神風・愛の劇場スレッド 第165話『悪魔の矢』(その5)(4/26付) 書いた人:佐々木英朗さん
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From: 佐々木 英朗<hidero@po.iijnet.or.jp>
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Subject: Re: Kamikaze Kaito Jeanne #40 (12/18)
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Date: Fri, 26 Apr 2002 12:21:08 +0900
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佐々木@横浜市在住です。

<20020419120400.5acf161c.hidero@po.iijnet.or.jp>の続きです。

# 本スレッドは「神風怪盗ジャンヌ」のアニメ版第40話から
# 着想を得て書き連ねられているヨタ話です。
# 所謂サイドストーリー的な物に拒絶反応が無い方のみ以下をどうぞ。



★神風・愛の劇場 第165話 『悪魔の矢』(その5)

●桃栗町郊外

佳奈子の右手がセルシアの背中に回されます。佳奈子はぐっとセルシアを
抱きしめつつ、左手は真っ直に伸ばしていきます。息が出来ない上に、
セルシアの身体は折れてしまいそうな程にのけ反ってしまっていました。
そして背中と首に感じる痛みで意識が朦朧としていく中、セルシアは自分の
両手を胸の前で重ね合わせます。やがて胸の奥の方から小さな光が浮かび上がり、
セルシアの身体から出て二人の間に球体となって浮かぶと見る間に音もなく
膨れ上がって弾けました。辺りが一瞬だけ光に包まれ、やがて元通りになると
地面には枯草をえぐり土が剥き出しになった浅い穴が開いており、その穴を
挾んで佳奈子とセルシアが倒れていました。セルシアはすぐに目を開いて身体を
起こしましたが、深い息をついた途端に咳き込んでしまいます。それでも何とか
起き上がると、周囲を見回しました。責任感からか、最初に探したのは弥白の姿
でした。当の弥白は何事も無かったかの様に先程と同じ姿勢で望遠鏡を覗いて
います。次の発射の為に充電を待っているところだったのですが、セルシアには
まるで風景と一緒に固まってしまっている様に見えました。それでも外見上は
変化が無かった事に一先ず安心します。そしてもう一人…佳奈子を見付けた時には
セルシアは驚きのあまりまさに跳び上がって彼女の傍に向かいました。
草むらに横たわった佳奈子は身動き一つせず、目も口も半開きという有様。
服装もあちこち破れ乱れていて胸元が大きく開いていました。
セルシアは完全に混乱し青ざめ、その開いた胸元から覗いている白い物には
全く気付きません。ましてやその白い物の表面で黒い蟲の様な何かが
蠢いている事にも。

「ややや、やっちゃったですです」

慌てて抱き起こしますが、その身体は枯木の様に冷たく固くそして軽かった
のです。セルシアの背筋に寒気が奔ります。咄嗟に佳奈子の身体を放り出して
後退りしてしまうセルシア。怯える目で見詰める前で佳奈子がむっくりと身体を
起こしました。服に付いた枯草を両手で払う当たり前のはずの仕草、それが
かえってセルシアには異様に見えました。

「乱暴な人ですね」

佳奈子はそう言って微笑んで見せました。そしてゆっくりとセルシアの
後を追う様に歩き始めました。佳奈子の一歩に合わせてじりじりと
退がって行くセルシア。しかし二人の距離は段々縮まって行きます。
必死に歩みを早めようとするセルシアの目の前には既に佳奈子が
笑顔で立っていました。既に二人とも全く移動してはいません。
足が地に根付いてしまった様に動けないセルシア。いくら集中しても背中から
翼を伸ばす事もかないません。もうその場から逃げられないのだとやっと
気付いた時には、動かせる部分は首から上ぐらいしか残っていませんでした。

「動けないですぅ…」

佳奈子が満面の笑みで左手を胸元に掲げて見せました。手にした薄い
紙切れ数枚を扇の様に広げている佳奈子。その紙切れにはセルシアの
知らない文字が黒々と踊っていました。

「同じものがあなたの背中にも貼ってあります。動こうとすると気力を
消耗しますよ、天使さん」
「やっぱり、あなたには悪魔さんが取り憑いてるですです」
「天界から増援が来ているというから期待したのに、来たのはお馬鹿さんか」
「馬鹿じゃ無いですです!…鈍いかもしれないけど…」
「そんな事はどちらでもいいです。そこで黙って見ていてくださいね」

佳奈子はそう言って横を向きました。セルシアも視線だけをぐっと横へ
動かします。それで辛うじて何とか視界の端に弥白が見えました。

「弥白様」
「あと少し。寒い所為かしら、チャージが遅いわね」
「そうですね、何か考えます」

佳奈子は視線をセルシアに戻すとふっと手を上げてセルシアの胸元に
触れました。先程と同じ様に冷たい感触に思わず身体が震えるセルシア。
その身体の上を佳奈子の手が構わず撫でまわし、段々と下へと下がります。
そして腹部の辺りでその手の動きが止まりました。

「温かいですね」
「くすぐったいですです」
「温めてくれますか?」
「え?」

佳奈子のもう片方の手がすっと上がって弥白の方を指差しました。

「弥白様のお仕事の為に必要な電池。寒いと調子が悪いんです。あいにくと
私には温める事が出来ませんので」
「で、でも」
「別に難しい事ではありません。あなたのお腹の中に入れてもらえれば
暫くは温かく保てるでしょうから」
「お腹って何を入れるんですです?」
「だからあれ」

漸くセルシアは佳奈子が電池と言っている物が何なのかを理解しました。
弥白が使っている良く判らない道具から少し離れた所に黒っぽい箱があり、
箱と道具の間を赤と青の紐が結んでいました。その黒い箱が電池という物
である様です。

「あんなの入らないですですぅ」
「入りますよ。少し狭そうだけど余計な物をどけて拡げれば何とか」
「何の事か判らないですです」
「気にしないで。もうすぐ何も考えなくて良くなりますよ」

佳奈子はセルシアから手を離すと自分のスカートをたくし上げて手を奥へ
差し入れ、股の辺りをまさぐります。そして次に手が出てきた時には
何かを握っていました。彼女の指よりもほんの少し長い銀色の尖った物を。

「一度やってみたかったんです」
「何を?」
「天使の解剖」
「へ?」
「だから電池を入れて温めるのにハラワタが邪魔なんだってば」

そう言ってから佳奈子はサっと手を振り上げてセルシアの首筋にナイフの
切っ先をあてがいました。

「どうします?先に死ぬ?それとも生きたままお腹裂いて欲しいですか?」
「どっちも嫌っ!」
「嫌?」
「痛いの嫌いですです!」
「大丈夫。呪符の所為で麻痺しているから痛くは無いですよ」
「それでも嫌っ!」

佳奈子の唇がぎゅっと結ばれ、それから暫くして再び唇が動くと押し殺した
声が搾り出される様に応えます。

「それならまずお腹を裂いて、その後で呪符を解いて痛くしてあげます」

その時、小さな声が届きました。佳奈子の声が元の静かな調子に戻ります。

「はい?」
「出来たわ、準備」
「今まいります」

佳奈子はセルシアに一瞥をくれてから弥白の方へ向かって歩いて行きました。
セルシアは必死で身体をもぞもぞと動かしますが何かねっとりした感触が
身体中を包んでいて身動き出来ませんでした。ですが頭だけははっきりして
います。

“トキ、トキ、アクセス、稚空くん、まろんちゃん、誰か…”

佳奈子が立ち止まって振り向きざまに言いました。

「誰にも届きませんよ。今のあなたの声は蚊の啼くような小声しか出てないから」
「な、何でですです?」
「やっぱり馬鹿ですね。この草原に踏み込んだ時に結界に気付かなかったの?」
「そんな…」
「もっとも、気付かれない様に加減して弱い壁にしているんだけど」

佳奈子の含み笑いを聞きながら、セルシアは泣きそうな気持ちを必死に
こらえてどうすべきか考えようとしていました。

● オルレアン

部屋に戻って私服に着替えたまろんがリビングに出てみると、ちょうど
ベランダに面した窓の外に人影が舞い降りるところでした。
鍵を開けっぱなしの窓がスルスルと開いて来訪者が声を掛けました。

「おかえりなさい」
「トキ、どうしたの?」
「ちょっと地図を見に戻ったのですが」

テーブルの上に置いてあった地図を広げながらトキは答えました。

「何?何か判った?」
「いえ。別件でふと気になって」
「ん?」
「山茶花弥白嬢が桃栗町の近くに来ているそうです」
「そりゃ隣り町だし、買物とかにもたまに来てるみたいだけど?」
「そうでは無く西の郊外らしいのですが」
「郊外?」
「セルシアはピクニックと称していますが。人間にはこんな陽気に
屋外で食事する風習でも?」

まろんは首を横に振りながら町の西の外れと聞いて別な事を思い浮かべて
いました。無論その事については何も言いませんでしたが。そしてトキの指が
地図上で漠然となぞっている辺りとツグミの家の間はどのくらいの距離だろうかと
考えてみるのです。

「この辺りなのでしょうけれど」
「場所をセルシアに聞いたら?」
「私もセルシアも地元の地理には明るくありませんので」
「それじゃどっちから声がするかとか」
「"声"はおおまかな方向しか判らないのです」

まろんはちょっと考えてからトキに提案します。

「セルシアに周りの景色を聞いてみて」
「景色ですか?」
「うん。何が見えるか。大きな木とか建物とか目立つ物が判れば」
「成程」

今度はトキが物思いに耽る様な顔付きになりました。ただし、まろんの時
よりも随分と長い時間でしたが。

「変ですね、返事がありません」
「もしかして…お昼寝?」
「否定し切れない所が心苦しいのですが、どうも違う気がします」
「う〜ん…」

まろんは首を傾げて唸っていました。トキがふっと顔を上げるとまろんの
頬にぼんやりした点が見えました。トキが訝しみながら見ているとその点は微妙に
揺れながら動いて行き、そしてまろんのこめかみの辺りで止まりました。
じっと見詰めるトキの視線に気付いたまろん。

「何?」
「今何か感じませんか?」

トキはそう言いながら自分の頬とこめかみを突いて見せました。

「私の顔?」
「ええ。何か赤い物が付いていますが」
「え〜っ、気持ち悪いよ。何何何?」

まろんは手でトキが示した辺りを払い除けます。そして落としたはずの何かから
逃げる様に半歩ほど退がりました。ですがトキの見ている前でその点はまろんの
後を追う様に腕の上に現れ、再び顔を目差して身体の上を昇って行きました。

「光が照らしている様です」
「光?何処から?」
「光だとすれば外からでしょうか」

まろんとトキは同時に窓の外を見ました。トキの視界が一気に収束して
人間とは全く次元の違う遠方の像を捉えます。

「弥白嬢…」
「え?何処?」
「かなり離れています。飛んで行っても少し時間が掛かるでしょう」
「一人のはず無いよね、セルシアは?」
「居ます。後ろに立って…」

突然、まろんはトキに思いっきり突き飛ばされてリビングの床に倒れました。
訳も判らずにいるまろんが顔を上げるとトキの正面、窓に向いた側に拡がって
いた障壁がぼんやりと透かして見えていました。

「どうしたの急に?」
「お怪我は?」
「大丈夫」
「すみません、何か飛んで来ましたので」
「攻撃?」
「はっきりとは判りません。攻撃ならあなたの障壁が先に出そうですが」

何となく鈍いと言われた様な気がして少し口を尖らせているまろん。しかし
窓の外から目を離さないトキを見て彼の言葉は生真面目さから来る物だと
理解します。そして何か変な臭いが漂っている事に気付きました。
髪の毛をドライヤーやガスレンジで焦がしてしまった時の臭いと似ています。

「ねぇ、臭くない?」

顔は相変わらず外へ向けたままでトキは身体だけを捻って右の翼を見せました。
翼を被う白い羽根の中に極く小さい黒くなった部分がありました。

「何かに貫かれました。印象としては悪魔達の良く使う"気の矢"ですが」
「怪我したの?」
「いいえ、羽根だけですから問題はありません。ただ」
「ただ?」
「気配を感じませんでした。障壁は後から出したものなのですが、これで
防げる物かどうかも判りません」
「危ないじゃん、しゃがみなよ!」

まろんはトキの手を引いて自分の方に引き寄せました。バランスを崩した様に
も見える動きでトキはまろんの隣りに腰を下ろします。そこからは窓の外には
空とベランダの壁しか見えません。逆に向こうからも死角のはずです。

「やっぱり悪魔の仕業なの?」
「彼等の攻撃ならば何を使っても独特の気配が載ってくる物なのですが」
「何も感じなかった…よね?」
「ええ、感じません。今までこういう悪魔と戦った経験は?」
「無いよ、気配が見付けづらい事はあるけど攻撃されれば感じる」
「では結論は一つですね」
「一つ?」
「攻撃だとしてもこれは人間界の武器です」
「人間…まさか」
「とにかく止めさせなければ」

トキは再び目を閉じていましたが、やがて。

「やはり駄目ですね、セルシアが返事をしません。何かあった様です」
「行こう!」
「いえ、あなたは此に」
「どうしてよ」
「セルシアの失敗であれば私が対処せねば」

トキはそう言って立ち上がると窓辺に向かいました。

「危ないって!」

まろんはトキを押し止めようとして窓と彼の間に立ちました。まろんの
肩越しにトキは確かに光が瞬く瞬間を見ました。間違いなくまろんの
背中を目差してやってくる何か。そしてそれを防ぐ暇は最早無い事も
トキにははっきりと判ったのです。

(第165話・つづく)

# 2/25日、金曜日午後のまま。
## 他に書く物が沢山あって筆が進まないよぅ。(笑)

では、また。

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■■■■■■ 佐々木 英朗 ■■■■■■■
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