From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Wed, 17 Jul 2002 23:08:37 +0900
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石崎です。
神風・愛の劇場 第166話本編(その4)です。
(その1)は、<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<afvb3c$9p6$1@news01cf.so-net.ne.jp>から
(その3)は、<ageulu$6ri$1@news01dd.so-net.ne.jp>からどうぞ。
#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説が好きな方だけに。
★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その4)
●桃栗町・高級住宅街・水無月邸
「はぁ」
都の家の浴室の広さの数倍はあるだろう水無月家の浴室。
その湯船の中のお湯に身体を浸すと、都はため息をつきました。
大和が自分に何かをするとは思ってはいませんでしたが、それでも異性の友人
の家に外泊するのは初めてでしたから、都も緊張していたのです。
もちろん、大和の前ではそのような素振りは見せない都なのでしたが。
あ、そう言えば初めてじゃ無かったっけ。
ふと、都は思い出します。
以前、稚空の家に外泊したことがありました。
知らない内に稚空と関係してしまい、苦しんでいた日々。
その思いを当の稚空にぶつけ、吹っ切れたあの日。
「俺にはまろんだけ、か」
自分でもどこまで本気だったのか。
稚空を誘った時のことを思うと、今でも顔から火が出そうです。
そう言えば、あの夜からまだ一月とちょっとしか経っていないことに気付きま
す。
正確な日付は生涯忘れることは無いでしょう。
何しろ、都にとって一年で最も大切な日の前の晩なのですから。
「あたしには、そんな事言ってくれる人、居ないよね…」
自分にはそう言える人、居るんだけど。
でも、その相手は自分だけを見ている訳では無いのでした。
身体が十分に暖まったところで、湯船から上がった都。
木製の椅子に腰掛けてボディソープをつけ、身体を磨きます。
窓の外の雪は既に止み始めており、帰宅しようと思えば出来ました。
でも、都はそうしようとは思いませんでした。
大和のことを信用していたからと言うのもありますが、どうもそれだけでは無
さそうでした。
どうしてあたしはここに居るんだろう。
身体を洗う手を止め、都は大和の家にどうして今日来ることになったのかを思
い起こしているのでした。
●桃栗学園
桃栗体育館倒壊事件の余波で、水曜日まで休校日になっていた桃栗学園。
学園が再開した初日とあっては、全てが直ぐに元通りという訳には行きません
でした。
事件の前と同じように、まろんと稚空の三人で登校した都。
三人とも、それぞれ事件の中心部に居たので、登校中も敢えて事件のことを口
にはしませんでした。
とは言え、今までのようにたわいも無い会話をする気分にもなれなかったので、
三人とも何も喋らずに登校して行きました。
何かが足りないような気がして、直ぐには気付かなかったのですが、家が全然
違う場所にあるのに毎朝エントランスで待ち構えている人物が居ませんでした。
そのことに気付いた都ですが、そのことを口にはしませんでした。
「(委員長、今日は出て来るのかな?)」
昨日初めて知ったのですが、事件の後で大和は水無月グループが経営する病院
に入院していました。
「(もしも、委員長が出て来たなら)」
事前に読み込んでいた調書によれば、昨日訪問した山茶花弥白と同様に、大和
も何も記憶していない様子でしたが、それでも何か自分の知らない情報を持って
いるかもしれない。
そう、都は考えていました。
*
三人で並んで教室に入った直後、級友達に都達は取り囲まれました。
級友達の多くはあの時会場に居た筈ですが、怪盗ジャンヌのすぐ側、事件の中
心部に居た都とまろんから、話を聞きたい者は多かったのです。
二人だけではありません。体育館が倒壊寸前、最後の最後まで建物の中に留ま
り、救出活動に獅子奮迅の活躍を見せた稚空も皆に、特に女子生徒に囲まれてい
たのでした。
都が警察で調べた限り、幸いにも大和を別にすれば入院した級友は居ませんで
した。
だから、興味津々で事件の事を聞いて来るのだろう。
その様に都は感じ、事件の中心に居た者として若干の怒りを覚えたのですが、
まろんと稚空はそうは思わなかったのか、にこやかに受け答えしていました。
「(委員長、どこかな?)」
受け答えはまろんに任せ、人垣の向こうを見ましたが、見える範囲に委員長の
姿はありませんでした。
「(まさか、まだ入院しているのかな?)」
そうであれば、聞きに行くがてら、お見舞いに行かなくちゃ。
そう思った直後、大和が頭に包帯を巻いた姿で教室の中へと入って来ました。
声をかけようとした都でしたが、周りがざわついていた故、大声を出す必要が
ありそうでした。
何だか恥ずかしくて、大声を出すことを躊躇った都。
しかし大和の方が人垣を見つけ、こちらの方を向きました。
「あ、委員長!」
余り注目を集めないよう、それでいて大和に聞こえるように、大和に呼びかけ
た都。
大和にも声は届いたらしく、目が合いました。
そこまでは予想通り。しかし、その後が違っていました。
一瞬目を合わせたと思うと、大和は目を逸らして教室の隅へと行ってしまいま
した。
その仕草はまるで逃げるようなもので、軽い怒りを覚えた都。
人垣をかき分け、大和の所へ歩いて行こうとしたのですが、人垣を出てすぐに
別の級友に話しかけられてしまい、それに答えている内にいつの間にか大和の姿
は教室から消えているのでした。
*
一時限目の授業は全校集会で潰れてしまいましたが、その後の授業は平常通り
進められました。
休み時間の間、都は大和に話しかけようとしたのですが、大和は授業が終わっ
た瞬間に教室を出て行ってしまい、教師が入ってくる直前に戻って来るという調
子でしたから、なかなか彼と話すことが出来ませんでした。
「何、アイツ…」
普段の彼であれば、そんな行動を取るとは思えませんでしたから、明らかに都
達を避けている様子がありありでした。
彼が何を考えてその様な行動を取るのかは不明でしたが、その行動は大和に対
する関心を高めるだけであるのは確かでした。
「ちょっと、委員長」
「と、東大寺さん」
昼休み。やはり授業が終わった瞬間に出て行った大和。
しかし今回は行き先が容易に予測出来たので、購買部から出て来た大和を捕ま
えることは容易でした。
何かをもごもごと言いかける大和を無視し、その腕を引いて向かった先は校舎
の屋上。
都は屋上の隅へと大和を連行し、そこで大和を漸く解放しました。
「な、何ですか東大寺さん。いきなり…」
「一緒にお昼でも食べようと思って」
「でも、東大寺さんは食事を持って無いでしょう」
「じゃ、委員長の買ったパン、売って」
「お握りですけど」
「別に食べられれば何だって良いわよ」
「酷い。僕のお昼なのに…」
そうは言いつつも、都に逆らえる大和ではありません。
渋々、袋の中からお握りを二つ、都に差し出しました。
すぐには本題に入らず、しばらく無言でお握りを食べた都。
大和も無言でお握りを食べているのは同じでしたが、食べながら都の方をちら
ちらと見ているのが判りました。
一個のお握りを食べ終え、都は話を切り出しました。
「…どうしてあたしの事を避けるのよ」
「べ、別に避けてなんかいません」
「いいや、避けてる」
都が断定すると、大和はそれ以上強く否定しようとはせず、黙りこくってしま
いました。
「あの事件の前は、委員長はこんなんじゃ無かったよね」
「……」
「委員長、この前ジャンヌが現れた時、何か見たの?」
「その事なら、東大寺さんの方が詳しいんじゃ無いですか」
「あたしは委員長が何を見たのか聞きたいの」
「お父さんに話した通りですよ。東大寺さんも読んでいるでしょう?」
「うん。読んだ。ガスを吸って倒れた後で気がついて、その後玄関先まで辿り着
いたものの、体育館倒壊の混乱の中で何かに頭をぶつけて入院。そんな感じだっ
たわね」
「なら、その通りですよ」
「嘘ね」
「嘘じゃないです」
「あたしの目を見て言いなさい」
顔を背ける大和の正面に、自分の顔を近づけた都。
最初、目を逸らしていた大和ですが、やがてきっと都の目を正面から見据えま
した。
予想外の反応に、今度は目を逸らすのは都の番でした。
「な、何よ」
「目を見て言いなさいと言ったのは東大寺さんの方です」
「そりゃそうだけどさ」
「判りました。東大寺さんにだけ本当のことを話します」
「本当のこと? やっぱり何かを見ていたのね」
それは自分の失われた記憶に関することなのだろうか。
都の胸の鼓動が高まりました。
「…と言っても、現実の話じゃ無いんですけど」
「現実じゃない?」
「ええ。あの日、怪盗ジャンヌがばらまいたガスを吸って倒れた時に、夢を見た
んです」
「どんな夢?」
夢だと言っているけど、これまでのジャンヌ絡みの事件から考えると、これは
現実かもしれない。そう都は思いました。
「話しても良いですけど」
「何よ」
「怒らないですか?」
「怒らないから、早く」
「本当に怒らないで下さいよ?」
「判ったから!」
段々苛々して来た都は、思わず強い調子で言ってしまいました。
言ってしまってから、しまったと感じた都ですが、幸い、大和は慣れているの
か気にしている風はありませんでした。
「夢の中で僕、東大寺さんを傷つけてしまったんです」
「あたしを?」
「はい。夢の中で東大寺さん、新体操のリボンみたいな物で、身体中を縛られて
いました。それで僕、東大寺さんを自由にしてあげたんです」
「良いことじゃない」
「問題はそこから先です。そこでは日下部さんや名古屋君もいて、それぞれ愛し
合っていたんです」
「愛し合ってたぁ!?」
思わず、まろんと稚空が愛し合っている光景を想像した都。
「それを見て、僕も東大寺さんの事をつい…」
「……」
「愛そうとしたんですけど、東大寺さんの意志を確かめないで愛そうとしたので、
傷つけてしまったみたいで」
パシン!
そこまで大和が喋ったところで、反射的に手が出てしまいました。
「怒らないって言ったじゃないですか…」
頬をさすりさすり、大和が言いました。
「委員長がそんないい加減な奴だなんて思わなかった!」
「だから夢ですってば。それに僕達…」
「何ですって?」
「あ、何でもありません。それに、夢には続きがあるんです」
「夢の中の東大寺さんは、僕のことを偽物だって言うんです」
「偽物?」
「はい。僕は何かに取り憑かれているんだって。どういう意味なのかは良く判ら
ないんですけど」
ドキン。
都の心臓が又高鳴りました。
あの場で仮にその様な事態に遭遇したとすれば、自分であれば言いそうな台詞。
それが大和の夢の中で出て来たということは…。
「夢の中にジャンヌは出て来なかったの?」
「あ…はい。居たような居なかったような。ですが」
「何?」
「夢の中で東大寺さん、お願いジャンヌ、委員長を元に戻してって言うんです」
「…え!?」
ドキン。
昴を救うためにジャンヌにお願いしたことは、誰にも話したことはありません
から、これはまさに自分しか言う筈のない台詞。
するとこれはやはり現実の出来事なの?
「それを聞いて目が覚めました」
「目が覚めた?」
「はい。それで僕、東大寺さんに謝ろうとしたんですけど、その前に東大寺さん、
帰って来てくれたんだって喜んで、許してくれました」
「そうなんだ…」
「東大寺さんがジャンヌにお願いするとか、まさに夢ならではの展開ですよね」
大和の話を聞き終え、都は腕組みをして考え込みました。
「話が繋がった…」
「え? 繋がったって?」
「ううん、何でも無い。それよりも委員長」
恐らくは大和の夢は、大和が正気を失っている時の記憶。
でも、正気を失っている人間の行動は、ある程度その本人の記憶や欲望に基づ
いている。
過去の事件から、その様に都は推測していました。
だからあの時の委員長の行動は…。
問い質すべきでした。
「何であたしなのよ」
「はぁ?」
「だから、何でまろんで無くて、あたしなのよ!」
委員長はまろんの事が好きなんじゃ無かったの?
稚空とまろんが愛し合っているからって、だからってあたしな訳?
あたしはそんな軽い存在なの?
都は委員長の胸ぐらを掴んで立たせると、背後の金網に押しつけました。
そうして顔を近づけ、問い詰めようとしたのですが。
「都、委員長!」
「こんな所に居たのか」
屋上の入り口の方から、まろんと稚空の声がしたので、慌てて都は大和を解放
してやり、座り直すと何事も無かったかのように食事を再開するのでした。
(第166話(その4)完)
なかなか筆が進まないよう(笑)。
では、また来週。
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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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