From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Sun, 28 Jul 2002 22:30:42 +0900
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石崎です。
第166話本編(その5)です。
#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説が好きな方だけに。
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★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その5)
●桃栗学園・体育館
「日下部は居ないザマスか?」
学園再開初日の放課後。
体育館に集まった新体操部員の中に、エースの姿はありませんでした。
まろんだけではありません。部員の半分は、この場に居ませんでした。
入院している者。そこまでは行かずとも、精神的にショックを受けてまだ登校
して来られない者。そしてそれを口実に、単にサボっているだけの者。
それぞれ理由は異なりますが、あの事件が休む理由に関係あることだけは共通
していました。
「授業には出てたのに…。ま、無理も無いザマス」
そう言うパッキャラマオの口調に、厳しさはありません。
事件の中心部に居たまろんのことを気遣っているのだろう。
そう都は思います。
「…と言う訳で、団体戦は来週にも行われる予定ザマス」
結局その日の部活は、出席者が少なかった事もあり、ミーティングだけで後は
自主練という形になりました。
体育館崩壊の影響で延期されていた地区大会の団体戦が、来週に枇杷町に会場
を借りて行うことが決定されていたこともあり、団体戦参加メンバーは、それぞ
れ自主練を開始していました。
その練習の様子を体育館の隅で注視していた都。
その目は、ただ一人だけを追っていました。
「どうしたの? 私に何か用かしら?」
少しじろじろと眺めすぎていたようです。
リボンのスティックを手に、眺めていた相手──桐嶋まなみ──が近づいて来
ました。
「いえ、そんな訳では」
「東大寺さんは練習しないの? 全国大会に出場が決まったのだから…」
「はい。今日はこれで上がらせて下さい」
「どこかまだ痛むの? 日下部さんも居ないみたいだし、大丈夫?」
「ちょっと、足を痛めてまして」
「そう言えばあの時、足を怪我したそうね」
「はい。傷は消えているのですが、まだ動くと少し」
「そう。ゆっくり休んで大会までにしっかりと仕上げてね」
「はい」
心配そうな表情を浮かべ、まなみは都の肩に手を置きました。
その表情を見て、本当は足を痛めている訳では無い都は罪悪感に囚われます。
しかし、今は新体操の大会よりも大切なことがあるのでした。
「桐嶋先輩。ちょっと聞いて良いですか?」
「何かしら」
「あの日の事なんですけど…」
「ごめんなさいね。刑事さんにも話したけど、怪盗ジャンヌが現れてからのこと
は、良く覚えてないの」
警察で読んだ通りの発言をまなみは繰り返しました。
しかし都はしっかりと覚えています。
最終演技を終えた直後に、まなみがまろんの首を締め上げていたことを。
そしてその後で、止めようとした人々をなぎ倒していたことを。
このことをもちろん、都は誰にも──まろんを除いて──話してはいません。
言えば、先輩を傷つけてしまうから。
先輩がおかしくなったのはジャンヌ…ジャンヌの姿をまとった何者かの所為だ
から。
まろんもこのことを覚えていた筈ですが、考えは同様らしく何も証言はしてお
らず、近くにいた他の新体操部員もパッキャラマオ先生に化けていた怪盗ジャン
ヌのことには証言していても、まなみの行動については触れていなかったのを昨
日都は調書を斜め読みして確認しています。
警察もこのことを重視していないのか、まなみについて何か特別に注目してい
る様子は無く、密かに都は安堵していたのですが。
「そうですか」
「東大寺さんは、何か覚えているの?」
「あたしも、ジャンヌが現れてからのことは良く覚えていないんです」
「多分、思い出しても辛いだけの出来事だから、お互い覚えていなくて良かった
のかも」
「そうですね」
先輩はあの時の出来事を忘れているらしい。
まろんを守ろうとしたあたしと戦った時の記憶も。
まなみの表情を伺いながら、都はそう確信していました。
そうであるならば、もうこの事には触れない方が良い。
その方が、先輩にとっても幸せだろうから。
「それじゃあたし、帰ります」
「お大事に」
都はわざと足を少し引きずりながら、体育館への出口へと向かいます。
その様子を見るまなみの表情が何故か暗かった事には気付かずに。
●桃栗警察署
昨日に引き続き、桃栗警察署へとやって来た都。
プレハブの中にあるジャンヌ特捜班の事務室へ真っ先に向かった都。
すると、ドアが開き見知らぬ男が出て来ました。
その男は都のことをじろりと見ました。
反射的に、その男のことを上目遣いで睨み付けてしまった都。
ですが、その男は直ぐに都のことを無視して、庁舎へと向かって去って行きま
した。
感じ悪い思いを抱きつつも、都はドアを開けました。
「こんにちわ」
「あ、都さん」
春田と冬田の二人が、椅子から立ち上がって都を迎えました。
「父さんは?」
「今、署長に呼ばれてます」
「今出て来た人は?」
「あ、確か警部の同期の人だとか」
「そうなんだ。それじゃ、昨日の続き、行きましょうか」
「はい」
既に用意してあったのでしょう。
暗黙の了解で都の席と決まっている員数外の机の上には、事件の後、周辺の聞
き込みと警察が調査した結果の膨大な書類がありました。
本当はパソコンで検索することが出来る筈ですが、未だパソコンに入力が終わ
っていないとのことで、紙の束を一枚ずつ捲っていきました。
「…結局、あの時のことをきちんと覚えている人はいないのね」
「その様です。特に事件直前の記憶となると、皆記憶が曖昧で」
「…ガスの影響…」
「瓦礫を取り除いて現場検証をしようにも、現場毎無くなってしまいましたし」
事件の二日後に起きた、桃栗体育館に貯蔵されていた可燃物による爆発事故。
その様に警察からは発表されていましたが、実際には突然現場が消失したよう
なものだったと、都は聞かされていました。
これもジャンヌ絡みなのでは。
そう思う都でしたが、やはり証拠がある訳では無いのでした。
「全く、上の奴らは何も判ってない! 本庁だけならまだしも、署長も何を考え
ているのか!」
ドアが開くと、氷室の声が聞こえました。
父がその様なことを言うのは良くあることだったので気にもせず、書類に目を
走らせていたのですが、続く言葉は都をぎょっとさせました。
「ジャンヌがテロリストだと!? そんな筈無いだろう!」
「け、警部!」
春田が慌てて氷室に注意を即し、それ以上氷室は喋りませんでしたが、都は父
の言葉を聞き逃しませんでした。
「父さん。それってどういう事なの?」
●桃栗町中心部
桃栗警察署を出た都はとぼとぼと家に向かって歩いていました。
この後にも行こうと思っていた場所はあったのですが、その気は失せています。
父から聞かされた警察上層部での動き。
それは、ここ最近のジャンヌの活動から見れば、当然の判断でした。
その意図は兎も角、ジャンヌの活動した結果のもたらしたものは、破壊以外の
何者でも無かったからです。
ジャンヌが通り過ぎた後に幾多の破壊が残されたのは事実だとしても、それか
ら導き出された大人達の結論を都を受け入れることは出来ませんでした。
氷室達ジャンヌ特捜班の面々もそれは同意見だったのですが、上層部の意見は
覆すことが出来なかった。そう言う事なのでした。
この警察の判断の変化により、ジャンヌ特捜班の任務が解かれることは無いも
のの、ジャンヌに対する対処方針が変更になりました。
これまではジャンヌを捕らえる事に専念していれば良かったのですが、今後は
ジャンヌの破壊活動を阻止するためであれば、実力でもってジャンヌ自身の排除
もやむなし。
その様に方針が定められ、そのための装備・人員が桃栗警察署に本庁より増援
として送り込まれた。
昨日都が桃栗警察署で見たのは、その一部という訳なのでした。
「方針が少々変更になったとは言え、我々がやることは変わらない。要は、あい
つらに手出しをさせる前に、ジャンヌを捕らえるか、その目的を阻止すれば良い
のだ」
その様に父には言われ、春夏秋冬もそれで納得している様子でしたが、都は納
得出来ませんでした。
──ジャンヌは普通の泥棒じゃない。
お父さん、昴兄さん、それに自分自身を救ってくれた。
この前の事件の時、ジャンヌは何者かに捕らえられたあたしを助けてくれ
た。
そんなジャンヌをテロリスト扱いするなんて…。
そんな事を考えながら歩いていたので、彼が近くを歩いていたにも関わらず、
気がつくのが遅れました。
気がついたのも、彼らしい話ではありますが、こっそり逃げ出そうとして転が
っていた空き缶を蹴飛ばしてしまった音が聞こえたから。
しかし、彼の姿を確認してからの都の行動は、怪盗ジャンヌを追いかける時と
同じくらいに迅速でした。
「逃がさないわよ、委員長」
●桃栗中央公園
逃げ腰の大和の手首を掴んで、近くにあった公園の中に連れ込んだ都は、ベン
チに彼を座らせると、自分もその横に腰掛けました。
そして辺りをさっと見回しました。
夕暮れ時の公園には、周囲に人影は見あたりませんでした。
「僕、これから家庭教師で…」
「さっきの話の続きをしたいんだけど」
大和の言葉を無視して、強引に都は話を切り出しました。
「さっきの話って」
「あんたが見た夢の話よ」
「夢? …ああ」
一瞬きょとんとした大和。ですが直ぐに何の話か思い出したようでした。
「夢の中でまろんが愛し合っていたって言ったよね」
大和の夢の中の光景。それは恐らくは真実。
幸か不幸かさっぱり覚えていませんが、まろんと稚空が愛し合う光景を大和か
ら話を聞いて想像した都。
もし、自分が正気でその様な光景を覗き見てしまっなら、まろんにどう接すれ
ば良いだろう。
祝福? 稚空になら、まろんを託しても良い。それは自分の中にある一つの思
い。
ですが、もう一つの自分の思いが、それを打ち消そうとしているのを都は今だ
からはっきりと自覚していました。
だから、新体操の大会の前にあのような約束をしたのですが。
「え? あ、はい」
「委員長、まろんの事が好きなんでしょ」
「はい。ですが」
「何よ」
「日下部さんには、僕よりも大切な人が沢山いるみたいですから」
「だからあたしな訳?」
「え…?」
「まろんが駄目そうだから、あたしに乗り換えるのかって聞いてるのよ」
「だからそれは夢で」
「じゃあ現実では委員長はあたしのことをどう思ってるのよ」
「それは…」
「ひょっとして委員長、あたしのことが好きなの?」
大和の顔を見ずに、都は言いました。
「それは…」
「それとも、委員長は好きでも無い相手を愛することが出来る人だったんだ」
「そんな事はありません! 大体僕達…」
「僕達?」
「あ…。え、えと…」
「委員長、何か隠してる」
今度はしっかりと大和の目を見据え、都は問い詰めました。
「……憧れだったんです。ずっと」
「え、何?」
最初、小さい声だったので、都の耳には届きませんでした。
「東大寺さんは僕にとって、ずっと憧れの人だったんです」
「え…?」
今度ははっきりと、都の目を見つめて大和は言いました。
「気が弱くて、無理矢理委員長の役をやらされて、良い様に使われていた僕を東
大寺さんはしょっちゅう助けてくれました。だから」
「み、みんなの無責任な態度に腹が立っただけよ」
「日下部さんが怪盗ジャンヌだって噂が立った時も、東大寺さんは一人日下部さ
んの事を庇っていました」
「親友として当然だわ」
「時にはクラスで孤立することを恐れず、堂々と自分の思うところを貫く。そん
な東大寺さんのこと、ずっと憧れていました」
「な…」
再び、都は大和から目を逸らしました。
「だから、今度は僕の番なんです」
「委員長の番?」
「東大寺さんが困った時に、今度は僕が手伝います。どこまで出来るかは判らな
いですけど。それが僕の気持ちなんです。だから僕、あの時は嬉しかったです」
「それって……」
「好きなのかどうかは、自分でも良く判りません。僕の東大寺さんへの想いと、
日下部さんへの想いは、どっちが強いかなんて比較出来なくて、ベクトルが違っ
ていて…。上手く言えないけど、それでもずっと気になる人だったんです。東大
寺さんは。だから夢の中でも東大寺さんが出て来た。そう思います」
これってひょっとして。
都の心の片隅に、それを喜ぶ気持ち、恥ずかしいと思う気持ち、信じられない
と思う気持ち、それに加えて大和に対して日頃抱いている若干見下した感情が混
ざり合い、そして。
「委員長のくせに、生意気!」
都は大和の背中を思い切り叩いていました。
「ゲホゲホ。何するんですか…」
「生意気だって言ってんの! 憧れだか何だか知らないけど、委員長如きがあた
しを助けようなんて生意気よ!」
「ご、ごめんなさい…。でも…」
都の剣幕に、いつもの様に小さくなってしまう大和。
その様子を見て、急に罪悪感を感じた都ですが、謝ることはしませんでした。
その代わり。
「生意気だけど、そこまで言うのなら、手伝わせてあげる」
「え?」
「委員長、シンドバットを捕まえるって言ってたよね」
「はい。最近ご無沙汰でしたが」
「ついでにジャンヌ逮捕も手伝って。これまでも手伝って貰っていたけど、それ
以上に。あんなことがあって、ジャンヌをあたしが先に捕まえないといけないの。
でも人手が足りなくて……ちょっとお小遣いも」
「任せて下さい! 入り用の物があれば、お爺ちゃんの会社の物なら何とか」
「ありがと。それじゃ、これから作戦会議よ」
「え、今から?」
「嫌なの?」
「いえ。ですが」
「何よ」
「良かった。東大寺さんが元気になって。さっき見かけた時、とっても表情が暗
かったので」
そう言うと、大和は微笑みを都に向けました。
それを見て、急に頬が熱くなった都は、慌てて顔を背けるのでした。
(第166話(その5)完)
サブタイトルとずれた方向に話が進んでいます(笑)。
「夏祭り」の準備のため、次回の投稿は申し訳ありませんが8月11日以降とな
ります。
では、また。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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