上の竜族代表。トールンです。今回は宜しくお願いします」

 大隊本部でミカサより地上で彼女達を出迎えた人間の形をした竜族の代表を紹
介されたレイとミナ。

「しかし堕天使…失礼、天使族の部隊が編成されるとは。時代も変わったという
事でしょうか」
「クイーンを置かれたことと言い、魔王様にもお考えがあっての事でしょう。全
ての生き物を愛されるお方ですから」
「違いない」
「しかし、竜族の中には我々のことを快く思わない者も多いようだな」
「レイ! 止さないか」
「こういう事ははっきり言った方が良いと考える。今後のこともあるしな」
「確かに。先の戦いの経験が生々しいですからな。特に我々の間では」
「やはり我々は敵として見ているということか」
「レイ殿。先の戦いの経験は?」
「その時は生まれた頃の筈だ」
「ほぅ。天使はある程度成長し、知識を有した姿で生まれるというのは真実らし
いですな」
「事実だ。前世で死んだ時の年齢に影響されるらしい」
「ならば最初からお話した方が良いでしょうな。歴史書は真実の一部しか書いて
はいないでしょうから」

 そう言うとトールンは、自分からその場の椅子に腰を下ろしました。
 それを見て、ミカサも腰を下ろし、レイとミナもそれに倣います。
 ただし、従卒のユキだけはミカサの後ろに立ったままで居ました。

「元々私達竜族は、他の種族とは交わらず、自分達だけで固まって生きてきまし
た。天界と魔界との戦いにも、一部の者が出かけた時を除けば種族としては関わ
らず、ただただ、平穏な時を過ごしてきたのです」
「だが、あの時は違った」
「時は移り、魔界の勢力構造にも微妙に変化が生じました。魔王様は次々と知的
生命体を誕生させ、天界や人間界からも住人が移り住んできました。昔から住む
知的生命体の末裔というだけで、正統悪魔族と共に魔界の支配階級に並び称され
た我々ですが、その勢力が徐々に衰え始めたのです。多くの者はそれでも良いと
考えて居たのですが、そうは考えない者が居ました。その筆頭が、先代の竜族の
長でした。竜族の長は、竜族から戦士を募り、人間の数が少ないために天界と魔
界との争いから忘れ去られた存在となっていたこのテラ・アウストラリス、人間
達が今ではオーストラリアと呼んでいるこの大陸を魔界の勢力圏に組み込み、魔
王様に献上することで、竜族の勢力を回復しようとしたのです」
「それが先の戦いの理由か。下らない」

 軽蔑する様な表情をレイは見せました。

「そう。あれは下らない戦でした。現地に居た僅かな天使を蹴散らし、慌てて天
界より派遣されて来た天使達を待ち伏せこれを散々に打ち破り、我々は勝利の凱
歌を挙げ、この大陸の過半を制圧しました。滑稽な話ですが、支配されている筈
の人間はこのことに全く気付いていませんでした」
「この時多くの天使達が竜族に虐殺された。そう聞いている」
「あれは戦いだったのです。現に逃げ散った天使達を我々は追撃しませんでした。
愚かでした。大陸を支配したと言っても、人間達に直接手出しも出来ず、人間達
に取り憑かせる悪魔の数も補充が追いつかず、無為の時を過ごす日々。やがて、
破局は訪れました」
「反攻作戦だな」
「はい。各地に分散していた我々は、本気になった天界軍に散々に打ち破られま
した。散り散りとなった我々を天使達はどこまでも追い回し、一体、また一体と
我々は倒されて行きました。それは酷い殺し方だったそうです」
「封印したと記録には記されているが」
「それは天界の記録です。緒戦の大敗北。そして反攻作戦途中での反撃により、
多くの天使が命を落としました。血が頭に上った彼らは、封印という手段を取ら
ず、彼ら──中には女性も混じっていました──は、ひと思いに殺すこともせず、
じわじわと我々の同胞を殺戮したのです。そして証拠が残らぬよう、亡骸を術で
灰になるまで焼き尽くし、海に流しました。生き残った者は、髪の色を変え、瞳
の色を変えて人間達の中に紛れ込み、何とか命を生き長らえたのです」
「酷い…」
「人間界の歴史でも良くあることだ、レイ。人間の生まれ変わりである天使達も、
結局することは人間と同じだという事さ」
「そうか。あの少女は…」
「アンに会われたのか?」
「ああ。ここに呼ばれる前に自動車を眺めていたらな。私の姿を見て怯えていた。
きっと戦いの時に酷い目にあったに違いない」
「あの娘は、竜族の長の一族の者でした。戦いを長が始めた以上、一族の家から
は必ず戦士を出すべきだということになり、あの娘の家では、他に戦える者がい
なかったために、あの娘が出陣することになったのです」
「竜族の女戦士とは珍しいな」
「その通りです。竜族では原則として戦いは男のものと決まっています。ですか
ら、看護兵としてあの娘は出陣したのですが、あの負け戦です。彼女は逃げ出す
機会を逸してしまい、天使達の重囲に陥ったのです」
「それで生き残ったのか」
「彼女の危機を知った我々は、救出部隊を編成して決死の覚悟で彼女と負傷兵の
救出に向かいました。我々は全滅する覚悟で向かって行ったのですが、多くの犠
牲を払いながらも反撃は成功し、生き残った天使達は逃げ散って行きました。勝
てたのは何故だと思いますか?」
「油断でもしていたのか」
「負傷兵の虐殺に熱中していたからですよ。包囲された部隊の中で、生き残った
のは彼女一人でした。それも酷い有様で」
「それでか」
「はい。救出された彼女は、全ての記憶を失っていました。自分が竜族であると
いう記憶すらも失い、今は自分は人間だと思い込んでいます。しかし、本当に全
てを忘れ去った訳では無いらしい。天使の姿を見て恐怖を覚えるとは」
「そんな事がありえるのか? 自分の種族すら忘れるなど」
「それは、私達の種族の成り立ちに関係があるのです」
「竜族の?」

 それまで人型をしていたトールンは、椅子から立ち上がりました。
 そして着ていた服の上半分を無言で脱ぎ去りました。
 それを見る限り普通のヒト族と何ら変わりはありませんでしたが、やがて彼の
背中からは翼が生えて来ました。

「本当は本来の姿をそのままお見せしたいのですが、今はここまでです。女性の
前で裸になる訳にもいかないですから」
「そうか。人の姿は仮の姿なのだな。本来は全員ああいう」

 露天の大隊本部の上空を旋回している竜族を指差すと、トールンは肯きました。

「はい。天界の天使達も、自らの大きさを変化させる術を使うと聞きます。それ
と同じ様なものと考えて下さい」
「やはり、人間界に入り込むための姿か」
「違います。正統悪魔族、または純粋悪魔族と呼ばれる種族のことをご存じです
か?」
「ああ。見たことは無いがな。そもそも本来の姿がどうなのかも良く判らないら
しい」
「竜族の伝承では、正統悪魔族は魔界で魔王様が最初にお造りになられた生き物
の末裔。そしてその姿は、自分自身の姿を模したとか」
「それじゃ、まさか…」
「はい。そして竜族は、極初期に魔王様がお造りになられた種族の一つです。天
界にも伝説として伝わっていると聞く生物を模して作られたと、伝承ではそうな
っています」
「宇宙空間を渡り歩くというあれか。実在するのか?」
「さぁ。しかし本当は魔王様は、ヒトを模した生物を作りたかったらしいのです。
しかし、二度も神が作るものと同じ生物を作るのは、プライドが許さなかったら
しい」
「ほぅ。それで」
「とは言いつつも、ヒトを造り、その魂を以て天使を創造した神のことを魔王様
は羨ましがったらしい。結局、竜族にもヒトの姿に変化出来る能力をお与えにな
った」
「本当の話なのか?」
「あくまでも伝承です。真実は魔王様しか知りません。魔界でもヒトに近い姿を
持つ者がエリート。そういう風潮となっているのは、それが故かもしれません」
「しかし本来の姿のままで居る竜族もいるようだな」
「はい。竜族は誇り高き種族です。魔界の秩序がどうであれ、自らの姿を隠して
生きることを是とせず、人化の術を決して使わぬ者も大勢居るのです。その一方
で、竜族の村の中ですら、人の姿で生活する者もいる訳ですが」
「種族の中で対立は無いのか?」
「あります。しかし、決定的対立には至ることはありません。竜族本来の姿を持
つ者は、天界との戦いが起こる度に自分達の地位向上のために、村から出て行っ
てしまうからです」
「それで戦場に出て来る竜族は本来の姿の者が多いのだな」
「はい。戦場ではあの大きな体躯は有利ということもあります。攻撃目標ともな
りやすいのですが」
「つまり、竜族の中で、竜族らしくありたいという者と、人らしくありたいとい
う者が存在するという事か」
「その通りです。あの娘は、ヒト族の家の隣に住んでいたとかで、普段から人の
姿で」
「そうだったのか。彼女には悪いことをした」
「いえ。お気になさらずに」
「このようなことがあったのでは、天使である我々と轡を並べて戦うのを嫌がる
者も居るのでは無いか」
「いえ。この地に取り残された我々の救出を命じられたのは天使族の筆頭である
クイーンなのです」
「本当か?」
「はい。クイーンがノイン様とミスト様に後を託され人間界から一度魔界に凱旋
された後、暫しの休息を取られました。その時、この戦いの真相を偶然知ったク
イーンは、この地に生き残りがいるのではと考え、調査を命じられました。人が
少ないために半ば見捨てられた形のこの土地に、多くの下等悪魔を放ち、魔界の
者が居ないのかを探索されました。そうして、漸く魔界との連絡を回復したので
す」
「自分達から連絡を取ろうとは思わなかったのか?」
「連絡を取り、天界に我々の存在を知られるのが怖かったのです。人間界での生
活基盤を築いていましたし、もう戦いはしたくありませんでしたから。しかし、
故郷のことを一日たりとも忘れたことはありません。だから、魔界との連絡が回
復した時、一も二も無く我々は魔界への帰還を希望したのです」
「本当は、我々はこの作戦のために投入される予定で編成されていた。レイ」
「初耳だ」

 意外そうな顔を見せ、レイはミカサの方に向き直りました。

「神の御子を巡る戦いが長引いてな、我々にもお鉢が回って来た。そして彼らに
もな」
「戦いが継続中である以上、無事に我々が魔界に帰還するためには、戦いが終息
している必要があると思います。地上界に降り立ったノイン殿との連絡も久々に
つきました」
「ノインを知っているような口ぶりだな」
「はい。ノイン殿は我々竜族のかけがえの無い友です。他の種族が我々を遠巻き
に眺める中で、自ら進んで我々と長年に渡り交わり、ある事件を切っ掛けについ
に真の友情を結ぶに至ったのです。ノイン殿の魔界での屋敷が竜族の村にあるの
もそれ故です」
「兎に角、竜族の支援を得られるのは大変心強い」
「ノイン殿のため。もう一肌脱ぎましょう」
「宜しく頼む」

 がっちりと、ミカサとトールンは握手を交わしました。
 続いて手を差し出され、レイとミナも遠慮がちにトールンと握手をかわします。

「それで出立は何時?」
「直ちに…と行きたいところだが、初めての降下で疲労している者も多い。向こ
うが日が暮れてから到着した方が良いだろう」
「時差は二時間ほどの筈です。こちらの日暮れと同時の出立ということでは?」
「うむ。飛行術と空間跳躍術の組み合わせで、一晩で海を渡るぞ」
「了解した」
「ミナ、総員に連絡。第二目標地点への出立は本夕刻。日没を以て出発とする。
それまで、歩哨を立て交代で休め。以上だ」
「はっ。第二目標地点、ヤマトへの出立時刻は本日日没とする。それまでの間、
各中隊は歩哨を立て交代で休息を取れ。以上、各隊に伝達します」

 ミナが各中隊へ伝達のために走り出すのを見て、レイも自分の中隊へと戻るこ
とにしました。
 走りながらレイは、本当の正義がどこにあるのかを考えていました。

(第166話(その12)完)

 では、(その13)へと続きます。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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