神風・愛の劇場スレッド 第166話『きょうだい』(その2)(7/4付) 書いた人:携帯@さん
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ
From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Thu, 04 Jul 2002 02:08:59 +0900
Organization: So-net
Lines: 449
Message-ID: <afvb3c$9p6$1@news01cf.so-net.ne.jp>
References: <20020531124735.4437cfca.hidero@po.iijnet.or.jp>
<advfnh$9ql$1@news01cc.so-net.ne.jp>
<20020614121417.5ffc13a5.hidero@po.iijnet.or.jp>
<af4o06$7pd$1@news01de.so-net.ne.jp>
<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>
In-Reply-To: <af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>
X-NewsReader: Datula version 1.20.09 for Windows

石崎です。

少し投稿が普段より遅れました。第166話本編(その2)です。

(その1)は、<af4q7o$k82$1@news01bf.so-net.ne.jp>からどうぞ。

#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説が好きな方だけに。




★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その2)

●桃栗町某所 紫界堂邸

 夕刻より降り始めた雪は、リビングの窓の外の景色を白一色に塗り替えていま
した。
 この屋敷は桃栗町の街の中心部から少々離れていましたし、やはりこの屋敷か
ら少し歩かないと停留所にたどり着けないバスも、この雪ではまともに運行して
いないと考えるべきでした。
 その様な訳ですから、この日も聖の屋敷を訪れていた桐嶋まなみは、携帯電話
からまだ会社にいた母親に電話を掛け、友達の家に泊めて貰うことにしたと告げ
ると母は細かい詮索もせずに、自分達も雪のため、今日は泊まることになるかも
知れないから好都合と言ってあっさりと了承してくれました。

 今回に限らず外泊の連絡を入れる度、まなみの胸にちくりと痛みが走ります。
 自分の事を優等生と信じ切り、家の細々とした事を任せきりで仕事に没頭して
いる両親。
 本当の事を知ったら、どんなに悲しむことだろうか。
 それとも、祝福してくれるだろうか。
 何しろ、両親の馴れ初めも……。

「家に連絡は済みましたか?」

 背後より声を掛けられ、窓から外を見つめていたまなみは振り返りました。

「あ、はい」

 リビングの入り口に立っていた聖はエプロン姿でした。
 初めて見た時は驚いたまなみでしたが、今では驚きはありません。
 何しろ、聖はまなみよりも料理が上手いのです。
 ただ、最近は料理番は全がすることが多かったのですが。

「夕食の支度が出来ましたよ。冷めない内に頂きましょう」
「はい」



 和洋中と大抵のメニューをこなすことの出来る聖でしたが、やはり一番多いの
は和食で、その日のメニューも煮魚を中心としたメニューなのでした。

「今日のご飯の味は如何でしたか?」

 夕食の後、一緒に後片付けをした後に、

「あ、はい。とても美味しかったです」
「そうですか。茨城より米を取り寄せたかいがありました」
「茨城?」
「はい。このお米はミルキークイーンと言って…」

 こうして暫くの間、今日食卓に並んでいる食材についての講釈を聖は始めまし
た。
 それを一つ一つ肯きながら嫌な顔一つせず、まなみは聞いていました。

「本当に先生は料理がお好きなんですね」

 聖の講釈が一段落した辺りで、まなみは言いました。
 もっともこの台詞自体、二人の間では何度目かのものではあったのですが、聖
の答は今日初めてのものでした。

「昔から好きだったわけではありません。始めたのは最近の事です」
「意外。子供の頃から台所に立っていたとばかり」
「子供の頃は、料理に気を使う時代ではありませんでした。料理に目覚めたのは、
中国に居た頃に、当時の師匠に仕込まれたのがきっかけです」
「中国に居たことがあるんですか? やっぱり留学とか?」
「ええ、まぁ。そうですね。この国に居ては学ぶことが到底叶わない知識を得る
ことが出来ましたよ」
「へぇ」

 まだまだこの人には、私の知らないことが沢山ある。
 今日、昔の話を教えてくれたのは、私のことを愛してくれているから?
 信じたい。だけど……。

「中国って、上海の辺りですか?」

 新体操の大会以来、頭の片隅に残るわだかまりを振り払うと、まなみは話を続
けました。

「どうしてそう思うのです?」
「先生の料理、魚が多いから。当てずっぽうですけど」
「当たらずとも遠からず、と言った所でしょうか」
「じゃあ、どこですか?」
「香港です」
「ああ、そっちですか」
「もっとも、魚料理が多いのはそれとはあまり関係はありません」
「それじゃ、どうしてですか?」
「全が魚が好きですので」
「ああ、成る程」

 血が繋がっていない子だと聞いているけれど、息子さん思いなんだ。
 そう感じると、まなみの顔に自然と笑顔が浮かびます。

「そう言えば、今日は全君は?」
「友達の家に行くと書き置きがありました」
「まだ帰って来ませんよ?」
「向こうで雪に降られて帰るに帰れないのかもしれません」
「電話で連絡とかは?」
「あの子には携帯電話を持たせていません」
「友達の家に居るのなら…」
「心当たりがあります」

 そう言うと、聖は廊下へと出て行きました。
 流石に後を追いかけて立ち聞きするのは躊躇われたので、そのまま待っている
と、暫くして廊下で何やら話し声がして、やがて聖は戻って来ました。

「居場所が判りました。やはり友達の家でした」
「良かった」
「今日は先方に泊まらせることにしました」
「そうですね。それが良いと思います」

 そう答えながら、今日はこの屋敷に二人切りなのだとまなみは気付きます。
 今晩は、全君を起こさないように気を使わなくて良いんだ。
 そう思うと、まなみの鼓動は高まっていくのでした。


●桃栗町西部郊外 ツグミの家

 まろんと別れた後、ツグミはイカロスと一緒に歩いて自宅へと戻って来ました。
 雪は既に止んでいましたが、時折吹き寄せる風が降り積もった雪を舞い上げて
顔に吹き付け、その冷たさにツグミは思わず顔をしかめます。
 イカロスが道を踏み固め、前方の安全を確認してくれるお陰で、不安無く帰り
道を歩いて行くツグミですが、これでイカロスが居なければと思うとぞっとしま
す。
 いつもよりは若干の時間をかけ、海沿いの我が家へと辿り着いたツグミ。
 すると、イカロスが何かをツグミに報せます。
 どうやら、玄関先に誰かが居る様子なのでした。

「誰か居るの?」

 変質者が居るとは思いませんでしたが、それでも一応警戒して離れた所から声
をかけたツグミ。
 最初は返事が無かったので、二度、三度と呼びかけると、今度はか細い声で返
事がありました。

「お帰りなさぁい。ツグミさん」
「全君!?」

 慌てて玄関に早足で向かったツグミの杖先に何かが当たります。
 それは、雪に半分埋もれ、座り込んでいる全の身体なのだと気付くと、ツグミ
はまず小さく悲鳴を上げ、続いて慌ててドアを開けて全を家の中へと招き入れる
のでした。



「こんな雪の日の夜に来るなんて、びっくりしちゃった」

 全を招き入れ、お風呂を沸かす間に濡れた服を脱がせてTシャツに着替えさせ
たツグミは、まずは暖かいココアを全に薦めました。
 冷たかった部屋の中も暖房で暖まり、それまでがたがたと震えていたらしい全
の震えは段々と収まって来た様子でした。
 そして、ツグミはキッチンで夕食の支度を整えます。
 もっとも、今日は買い物に行けなかったのであまり大したものは出来なかった
のですが。
 準備が出来てから、ツグミはどうしてこんな天気の日に来たのか尋ねました。
 本当は、もっと他に尋ねたいことがあったのですが。

「ツグミお姉さんに、どうしても会いたかったんでぃす」
「別に今日で無くても、天気の良い日の昼間にくれば良かったのに」
「出かける時は、雪は降って無かったんでぃすが、途中から降り出して来たんで
ぃす。もの凄い雪で、途中で道も判らなくなって…」

 全の話から、自分の家に来る途中で雪に降られ、しかも道に迷って何とか辿り
着いた時には既に夜。運悪くもツグミは留守だったのでそのまま玄関先で待って
いたのだと聞かされたツグミは、まずは全に家に連絡を入れたか尋ね、まだだと
知ると電話をかけて、今晩はここに泊まると言うように言いました。
 そうしておいてから、全に聞きます。

「お腹空いたしょう。ご飯の準備、出来てるわよ。それともお風呂に入って暖ま
る?」
「ご飯を先にしまぁす」
「じゃ、ご飯ね」

 ツグミが立ち上がると、全も慌てて立ち上がり、手伝うと言いました。
 本当は手伝って貰わなくても良かったのですが、ツグミは全に手伝いを頼むこ
とにしました。
 その方が、全が気が楽だと思ったからです。
 母に先立たれて以降、イカロスと二人で暮らしていた頃のツグミであれば、一
人で何でもやってしまおうとしたでしょうが、最近、お節介な友人兼恋人が出来
てから、ツグミの考え方も少し変わって来ていたのです。

 弥白を助けるために買い物に行けなかったが故、冷蔵庫の中身は殆ど残ってお
らず弥白のために作ったポタージュの残りとサラダと挽肉とミックスベジタブル
のオムレツにご飯といった、殆ど朝食と変わらないボリュームの食事を二人で
テーブルに並べ、二人はテーブルにつきました。

「量、これじゃ足り無くない? まだ何か作ろうと思えば…」
「大丈夫でぃす」
「そう。後でお腹が空いたら言ってね」
「はぁい」
「それじゃ、頂きましょうか」

 やはりお腹が空いていたのでしょう。
 躾が行き届いている全にしては珍しく、がっついた様な食べ方をしている様子
でした。
 あっと言う間に一杯を平らげ、二杯目をよそった所で、漸く落ち着いた全。
 それを見計らい、ツグミは話しかけました。

「ねぇ、全君」
「はぁい」
「私にどうしても会いたかったって言ったよね?」
「はぃ…」
「何かあったの?」
「それがでぃす」

 全は、持っていた箸を置きました。
 暫しの沈黙。
 ツグミは、全の次の言葉をじっと待ちました。

「僕…僕…、もうすぐツグミお姉さんとお別れでぃす」
「え!?」

 滅多に動揺しないツグミですが、急なこの話には流石に驚きました。

「『お父さん』に言われました。もう少しでこの街での仕事は終わりでぃすから、
今のうちに大切な人が居るならば、別れを告げておきなさいと。僕…ツグミお姉
さんとお別れしたく無いでぃす。…でも、仕方無いでぃす」
「そう…だったの…」

 まだ一度も会ったことの無い全の父親は、桃栗学園の先生だと聞いたことがあ
りました。
 最近桃栗町に越してきて、また直ぐに転校とはちょっと急すぎる。
 とすると、多分臨時講師か何かで、契約期間が切れたということなのね。

「何時…行くの? どこに?」
「それが…まだ場所や細かい日は良く判らないでぃす。けど、4月にはならない
だろうって」
「それじゃあ、細かいことがが決まったら教えてね。日下部さん達も呼んで、お
別れ会をしてあげるから」
「本当でぃすか!?」

 全の声に、少しだけ明るさが戻ったようでした。



 夕食を終え、二人で後片付けを終えた後にリビングに移動して食後の紅茶とな
りました。

「ねぇ、全君」
「はぁい」
「どこに行くか判らないって言ってたけど、日本の中なのよね」
「それが…」
「外国なの?」
「えと…」

 何かを考え込んでいる風。そんな印象なのです。

「日本じゃないのね?」
「はい。えと…『ふらんす』。そう、『お父さん』はそう言ってたでぃす」
「フランス?」
「はぁい。『お父さん』は、『ふらんす』から来たので、そこに帰るそうでぃ
す」

 フランス語の先生か何かなのかしら。それとも美術?
 それよりも、フランスの地名がツグミの関心を惹きました。
 何故ならそこは。

「そう。フランスなんだ…」
「はいっ」
「偶然ね。私もね、フランスの血を引いているのよ」
「本当でぃすか?」
「だって、ほら。この髪とか」

 髪を一房、手にして前に出しました。

「綺麗な金髪でぃす」
「この瞳とか」

 ツグミは滅多に人には見せない瞳を見せました。

「青いでぃす」
「母方のお婆ちゃんの血の賜なの」
「そうなんでぃすか。ツグミお姉さんも『ふらんす』の人だったんでぃすね」
「そうね」
「だったら…」

 ふいに、ツグミの手の平が暖かいもので包まれました。

「だったら、ツグミお姉さんも、僕と一緒に行きませんか?」
「え?」
「『お父さん』は言いました。もしも僕に大切な人が居て、その人が良いと言う
のなら、一緒に連れて行って良いでぃすと」
「えええっ!?」
「『向こう』での生活は責任を持ちますと『お父さん』は言ってましたでぃす」
「そんな、急に…」
「すぐにとは言いません。でも、僕がこう言ったことは覚えていて下さぁい」
「うん…」

 今は学校に行かずに、大学進学への準備を進めているツグミですが、もちろん
留学も進路の選択肢としてはありました。
 異国の地で生涯を終えた母方の祖母。
 その故郷の地を訪れてみたいという思いも当然あります。
 だから、欧州の地へ留学ということも考えないでもありませんでした。
 でも、それはもう少し先の話。
 今、急に言われても。

「僕、やっぱりツグミお姉さんと離れたく無いでぃす」
「全君…」
「ツグミお姉さん、僕の好きだったお姉さんに似てまぁす」
「え?」
「昔、隣に住んでいて、親切にしてくれたお姉さんでぃす。姿形は全然違います
けど、雰囲気が似てまぁす」
「幼なじみなのね。どんな人だったの?」
「えっと、髪はツグミお姉さんとは逆で短くて」
「あら」
「色は炎のように真っ赤でぃす」
「本当に全然違うのね」
「でも、ツグミお姉さんと同じように優しくて、料理もとっても上手でぃした」
「全君の初恋の人?」
「『はつこい』…良く判りませぇん」

 全がそう言うと、ツグミは溜息をつきました。
 やっぱり、この子は子供なのかな。
 それとも、こういう話が恥ずかしいのかしら?

「それで、そのお姉さんは今どうしているの?」
「居ませぇん」
「どこかに引っ越したの?」
「居なくなったのはお姉さんだけでぃす。お姉さんは、故郷に『還った』と『お
父さん』は言ってましたぁ」
「故郷ってどこなの?」
「良く判りませぇん」

 全の話から、嫌な想像をしてしまったツグミですが、もちろん口にはしません
でした。
 そんな事を考えてしまうのも、自分の過去の経験が故だろうと思います。

「でも、お父さんは言ってました。お姉さんは、余所の『世界』に行ったと」
「外国の人だったの?」
「そうかもしれませぇん。この街に来る時に、僕、思いました。ひょっとしたら、
ここにお姉さんが居るのかもと」
「……」
「でも、『お父さん』にこの話をしたら、笑ってここには居ないと言われました
ぁ」
「じゃあ…」

 お父さんは、そのお姉さんがどこに行ったのか知っているのね。
 きっとそれは残酷な『現実』なのかもしれないけど。

「それで、諦めていたんでぃすけど、でも、僕、見つけました」
「見つけたって何を?」
「ツグミお姉さんでぃす」
「私を?」
「はい。まだ上手く歩けなかった頃、ここに泊めてくれて色々優しくしてくれま
したぁ」
「別に大したことはしてないわ」
「でも、僕、嬉しかったでぃす。隣のお姉さんが居た頃のことを思い出して。ま
るで、新しい『お姉さん』が出来たみたいで、嬉しかったでぃす。だから…」
「全君…」
「またお別れなんて、嫌…でぃす…」

 やがて全がすすり泣きを始めたのが、ツグミの耳に届きました。

「全君!」

 ツグミは全の手を握り返し、やがてテーブル越しに彼を抱きしめました。

「ツグミ…お姉さん…」
「あ、ごめんなさい」

 強く抱きしめ過ぎただろうか。そう思い、ツグミは全から離れました。

「私にもね、弟がいたの。多分全君と同じか、もう少し上位の歳よ」
「初耳でぃす」
「生きていたら、の話だけどね」
「土に還ったんでぃすか?」
「それも少し違う。そもそも生まれてもいないのよ。大体、弟かどうかすら判ら
ない」
「良く判りませぇん」
「丁度私の目が光を失い始めた頃の話よ。母さんは新たな命を授かったの」
「赤ちゃんが出来たんでぃすか?」
「そう。だけどその頃父さんと母さんの仲が悪くなり始めていて」
「赤ちゃんが出来たのに?」
「私の所為なの」
「どうしてでぃすか?」
「私の目が悪くなったことをきっかけに、仕事にかまけて家のこと、母さんのこ
と、私のことを省みなかった父さんと母さんの仲が悪くなったの」
「ツグミお姉さんは悪くありませぇん」
「有り難う。それでね、父さんは医者だったから。娘の病気に気付かなかった父
に、母さんが八つ当たりしたのよね。今にして思えば」
「酷いお母さんでぃす」
「ううん。私も悪いの。光を失うことを恐れ、ただただ泣き叫ぶばかりだったの。
あの頃の私は」
「誰でも急に目が見えなくなったら怖いでぃす」
「もっと前向きに生きることは出来たのに、あの時の私は、母さんを困らせてば
かり。それで、疲れ切った母さんは、暫く振りに家に戻って来た父相手に大喧
嘩」
「それは大変でぃす」
「でもね、その時はそれで収まったの。だけど、その数日後に母さん、流産しそ
うになってね、入院したの。その時にも父さん、仕事で母さんの側に居なかっ
た」
「酷いでぃす」
「父にも言い分はあったのよ。急患が入って、緊急手術をしなければならなかっ
たからって。だから父は、母さんの流産の話を聞いても、平然として手術をした
そうよ。その手術は無事に成功。患者さんの家族からは感謝されたけれど、私の
家族は…」
「……」
「それでね、あの頃の私は、自分が光を失うことを恐れて、母さんを困らせたか
ら、父さんと母さんが別れて、母さんも流産したのだと思ったの」
「でも、ツグミお姉さんも大変だったんでぃすよね」
「そうね。母に引き取られた私は、もう母さんを困らせまいと、一生懸命努力し
たの。だから私は母にとって、あまり可愛くない子供だったかもしれない」
「そんな事無いでぃす」
「でも、自分一人で何でも出来る自信がついた頃、母さんも天に召されちゃっ
た」
「土に還ったんでぃすね」
「父さんも今は別の女の人と結婚しているわ。私だけ、一人になっちゃった」
「それは違いまぁす! ツグミさんは一人じゃ無いでぃす」
「そうね。日下部さんも居るし、もちろん全君、君もね」

 全の言おうとしている言葉を先回りして、ツグミは言いました。

「全君と偶然出会って、家に招待して、それから何度も家に来てくれて。その時、
私は思ったの。ああ、あの時弟か妹が生まれていれば、こんな感じだったんだろ
うなって。だから私、全君と出会えて、本当に良かったと思ってる」
「ツグミお姉さん…」

 このまま全君と一緒に居られたら。
 一瞬浮かんだその考えをツグミは打ち消しました。
 この街にも、大切な友達が沢山居るのです。
 それを今すぐ捨てることは出来ませんでした。
 たとえ、何時かは別れの日が来るのだとしても。

「ごめんね。変な話して。全君のお姉さんの話を聞いていたら、つい」
「そんな事無いでぃす」
「さ、もう夜は遅いから、お風呂に入って早く寝ましょ」
「はぁい」

 ツグミがソファから立ち上がると、全も立ち上がり二人は並んで浴室の方へと
歩き出します。
 その事をツグミも全も、おかしいとは微塵も考えはしないのでした。

(第166話(その2)完)

 出しそびれていた設定を続々と出しております。
 (その3)は今週末投稿予定です。
 では、また。

--
Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
 HOME 記事一覧 前の記事へ 次の記事へ

 記事に対するご意見・ ご感想などがありましたら書いてやって下さい

 件名:
 名前: (ハンドル可)
 E-Mail: (書かなくても良いです)

 ご意見・ご感想記入欄