神風・愛の劇場スレッド 第165話『悪魔の矢』(その6)(5/4付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗<hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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佐々木@横浜市在住です。

<20020426122108.6ff373c5.hidero@po.iijnet.or.jp>の続きです。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第165話 『悪魔の矢』(その6)

●オルレアン

遠くまで見通せる事が必ずしも有利では無い、トキは何故か他人事の様に
そんな事を考えていました。それはきっとまろんと自分を貫くだろうと確信します。
防御は間に合いそうにない、ならばこれは致命的な被害となるかどうだろうか。
しかしその思考の結論を待たずに、迫り来た攻撃は見事に弾き反されました。
まさに彼の目の前で。まろんの視線が大分遅れて背後を見やり、そして
ゆっくりと自分の方へと戻ってくる様子を見ながらトキは再びまろんを
窓から遠ざけます。今度は自らもまた一緒に敵から姿を隠しましたが。

「危ないのはあなたの方です!」
「平気平気」
「まったく無茶な…」
「だって、今も守ってくれたでしょ?」

トキは妙な顔をしてまろんを見詰めました。

「何を言っているのですか?」
「え?今、壁を出してくれたよね?」
「あれはあなたです」
「嘘だ〜私何にもして無いよぉ」
「嘘など言いません。先程の防御はあなたがやりました」
「あれま」
「意識して無かったのですか?」
「全然」
「…」

腕組みをして考え込むトキ。しかしすぐに今はそれどころでは無いと
思い出しました。

「とにかくセルシアの許へ行かなければ」
「窓は駄目だよ、向こうから見えてるんでしょ?」
「判っています。裏口から出て建物の影を縫って近づく事にします」

トキは立ち上がると窓に注意しながら玄関へと向かいます。

「そっちが表だってば…」

無論まろんも大人しく留守番しているつもりなどはありませんでした。

●桃栗町郊外

佳奈子は双眼鏡を下ろすと弥白に向かって言いました。

「使い切ってしまいましたね」
「大丈夫。三発目は途中で撃ったから、まだ電池は残っているはずよ」
「でも予想外に熱を持ってしまってますよ?」

佳奈子が指差した先、レーザー発振器の両端にあるミラー部分が赤熱して
いました。そしてそこへ白い物が落ちてきてはジュッと音を立てて消えて
いきます。

「それに雪です、弥白様。これでは狙撃は無理」
「大丈夫、まだ」

一際大きな牡丹雪の粒が落ち始めて降り掛かり、狙いすました様に発振器の
剥き出しのガラス管に触れました。キュッと小さく啼いた直後、ガラス管が
割れて中のガスが吹き出します。そして内部のガスが空気と混ざり合い、熱い
ミラーに触れると同時に残りの全ての圧力を放出して小さな爆発を起こしました。
そのすぐ横で寝そべっていた弥白はそのまま吹き飛ばされてしまい、
枯草の上を転がっていって動かなくなりました。爆発の一部始終を見詰めながら
も微動だにしなかった佳奈子。弥白の背中を見詰めながら呟きます。

「だから言ったのに…」

それから佳奈子はセルシアの傍へと歩いて行きました。セルシアもまた
一部始終を立ち尽くしながら目にしたらしく、その表情は強張っています。

「山茶花さんが…」
「吹っ飛んでしまいましたね」
「救けないと駄目ですです」
「もう死んじゃったかも」
「そんな…」
「確かめてみる?」
「放してくれるですです?」
「馬鹿か、今すぐ死にな。そうすればあの世に弥白様が居るか居ないか判るでしょ」
「いっ!」

佳奈子が再びナイフを掲げセルシアの方に向かって振り下ろそうとした瞬間、
逆にセルシアの身体が勢い良く佳奈子の上に倒れて来ました。
身体を地面に投げ出した衝撃、それに背中にとても重い感触が重なって
セルシアは一瞬息が止まったかと思いました。ですがそれも束の間、セルシア
は手足が自由に動かせる事に気付きます。そしてすぐに両手を着いてむっくりと
起き上がりました。背中の重さは現れた時と同じく唐突に無くなりましたが
胸を打った痛みが鈍く残っています。

「痛たた…」

胸を押さえながら見回すと何時の間にかセルシアの隣に大きな黒い塊が
ちょこんと座っていました。二つの瞳の下にある口にはボロボロの紙切れが
一枚くわえられています。

「犬さん!」

身体の大きさに見合った大きな尻尾がバサバサと振り回されて雪と枯草を
弾き飛ばしています。セルシアはその姿を見ると途端に抱き付きました。

「犬さん犬さん犬さんありがとですですっ!」
「犬さんじゃなくて」

その黒い塊の背後から声がしました。

「イカロスよ」
「…ツグミちゃん?」

サクサクと枯草を踏む足音が止まり、もう一つの黒い塊がセルシアの傍に
立ちました。

「セルシア、あなたどうしてこんな所に居るの?」
「ツグミちゃんこそ何でですです?」
「イカロスが急に騒ぎ出して外に出たがるから」
「犬さんが…」
「それでリードを付けて散歩に出たのよ、今日は自由に歩かせて。そうしたら」
「それは…あっ!」

セルシアは慌てて立ち上がると足下を見ました。そこにはイカロスがくわえて
いる紙切れと同じ様に見える紙切れが何十枚も落ちていて、全体はまるで
人形の様な形になっていました。既に何枚かは雪の所為で湿ってしまい、
黒い文字とも模様ともつかない柄が滲んでいましたが。

「何?」
「来て下さいですです」

セルシアはツグミの手を引いて枯草の間を早足で歩き、やがて立ち止まりました。

「しっかりしてです、死んじゃ駄目ですですぅ」

倒れている弥白の肩を掴んで揺するセルシア。様子を察したツグミは弥白の
反対側に回り込むとそっと手を伸ばして弥白の身体に触れ、それから首筋に
触れると言いました。

「大丈夫よ、この人は生きているわ」
「本当ですです?」
「ええ。多分気絶してるだけ」
「良かった…けど良くないですです!」
「え?」
「ごめんなさい、後お願いですですっ」
「あ、あのね…」

羽ばたく音と雪を踊らせる風が見上げたツグミの顔に振ってきたと思う間も無く、
セルシアの気配はツグミの感じる世界から消え去ってしまったのでした。



ツグミがキッチンでお湯を沸かしていると玄関の扉が乱暴に開きました。
多分そういう事になるだろうと予想してツグミが鍵を開け放しておいた事すら
気付かないまま、まろんが駆け込んで来ます。

「ツグミさんツグミさんツグミさん!」
「はいはいはい、何ですか日下部さん」
「逢いたかったよ!」
「違うでしょ。それと少し静かに」
「…はい…」

まろんはキョロキョロと部屋を見回し、ソファに寝かされて毛布を掛けられて
いる弥白を見付けました。ツグミはお湯に浸してから絞った、少し熱めの
濡れタオルを差し出して言いました。

「見てあげて」
「え?」
「彼女、何処か怪我をしているはず。微かに血の臭いがするから」
「判った」

眠っているらしい弥白を起こさない様に注意しながら、まろんは毛布をそっと
除けて身体の様子を確かめました。頬に小さい擦り傷、それに手に数箇所の
切り傷がありましたが他には大きな怪我は無い様でした。

「大丈夫。小さな傷だけ」

まろんは傷の周りの泥と血を拭いながら小声でツグミに伝えます。

「良かった」
「ねぇ」
「はい?」
「どうしてツグミさんが?」
「セルシアは何て?」
「誰か救けてって呼んだら犬さんが来てくれましたって言ってた」
「そう…それならそういう事よ」
「それからツグミさんと犬さんに山茶花さんを預けたからって」

それを聞いたツグミは暫く口をぽかんと半開きにしていました。

「え?」
「ん?」
「彼女が名古屋くんの…元の」
「うん…そうなの」
「繋がった、全部…世間は狭いわね」
「んん?」
「今度話すわ。それよりも」

ツグミはまろんの手を取ってリビングを出ました。そして廊下で耳打ちします。

「日下部さんはもう帰った方がいいわ」
「え〜っ!何で〜っ」

まろんの口を手で塞いでからツグミは続けます。

「山茶花さんはもう少し休ませた方が良いでしょ?」

まろんはもごもごと口を動かしながら頷きます。

「それに目覚めた時、日下部さんが傍に居ると多分楽しく無い事になるわよね?」

ツグミが何を言わんとしているのかを理解し、まろんは再度ゆっくりと頷きます。
それを確認するとツグミはまろんの口を押さえていた手を離しました。

「だから話はまた今度」
「うん」
「私だって本当はね」
「本当は?」

ツグミの唇をじっと見詰めるまろん。途中まで開きかけたその唇はすぐに
閉じられてしまいました。

「ツグミさん?」

ふぅと溜息をついてから応えるツグミ。

「お客様が見えたわ」

二人が玄関に出てみると、丁度ポーチにセルシアが降り立つ所でした。
すぐ後ろからトキも続きます。

「駄目だったですです…」
「仕方ありません。先程の敵は実体では無い様ですし」
「実体じゃ無いって何?」
「どうやら魔界由来では無い技術で作った傀儡の様です。悪魔本体は別な場所に
潜んでいるのでしょう。残念ながらセルシアの経験不足を完全に突かれた
という感じです」
「ごめんなさいです…」
「怒っている訳では無いです。それに妙な行動という徴候に私も気付くべきでした」
「それじゃ今もまだ何処かに」
「間違い無く」
「きっとあの娘の所に居るですです」
「あの娘?」

まろんは思わずツグミの家の奥へと視線を走らせました。

「弥白嬢と行動を共にしていた女性です。どの段階で傀儡と入れ替わったのかは
判りませんが、本人にも何らかの関係があるでしょう」
「山茶花さんのお友達って人?」
「ええ」
「名前は?」
「セルシア、知っていますか?」
「えっと…かなこさんって呼んでたですです」
「誰だろ…」

まろんは弥白の交友関係は全く知りませんでしたが、枇杷高校の新体操部員で
あれば名前と顔くらいは判るだろうと思っていました。しかしその名前に心当り
はありません。実際、この場には佳奈子の顔と名前が一致している者は
誰も居ないのでした。ずっと黙って聞いていたツグミが言います。

「山茶花さんに聞くしか無いでしょうね」
「ではすぐに」
「待って」

ツグミの手が足を踏み出そうとしたトキを押し止めました。

「今は駄目。彼女の休息が優先ですよ」
「…判りました、では」
「目覚めたら私が聞いてみます。それから日下部さんの家に電話するわ、いい?」
「うん」
「お願いするですです」

セルシアとトキが去ってから、まろんとツグミは暫く黙って見詰め合って
いました。やがてまろんは小さな声で再会を願う言葉を発して駆け出します。
途中何度も振り返っては手を振っているまろんに毎回手を振り返していたツグミ。
まろんの姿も気配も降り続ける雪のカーテンの向こう側に消えてから
大分時間が経った後、やっと扉を閉じて部屋に戻るツグミでした。

(第165話・つづく)

# 2/25日、金曜日夕刻。
## 何だかリアルワールドでの曜日の感覚が無くなってきました。^^;

では、また。

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