神風・愛の劇場スレッド 第166話『きょうだい』(その1)(6/24付) 書いた人:携帯@さん
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From: Keita Ishizaki <keitai@fa2.so-net.ne.jp>
Newsgroups: japan.anime.pretty,fj.rec.animation
Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
Date: Mon, 24 Jun 2002 00:41:42 +0900
Organization: So-net
Lines: 403
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石崎です。

こちらが第166話本編です。
久しぶりの本編石崎パートです(かれこれ3ヶ月ぶり)。

#本スレッドは神風怪盗ジャンヌのアニメ版第40話より着想を得て続いている
#妄想小説スレッドです。所謂二次小説が好きな方だけに。




★神風・愛の劇場 第166話『きょうだい』(その1)

●桃栗町 高級住宅街 水無月邸

「あ、母さん? 今、友達の家なんだけど。…うん、凄い雪だよね。それで、今
日は今日は泊めて貰うことにしたんだけど…」

 桃栗町にしては珍しく、しかも予報では何も言っていなかったにも関わらず大
雪が降ったその日。
 大和と都は、水無月家の邸宅に隣接する、大和の寝起きする離れに二人で居ま
した。

 ベットに腰掛けた大和は、PHSで電話をかけている都の声を聞きながら、
段々と心臓の鼓動が高鳴って行くのを感じていました。
 彼女を部屋に招き入れたのも、それどころか夜を共に過ごすのも初めてでは無
かったのですが、彼の緊張が解けることはありません。
 そもそも今日はそんな心積もりでは無かったのです。
 それが急に都を泊める事になってしまい、少々動揺してもいました。
 今晩、都に対してどのように接すれば良いのだろうかと。

「(この前のように、接しても良いのでしょうか)」

 如何に大人しいとは言え大和とて健康な若者には違いなく、むしろ妄想癖が強
い分だけその種の経験に対する憧れは強かったので、都さえ良ければその様に触
れ合いたい。
 それが大和の偽らざる本心なのでしたが。

「(でも、あの時のことはもう二度と話さない約束でしたし)」

 大和は、自分が今腰掛けているベットの羽根布団の上に手を乗せ、その時のこ
とを思い出していました。

「(やっぱり、無かった事になどしたくありません)」

 そう思う大和でしたが、その直後には理性でそれを抑えます。
 彼には、そうしなければならない理由があるからです。

「(東大寺さんに、もうあんな思いをさせたく無いですから)」

 その時のことを大和は思い出していました。


●……

「酷いよ…。どうしてそんな事、委員長に出来るの? 前に委員長、困った事が
あったら相談してって言ってくれたよね。嬉しかった。そんな優しい委員長がど
うして、こんな事出来るの? 今の委員長は、あたしの知ってる委員長じゃない。
偽物よ…」

 大和の下で都は涙ながらにそう訴えると、彼は戸惑いました。
 ここは夢の中。
 だからあの時の約束なんて関係無い。
 お互い、本音で接して良いはずなのに。

 違う? 僕が偽物?
 東大寺さんは何を言っているんだろう。
 僕はこんなにもあなたのことを想っているのに……。


●水無月邸 大和の部屋

「委員長。ねぇ、委員長ったら」
「あ…はい。何でしょう」

 声をかけられ、物思いから現実へと回帰した大和。
 見上げると、電話を終えたらしい都が大和のことを見下ろしていました。

「続き、しようか」
「あ、はい」

 大和は立ち上がると、先程まで都と話し合っていた場所へと戻りました。
 その場所、ローテーブルの上やその周囲には、書類や紙袋、まだ解かれていな
い梱包類が散乱しており、それらを踏まないように大和は座布団の上に腰を落ち
着けました。

「よいしょっと」

 腰をトントン、と叩くと都はかけ声と共に大和の向こう側に腰を下ろし、キュ
ロットスカートから伸びた足を床に伸ばします。
 前回の訪問と比べて微妙にガードが固いようにも思えるその服装に、落胆しな
いでも無かったのですが、多分都の事だからその辺りのことは深く意識はしてい
ないだろう。大和はそう思い直します。

「ねぇ、委員長」
「はい」
「電話で母さんに、何て言われたと思う?」
「はぁ」

 どう答えて良いのか判らず、大和は曖昧な返事を返します。

「友達の家に泊まるって最初言ったんだけど、誰の家に泊まるのかって聞かれた
から」
「誰の家に泊まることにしたんですか?」
「嘘ついて後でアリバイ工作ってのが普通なんだろうけど」
「?」
「嘘つくの嫌だったから、委員長の家に泊まるって正直に言っちゃった」
「えええっ!?」
「何てね。本当は、口裏合わせてくれる女の子の友達、いないから」

 それなら日下部さんがと言いかけ、大和は口をつぐみました。

「それで、正直に言っちゃった。そしたら母さん、水無月さんのご両親に宜しく
って」
「はぁ…。何と言いますか」
「安心した?」
「信頼されていると喜ぶべきでしょうか」
「何も出来ないと思われているのかもよ」
「何だか馬鹿にされているような気がします」

 思わず本音を口走り、その直後に後悔した大和ですが。

「だったら委員長はあたしに何かする気があるんだ」

 都はジト目とも違う何とも意地悪な目で大和を見るのです。

「そんな事しません!」
「そーよねー。こんなガサツな女、魅力ゼロだよね」
「そ、そんな訳じゃ…」

 慌てて弁明しようとする大和ですが、都はくすくすと笑い始めました。

「東大寺さん?」
「からかってごめん。お詫びに本当のこと教えてあげる」
「本当のこと?」
「母さんはね、あたしに今晩の事は父さんに内緒にしておくからって言ったのよ。
父さん、最近は家に帰って来ないし」
「内緒にって…それじゃ」
「そ。一応母さんは、あたしと委員長のこと、そういう関係って見てくれてるっ
てこと」
「そう言う関係…。そうですか、そう言う関係ですか」

 都の言葉に思わず妄想を始めてしまう大和でしたが。

「何、顔真っ赤にしてるのよ」

 都に今度はジト目で睨まれ、大和は妄想から醒めました。

「い、いや、その…」
「ふ〜ん」

 そう言い、大和の顔を注視する都。
 自分の妄想を見透かされたと感じ、ますます顔を赤くする大和でしたが、都は
どうやら深くは気にしていない様子でした。

「母さんは上手いこと勘違いしてるみたいだし、それじゃあ今晩は宜しくね。委
員長」
「は、はい」

 大和は必死に邪念を頭の中から追い払おうとし、それに成功しました。

「…えっと、どこまで話したんだっけ」
「確か、必要な資材の調達方法についての話だったと思いますけど」
「そうそう。それでね…」

 再び議論を始めた大和と都。
 そうしている内に、窓の外の景色は段々と暗くなっていきました。

「あ、ちょっとパソコン使わせて貰って良いかな? 調べものしたいんだけど」
「良いですよ。ちょっと待って下さい」

 大和は立ち上がり、窓際のシステムデスクの右横にあるパソコンの前に座り、
パソコンを起動するや否や閲覧ソフトを立ち上げました。

「あ…速い」

 後ろから覗き込んでいた都が、ホームページの表示を見て呟きます。

「ケーブルテレビですから」
「家、そう言うの理解無いから」
「さ、どうぞ」

 そう言い、大和は都に席を譲りました。

「ありがと。ところでさ」
「はい」
「この壁紙、委員長の家族?」

 都は画面上の一角を指さして尋ねると、大和は肯きました。
 壁紙には、何枚かの写真が使われていて、そこには今よりは少し幼い大和と両
親、そして都は見た事のない二十代前半位の男性が並んで写っていました。

 肯きながら一瞬、そう言えばこの前パソコンを使った時にはこの写真に気付か
なかったのだろうかと思いますが、それを敢えて聞こうとは思いませんでした。
 それが都との約束だからです。

「それじゃこれがお兄さん?」
「はい」
「美形よね」
「顔だけじゃ無いです。頭だって…」
「へ〜。そうなの?」
「僕の自慢の兄さんです」
「確か今、外国にいるんだっけ」
「ええ。ここ数年はずっと行ったままです」
「それじゃあ最近は会ってないんだ」
「いえ、実は最近…」

 と言うと、大和は最近兄に会った時のことを話し始めるのでした。


●水無月病院 特別個室

「あ、あの!」

 自分自身の叫び声で、大和は意識を回復しました。
 上半身を起こし、周囲を見回す大和。
 そこは、誰がどう見ても病室であることは、瞬時に理解できました。
 ただそこは、一般の病室に比べるとかなり豪華な代物で、普通であればそこが
病室では無いと思ったかもしれませんが、大和はこの病室と似たような場所に出
入りしたことがあったので、理解したのです。

 腕に何やら色々と繋げられているのを見た大和は、自分の立場を理解しました。

「(そうか、あの時…)」

 怪盗ジャンヌが現れてからのことは、余り良く覚えていません。
 それに何より、彼がその後に見た出来事は、余りにも非現実的で、どう考えて
も夢物語としか思えません。
 そうで無ければ大和が都に対して、あんな行動を取った理由の説明がつかない
のです。

 寝ぼけていた頭がはっきりしてくるにつれて、頭に鈍痛を覚えた大和。
 自由に動かせる方の手で頭を触ると、包帯が巻かれている様子なのでした。
 そう言えば、夢の中で何者かに殴られ、気を失ったような気がします。
 すると夢は夢では無く、ひょっとしたら現実で……。
 悩み始めた大和でしたが、その悩みが深刻になる前に、それを中断する者が現
れました。
 その人物が現れた時、大和は驚きで目を見開きました。
 そして、その人物の名を口にします。

「飛鳥兄さん!」



 意識を回復して直ぐには兄とは話をさせて貰えず、診察の後で医師と看護婦が
出て行った後、漸く兄弟水入らずとなりました。

「何時、日本に?」
「昨日の夕方。ちょうど向こうで先週の土曜日になった頃に事件の一報を聞いて、
その日のお昼の便で来た」
「あれ? すると今日は…」
「月曜日の午前中。大和は丸々一日以上眠り続けていたって訳さ」
「えええっ!? すると…」
「あ、そうそう。学校は休校になっているらしいから安心しろ」
「みんなは?」
「怪我人は出たらしいが、全員無事だそうだ。そうそう、大和の友達のお父さん
が大活躍だったらしいぞ」

 病室に現れた人物は、大和の歳の離れた兄である水無月飛鳥。
 水無月家の方針で、高校卒業と同時に海外へと留学させられた飛鳥は、それか
らずっと海外で暮らしています。
 良くは知らないのですが、今では何かビジネスを興しているとのことでした。
 前に会ったのは三年前。家族旅行で海外に出かけた先での事でしたが、それか
らもメールのやり取りを欠かしたことはありません。
 その彼が、突然大和の前に姿を現したのでした。

「意識を取り戻さないと聞いた時にはどうなる事かと思ったが、大した事は無い
そうだ」
「そうでしたか」
「でも、不謹慎な話だが、お前が事件に巻き込まれて良かったよ」
「え?」
「こうして大和に堂々と会うことが出来た」
「別に会おうと思えば何時だって」

 兄の仕事が忙しいのは、送られてくる電子メールを読む限りは事実と思われま
したが、それでも定期的にまとまった休暇を取っている様子なのです。
 にも関わらず、日本に戻って来ないのは兄の意地であることも大和は知ってい
ます。

「俺は成功するまでは水無月家には戻らない。そう決めたからな」
「別に家に顔出す位。父さんと母さんも…」
「それ位して成功しないと、爺さんに認めて貰えないだろうから」
「お爺ちゃんに?」
「とは言え、水無月家の跡継ぎの話など、俺にはどうでも良い話だが」
「でも、父さんの後の…」
「爺さんは、お前をゆくゆくは父さんの後の後継者にと考えているようだぜ。大
和」
「僕は、そんな…」

 水無月家、並びに水無月グループの将来は兄が担っていくことになる。
 特に根拠も無く、大和はそう思っていました。
 だから兄から以前同じ話をされても、何かの冗談なんだろう。
 やがては兄さんも水無月の家に戻って来る。
 そう信じていたのですが。

「ま、まだ先の話だ。水無月グループは水無月家の人間で無ければ動かない訳で
は無いのだから、大和の進むべき道は自分で決めれば良い。そうだろ?」
「はい。兄さん」

 それから暫く、大和と飛鳥は近況について話しました。
 と言っても、大抵のことはメールで話していたので、初耳の話は少なかったの
ですが。

「今回は何時まで日本に居るの? 兄さん」
「今日の晩の飛行機で向こうに帰る」
「もっとゆっくりして行けば良いのに。父さんと母さんにも…」
「父さん達なら、昨日ここで会った」
「そうでしたか」
「今朝早くには二人とも仕事に戻ったけどな。息子が寝込んでいるのに酷い親
だ」
「父さんも母さんも、今が一番大切な時だから」
「そうそう。爺さんにも昨日会った」
「また喧嘩しなかったでしょうね」
「流石に病院でそれは無い。そうそう、爺さんと言えば、あの事件の日は大変だ
ったらしい」
「お爺ちゃんに何かあったの?」
「いや、爺さんに何かがあった訳でなくて、大和を助けようと大騒ぎして…」
「じゃあここには?」
「そう。事件現場に医師と看護婦を連れてヘリで乗り込んで、可愛い孫だけ連れ
て、ここに一直線さ。全く恥ずかしいったら。マスコミは抑えたらしいが、週刊
誌のネタになることは確実だな」
「恥ずかしい事するなぁ。お爺ちゃんも」
「ま、それだけ大和のことを可愛がっているってことさ」

 そう言い、兄弟は笑い合うのでした。



「そろそろ帰らないと」

 それから暫く話した後、腕時計を見て飛鳥は言いました。

「え、まだ…」

 空港まで行く時間を考えても、まだ時間には余裕がある筈でした。

「こちらで会っておきたい人が居るんでな。それに…」
「それに?」
「これ以上ここに居て、又爺さんと出くわしたら面倒だ。爺さん、大和の看病の
ために、ここ二・三日は休暇を取るつもりらしい」
「そうなの?」
「ああ。今日は何とかサークルの会合にどうしても出ないといけないからって、
朝早くに出かけたんだが」
「それなら、点訳サークルのことですね」
「そう言えばそんな名前だったような。何やってるんだ爺さん」
「視覚障害者の使う点字本の点字を入力するボランティアのサークルです。兄さ
んが家を出た直後位から始めたらしいんですけど、僕も知ったのは最近のこと
で」
「福祉施設に寄付をしているのは知っていたけど、自分でそういう活動をしてい
たとは意外だな」
「何でも、昔、大恩のあった人のお孫さんが視覚障害者らしくて、それでそのお
孫さんの為に何か力になりたいからって言うのが動機らしいんですけど」
「ふ〜ん、そうか。あの鏡太郎爺さんがね…」

 暫し飛鳥は何事かを考えている風でした。
 しかしやがて、それではと病室より出て行こうとしたのですが、直ぐに何かを
思い出したらしく、こちらを振り返って言いました。

「そうだ。父さん達から言伝があったんだ」

 飛鳥は病室内のテーブルの上に置いてあった封筒を手にしました。
 そして封筒を大和の所まで持って来て、その中身を見せました。

「これは…」
「父さん達、例のプロジェクトが修羅場で、暫く家に戻れないそうだ。後のこと
は佐藤さんに宜しくだとさ。それで、これは罪滅ぼしの積もりらしい。『リニ
ューアルオープンの時は、必ず来てね』…だとさ」
「あれ、2枚?」
「彼女も一緒にという事だろう?」
「僕は、別に…」
「おいおい、『大切な人を見つけました』…って、メールで書いて寄越したのは
どこの誰だよ。誘えば良いだろ?」
「でも…」
「アタックしてみなければ、結果は判らないだろ?」
「…ですね」
「頑張れ。応援してるから」
「はい」

 封筒を大和に渡すと、今度こそ飛鳥は病室を出て行きました。
 ドアが閉まった後で、大和は思います。

「(兄さんにメールで送った時と今とでは、『大切な人』は違うんですけど
ね)」

●桃栗町 水無月邸 大和の部屋

「…と言う訳で、会ったのはほんの少しの間だけだったんですけど」
「ふ〜ん。何だか昴兄さんの事思い出しちゃった」
「そう言えば昴さんも家を飛び出して留学していたんでしたっけ」
「うん。今は近くに住んでいるけれど。飛鳥兄さんも、その内戻って来るわよ」
「そうですね」

 それでその話はお終いとなり、都はインターネットで情報の検索を始めました。
 その姿を見つめながら、大和は机の上に置いてある封筒の中身をどうやって都
に渡そうかと思うのでした。

(第166話(その1) 完)

 出しそびれていた設定を幾つか出してみました。
 (その2)は来週末の予定です。
 では、また。

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Keita Ishizaki mailto:keitai@fa2.so-net.ne.jp
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