神風・愛の劇場スレッド 第166話『きょうだい』(その3)(7/10付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Wed, 10 Jul 2002 00:15:36 +0900
Organization: So-net
Lines: 380
Message-ID: <ageulu$6ri$1@news01dd.so-net.ne.jp>
References: <advfnh$9ql$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<20020614121417.5ffc13a5.hidero@po.iijnet.or.jp>
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石崎です。

第166話本編(その3)です。

(その1)は、<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>から
(その2)は、<afvb3c$9p6$1@news01cf.so-net.ne.jp>からどうぞ。

>#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
>#妄想小説スレッドです。所謂二次小説が好きな方だけに。




★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その3)

●オルレアン・まろんの家

「ただいま…」

 ツグミと別れた後、一人で自宅へと戻って来たまろん。
 扉を開けると、電気がついていることに気づいておやと思いますが、すぐにそ
れも当然かと思い直します。
 セルシアを運んで来たトキが電気をつけていたのでしょうから。
 しかし、リビングの扉を開けると、待っていたのはトキだけではありませんで
した。

「お帰り、まろん」
「なんで稚空がここに居るのよ」
「もちろん、セルシアのことが心配だからさ」
「トキに任せておけば良かったのに」
「トキは人間界のことに詳しくないからな」
「鍵がかかっていた筈だけど」
「そうか? 窓は開いてたぜ」
「稚空までアクセス達の真似をすること無いでしょ!」
「非常事態だ。仕方がない」

 そう平然と言う稚空でしたが、本当は自分の帰りをここで待っていてくれたの
だと感じます。

「全く、もう…」

 勝手に自分の家に入り込んでいた稚空に文句の一つも言いたかったまろん。
 しかしここはセルシアの方を心配すべきでした。

「それでセルシアはどこに?」
「はい、ここに」

 トキが答える前に、まろんもソファにセルシアが寝かされていることに気づき
ました。

「セルシア、大丈夫だよね」
「眠っているだけだとは思うのですが、かなり消耗している様子です。明日はゆ
っくりと休ませた方が良いでしょう。山茶花弥白嬢の護衛はその間、私が代わり
に」
「そうだね。それが良いね」

 トキの言葉に、まろんも頷いたその時です。
 誰かが、お腹を鳴らしました。

「そう言えば、夕食まだ食ってなかったよな」

 と言うところを見ると、お腹を鳴らしたのは稚空なのでしょう。

「だったら…」
「そうですね。もう時間も遅いですし、後のことはまろんさんにお任せして、
我々は家に戻って夕食としましょう」
「え?」
「あの、良かったら」
「おお!」
「いえ、昨日に続けてまろんさんにご迷惑をかける訳には。そうですよね、稚空
さん」
「お、おう」
「私もお腹が空きました。早速戻って夕餉にしましょう。稚空さん、アクセス」

 そう言うと、トキはすたすたと窓に向かって歩いて行きました。
 やや遅れてアクセスも後から続き、最後に稚空が渋々といった様子で窓へと向
かいます。
 引き留めたものかどうか。
 一瞬の逡巡の後、結局まろんは稚空を呼び止めないことにしました。
 どちらにせよ、今日は稚空の家での夕食会の予定で準備は特にはしていません
でしたし、セルシアを看ることを優先すべきだと思ったからです。
 ただその代わり、稚空の姿が見えなくなってから、こう呟きました。

「…別に、遠慮なんかしなくて良いのに」



 元々セルシアの寝床はリビングのソファと決まっていましたし、そのまま寝か
せておいても良かったのですが、疲れているのにこんな場所では不憫だと感じた
まろん。

「よっこらしょっと」

 まろんは、ソファに寝ていたセルシアの身体を抱きかかえると、両親の寝室へ
と運んで行きました。
 意外にも見た目よりもセルシアの身体はふわりと軽く、まろんの力でも容易に
運んで行くことが出来ました。

「(随分、汚れてるな)」

 運んでいる途中で、セルシアの衣服が大分汚れていることに気づいたまろん。
 何だか臭うような気もします。
 今日の戦いで埃にまみれていたという事情もありましたが、それ以上にセルシ
アが水曜日から帰宅していないという事実の方が重要でした。

「(トキも気がつかなかったのかしら?)」

 食べ物と一緒に、着替えの服を運んで行ってやらなかったのだろうか。
 そう思い、男性であるトキはそこまで考えが回らなかったのだろうと思うまろ
ん。
 むしろ、自分が先に気づいてやるべきだったかとまろんは反省しました。

「よいしょっと」

 セルシアを抱きかかえたままでドアノブを回すのに一苦労した後に、カーテン
が引かれて真っ暗な寝室に入ると、ベッドの上にそっとセルシアを下ろしました。
 灯りをつけ、ベッドの上で未だすやすやと眠るセルシアを見て、運ぶ途中で起
こさなかったことに安堵したまろん。
 改めて、横たわるセルシアの姿をしげしげと見つめます。

「取りあえず着替えさせて、この服は洗濯した方が良いわね」

 リビングに畳んで置いてあった、セルシアの寝間着として使っている寝間着を
持って来たまろんは、セルシアの服を脱がせようとして、はたと気づきました。

「そう言えば、天使の服って脱がせること、出来たんだっけ?」

 フィンは準天使として接近して来た頃も含めて、服を脱ぐのも着るのも一瞬で
した。
 それは、天使の術により服を「着替えて」いるらしいのですが、そのため、人
間の力では脱がすことが出来ない。
 そのように堕天使フィンは言っていたことがありました。
 その時は、まろんは神から与えられた力を使って強引に「脱がして」しまった
のですが。

「(セルシアにはそんなこと、出来ないわよね)」

 神の力を使えば、セルシアの服を消滅させるのは造作も無いことのように感じ
られましたが、流石にそれは躊躇われました。

「ものは試し」

 そう呟くと、まろんはセルシアの服に手をかけました。
 すると意外にも、直接手で触れることが出来ました。

「あれ?」

 そのまま、元は純白であったセルシアの服を脱がして行きました。

「(何だ。脱がせられないって、フィンのはったりだったの?)」

 そう気づくと、今までフィンに対してしていた行為を思い出し、罪悪感を感じ
たまろんでしたが。

「あ、いけないいけない」

 フィンとの出来事を思い出し、手が止まっていたことに気づいたまろんは、着
せ替え作業を再開しました。
 まろんの頭の中からは罪悪感はきれいさっぱり消え、その代わりに好奇心がわ
き上がって来るのでした。

「(天使ってどんな下着、つけているんだろう?)」


●オルレアン・稚空の部屋

 稚空の部屋へと戻って来たアクセス達。
 稚空は、冷蔵庫の中身を漁って簡単に夕食を作りました。

「どうしてまろんの誘いを断ったんだよ」

 食べ始めてしばらくして、稚空が言えなかった台詞をアクセスは遠慮無くトキ
にぶつけました。

「約束では、今日の食事はこの家が会場だったはずです。あまりまろんさんに甘
えては」
「良いじゃん。まろんの作った方が料理は美味しいんだし。それに…」

 アクセスは、稚空の方をちらりと見やると、稚空は目を逸らします。

「アクセスは遠慮と言うものを知らなさ過ぎです。それに天使たるもの、料理の
味を必要以上に云々すべきではありません」

 トキは稚空とアクセスの様子に関心を持たなかった様子で、このように言うの
でした。

「相変わらずお堅い奴」
「人間界で贅沢に慣れると、天界に戻ってから苦労しますよ」
「判ってるさ」

 そんな天使達の会話を聞きながら、まろんからの夕食の誘いを受けられなかっ
たことを心底残念に感じる稚空なのでした。



 夕食を食べ、順番に入浴した後で稚空はすぐに寝室へと入って寝てしまいまし
た。
 アクセスとトキの寝床は、何度か場所を変えた挙げ句、今ではリビングの上に
あるロフトに雑魚寝の形となっていました。
 窓から見える星空が、トキのお気に入りだったからです。

「セルシアの奴、大丈夫かな」

 なかなか寝付けないでいたアクセスが、やはり寝付けない様子のトキに声をか
けました。

「私の見立てを疑うのですか?」
「いや、その…」

 トキにまろんの特殊な好みを伝えたものかどうか、アクセスは悩み、結局は口
にしないことにしました。
 フィンとのことを知ったら、トキは卒倒しかねなかったからです。

「セルシアのこと、心配じゃ無いのかよ」
「もちろん、心配しています。いつでもね」
「だったら、側について看てやれよ」
「セルシアにはまろんさんがついていますから安心です」

 だから心配なんだけどな。その言葉を飲み込んだアクセス。

「まろんは問題じゃない。トキの気持ちはどうなんだよ」
「どうって…」
「セルシアのこと、好きなんじゃ無いのか?」
「もちろん、好きですよ」
「言葉を変えよう。セルシアのことを女として、愛していないのか?」
「それは…」
「間違っていたらごめん。セルシアはトキの事、男として好きなんだと思ってる。
トキはどうなんだよ?」

 すぐにはトキからの答えはありませんでした。
 待ちくたびれたアクセスが重ねて同じ問いを発しようとした時です。
 トキが漸く口を開きました。

「愛しています。彼女のことを。心から。そう言えば、貴方には感謝する必要が
あるのでしたね。貴方のお節介のおかげで、私は自分の気持ちに気付いたのです
から」

 最後まで曖昧な態度を取り続けるかとも思ったのですが、トキが意外にも素直
に認めたので、アクセスは少なからず驚きました。

「だったらどうして…」
「彼女のことを愛するが故に、必要以上に彼女と触れ合うことは慎まなければい
けません」
「『掟』のことを言っているのか? それならみんな適当に…」

 掟など無視して、陰で恋愛に夢中な者は大勢居る。
 アクセスならずとも、天界に住む者であれば誰でも知っている事実。

「しっ」

 アクセスの台詞は、トキの手によって塞がれました。
 続いて、アクセスの心の中に直接トキが呼びかけて来ました。

「(それ以上喋らないで下さい)」
「(誰も聞いちゃいねぇよ)」
「(我々は天界から監視されているかもしれません。滅多なことは口にしない方
が)」
「(だったら、この会話も聞かれているかも)」
「(他の天使の心を読むことは『掟』に反しますから、例え盗み聞きされていた
としても、それは証拠にはなりません)」
「(でもよ、こんな事まで一々気にしないといけないのか? 誰でもやっている
事じゃん)」
「(アクセスは知らないと思いますが、情勢が変化したのです)」
「(どういう事だよ)」
「(フィンさんが堕天使となった一件以降、恋愛に関する『掟』の運用が厳しく
なりました)」
「(どういう事だよ?)」
「(判らないのですか?)」
「(判らねぇ)」
「(…なら、それでも構いません)」
「(何だよ。思わせぶりなこと言って、それで止めるなよ)」
「(……。そうですね。レイとミナのことを覚えていますか?)」
「(え? ああ、最近会ったばかりだけど?)」
「(彼女達は、天界から追放となりました。互いに愛し合ったが故に)」
「(そんな馬鹿な! 無茶苦茶厳し過ぎじゃねぇか?)」
「(天界でもその声が強かったのですが)」
「(だったら何故)」
「(見せしめなのでしょう、恐らく。彼女達は大っぴらにやり過ぎました)」
「(それで、彼女達は今?)」
「(判りません)」
「そうか…」

 アクセスが言葉を発したのをきっかけに、思考の接続は途切れました。

「しかし、我慢するのももう少しです」
「どういう事だ?」
「この任務を無事に終え、やがて正天使に昇格すれば、恋愛は自由ですから。そ
れまでの我慢です」
「そうか…。俺なら我慢出来ないけどな」
「いえ、私より貴方の方が我慢強い」
「え?」
「(堕天使に恋するなど、私には出来ません。私なら、彼女のことをきっぱりと
諦めるか、さもなければ…)」
「何だよ」
「(私自身が、堕天使となって彼女のことを追いかけるでしょう)」

 トキが心の中でそう呼びかけてくると、アクセスは一瞬あっけに取られ、続い
て笑い始めました。

「アクセス?」
「いや、安心した。お前も普通に恋する天使なんだなって」

 そう言うと、アクセスは再び笑うのでした。


●天界・大天使リルの執務室

 大天使リルの執務室の片隅に置いてある水鏡。
 それを通して大天使リルは外の世界の様子を観察していました。
 目的の映像を見終わると、リルは微笑みを浮かべ、水鏡から離れました。

 するとタイミング良く、執務室のドアがノックされました。
 入って来た秘書役の準天使は、先程までリルが見ていた映像と同じ内容が書か
れた報告書を持参していました。
 すでに知っていることばかりでしたが、さぞ今知ったかのようにリルは報告書
をしげしげと眺め、そして幾つかの質問を発しました。
 それに淀みなく、そして偽りも無く答える天使の様子を見て、リルは満足気に
肯きます。

「派遣して僅かの期間でこれだけの功績。トキとセルシアは良くやっているよう
ですね」
「天界には大恩があるのですから、当然です」
「今回の任務を無事に終えて天界に帰還したら、アクセスも含め、彼らを正天使
に推挙しないと」
「それは…!」

 絶句する秘書役の準天使。
 彼女の常識では、そのようなことはあり得ない筈でした。
 絶対に幹部会では通らないはず。

「もう、下がって良いですよ」
「あ、はい」

 自分の言葉に硬直した準天使を下がらせ、彼女が扉の向こうへと消えると、ト
キはため息をつきました。

「(まだ若い所為か、彼女にはまだ理解出来ないようですね。この世界は変わる
必要があるということに。その為にも、彼らには頑張って貰わないと)」

 リルは、再び水鏡の前に立つと、今度は別の場所を呼び出そうとします。
 場所が場所だけに、映像が出るまでには少しの時間が必要でした。
 映像が出ると、リルはその映像に映った天使達の名前を口にします。

「元気そうですね。レイ、ミナ」


●桃栗町上空

 アクセスが眠り込んでしまった後も寝付けなかったトキは、部屋を出て桃栗町
の夜空へと飛び立ちました。
 いつも見るこの街の夜景とは異なり、一面の銀世界となっている地上を見下ろ
しながら、トキは飛行を続けます。
 目についた、一番高い鉄塔の上にトキは降り立ちました。
 降り積もった雪にも関わらず、その匂いは相変わらずそこにありました。

「フィンさん…」

 この街を見下ろすことの出来るこの場所でフィンは一人、寝起きしていたのだ
ろう。
 トキは偶然この場所に気付いた時、そのように推測していました。
 鉄塔の展望台に降り積もった雪の上に腰を下ろすと、トキは目を瞑り物思いに
耽ります。
 そうして、天界でフィンと一緒に過ごしていた頃のことを思い出し、自分の悩
みを心の中で呟きました。

「(フィンさん…。私はアクセスに嘘をつきました。私は彼女のことを好きです。
でも、それが真かどうか判りかねている。どの様に愛して良いのか、そもそも愛
して良いのか…。そんな私のことを貴方は嗤いますか? フィン・フィッシ
ュ)」
「(悩むことは無いよ。今は今。自分のしたいことをすれば良いじゃない)」

 頭の中でフィンの声が響いたような気がして、トキは慌てて目を開けて辺りを
見回しましたが、もちろん周囲にフィンの姿は無いのでした。

(第166話(その3)完)

 やはり、天使の服も脱がすことが出来ないと(違)。
 次回は今週末の予定です。では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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